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第67回NHK杯1回戦解説記 森下卓九段VS豊島将之八段 ~後編~

前回の続きです。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯1回戦第10局
2017年6月4日放映

 

先手 森下 卓  九段
後手 豊島 将之 八段

 

第5図は森下九段が▲3七桂と跳ねたところです。

▲4五桂を受ける手段はないので、どのように応じるか難しそうですが、豊島八段は△8三飛と浮きました。(青字は本譜の指し手)

自ら飛車を妙な場所へ動かしましたが、これは次に△4四銀と歩を払えるようにした意味です(▲7一角の両取りを未然に防いでいる)。対して森下九段は▲4五桂と跳ねましたが、この手は疑問で、代えて▲6四歩と突けば優位を維持していました。(A図)

NHK A

A図は▲7二角と打つ手が厳しく残っているので、後手は△6四同銀と応じるのが自然ですが、それから▲4五桂と跳ねれば、4四の拠点を取られないので先手は本譜より得をすることができました。

本譜は単に▲4五桂と跳ねたので、△4四銀で拠点を除去することに成功し、後手が息を吹き返しました。桂取りなので、先手は▲4六歩と支えるくらいです。(第6図)
NHK 6

第6図の局面は、互いに駒の損得も玉型も互角と言えるでしょう。ただし、駒の働きに関しては、桂の働きに差が着いています(▲4五桂と△8一桂)。

よって、後手はその差を埋めるために、△7三桂と跳ねる手が有力でした。
▲7二角と打たれる手が気になりますが、△8四飛▲5四角成△7五歩が味の良い切り返しになります。(B図)
NHK B

B図からは▲6四馬△同飛▲同歩△6五桂が進行の一例です。後手は攻めの桂が絶対に捌けるので、互角以上に戦うことができます。

本譜は第6図から△7五歩▲同歩△8六歩▲同歩△2二玉と進みました。(第7図)

NHK 7

歩を二枚捨ててから手を渡しているので変調に感じますが、これは実戦的な手法で、あえて相手に手の選択肢を多く与えることで、局面の焦点をぼかすテクニックです。
ただし、現実的に二枚、歩を捨てたのは軽視できることではなく、ここは再び森下九段の方へ形勢の針が傾きつつあります。

第7図から堅実に指すなら▲6八金上と離れている金をくっつけて、囲いを強化する手は有力でした。しかし、それでは甘いと森下九段は判断されたのでしょう。本譜は▲6四歩と突いて、相手の攻めを催促しました。

この手は非常に強気な一手です。なぜなら、後手が直前に指した△2二玉は、玉を固めて敵陣を攻めるための準備であり、「次は何が何でも攻めますよ」と宣言したことと同義です。にも関わらず、自陣に手入れをせずに堂々と▲6四歩と突いて「かかってこい!」と後手の攻めを促しているので、とても強気という訳なのです。

後手はこのまま手をこまねいていると、▲7二角と打たれてどんどん状況が悪化してしまいます。豊島八段は△7六歩▲同銀△5五歩▲8七銀△8五歩▲同歩△5六歩▲同銀△5七角と猛攻を開始します。(第8図)
NHK 8

後手が景気よく攻めてはいますが、現状では攻め駒が少なく、4枚の攻めではないので、これで潰されるとは考えにくいです。

とりあえず、△6六角成からの王手銀取りを受ける必要がありますね。ここは▲7七角と打つ手が有力でした。感想戦では△5五歩▲同銀△同銀▲同角△6六銀という順が並びましたが、それには▲5八金と上がれば後手の攻めは切れていると思います。(C図)

NHK C

という訳で▲7七角には△4三銀と受けるくらいですが、▲5四歩と垂らしておいて先手がやや指せていました。

本譜は▲6五角と打って5六の銀にヒモを付けましたが、この手は△6六角成を受けていないので▲7七角より劣ります。以下△8五飛と走られた局面は、△8六歩と△6六角成の二つの攻め筋が残り、先手は第8図の局面よりも条件が悪くなってしまいました。(第9図)

NHK 8

森下九段は▲7七桂と跳ねて△6六角成を緩和しましたが、この手は悪手で、▲8六歩と打っておくべきでした。すかさず△8六歩と打たれて、先手陣は大きな痛手を負いました。(第9図)

NHK 9

▲7七桂と指した以上、ここで▲8五桂で飛車を取れないと変調ですが、それには△6六角成が激痛です。(D図)
NHK D
D図から▲7七金と王手を受けると、△8七歩成▲同玉△6五馬▲同銀△4七角の飛銀両取りが決まります。

飛車が取れない先手は泣く泣く▲7六銀と逃げましたが、△7三桂が気持ちの良い跳躍で、後手の攻めは切れない形になりました。

以下▲3二角成△同金▲8五桂と進みます。(第10図)

NHK 10
豊島八段はここで△6六角成から王手銀取りを掛けましたが、代えて△8五同桂としておく方が明快でした。▲同
銀ならそこで△6六角成とすれば本譜より得です。

本譜は桂を取り損ねてしまったので、△6六角成に▲7七金打△5六馬▲7三桂成と逆に桂を取られてしまい、駒得を果たした先手に楽しみが出てきました。以下、△5五角と打った局面が運命の分かれ道でした。(第11図)
NHK 11

第11図では▲8二飛と攻防手を放つ手が最善でした。以下△6六銀には▲5二飛成、△6五銀には▲8六飛成でまだまだ難解な将棋が続いていたと思います。

本譜は▲6八金上と指しましたが、この手が敗着です。△6五銀が的確な寄せでした。(第12図)
NHK 12
先手が直前に指した▲6八金上は7七や7八の地点を強化した意味ですが、△6五銀は7六の地点を攻めており、良い意味で相手の手を無視しています。

このように、相手の指した手に働き掛けないことで、その手を無効化するテクニックは、一手の密度が濃い終盤で抜群の効果を発揮します。

第12図以下、▲6五同銀△同馬▲9七玉△8七銀▲同金上△同歩成▲同金△9九角成と進み、豊島八段は先手玉を一気に寄り形へと持ち込みました。(第13図)
NHK 13
次に△7五馬からの詰めろなので森下九段は▲7六銀と受けましたが、△8四香▲8五歩△7六馬で先手玉に必至がかかり、豊島八段の勝ちが決まりました。

本局は森下九段が得意の矢倉で中盤はリードを奪いましたが、第8図からのわずかな綻びから形勢を損ねてしまい、最後は豊島八段が着実に寄せ切ったという印象でした。苦しくなっても実戦的に負けにくい形を作る豊島八段の指し回しは参考にしたいですね。

では、また。ご愛読ありがとうございました!

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