元奨励会三段が将棋をテーマにあれこれ書いています。

第67回NHK杯解説記 佐々木慎六段VS阿久津主税八段 ~前編~

今週は佐々木慎六段と阿久津主税八段の対局でした。

佐々木六段は振り飛車党で、じっくりとした展開の将棋を好む棋士です。また、長考派で非常に慎重な棋風という印象ですね。

阿久津八段は基本的には居飛車を指しますが、ゴキゲン中飛車や角交換振り飛車のような角道を止めない振り飛車を指すこともあり、様々な戦法を指しこなす器用なタイプの将棋という印象です。攻め将棋で踏み込める局面の見切りが鋭いことが特徴でしょうか。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯1回戦第17局
2017年7月23日放映

 

先手 佐々木 慎  六段
後手 阿久津 主税 八段
初手から▲7八飛△8四歩▲7六歩△8五歩(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

NHK 1

初手の▲7八飛が意表の一手ですが、このところ多く指されつつある作戦です。角道を通した状態で三間飛車に組むことが狙いで、普通の三間飛車よりも作戦の幅が広いことがセールスポイントです。久保利明王将や西田拓也四段が多用していますね。

第1図から先手は美濃囲い、後手は船囲いに組みました。(第2図)

NHK 2

何の変哲もない序盤戦ですが、このあたりから後手はどのような陣形を作るのか悩ましいところです。なぜなら、先手には①角道を止める三間飛車②角交換振り飛車③向飛車の三つの作戦を選ぶことができるので、全ての作戦に対応できる駒組みをしなければいけないからです。

そして囲いをどうするのかという課題もあります。理想は穴熊ですが、△7七角成▲同銀△2二玉のような組み方では▲8八飛△1二香▲8六歩と8筋から動かれて危険です。居飛車側から角を交換すると、通常の角交換振り飛車よりも手損してしまうので指しにくい意味があります。

本譜は△5四歩▲1六歩△5三銀▲1五歩△4四歩と進みました。(第3図)

NHK 3

後手は堅い囲いに組みたいけれども、自分から角交換はしたくない、という訳で阿久津八段は角道を止めて穏やかに組む方針を選びます。ただ、これなら先手は自分だけ角道が通っているので、安易に▲6六歩を突かなかった甲斐があったなという印象を受けます。

佐々木六段は▲5六歩△3三角▲5七銀△2二玉▲6六銀と▲6七歩型を活かして、銀を6六に繰り出しました。(第4図)

NHK 4

歩越し銀ですが、この▲6六銀型が攻めの好形です。三間飛車だと▲6六歩・▲6七銀型がよく見られる形ですが、なかなか銀が攻めに働かないんですよね。6六にいる方が戦場に一歩近いので、攻めに使いやすいです。

後手は△3二銀から銀冠を作って、△1四歩から端を逆襲するような構想も考えられましたが、阿久津八段は△1二香と上がって穴熊を目指します。以下▲7五歩△1一玉▲6八角と進みました。(第5図)

NHK 5

少し変則的な形ですが、▲6六銀型でも石田流を作るのは有力な手段です。この場合、相手の7筋が手薄なのでなおさらですね。

第5図から△8四飛は▲7四歩△同歩▲6五銀の筋があるので危険です。まだ後手陣は穴熊が未完成なので強く戦えません。阿久津八段は△6四銀と上がり、先手の銀の進出を封じました。以下▲7四歩△同歩▲同飛△7三歩▲7六飛△2二銀で7筋の交換は許したものの、穴熊の骨格が出来上がりました。ただ、△4四歩が不要な一手になっているので苦労している感はあります。

△2二銀以下、▲5八金左△4五歩▲7七桂△3一金と進みました。(第6図)

NHK 6

後手は遂に穴熊が完成しましたが、5二の金が離れているのでまだ陣形の整備が必要です。対する先手は、もうこれ以上進展する余地が乏しいので、さっさとバトルに持ち込んでしまいたいところです。

仕掛けるとすれば、▲7五銀とぶつける手が有力ですが、いきなりそれを実行すると△同銀▲同飛△6九銀が嫌らしい反撃です。(A図)

NHK A

金取りと△7八銀成が同時には受からないですね。これは先手不満です。

したがって、佐々木六段は▲5七角と上がり、▲6八金と寄るスペースを作りました。以下△4二金寄▲7五銀△8六歩▲同歩と進みました。(第7図)

NHK 7

手順中、△8六歩の突き捨てが対抗型では頻出する手筋で、居飛車党の方には是非とも身に着けてほしい手筋です。あまりにも早すぎると指しすぎになりますし、遅いと無視されてしまうのでタイミングが難しいのですが、戦いが激化する直前に突くのがコツです。

第7図は、先手には駒の効率、後手には玉型の堅さという主張があり、ほぼ互角の局面だと思います。ここからの折衝が優劣を分けるので、まさに勝負所と言えますね。

では、続きは後編で。ご愛読ありがとうございました!

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