最新戦法の事情【4月号・居飛車編】を公開しました。詳細は、ここをタップ!

~受け師の本領発揮!~ 第67回NHK杯解説記 木村一基九段VS川上猛六段

どうも、あらきっぺです。

以前から二回に分けて解説を行っていましたが、このところ、一回の記事でまとめ切れるかな?という気がしてきたので、今回から極力その方針で行こうと思います。

しかしながら、内容が濃かったり、手数が長い将棋の場合は分けることになりそうです。どのような形で書けば読者に解りやすいのか試行錯誤している段階なので、また形式が変わるかもしれませんが、温かい目でご覧頂ければと思います。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯1回戦第18局
2017年7月30日放映

 

先手 木村 一基 八段
後手 川上 猛  六段

初手から▲7六歩△8四歩▲2六歩△8五歩(青字は本譜の指し手)の出だしで、第1図のように進みました。

NHK 1

△4四歩に代えて△7七角成ならば角換わりでしたが、後手は角道を止めて矢倉系統の将棋を目指しています。この後、川上六段はウソ矢倉と呼ばれる作戦を展開します。

ウソ矢倉はソフトの評価(elmo)はそこまで悪くはないのですが、人間(プロ棋士)はあまり面白くない作戦と認識している人が多数派だと思います。その理由はいくつか考えられますが、その中の一つに相手の作戦の幅が広いという要因が挙げられます。

ウソ矢倉に対して、先手は大きく分けると二つの対策があります。一つは▲4六歩・▲4七銀型に組み、▲3六歩~▲5九角~▲2六角で三手角を作る作戦。もう一つは▲5六歩~▲6八角と組み、2筋の歩交換を狙う作戦。木村九段は後者を選びました。(第2図)

NHK 2

先手は狙い通り、2筋の歩交換を果たしました。後手も対等な関係を求めて、8筋の歩交換を行ったところです。

第2図では先手に有力な手段が多く、①▲8七歩と打って矢倉に組む。②▲8七銀から銀冠を作る。③8筋は受けずに中原囲いに組んで、軽快に動く。といった方針が考えられます。

③については①や②とは性質が異なるので、もう少し具体的に解説します。先手は仮想図のような構想が狙いです。(仮想図)

NHK 仮想図1

次に▲8四歩と垂らしたり、▲8五飛で飛車交換を目指す手がありますね。また、▲3七桂~▲4六歩~▲4五歩で右辺からの攻めも可能です。この作戦は後手の8筋の歩交換を咎めている意味があり、なかなか有力だと思います。ただ、金銀が前に出づらい将棋なので木村九段の好みではなかったのかもしれません。

本譜は②の▲8七銀から銀冠を作る作戦を選びました。矢倉よりも完成に手数は多くかかりますが、金銀の連結が良く非常に優秀な囲いです。

ただし、銀冠に組めるのは先手だけではありません。後手も同様に銀冠を作りました。(第3図)

NHK 3

囲いが完成したので、次は攻めの理想形を作る必要がありますが、これが容易ではありません。なぜなら、互いに角を持ち合っているので馬を作られないように隙の無い陣形を維持することが求められているからです。

第3図から▲3七桂は△3五歩がありますし、▲4六歩は△6九角を打たれる隙が生じます。また、▲5五歩は△5四歩と反発される手があるので突きにくいですね。動かす駒が難しい局面ですが、木村九段は▲4六銀△4五歩▲5七銀と指しました。手損をしてつまらないようですが、4四の歩を突かせたことにより、▲5五歩を突きやすくした意味があります。今度は△5四歩と突かれても▲7一角から馬を作る筋がありますよね。

▲5七銀に対して、手を殺すなら△5四銀が有力でしたが、川上六段は積極的に△7四銀▲5五歩△9三桂と攻めの形を作りました。鎖鎌銀と端桂のセットは銀冠に対して有効な攻めの形です。(第4図)

NHK 4

ただし、この形は一つだけ弱点があり、それは7三の地点が薄くなってしまうことです。木村九段は早速その隙に向かって▲5一角と責めかかりました。

これに対して△7二飛と寄ってしまうと、▲9五歩が厳しい一手です。以下△3一玉▲9四歩△4一玉と指せば角は取れますが、▲3三角成△同金上▲9三歩成で先手優勢です。(A図)

NHK A

よって、本譜は△8四角と受けました。先ほどと同様に▲9五歩と突くと△5二飛で形良く角を召し取られてしまいます。これは先手が失敗なので、木村九段は▲7五歩△同銀▲7六歩と違う手段で後手の攻めを催促しました。(第5図)

NHK 5

本局はここまで両者ともに悪手が無く、難解な形勢が続いていたのですが、ここで川上六段にミスが出てしまいます。本譜は△5二飛と角を詰ましたのですが、この手が悪手でした。代えて△7四歩と突く手が有力でした。(B図)

NHK B

敢えて相手の角を生還させるような手なのでうっかりしやすいですね。

B図から▲3三角成△同金寄▲7五歩△同歩と進むと先手は銀桂と角の二枚替えですが、先手は歩切れの上、後手玉は堅陣が維持されているので芳しくありません。B図では▲8四角成△同銀▲4一角から再度、馬を作る手を狙ってどうかという印象ですが、先手は歩損しながら受けに回っているのでやや不本意な進行のように感じます。


をまとめると、第5図で△7四歩を突けば後手は互角以上に戦えたのですが、その手を逃したので本譜は苦しくなってしまいました。

▲7六歩△5二飛以下、▲3三角成△同金寄▲7五歩△8二飛▲7六銀と進みました。(第6図)

NHK 6

B図の△7四歩と突いた変化と違い、△5二飛~△8二飛と飛車を往復しているので後手は無駄な経費を払っています。その結果、先手は▲7六銀で後手の角を圧迫する余裕が得られました。

川上六段は角が死なないように△7四歩▲同歩△7五歩▲8七銀△5一角と拠点を作ってから角を避難させました。しかし、歩切れの相手に歩を渡して後手を引くようでは失敗は明らかです。不利を認めて辛抱する順を選んだと言えます。(第7図)

NHK 7

第7図ではいろいろな手が移りますが、多くの人は遊び駒を活用する▲3七桂を指すのではないでしょうか。ここからの手順は木村九段の棋風が顕著に現れました。第7図から▲7三銀△8一飛▲6四銀不成△8五歩▲同歩△同桂▲7三歩成と進みました。(第8図)

NHK 8

将棋の格言で「5三のと金に負けは無し」というものがありますが、これは基本的に攻め側視点の格言です。受けに回るときは、7三の地点にと金を作ることが急所です。ここに成り駒を作れば相手の攻撃陣を破壊することができますし、玉が上部へ逃げ出したときにも心強い守り駒として機能しますよね。

川上六段としては、大駒が完全に押さえ込まれる前に何か手を作らなければいけません。
第8図から△7七桂成▲同玉△9五歩▲同歩△9六歩と何とか先手玉周辺に嫌味を付けようとします。しかし、▲8三歩が冷静な対応でなかなか突破口が見出せません。以降も川上六段は執拗に攻めを続けますが、木村九段は丁寧に応接していきます。(第9図)

NHK 9

第8図から20手ほど進んだ局面です。先手は二枚目のと金を作り、後手の大駒を封じることに成功しました。あとは▲8六玉~▲8五玉の2手が指せれば入玉はほぼ確定です。後手にとっては、その2手が命です。

川上六段は△8五銀と上部を押さえましたが、▲8六歩が強気な催促でした。△9六銀▲7七玉となれば入玉は防げそうですが、今度は下段へ逃げられたときに寄せ切る力が足りない印象です。

本譜は△3九角から寄せに向かいましたが、▲5八飛△5七角成▲同飛△7六銀打▲同金△同銀▲9七玉△6七歩▲9五歩で先手の受け切りが見えてきました。(第10図)

NHK 10

駒不足の後手は第10図から△4三金寄と指しました。これは△2五歩~△2四角の活用を図ったものですが、木村九段の次の一手がその望みを打ち砕きます。▲8八桂が受けの決め手でした。7六の銀を取ってしまえば先手玉は安泰です。川上六段は△8八歩成▲同金△8七金と迫りましたが、▲9六玉△8八金▲9四歩と上部へ逃げ出して大勢が決しました。(第11図)

NHK 11

第11図の局面は先手の入玉が確実となり、後手は捕まえる手段がありません。後手玉はまだ堅いものの、寄せ切られるのは時間の問題です。以下は数手で川上六段の投了となりました。この勝ち方は木村九段の本領が遺憾無く発揮されたと思います。

【本局の総括】

・第3図で銀冠に組み合った局面は両者不満無し。しかし、先手は攻めの形が上手く作れないので、一般的にはやや面白くないと判断されるのかもしれない。

・後手はB図の△7四歩を指せば、互角以上に戦えた。この機を逸してからは苦しい。

・寄せに行かずに入玉という手段で勝ちに行くのは木村九段らしい。結局、一手も相手の囲いを攻めずに勝ち切ってしまった。まさに玄人芸である。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA