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~横歩取りの大激闘~ 第67回NHK杯解説記 斎藤慎太郎七段VS佐々木大地四段

今週は斎藤慎太郎七段と佐々木大地四段の対戦でした。

斎藤七段は居飛車党で、本筋の将棋を指す王道タイプです。矢倉のような、じっくりとした将棋を好む印象があります。
彼とは奨励会入会が同期だったので子どもの頃からの知り合いなのですが、王道で長考派であることは昔からずっと変わらないですね。

佐々木四段は居飛車党で、先手なら相掛かり、後手なら横歩取りを多用しています。また、対振り飛車には穴熊ではなく、左美濃を得意にしている点が、他の若手棋士とは違うところでしょうか。
一回戦では丸山忠久九段と戦い、丸山九段得意の一手損角換わりを打ち破って二回戦へ進出しました。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯2回戦第8局
2017年9月24日放映

 

先手 斎藤 慎太郎 七段
後手 佐々木 大地 四段

 

初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

NHK 1

佐々木四段の横歩取り△3三角戦法に対して斎藤七段は、「勇気流」と呼ばれる戦法を採用しました。これは、飛車を引かずに右桂の活用を優先する作戦で、発想としては青野流と同様です。しかし、玉の位置が違うので、青野流とは似て非なる将棋になります。

例えば、第1図では△8八角成▲同銀△2七角と角を打ち込む手があります。青野流なら金に紐が付いているので、このような筋は絶対にありません。馬を作られるので先手が困っているようですが、▲3八銀△4五角成▲2四飛△2三歩▲2五飛で切り返すことができます。(A図)

NHK A

後手は馬取りや▲7七角、▲7五角といった複数の狙いを受けなければいけません。A図から△3四馬は▲6五飛でやはり後手は複数の狙いを同時に防ぐことができません。また、A図で△3三桂には▲4五飛△同桂▲4六歩で強引に桂を殺せば先手良しです。

よって、佐々木四段は動く手は指さず、△2二銀から陣形整備を行いました。(第2図)

NHK 2

佐々木四段は飛車を8二に引き、中原囲いに囲いました。△4二玉型が奇異に映りますが、これは▲4五桂と跳ねてきたときに、玉の力で上部を守っている意味があります。先手からの速攻を警戒した、かなり慎重な駒組みと言えるでしょう。ただ、受けに手数を費やしているので、攻めの態勢が遅れている嫌いはあります。

ここまで防御を重視されると、先手は流石に手出しができません。勇気流は飛車を3筋に置いたまま、ガンガン攻めて行く展開が多いですが、この局面はそういう状況ではないので、斎藤七段は▲2五飛と定位置の2筋へ戻しました。

佐々木四段は△7四歩と突きましたが、代えて△2三歩と手堅く守っておく方が良かった可能性はありあす。というのも、▲2四歩と拠点を作った手が機敏だったからです。以下、△7三桂▲2九飛と進んだ局面は、先手作戦勝ちです。(第3図)

NHK 3

先手は次に▲3三角成△同桂▲2三角という攻めを狙っています。露骨ながらもここに角を打ちこんでしまえば、馬を作る手や▲3二角成~▲2三金で2筋を突破する手が残ってしまうので、後手はこの手を喫する訳にはいきません。佐々木四段は△8六歩▲同歩△同飛と攻められる前に動きましたが、▲3三角成△同桂▲8八銀と対応され、やはり忙しい状況は変わりません。(第4図)

NHK 4

後手は7六の歩を狙って仕掛けたものの、相変わらず▲2三角の筋に悩まされています。佐々木四段はそれを緩和するために、△2七歩▲同飛△4四角と指しました。△8八角成を狙いながら、△2六歩と飛車の利きを止める手を用意しています。しかし、▲7七角が「角には角で対抗せよ」という格言通りの一着でした。4四の角を消してしまえば、先手の飛車を止める障壁はなくなりますね。先手はとにかく、▲2三角と打ち込める局面を作ってしまえば良いのです。

佐々木四段は△2六歩▲2九飛△7七角成▲同桂△7六飛と手を尽くして▲2三角を防ぎましたが、▲8四歩が地味ながらも厳しい垂れ歩で、先手がリードを広げました。(第5図)

NHK 5

▲8三歩成の一点狙いですが、後手は対処に困っています。△8二歩と打てば簡単に受かりますが、ここに歩を打ってしまうと、歩切れになってしまう上に、将来△8七歩~△8六歩などで叩く攻めが無くなってしまうのでジリ貧です。具体的には▲2六飛のときに指す手に窮しているでしょう。

▲8四歩は後手に△8二歩を打てと命令している手です。そして、そのような要求を無条件で飲む手は概ね悪手になってしまいます。基本的に相手の言い分には受け入れることよりも、反発する手から考える方が、将棋においては良いことが多いです。

佐々木四段は△3六飛と回りました。歩を補充しながら▲3四桂の傷を消し、先手の飛車の活用を阻止した一石三鳥の一手です。先手は当然、▲8三歩成△6五桂▲7二とでと金攻めをしますが、△8七歩▲7九銀△7七桂成▲同金△6五桂▲8七金△5五角と両取りを掛けて、とりあえず攻めが切れる心配はなくなりました。(第6図)

NHK 6

とはいえ、銀得という実利は大きく、ここは先手が優勢でしょう。本譜は▲6二とと銀を取りましたが、代えて▲8四角と力を溜める手も有力だったと思います。(B図)

NHK B

△8六歩の攻め合いは、▲6二と△8七歩成▲5一と△3一玉▲4一銀で先手の一手勝ちが見込めます。また、△8三歩で催促してきた場合は、▲6二と△8四歩▲5一と△同玉▲4六金で駒得を拡大して先手優勢です。

斎藤七段は▲6二と△同金▲8一角と指しました。これは後手の飛車を3筋から移動させて▲3四桂を打とうとしています。以下△3七角成▲同銀△同飛成▲3八歩△4七竜▲3四桂と先手は目論み通り、桂打ちを実現させました。しかし、△5二玉▲5八銀△4四竜▲2二桂成△同金と進んだ局面は、容易ではありません。(第7図)

NHK 7

第7図で先手は角銀⇔桂桂の交換で、大きな駒得を果たしています。ですが、局面を明快にリードしている訳ではありません。なぜでしょうか?

理由の一つに、効率の差が挙げられます。後手は全ての駒が働いていますが、先手は青い線で囲った下段の駒があまり機能していません。特に、飛車が眠っていることが痛いですね。

効率を改善するために、第7図では飛車を使う▲2六飛は考えられるのですが、△4五桂と跳ねられたときに緩手になってしまう懸念があります。

そこで斎藤七段は、▲2三歩成と成り捨てました。△同金なら▲2六飛が金取りになり、△2五歩▲8六飛が味の良い転換になります。後手としてはそれを許すわけにはいかないので、△7二銀と角を捕獲します。ここでも先手の言い分を通さないようにしていますね。

△7二銀以下、▲同角成△同金▲7三歩△同金▲6六角と進みました。(第8図)

NHK 8

タダで取れる金を放置して▲6六角と打つのは不思議に見えますが、これは△8六歩と叩かれる攻めを警戒したものです。先手は駒得の上、遊んでいる駒が多いので、長期戦になればなるほど楽しみが増えていきます。この▲6六角は徹底的に受けに回って、そういった展開を目指す意思表示と言えます。

佐々木四段は△5五桂と打って竜取りを受けますが、▲3三とと桂を払います。攻めを考えるなら▲2二との方が良いですが、△4五桂と跳ねられる手が嫌味です。ここでは桂を取って後手の攻撃力を奪う方が▲6六角と打った方針に沿っており、正しい着手と言えます。このように、直前に指した手の方針と合致する手を選べば、概ね間違いがないです。

▲3三と以下、△8六歩▲同金△3三金▲7八銀と進みました。銀銀⇔桂と圧倒的な駒得をしている先手は無理して攻める必要がないので、受けの方針を貫きます。(第9図)

NHK 9

ただ、この▲7八銀は危ない手で、代えて▲5六銀と「桂頭の銀」を打っておく方が、安定感がありました。

なぜ▲7八銀が危険だったかというと、△5四桂▲8八角△4六竜という攻めがあったからです。(C図)

NHK C

平凡な金取りのようですが、例えば▲7六歩と打つと、△5七桂成▲同銀△同竜と突撃する手が強烈です。以下、▲同玉には△4六角▲4八玉△5七銀▲5九玉△4七桂不成で何と先手玉は詰んでしまいます。

C図では▲5六銀と打つ方が粘りが利きますが、△2四角が次に△5七桂成や△5六竜を見せた角打ちで、こうなれば後手が優勢でした。まるでスナイパーのような角ですね。

本譜は△8五歩▲8七金△9五角と左辺から攻め掛かりましたが、これは▲7八銀で先に堅められた場所を攻めているので、効果的な攻めとは言えません。▲7七歩△8六歩▲9六金が的確な受けで、後手は千載一遇のチャンスを逸しました。(第10図)

NHK 10

ここで角を引くようでは攻めが頓挫してしまうので、佐々木四段は△8七歩成▲同銀△7七桂成から遮二無二、先手玉へ向かっていきます。後手は駒損しているので、攻めが止まることは負けを意味します。成算がなくとも、他に道はありません。(第11図)

NHK 11

佐々木四段はあの手この手で攻めを繋げ、△5七桂成▲同銀△6七角で王手金取りを掛けることに成功します。決死の攻めが功を奏したようにも見えましたが、▲8七玉△4九角成▲4五歩が冷静沈着な対応です。以下、△7六金▲9八玉△4五竜▲4六歩と進んだ局面は、竜と馬が両取りになっており、ようやく先手の受け切りが見えてきました。(第12図)

NHK 12

しかし、佐々木四段も簡単には土俵を割りません。ここで△5四竜が勝負手です。▲4九飛で馬がタダで取られますが、それには△6七桂成がうるさい攻めで、そうなると逆転模様です。斎藤七段は毒饅頭には手を出さず、▲8一角と竜取りに角を放ちました。竜を逃げると△6七桂成の迫力が削がれてしまうので、佐々木四段は△6七馬と引きましたが、▲5四角成△同歩▲8二飛△6三玉と後手玉を危険な状態にしてから▲8八歩と詰めろを防いだ手が、受けの決め手でした。(第13図)

NHK 13

後手玉は詰めろではありませんが、次に▲4五桂が入ると一手一手の寄り筋です。つまり、この局面で後手は、先手玉に詰めろを掛け続ける手を要求されています。

本譜は△7八馬と迫り、△8七角以下からの詰めろを掛けましたが、▲8七桂が「敵の打ちたい所へ打て」という格言通りの一手です。佐々木四段は△8七同金▲同歩△8八歩と詰めろを継続させますが、金を渡したことで後手玉に詰み筋が生じています。詰将棋の名手である斎藤七段は、当然ながら見逃しません。▲5二銀△5三玉▲4五桂△4四玉▲5六桂△3五玉▲3六銀で後手玉を仕留めました。(第14図)

NHK 14

後手は△3六同玉と取るより無いですが、▲3七金~▲2六金~▲2五金と棒金の要領で金を押し出し、△2三玉と逃げたときに▲3三桂成で金を取れば後手玉は詰みです。

白熱の終盤戦でしたが、最後は斎藤七段が首の皮一枚、残しました。

【本局の総括】

・序盤は先手が作戦勝ち。後手の序盤は些か消極的だった。

・▲8四歩の垂れ歩が好手で、先手がさらにリードを広げた。

・▲6二と~▲8一角はと金を消してしまい、もったいなかった。ここで少し差が詰まった印象。

・駒得の先手が常に良かったが、第9図の局面だけは危なかった。後手はC図の変化が本局唯一のチャンスで、そこを逃してからは勝ち目の薄い将棋になってしまった。


それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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