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今週の妙手! ベスト3(2020年4月第3週)

西山朋佳

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手今週の妙手! ベスト3(2020年4月第2週)

 

注意事項

 

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! ベスト3
(2020.4/12~4/18)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。角換わりの将棋から先手が上手く後手の攻めを対処して、このような局面になりました。(第1図)

 

2020.4.17 第70期王将戦一次予選 ▲斎藤慎太郎八段VS△村山慈明七戦から抜粋。

後手が金を打って挟撃態勢を作ったところです。

先手は玉がかなり狭くなりましたが、この手はまだ詰めろではありません。すなわち、攻めの手を指す余裕があるということです。3筋の大砲が火を吹けば、後手玉はたちどころに寄りそうですね。

 

指してみたい手はいくつかありますが、斎藤八段は一工夫した組み立てで寄せを目指しました。

斎藤八段が指した手は、▲3八金です!

 

攻める前に、2七の金へ働きかけたのが妙手でした!


 

 

あえて一旦、受けに回ったのが冷静な一着です。ここである細工をすることで、先手はより良い条件で寄せに向かうことが出来るのです。

 

後手は2七の金を清算されると先手玉を捕まえられなくなるので、△2六銀と連結するのは妥当でしょう。これに対して先手は、▲2七金△同銀成▲3三金で後手玉を攻めました。(途中図)

 

はて。先手は挟撃態勢を解除するつもりで▲3八金と指したはずなのに、結局そのミッションが未達成の状態で攻めに転じています。これなら単に▲3三金と放り込むのと、そう違いがないように見えるところですね。ところが、この謎のやり取りが後で効いてくるのです。ひとまず、本譜の進行をなぞります。

 

この金の打ち込みに対して△同桂と応じると、先手は3三の地点で全ての駒を清算してから▲4四角と打ちます。これは後手玉を即詰みに仕留められるので、紛れの余地なく先手勝ちですね。(A図)

よって、後手は△4一玉と引くよりないですが、自然に▲4三金△同銀▲3三歩成と攻めて行けば、後手玉は寄り形です。(第2図)

 

3筋を突破しながら後手玉に詰めろを掛けているので、先手の攻めはとどまるところを知りません。以降も後手は懸命に抵抗しましたが、斎藤八段が勝利を収めています。

 

さて。こうしてみると先手が何事も無く寄せ切ったように見えますが、実を言うとこの寄せが実行できた背景には、▲3八金と守った手の存在があるのです。

というのも、もし先手が第1図から単に▲3三金△4一玉▲4三金△同銀▲3三歩成と進めてしまうと、後手の持ち駒に[金銀]が揃うことになりますね。(仮想図)

 

ゆえに、ここで△5八銀と打たれてしまうと先手玉は天に召されてしまうことになります。▲3三金と踏み込んだ手が利敵行為だったという訳ですね。

そう。もうお分かりでしょう。先手はこの仮想図を回避するために、▲3八金と指したのです。

 

つまり、[▲3八金△2六銀▲2七金△同銀成]という手順を踏むことで、後手に銀を使わせることが、この金打ちの真の狙いだったということなのです。

 

この伏線のおかげで、後手は持ち駒が[金金]となりました。その結果、先手は自玉に詰み筋が発生することなく寄せを展開できるようになったのです。

 

こういった金銀のシャッフルによって戦況を変えるのは、パズルのような趣がありますね。詰将棋の名手である斎藤八段らしい妙手でした。

 

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。角換わりから[後手の右玉VS先手の穴熊]という構図になり、以下の局面を迎えました。(第3図)

 

2020.4.16 第70期王将戦一次予選 ▲中村太地七段VS△高野秀行六戦から抜粋。

後手が△7七桂と打ったところです。

この手は△8九金からの詰めろになっています。そして、現状では後手玉に詰みはありません。

 

先手は窮地に立たされたようですが、ここで先手は今しがた指された△7七桂を逆手に取る一手を放ちます。これは起死回生の一着でした。

中村七段が指した手は、▲9七香です!

 

香を移動させ、通気口を広げたのが妙手でした!


 

 

これが面白いアイデアでした。基本的に穴熊はスペースの狭さを活かす囲いなので、それと逆の発想を行く手を指すようではダメとしたもの。ところが、この局面では理外の理が成立しているのです。

 

ここで後手は△8九金▲9八玉△7九金と迫れば、詰めろを継続することが可能です。けれども、それには▲7二銀△8四玉▲8六銀が快心の一撃。これで先手の勝利は確固たるものになります。(第4図)

 

この▲8六銀は、詰めろ逃れの詰めろになっています。このように、先手は8七へ逃げる形を作ってしまえば、全く詰む気配がありません。第4図は後手玉が一手一手の寄り筋なので、先手勝勢です。

 

▲9七香の局面に戻ります。

△8九金は指せない。また、△7九馬も▲7二銀△8四玉▲7五金で負け。後手は指し手の制約が多く、思うような手が選べない状況なのです。

本譜は△4八飛成▲9八玉△6六馬と指しました。これは△9九金からの詰めろになっています。しかし、それに怯まず▲8二桂成が快刀乱麻を断つ成り捨てですね。(第5図)

 

△同角だと▲7四金から平易な詰みです。

よって、△同玉と応じることになりますが、▲7三銀△同角▲7二金で5五の角を除去することに成功し、先手が頭一つ抜け出しました。これによって、自玉の詰めろを解除したことが大きいですね。(途中図)

 

後手は△8三玉と逃げましたが、▲7三桂成△8四玉▲7四成桂△8五玉▲7五角で先手はピタッと着地を決めました。(第6図)

 

後手は▲8四成桂と▲8六銀という二つの詰めろが同時には防げないので、受け無しに追い込まれています。また、先手玉に詰みがないのは言うまでもないですね。ゆえに、実戦はここで終局となりました。

 

この局面もそうですが、先手は▲9八玉と上がった姿が思いのほか耐久力があり、詰まされにくい配置になっています。この状況を作り出すために、▲9七香と上がる手が急所だったという仕組みなのですね。

 

そうは言っても、先手は△8九金という狙いを直接的には受けていないので、この受け方が成立しているとは驚嘆です。8七の地点が安全だと見切った感覚が見事でしたね。中村七段の非凡なセンスが光った妙手でした。



 


第1位

 

最後に紹介するのはこちらの将棋です。これは振り飛車党のお手本とも言える勝ち方であり、同時に華のある手順でもありました。(第6図)

 

西山朋佳

2020.4.16 第13期マイナビ女子オープン五番勝負第2局 ▲西山朋佳女王VS△加藤桃子女流三段
(棋譜はこちら)

後手が△4八とと引いたところ。

現状、先手玉には△3八と▲同玉△4九銀からの詰めろが掛かっているので、攻めだけを考慮する訳にはいきません。かと言って、もはや囲いの修繕も期待できないので、受け一方の姿勢でも勝機は見出せないでしょう。

 

つまり、先手に求められている手段は「攻防手」ということになります。西山女王は、鮮やかな手順を用意していました。

西山女王が指した手は、▲3五金です!

 

西山朋佳

金を犠牲にして上部の制空権を奪いに行ったのが妙手でした!


 

 

西山朋佳

大胆に金を捨てたのが読みの入った一着でした。この金の犠牲が、上部を開拓することに繋がるのです。

後手はもちろん△同歩と取りますが、▲5四竜で金を取り返しておきます。(途中図)

 

西山朋佳

さて。後手も自玉が安泰ではないので、少しでも守備駒を増やすために△3四銀と打ちたいところです。しかし、▲同竜△同玉▲4五角△4三玉▲3四銀△5二玉▲6三金と畳み掛けられると、なんと即詰みに討ち取られてしまいます。(B図)

 

つまり、後手は合駒を打つことが出来ません。

西山朋佳

そうなると△1三玉はやむを得ないですが、▲2五銀が上部の覇権争いを制する一着。これを指すことで、先手は自玉の安全を確保することが出来ました。

その証拠に、△3八とに▲1七玉と上がっておけば、先手玉はゼットです(第8図)

 

西山朋佳

後手は2五の銀が目の上のたんこぶのような存在であり、これをやっつけないと勝ち目がありません。

ゆえに、本譜は△2四銀▲同銀△同歩でそれを消去しましたが、▲3四銀が詰めろ逃れの詰めろなので先手の優位は揺るぎません。徹頭徹尾、2五の地点に戦力を足すのが急所ですね。(第9図)

 

西山朋佳

後手は△2八銀と打てばある程度は王手を続けることが出来ますが、[▲2六玉→▲3五玉]という逃走ルートが手厚いので、先手玉は相変わらず不死身です。2五の地点を制することで、ここでも自玉を保全していることが分かりますね。

 

西山朋佳

仕方がないので本譜は△2二銀打▲4五角△1二銀で受けに回りましたが、軽やかに▲2五銀と身を翻したのがスマートな勝ち方。後手が二段目に打った守備駒を相手にしないのが賢明でした。(第10図)

 

西山朋佳

△同歩は▲2四金で詰みですし、△2三銀左には▲2四銀△同銀▲同竜△同玉▲3四金でゲームセットですね。(C図)

また、後手は銀を使い切ってしまったので先手玉に迫る術もありません。万策尽きているので、ここで終局となりました。

 

改めて、▲3五金の局面に戻ってみましょう。

西山朋佳

先手はこの手を発端にして、常に2五の地点を押さえに行っていることが読み取れます。そこをマウントすることで2六の地点が「聖域」となり、玉頭戦を制することに結びつきました。

 

西山朋佳

また、[▲3五金△同歩]というやり取りにより、▲2六玉→▲3五玉という逃げ道を作っていたことも見逃せないですね。ただ2五の地点に駒を足すという方法では、そのようなベネフィットは得られません。

 

西山朋佳

このように、上部に厚みを作って2六の地点を「聖域」にする展開は、振り飛車の終盤戦において出現しやすいシチュエーションの一つです。美濃囲いが崩壊してもこういった展開を視野に入れると、もうひと踏ん張りが利くものです。▲3五金からの一連の手順は、まさにそれを体現したものでしたね。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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