どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2020年4月第4週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2020.4/26~5/2)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。角換わりから激しく斬り合う将棋になり、このような局面になりました。(第1図)
2020.4.30 第33期竜王戦2組ランキング戦 ▲松尾歩八段VS△佐々木勇気七戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)
後手は三枚の大駒を保有し、持ち駒も豊富にあるので攻め駒は大いに充実しています。しかし、それでも現状では先手玉を詰ますことが出来ません。また、自玉は風前の灯です。
そうなると勝負の帰趨は明らかに見えましたが、ここで後手は思わぬ一手を放ち、踏み止まったのでした。
桂を犠牲にして、2三の地点に利きを足したのが妙手でした!
これがしぶとい粘りでした。悪あがきのような捨て駒に見えますが、何とこれで先手の攻めを停滞させているのです。
なお、この手に代えて△2二同玉でと金を払うほうが自然ですが、それは▲2四銀△1二銀▲2五桂で必死が掛かってしまいます。(A図)
この変化から分かるように、後手は2四に銀を置かれると粘りが利きません。その展開を回避できることが、△3一桂のメリットなのです。
この桂はタダですが、どちらの駒で取られても詰めろが解除されるので、後手に攻めるターンが回ってきます。
他には▲4三桂成もありますが、これも詰めろではないので△8六歩で反撃することが可能ですね。(第2図)
この歩が突ければ二枚の飛車が連動するので、先手玉は一気に危うくなります。
先手は▲同歩と応じるくらいですが、△同竜▲6七玉△6五歩から玉頭を小突いていけば寄せ切れるでしょう。後手は飛と金さえ渡さなければ、容易には詰まない格好です。
改めて、△3一桂の局面に戻ってみましょう。
後手は2二のと金が目障りな存在ですが、この駒を取ってしまうと「玉を下段に落とす」という任務をクリアさせてしまいます。つまり、これを放置した状態で、と金の効力を失わせる必要があったのですね。ゆえに、△3一桂が最適な受けになるという訳なのです。
とはいえ、受けを考えるときに、駒をタダで捨てるような手はなかなか浮かばないものです。この△3一桂は、見事な凌ぎでした。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。相掛かりから大駒が飛び交う空中戦になり、以下の局面を迎えました。(第3図)
2020.5.1 第68期王座戦挑戦者決定トーナメント ▲増田康宏六段VS△渡辺明三冠戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)
先手が▲3四桂と打ったところ。
この手は▲3二金△同玉▲4二飛からの詰めろになっています。それを踏まえると、後手は3二か4二の地点を補強することが絶対条件と言えますね。
渡辺三冠は、持ち駒の銀に手を伸ばします。ただ、それが打たれた場所は、なかなかに意外なところでした。
わざと自玉から遠いところに銀を打ったのが妙手でした!
意図的に銀を離して打ったのが巧妙な受けでした。この手が第一感だったという方は、さすがに少なかったのではないでしょうか。
一般的に、金銀は玉に隣接させるほうが安全度が上がります。そういう意味では△3一銀打と受けるほうが自然でしょう。しかし、それには▲3二歩という痛打があり、後手はマットに沈められてしまいます。(B図)
この▲3二歩が直撃しないように、あえて△4一銀と打つ手が妙手になるのです。
ここに銀を打つと2二を強化していないデメリットはありますが、▲2二桂成△同玉▲3四歩と迫られても△3二歩と応じれば、詰めろを断絶することができます。
先手にとって3四の桂は大事な攻めの手掛かりなので、あっさりと清算するわけにはいきません。それを見越しているので、△4一銀が成立しているのですね。
本譜は▲3二歩と攻めましたが、今度は銀取りではないので対応がしやすいですね。具体的には、△3一歩という受けが利くのです。(第4図)
▲同歩成△同銀と進めると、4二の地点がさらに補強されるので先手は後続が見えなくなります。これは詰めろが続きません。
他には▲4二金と放り込む手もありますが、△同銀▲同桂成△4一金というテクニカルな受けがあるのです。(第5図)
▲同成桂を促せば後手は詰めろを解除することが出来るので、△3八馬が指せるという仕組みですね。けれども、先手はこの金が取れないようでは攻めが頓挫しています。
改めて、第4図の局面に戻りましょう。
こういった背景があるので本譜は▲6一飛と攻めましたが、△5一角が頑強なバリアーで先手は上手く迫れません。相手の詰めろ攻撃を凌いだので、後手は△3八馬が間に合う態勢となりました。
それにしても、△4一銀という手入れの仕方は守り駒が宙ぶらりんなので、これが最適な受けであることはかなりの驚きです。自陣がバラバラのようでも、後の△3一歩や△4一金があるので耐えていることを見切っていたのですね。渡辺三冠の慧眼が光った妙手だったと思います。
第1位
最後に紹介するのはこちらの将棋です。この一連の寄せは、まさに超絶技巧でした。(第6図)
2020.4.30 第33期竜王戦2組ランキング戦 ▲松尾歩八段VS△佐々木勇気七戦から抜粋。
第3位で紹介した△3一桂に対して、先手が▲2三銀成△同桂▲3二角成と指したところです。
ここまで肉薄されると、もう後手は受けが利きません。今度こそ先手がトドメを刺したように見える局面ですね。
ところが、勝利の女神は後手に微笑んでいたのです。次の一手により、佐々木劇場の幕が開きました。
焦点に金を捨てて、先手玉を詰ましにいったのが妙手でした!
これが鮮烈な一撃でした。後手は持ち駒に銀が増えているので、第1図と比較すると詰ましに行く条件が良くなっているのです。
これを▲同金直には△7八竜▲同玉△6九銀から並べ詰め。なので▲同玉は当然ですが、△5八銀と迫ります。
△5八銀に▲7七玉は△8六銀でアウトなので、▲同金△同馬と進むことになりますね。(第7図)
さて。先手は▲同玉と馬を取りたいところですが、それは△7八竜▲4七玉△5八銀▲5六玉△6七銀不成でゲームオーバーです。(C図)
他にも変化はありますが、この馬を取ると6七に銀を設置される筋から捕まえられてしまいます。
という訳で、本譜は▲5六玉で上部脱出に期待しましたが、△4七銀▲6五玉△7六馬▲同玉△7八竜でまだまだ王手が続きます。一間竜の形になり、少しずつ包囲網が狭まってきました。(第8図)
先手は合駒が三種類ありますね。ただ、将来、玉が6五へ逃げていったときのことを考慮すると、△6七竜をケアしておきたいところでしょう。
ゆえに本譜は▲7七金を選んだのですが、後手は△7五金▲同銀△同歩で一間竜を活かしてきます。(途中図)
ここで▲6六玉とかわすと、△7七竜▲同玉△7六金▲同馬△同歩▲同玉△7五歩と畳み掛けます。このとき、先手玉は意外に狭いのです。(第9図)
見た目は広く感じるのですが、後手はたくさん歩を持っていることや4七に銀が居座っていることが心強く、先手玉を捕まえることが出来るのです。
(1)▲7七玉は、△7六銀▲8八玉△8七銀成▲同玉△8六歩から詰み。
(2)▲6六玉は、△6五歩▲同玉△6四歩でこれも詰み筋に入っています。(D図)
変化は多岐にわたるのですが、先手はどのように逃げても詰みを免れることは出来ません。
改めて、途中図に戻ります。
▲6六玉では詰みだったので、本譜は▲6五玉とかわしました。
しかし、これも△6四歩▲同玉△7三金で土台を作れるので、やはり先手玉は捕まっています。いよいよ収束が見えてきました。(第10図)
▲6五玉と引くよりないですが、△6四銀▲6六玉△6五歩▲同馬△同銀▲同玉△5四角で、ようやくはっきりしました。最後の角打ちは有終の美を飾るような一着ですね。(第11図)
▲同玉と取るよりないですが、△8四飛▲6五玉△6四飛▲7五玉△7七竜で金が取れるので、詰んでいます。
よもや5二の金まで詰みに役立つとは思いもよらない展開でした。「勝ち将棋、鬼の如し」とはよく言ったものです。
そして、何より恐ろしいことが、ここに記した手順は一分将棋の中で行われていたことです。佐々木七段がどの局面で勝ちを読み切られたのかは分かりかねますが、△3一桂で銀を一枚稼ぎ、△6七金で仕留めるという組み立ては、終盤力の精度が抜群に優れている証左でしょう。これぞ銭の取れる将棋でしたね。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!