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今週の妙手! ベスト3(2020年6月第2週)

今週の妙手

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
妙手 今週の妙手! ベスト3(2020年6月第1週)

注意事項

 

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! ベスト3
(2020.6/7~6/13)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。相振り飛車からお互いに我が道を行く攻め合いを選び、このような局面になりました。(第1図)

 

妙手 あらきっぺ

2020.6.12 第92期ヒューリック杯棋聖戦一次予選 ▲黒沢怜生五段VS△田中悠一五段戦から抜粋。

後手が△7二歩と打ち、7三の地点を補強したところです。

先手は玉の堅さでは勝っていますが、桂損なので長引くと不利になります。ゆえに、ここはアクセルを踏まなければいけない局面ですね。

 

そうなると敵玉を攻めることになりますが、黒沢五段の着想は一味違いました。

黒沢五段が指した手は、▲8四金です!

 

妙手 あらきっぺ

金を取れと突きつけたのが妙手でした!


 

 

妙手 あらきっぺ

よもや歩が利いている場所に金を打つとは予想だにしない一着ですね。しかし、これが鋭い一撃でした。

なお、この手に代えて▲8四歩のほうが自然ではありますが、それには△9四銀が手強い抵抗で、これは先手が攻めあぐねています。(A図)

しかしながら、金を打てば8三と7三の二つの地点を狙っているので、後手は△9四銀という受けは出来ません。

 

妙手 あらきっぺ

ゆえに、後手は△同歩と取らざるを得ませんが、▲同飛△8三歩▲8九飛で馬を取ることが出来たので、先手は満足のいく進行となりました。(第2図)

 

今週の妙手

先手は相変わらず駒損ではありますが、次に▲7四歩や▲8四歩という攻め筋があることや、後手陣の右辺の駒が遊んでいることを考慮すると形勢は良いと考えられます。こうなると▲8四金の豪打が奏功した格好ですね。

 

妙手 あらきっぺ

要するに、歩なら一点狙いなので簡単に受けられてしまうのですが、金ならダブルリーチなので受からないという訳なのですね。意味付けとしてはシンプルですが、やはり歩頭に金を打つのはなかなか思い浮かばないものです。これはキレのある一着でしたね。

 

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。相居飛車の力戦形から苛烈な攻め合いになり、以下の局面を迎えました。(第3図)

 

妙手 郷田

2020.6.11 第79期順位戦B級1組1回戦 ▲近藤誠也七段VS△郷田真隆九段戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)

後手が△7七歩成と指し、先手が▲同金と応じたところ。

後手は飛と金が両取りになっていますね。しかし、よく見るとそれを味よく受ける手段がありそうです。ところが、郷田九段はその手を選ばず、違う場所に飛車を動かしたのです。

郷田九段が指した手は、△3六飛です!

 

妙手 郷田

わざと金を守らない場所に飛車を移動したのが妙手でした!


 

 

妙手 郷田

これが読みの入った妙手でした。しかし、この手を見て「どうして、もう一マス右にしないの?」という疑問を感じられた方もいらっしゃるでしょう。ただ、これは理路整然とした理由が存在するのです。

△4六飛と回った場合、先手は▲4七歩と打ってきます。これがなかなかに厄介なのです。(第4図)

 

今週の妙手

後手は△同飛成と応じると、▲4八金△4六竜▲4七歩△5五竜▲5六歩と竜を追い回されます。これは最終的に4四の金の紐が外れてしまうので、後手は金を守り抜くことが出来ません。(B図)

そういった背景があるので、後手はあの金はあっさり見捨てて、△3六飛と回る方が良いのです。

 

妙手 郷田

先手はもちろん▲4四角成で金を取りますが、後手も△3七飛成で桂を取ります。(第5図)

今週の妙手

ここで先手は▲3八飛とぶつけたいのですが、△同竜▲同金△4九飛が王手馬取りなので、敗勢になってしまいます。しかし、そうなると飛車取りの良い対処がなく、味の悪い逃げ場しかありません。

 

さて。ここまで進んでみると、第3図で後手が単に△3六飛と回った意図が見えてきますね。つまり、[△4六飛▲4七歩]というちゃちゃを入れてしまうと、今度は4七の歩が壁になっているので、王手馬取りの筋が消えています。なので、第5図の局面で▲3八飛とぶつけられてしまい、芳しくありません。△4六飛を指さなかった理由は、こういった意味もあったのです。

 

今週の妙手

仕方がないので本譜は▲4八飛と辛抱しましたが、これはただ飛車取りを受けただけの手なので、辛い一手です。手番を得た後手は、△4三歩と打って自陣を保全しました。(第6図)

 

今週の妙手

先手は駒損しているので▲1一馬と香を取りたいのですが、それには△7六桂で攻め合い負け。しかし、他の応手では駒損を回復できないので、形勢を挽回できません。以降は後手が優位を保って制勝しました。

 

妙手 郷田

話を整理すると、後手は将来の△3七飛成の威力を高めるために、単に△3六飛と回ったという理屈なのですね。とはいえ、△4六飛と指せば自分の金に紐が付き、同時に4九の金取りにもなりので、思わずそう指してみたくなるところです。

△3六飛は、目先の損得に惑わされない本質を見抜いた妙手でしたね。

 




第1位

 

最後に紹介するのはこちらの将棋です。これも深い読みに基づいた迫力ある妙手でした。(第7図)

 

妙手 62金

2020.6.12 第79期順位戦A級1回戦 ▲斎藤慎太郎八段VS△糸谷哲郎八段戦から抜粋。(棋譜はこちら)

この局面は、玉の安全度の差が大きく、先手が優位に立っています。しかしながら、先手の矢倉は8七に何らかの駒を打たれると一気に弱体化するので、そこまで威張れた玉型でもありません。

 

そういった背景があるので、ここは慎重な手を選ぶかと思われましたが、斎藤八段の選択は凡庸なものではありませんでした。

斎藤八段が指した手は、▲6二金です!

 

妙手 62金

金を打ちこんで一気の寄せを目指したのが妙手でした!


 

 

妙手 62金

先述した通り、先手玉は決して安泰という訳ではありません。なので、こういった駒を渡す手はリスキーなのですが、斎藤八段は自玉の危険度を正確に見切っていたたのです。

 

妙手 62金

ここから△同金▲同成桂△同玉▲5三金までは必然です。後手は△7二玉と逃げると▲6三金→▲4五角でノックアウトなので、△5一玉はやむを得ませんが、▲6三金で詰めろが掛かりました。(第8図)

 

妙手 斎藤

後手は玉が独りぼっちになり、もはや一手一手の寄り筋です。残された手段は、駒を蓄えて先手玉を詰みに討ち取るよりありません。

ただ、現状では少し駒が足りないので、△3三桂で一歩を補充します。これは△8七歩に期待した一着ですが、▲6二角△4一玉▲3三成銀が後手の望みを打ち砕いた手順でした。(第9図)

 

今週の妙手 斎藤

もう後手はこれ以上、延命できないですし、駒を蓄えることも出来ません。よって本譜は△8七歩▲9八玉△9七香と迫りますが、▲同玉△8五桂打▲同歩△同桂▲8六玉が正確な応対で、先手は見事、追撃を振り切ることに成功しました。(第10図)

 

妙手 斎藤

ここまで進んでみると、先手が前もって▲6二角を打った意味が分かります。この角が8四と9五の地点をガードしているので、先手玉には詰み筋がありません。もし、この角がなければ△9七角▲同香△9五銀からトン死してしまうところでした。(C図)

 

妙手 斎藤

けれども、第10図ならその心配は皆無ですし、ここで△7七桂成も▲8四歩で安泰です。先手玉に詰みがないことは明白なので、ここで終局となりました。

 

改めて、▲6二金の局面に戻ります。

妙手 62金

こうして振り返ってみると、先手はかなり危ない橋を渡っていることが分かります。けれども、それらを踏まえた上で自玉の不詰めを読み切り、▲6二金と踏み込む手を選んだのは素晴らしい決断力でしたね。これぞ、プロの将棋と感じさせられる妙手でした。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

 

5 Comments

矢倉苦手マン角換わり得意マン

はじめまして、あらきっぺさん。いつも楽しく拝見させております。
最近序盤に66歩を突かないタイプの矢倉を相手にするのが苦手で、矢倉について調べていたのですが、少し前にけっこう指されていた土居矢倉が、最近指されていないなと思いました。先手側に何か有力な対策が見つかったのでしょうか?また、僕のソフトで矢倉について研究していると、先手側が序盤早々2五歩と突いたときに角で受けるより銀で受けたときの方が少し評価値が良かったのですが、角で受けると何かマイナスなことがあるのでしょうか?最後に、あらきっぺさんが後手で、先手が矢倉をしてきた時、どのように指しますか?

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あらきっぺ

はじめまして。こちらこそ、ご覧くださり嬉しく存じます。

さて。ご質問に対する回答は、以下の通りです。

————————-

【土居矢倉が姿を消した理由】

これは先手の急戦矢倉が有力であることが理由の一つだと考えられます。
[急戦矢倉VS土居矢倉]という構図になると、土居矢倉は玉が二段目にいるので辺りが強く、相性が悪いと言わざるを得ないでしょう。
土居矢倉は早めに▲6六歩を突いてくれると採用しやすいのですが、現代矢倉はなるべく▲6七歩型を維持する傾向があります。常に採用できる指し方ではないので、指されなくなったという意味合いもありそうですね。

【早い▲2五歩に△3三銀が推奨される理由】

これは、誤差の範囲内という感はあります。(ちなみに私が使用するソフトでも同様の結果になりますが、その差は僅かです)
ただ、△3三銀のほうが作戦の幅が広いので、その辺りが評価値に影響を与えているのかも知れません。
なお、△3三銀と△3三角の比較よりも、「そのあとにどういった作戦を選ぶのか」という選択のほうが遥かに大事とは言えます。

【先手矢倉に何を指す?】

今のところ、私が有力と考えている作戦は、「雁木」「急戦矢倉」「△7三銀急戦」の三つです。
ただ、△7三銀急戦に関しては攻め筋が単調なので、ちょっと面白くないとも感じていますね。

現環境の先手矢倉は強敵であり、後手を持つとどう戦うか悩ましいところです。
しかしながら、後手の選択肢は多いので、何か一つご自身の棋風に合う作戦を見つけられると良いですね。

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矢倉苦手マン角換わり得意マン

返信ありがとうございます。土居矢倉は急戦されたときにきつくなってしまうんですね。最後のについて、僕は7三桂急戦か雁木がいいかなって思ってたんですが、前者はブログで書いておられるように▲68角型を作られると速攻が難しいですね。なので、先手が飛車先を早めに突いてきたら雁木で、それ以外なら7三桂急戦をしてもし▲68角で対抗されたら雁木や矢倉に組んでゆっくりした戦いに持ち込むというふうにしたいと思います。勉強になりました。これからも頑張って下さい!

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あらきっぺ

そのように作戦を使い分けるのは、とても有力だと思います。
矢倉側も急戦を封じるために▲2五歩や▲6八角を早く決めると作戦の幅が狭まるので、それを見て持久戦へと移行するのはクレバーな印象がありますね。

こちらこそ、ありがとうございました。今後もマイペースで頑張ります!

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矢倉得意マン角換わり得意マン

すみません補足です
左美濃で早繰り銀って書きましたが、普通に美濃囲いのことです。
ややこしい書き方してすみません。よかったら直しといていただけると幸いです。

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