どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2020年7月第2週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2020.7/12~7/18)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。先手の矢倉に後手が急戦策を採用し、このような局面を迎えました。(第1図)
2020.7.14 第79期順位戦C級1組2回戦 ▲豊川孝弘七段VS△増田康宏六段戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)
8筋の突き捨てを、先手が▲同歩と応じたところです。
この局面で後手は銀得の戦果を上げていますが、5三にと金が居座っていますし、4七の角の処遇をどうするかという課題も抱えています。なので、銀得と言えども容易ならざる状況と言えるでしょう。
しかし増田六段は、この難局を切り抜ける好手順を用意していました。これはなるほどの構想でしたね。
角取りを放置して、と金を引いたのが妙手でした!
後手にとって、6九のと金は大事な攻め駒に見えます。それをポイ捨てするのは意表を突かれますが、これが臨機応援な一着でした。
なお、この手に代えて△5六銀と打てば飛車は取れますが、▲4七飛△同銀成▲7三角と進められると非勢に陥ります。(A図)
このように、後手は▲7三角が間に合う展開になると芳しくありません。つまり、それを回避する必要があり、その具体的な方法が△6八となのです。
これに対して▲4七飛と角を取るのは、△8六飛▲8七歩△7八と▲同玉△8九銀という攻めがあります。よって、先手は手抜きが利きません。(B図)
ゆえに▲6八同金と応じるのは妥当ですが、△5六桂▲7八金△6九角成と進んだ局面は、後手が上手く角取りをかわした格好ですね。(第2図)
次は△8六飛や△6八桂成といった攻めがあるので、先手は▲7三角と打つ余裕がありません。後手はと金を失いましたが、6九の地点にはと金よりも馬を配置させるほうが敵玉を寄せやすいので、むしろ得をしていることが分かります。以降は、増田六段が危なげなく勝ち切りました。
それにしても、寄せの大事な手掛かりに見える6九のと金をあっさり捨てて、そこに角を成り込む組み立ては非凡ですね。これは見事な邪魔駒消去でした。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。先手の急戦矢倉を後手が堂々と受けて立つ展開になり、以下の局面を迎えました。(第3図)
2020.7.16 第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局 ▲渡辺明棋聖VS△藤井聡太七段戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)
後手は攻め駒の数は十分に足りていますが、大駒が攻めに活躍していないので、まだ寄せの見通しがつかない局面に見えます。
ところが、ここから3手進んでみると、盤上の景色は劇的に変わりました。この網の絞り方は、気がつきにくい手順でしたね。
銀を打って飛車を責めたのが妙手でした!
このタイミングで飛車を捕まえに行ったのが、素晴らしい判断でした。後手は、▲7八玉と早逃げされる手を許さないことが急所なのです。
先手は飛車を渡すと自玉に詰めろが掛かってしまうので、▲8二馬△2九銀不成の取り合いは旗色が悪いですね。よって、▲5九飛と逃げるのはやむを得ないですが、そこで△8六桂と縛るのが△3八銀からの後続手です。(第4図)
ちなみに、この手に代えて△4七桂と攻めると、▲同金△同金▲7八玉で逃走されるので、後手は面白くありません。(C図)
繰り返しになりますが、後手は▲7八玉を阻止することが肝要なのですね。
さて。ここで▲8二馬は、今度こそ△4七桂が手痛い一撃になります。先手は上部へ脱走できないので、全く粘りが利きません。
したがって、本譜は▲4八歩と辛抱しましたが、[△8六桂⇔▲4八歩]のやり取りは、玉を狭くさせた後手が大いに得をしました。これで敵玉の逃走を封じることが出来たので、悠々と△4二飛で受けに回っておきます。(第5図)
こうなってみると、彼我の玉の可動域の差が際立っていますね。後手は△3一玉→△2一玉と安全な場所へ避難できますが、先手は四面楚歌といった有様で、完全に包囲されています。このあとは、藤井七段の手堅い寄せを見るばかりでした。
後手は△3八銀と△8六桂のコンビネーションによって、あっという間に挟撃態勢を作ることが出来ました。この銀打ちは、▲5九飛を強要させることで△8六桂の威力を高める効果があったという訳なのですね。
飛車取りに構わず踏み込んで行くスピード感は、まさに藤井将棋の特色が現れています。タイトル獲得に相応しい妙手順でした。
第1位
最後に紹介するのはこちらの将棋です。これも見事な寄せが決まった将棋でした。(第6図)
2020.7.17 第70期王将戦二次予選 ▲木村一基王位VS△稲葉陽八戦から抜粋。
後手が△7二金と上がって、玉を固めたところ。
現局面で先手は大きな駒得ではありますが、8六の銀が当たりになっていますし、後手は持ち駒を豊富に持っているので、反撃の機会を与えると面倒なことになりかねません。
どう決めるのか難しそうに見えましたが、木村王位は流麗に着地を決めました。
金頭に歩を叩いたのが鋭い妙手でした!
これが最短ルートの勝ちを歩む一着でした。7三の地点にはたくさん駒が利いていますが、後手はどれで取っても都合が悪いのです。
これを△同馬には、▲8五桂△6四馬▲7三歩と畳み掛ければ良いでしょう。(D図)
この変化は何発でも7三に歩が打てるので、後手は支え切れません。
そういった事情があるので、実戦は△7三同桂と応じましたが、そこで▲6一角が第二弾の妙手。この手を見据えていたからこそ、先手は7三に歩を叩いたのです。(第7図)
△同玉には▲1一飛成から詰んでいます。事前に7三の地点を封鎖した効果がテキメンに現れていますね。また、これを放置すると▲7二角成から▲6二金で詰みます。
後手は△8二玉と早逃げして詰めろを防ぎましたが、▲7一金が第三弾の妙手。これで後手は受けがなくなりました。(第8図)
△同玉と取らせれば、▲7二角成から▲6二金の筋が発動できますね。かと言って、この金打ちを無視する訳にもいきません。先手は三連発のタダ捨てで、後手玉をマットに沈めることに成功しました。
木村王位が指した▲7三歩、▲6一角、▲7一金は、全て7二の金を狙っていることが分かります。先手は徹頭徹尾、囲いの中軸である金を攻めることで、銀冠を崩すことが出来ました。まさにお手本のような寄せであり、「金を狙う」という寄せのセオリーの偉大さがよく分かる手順でもありましたね。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!