どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2020年9月第3週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2020.9/20~9/26)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。相振り飛車から先手が後手の攻めを催促する構図になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2020.9.25 第62期王位戦予選 ▲谷合廣紀四段VS△佐々木勇気七段戦から抜粋。
後手が△3四飛と寄って、飛車取りをかわしたところです。
先手は自分だけと金を作っていますが、現状は金桂交換の駒損ですし、玉型も心許ないので形勢は芳しくないように見えます。
ところが、ここから谷合四段は巧みな攻めを見せて、一気に棋勢を引き寄せたのでした。
8筋に歩を合わせて、本丸の攻略を目指したのが妙手でした!
ここに歩を合わしても、ぱっと見ではどんな攻め筋があるのか見えてこないので、意外な一手だったのではないでしょうか。しかしながら、これが後手陣の臓腑を抉る強烈な攻めなのです。
後手はこれを放置する訳にはいかないので△同歩は当然ですが、さらに▲8三歩と叩きます。△同玉には▲6六角成が絶好ですね。
よって、▲8三歩には△同銀と応じることになりますが、そこで▲6五桂打が先手期待の一打でした。(第2図)
これは▲7三桂成△同玉▲8五桂打からの詰めろになっており、後手は無視することが出来ません。銀を8三へ移動させたことにより、この桂打ちの威力がべらぼうに高くなっていることが分かります。第1図から単に▲6五桂打と指すのとは雲泥の差がありますね。
本譜は△同桂▲同桂△8一桂と辛抱しましたが、▲7三桂打が粘りを許さない一撃。やはり、7三の地点にアタックすることが急所なのです。(第3図)
これを△同桂は、▲同桂成△同玉▲6五桂で一手一手の寄り筋です。かと言って、この桂が取れないようでは後手は延命できないですね。第3図は先手の寄せが見事に決まっていると言えるでしょう。
▲8四歩から▲8三歩という攻め方は、部分的には銀冠の形を作らせるので、なかなかお目にかかれない組み立てです。けれども、後手の玉型は7三の地点がウィークポイントなので、その場所の利きを減らすことが最適な攻めという理屈なのですね。谷合四段の着眼点の高さが垣間見える妙手だったと思います。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。角換わり腰掛け銀から、苛烈に攻め合う将棋になり、以下の局面を迎えました。(第4図)
2020.9.21 第5期叡王戦七番勝負第9局 ▲豊島将之竜王VS△永瀬拓矢叡王戦から抜粋。(棋譜はこちら)
後手が5五にいた銀を6四に引いたところです。見るからに凄まじい一手ですが、後手は△5五角を指したいので、邪魔な銀を捨てたという訳ですね。
ごちゃついた局面ではありますが、豊島竜王は冷静に相手の奇手に対応しました。これは大人の一着でしたね。
慌てず騒がず、歩を打って囲いを強化したのが妙手でした!
いろいろな誘惑を我慢して、じっと歩を置いたのが読みの入った一手でした。気が利かないようですが、これで後手は困っているのです。
ちなみに、第4図から平凡な手は▲6二とで金を取る手でしょう。この場合、△5五角▲7七歩△3七角成と進むことが予想されます。(第5図)
この変化でも先手は悪くはないのですが、ここで▲2九飛か▲1八飛で飛車を逃げなければいけません。しかし、それには△2三金と手を戻されると、後手玉はまだまだ安全なので先の見えない将棋になります。つまり、これでは良さを見出せないのですね。
では、▲7七歩の場合は、どのような違いがあるのでしょうか。
ここで先程と同じように△5五角と打つと、今度は▲2七飛と浮けることが自慢です。これは5五に打った角が一時力に過ぎず、不発に終わってしまいますね。
したがって、本譜は△5九角と打ちました。これなら▲2七飛と受けられる心配はありません。けれども、これにも先手は用意の策があります。▲2五桂と飛び跳ねるのが鮮やかな返し技ですね。(途中図)
これは△同歩と取るよりないですが、それから先手は▲6二とで金を拾います。後手は△3七角成で催促するのが自然ですが……。(第6図)
さて。この局面は第5図と瓜二つではありますが、途中で[▲2五桂△同歩]のやり取りが入ったことにより、後手の2筋の歩が2四から2五へ移動していますね。これが大きな違いを生むのです。
具体的には、▲6三角と踏み込む手が成立します。これは▲4一金からの詰めろなので△2三金と指すのは妥当ですが、そこで▲4四歩とさらにアクセルを踏めることが先程と大きな違いになります。(第7図)
△2八馬には▲4三歩成でと金が作れますね。これは寄り形が見えているので、先手は不満がないでしょう。
しかしながら、△4四同歩と応じるのも▲2五飛△2四歩▲8五飛という捌きがあるので、これも先手は好調ですね。どちらの変化も▲2九飛や▲1八飛といった「ただ逃げるだけ」の手を指さずに済んでいるので、先手はスムーズに攻め続けられることが嬉しいところです。
この▲4四歩を発動させるには、途中で▲2五桂と捨てなければいけません。そして、それを指せるようにするために、先手は事前に▲7七歩を打ったという訳なのですね。
冒頭の局面では思わず金を取ってしまいたくなるところですが、それに眩まず、じっと先受けするほうが勝るとは驚きです。▲7七歩→▲2五桂→▲4四歩という組み立ては非常にロジカルであり、豊島竜王らしい緻密な指し回しでしたね。
第1位
最後に紹介するのはこちらの将棋です。これも深謀遠慮な読みが感じ取れた妙手でした。(第8図)
2020.9.22 第70期王将戦挑戦者決定リーグ戦 ▲藤井聡太二冠VS△羽生善治九段戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)
先手が▲4四角と指したところ。終盤戦に差し掛かろうかとしている局面ですね。
後手は受けに回るなら△6五歩と突いて、飛車の横利きを通す手が一案です。しかし、羽生九段の選択は全く違うものでした。強者はこうやって勝ちに行くものなのですね。
歩を捨てて4九の金を動かしに行ったのが妙手でした!
まさに一閃とも言える叩きの歩ですね。これを指すことにより、後手は攻めを加速することが出来るのです。
先手は何らかの対処が必要ですが、▲同玉は△3六歩の取り込みが痛いですね。これは自玉が戦場に近づいてしまうので、完全に後手の思うつぼです。
ゆえに▲同金は妥当ですが、それから後手は△8六飛と飛車を活用します。
一見、このやり取りにどういう意味があったのか見えにくいですが、これが後になって絶大な効力を発揮するのです。(途中図)
さて。ここで先手は▲8七歩△7六飛▲2九香と進めて問題なければ話は早いのですが、△5六飛と切られる手が厄介で、これは芳しくありません。(A図)
この変化から読み取れるように、△7六飛→△5六飛が相当に速い攻めなので、先手はここで▲8七歩と受けてもあまり恩恵が無いのです。
という訳で、本譜は▲2九香と攻めに転じました。以下、△8九飛成▲2三香成△同歩▲4五桂△8六桂と進みます。お互いに我が道を行く攻め合いですね。(第9図)
さて。この△8六桂は厳しい一着ですが、先手は▲6九金で手駒を使ってしまうと△5二香と受けられたときに良い攻めがなく、悶絶してしまいます。
よって▲5三桂成と手抜きで攻め合うのはやむを得ませんが、△7八桂成で金を取った局面は、後手の一手勝ちが明らかとなりました。(第10図)
現局面で、後手玉には詰みが無く、先手の玉は△5九飛からの詰めろが掛かっています。△4八歩の効果が覿面に表れていることが分かりますね。
本譜は▲4六歩と突いて逃げ道を作りましたが、△7九竜と銀を取る手が再び詰めろなので、先手は一手を稼ぐことが出来ません。以降は、羽生九段がきちっと着地を決めました。
なお、△4八歩を始めとする一連の組み立ては、谷川九段も印象に残る踏み込みと評されておりました。
勝負のポイントを谷川九段が解説 羽生九段、こん身の踏み込み 印象に残った4八歩― スポニチ Sponichi Annex 芸能 https://t.co/3smR1mYqhN
— スポニチ王将戦【公式】 (@sponichi_ohsho) September 22, 2020
この△4八歩という一手は、先手玉を仕留めるビジョンを明確に捉えていないと指せない一着です。もしかすると、この歩を放った時点で最後の詰みまで見切っておられたのかもしれませんね。羽生九段の慧眼が光った妙手でした。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!
将棋情報局のツイッターで知りました。
①「今週の妙手」がおもしろくて嵌ってしまいました。
全て読み通すと決めました。
②「現代将棋を読み解く7つの理論」、楽しみにしています。
マイナビの予約で買います。
①> ご覧くださり感謝申し上げます。なぜ、それが妙手たるものなのかという理由を、きちんと言語化することをテーマにしております。小難しいところはありますが、楽しんで頂けると何よりです。
②> ありがとうございます! 新しい概念や戦術が生まれた理由や、それの優秀性などを説明することが本書の狙いとなっております。序盤から終盤まで、幅広い領域で役立つ理論を詰め込んだので、お役に立てれば幸いです。