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今週の妙手! ベスト3(2020年10月第1週)

今週の妙手

どうも、あらきっぺです。

突然の報告ではありますが、今回から趣向を変えて、floodgate(フラッドゲート。コンピュータ将棋連続対局場所のこと)の対局を中心に取り上げて行こうかと思います。

 

元々、この記事のコンセプトとしては、初回の記事に綴ったように「これは凄い!」と感じさせる指し手を少しでも埋もれさせないようにすることが趣旨ではありました。

そういう意味では、プロ棋士の棋譜よりも将棋ソフトの棋譜のほうが陽の目を浴びる機会が少ないので、floodgateの将棋を題材にしようと思った次第です。

ただ、あくまでfloodgateをメインにするという話なので、プロ棋士の対局で筆者が取り上げたいと感じる手が指されれば、そちらも紹介しようとは考えています。

 

それでは、本編に入っていきましょう。なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手今週の妙手! ベスト3(2020年9月第4週)

注意事項

 

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! ベスト3
(2020.9/27~10/3)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。先手の矢倉に後手が△7三銀急戦で対抗する構図になり、このような局面を迎えました。(第1図)

 

フラッドゲート

2020.9.29 ▲Lladro VS △Kamuy_vi05_1c戦から抜粋。(棋譜はこちら

後手が6四に銀を打って、先手の攻めを催促したところ。

先手は6五の桂を効率よく守ることが難しいので、▲8一飛△6五銀▲8四角といった要領で、これを取らせている間に大駒を要所にセットするのが一案ではあります。

ところが、本譜はそんな凡庸な手順は選びませんでした。この攻めの繋げ方は、指されてみれば成程でしたね。

Lladroが指した手は、▲4五桂打です!

今週の妙手

4五に桂を重ね打ったのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

これが後手の囲いを打ち崩す第一歩となる一着でした。何だか攻め駒が重複しているようですが、数手ほど進むと、この手の威力が分かってくるかと思います。

 

今週の妙手

後手は角を渡す訳にはいかないので△2四角とかわしますが、▲5三桂左成△同銀▲2二歩が鋭敏な攻め。最終手の▲2二歩が、すこぶる厳しい一着なのです。(第2図)

 

フラッドゲートの将棋

次に無条件で▲2一歩成が指せれば、▲3三桂打や▲3三歩が激痛なので、後手玉は一瞬にして寄り形となりますね。

一回は△4六角が王手で入りますが、▲7七玉とかわしておけばノーダメージです。後手が△2二金と手を戻すのは仕方ありませんが、▲5三桂不成△同金▲7二飛と進んだ局面は、はっきりと先手が頭一つ抜け出しました。(第3図)

 

フラッドゲート

後手は2二の金取りを受ける必要がありますが、△3二金は▲6二と、△4二銀は▲6三とという攻めがあるので、もはや自陣は火の車です。また、先手玉は上部が広いので、攻め合い勝ちも望めない格好でしょう。以降は、先手のLladroが危なげなく勝利を収めました。

 

今週の妙手

先手は▲4五桂打と指すことにより、取られる寸前だった6五の桂を、攻めに連携させたことが分かります。また、5三の銀を取る前に▲2二歩を利かすという組み立ても見事ですね。

これらの手を指したことで後の▲7二飛が金取りになり、決定的なダメージを与えることが出来ました。将棋ソフトらしいシャープな攻めの妙手だったと思います。

 

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。相掛かりから、先手が早繰り銀に組んで攻勢に出る展開になり、以下の局面を迎えました。(第4図)

 

フラッドゲート

2020.10.2 ▲Krist_483_473stb_1000k VS △10W戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら

後手は角金交換の駒得ですが、3三の桂を攻められていますし、8三の銀も歪な配置なので、駒の働きが良いとは言えません。

そうなると後手の苦戦は否めないようですが、ここから10Wは、巧妙な手順でこのピンチを切り抜けたのでした。

10Wが指した手は、△8八歩です!

今週の妙手

この瞬間に歩を打ち捨てたのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

相居飛車において、こういった叩きの歩は頻出する手筋ですが、この局面でそれを実行するのは意表を突かれますね。全く意図が見えてこないですが、これが針の穴に糸を通すような妙着なのです。

 

フラッドゲート

ところで、第4図では△8八歩ではなく、△4五歩と突くほうが自然に見えます。こうすれば▲同桂△同桂▲同銀で桂が捌けるので、後手は3三の桂を逃がすことが出来ますね。

ただ、次に▲4四桂があるので△4三金と先受けしなければいけません。先手は▲3四銀と攻め掛かってくることでしょう。(第5図)

 

今週の妙手

少し手数が長いのですが、この[△4五歩▲同桂△同桂▲同銀△4三金▲3四銀]という手順はワンセットであり、後手が△4五歩を突くと、ここまでは必然です。

問題はこの局面がどうなっているかですが、結論から述べると、後手は芳しくありません。というのも、次に▲4五桂と打たれる攻め筋が速いので、後手は攻め合い負けが濃厚だからです。

 

この前提を踏まえた上で、本譜の△8八歩の変化を見ていきましょう。

今週の妙手

▲同金は△8六飛の捌きを与えるので、これは先手が明らかに損。ゆえに▲同銀が自然ですが、この交換を入れて後手は△4五歩を突きます。そうなると、ワンセットの手順を経て、例の局面に進むことになりますね。(第6図)

 

フラッドゲート

この局面は、先述した失敗例とさほど変わり映えしないように見えるかもしれません。ところがどっこい、この局面に誘導することが後手の思惑だったのです。

 

フラッドゲート

手始めに、△6七歩と叩きます。これを▲同玉は△5五桂の筋が厳しいので▲5八玉とかわしますが、そこで△3四金▲同歩△7八角と進めるのが狙い澄ましたカウンターでした。(第7図)

 

フラッドゲート

先手は▲4五桂を指したいのですが、そうすると△6八歩成から桂を抜かれてしまいます。[△8八歩▲同銀]という利かしを入れることで、後手はこの角を打つことが出来た訳ですね。

 

フラッドゲート

また、この角は間接的に後手の自陣へと利いており、先手が攻めたい場所を全てケアしていることが自慢ですね。まさに絶好の攻防手であり、この手を境に、形勢は大きく後手に傾きました。

 

今週の妙手

なお、△8八歩の利かしは、後から入れようとしても上手くいきません。例えば、第5図の局面で△8八歩と打っても、このタイミングでは▲4五桂と無視されて困ってしまいます。(A図)

後手は、△4五歩と突く前のあの一瞬が、△8八歩を利かす唯一無二のタイミングなのですね。

 

今週の妙手

話を整理すると、後手はワンセットの手順で3三の桂を助けた後に△7八角という攻防手を放ちたいので、△8八歩を打ったという筋書きなのです。とはいえ、この段階でそれを想定して事を進めているのは、ちょっと人間業ではないですね。圧倒的な読みの深さが感じられる妙手でした。

 




第1位

 

最後に紹介するのはこちらの将棋です。この手は、意味合いとしては人間にとっても応用しやすい妙手ではないでしょうか。(第8図)

 

フラッドゲート

2020.10.1 ▲Kamuy_vi05_1c VS △ECLIPSE_24t戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら

先手が▲3二馬で銀を取ったところです。

後手は香得であり、囲いの堅さも勝っていますね。しかし、長引くと相手に駒損を回復されたり、自陣を整備されたりするので、攻め足が止まると形勢が悪化することは確実です。

よって、何かしら動いていかなければいけない局面と言えますね。ECLIPSEが手にした駒は、角でした。

ECLIPSEが指した手は、△9九角です!

今週の妙手

大胆に角を捨てたのが、攻めを繋げる妙手でした!


 

 

今週の妙手

実戦において、こういった大技が成立するのは珍しいですね。なお、この角打ちは「玉は下段に落とせ」という単純な意味ではなく、もっと深い意味があります。

先手は△9九角に対し、▲同玉△8七香成▲5九金引で凌げれば都合が良いのですが、それには△9五歩と突っ掛ける手がうるさく、どうも後手の攻めを振り解けません。(B図)

この変化は、8七の成香を除去できないので居飛車は選べないのです。

 

今週の妙手

ゆえに、▲7八玉は妥当な応接ですが、そこで△3五歩と突いて桂頭を攻めるのが期待の一着です。(途中図)

 

妙手 将棋ソフト

▲同歩は△8七香成→△3六歩で攻め駒が補充できますね。

なので、先手はこれを無視して▲8八銀から角を取りに行くことになりますが、△同角成▲同玉△3六歩と進んだ局面は、切れ筋の心配を払拭できたので振り飛車満足と言えるでしょう。(第9図)

 

妙手 将棋ソフト

途中の△3五歩が攻めに厚みを加える好手で、これによって攻め駒を補給できることが大きいですね。

しかし、ここで一つの疑問が生まれます。なぜ、後手は△9九角を打つ必要があったのでしょうか? これを指さなくとも、△3五歩の筋そのものは決行することが可能なので、関連性があるようには見えません。

 

フラッドゲート

ところが、第8図から単に△3五歩では上手くいかないのです。というのも、これには▲8六歩△3六歩▲4三馬△同金▲4五桂と進められたときに、対応が難しいのです。(第10図)

 

妙手 フラッドゲート

一見、△3七角の両取りが痛打のようですが、▲5三銀成で斬り合いを挑まれると容易ではありません。後手は△4四角という攻防手があるものの、それを指すと▲6六香という攻防手が返ってくるのが厄介ですね。

 

フラッドゲート

このように、8六の香を簡単に取らせてしまうと敵玉が安全になってしまうので、振り飛車は形勢を損ねてしまうのですね。

なので、△9九角▲7八玉△3五歩という手順を踏む必要があるのです。こうすれば敵玉付近に攻め駒が二枚残るので、居飛車の玉により大きなプレッシャーを掛けることが出来ます。

 

妙手 将棋ソフト

先手にとっては、8六の香よりも9九の角のほうが強い脅威を発しているので、除去する優先順位としては角のほうが先です。よって、▲8八銀から角を取るのが自然ですね。そうなると、8六の香が盤上に残ることになります。

 

妙手 将棋ソフト

したがって、第8図から△9九角を打って△3五歩を突いた場合、後手は△3六歩と取り込んだときに、まだ8六の香が取られていません。これがとてつもなく大きい意味を持つのです。

先手としては、ここで▲4三馬△同金▲4五桂と攻め合いを挑みたいのですが、これには△9九銀が痛烈な一撃になり、後手ははっきりと優位を掴むことが出来ます。(第11図)

 

妙手 フラッドゲート

▲同玉は、△8七香成▲5九金引△3七角が強烈。しかし、この銀打ちに玉を逃げても△3七角が厳しいですね。

居飛車の玉型が不安定なので、後手はどちらの変化を選ばれても攻め合い勝ちが期待できる進行です。第10図と比べてみると、先手玉の安定感が段違いであることが分かりますね。

 

今週の妙手

この△9九角は、表向きには「玉は下段に落とせ」という格言に則った一着ですが、真の狙いは8六の香を取られるまでの時間を稼ぐことが目的であることが読み取れます。こういった、安易に敵玉を安心させない指し回しは実戦的であり、とても参考になる一着でしたね。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

3 Comments

一読者

いつも楽しく学ばせてもらっています。
コンピュータ将棋も勉強になりますが、正直なところやはり人間の将棋の解説が読みたいです。今後も楽しみにしています。

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WeiCao

いつもたのしく読ませていただいております。
プロ棋士の解説もコンピューターの解説も両方大好きです!!
私もfloodgateの棋譜は見ていますが、正直意味不明すぎてよくわからないのですが、あらきっぺさんの解説でよりたのしく見れます。
毎週お疲れ様です!!
今後も頑張ってください!!

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あらきっぺ

はじめまして。いつもご覧くださり、ありがとうございます。

floodgateの将棋はハイレベルですが、それゆえ理解が追い付かないところはありますね。ただ、そういった難しさを紐解けるような記事が作れていれば、執筆者として非常に嬉しく感じます。

今後もマイペースで続けていくので、お楽しみくださると何よりです。ご賞賛ありがとうございます!

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