どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2021年2月第3週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2021.2/21~2/27)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。先手の角交換振り飛車に、後手が銀冠に組んで対抗する構図になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2021.2.21 ▲DaigorillaEX_test1_E5_2698v4 VS △illseethelight(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)
居飛車は取られた桂で両取りを掛けられており、駒損が拡大することが確定しています。
何だか状況は思わしくないようですが、ここから数手ほど進むと、盤面の景色はガラっと変わりました。これは視野の広い着想でしたね。
飛車を下段に移動して、銀を見捨てたのが妙手でした!
将棋は駒をタダで取られないようにすることが基本なので、ここは△9二飛が並の対応ではあります。ただ、それには▲8一角で飛車を取りに来られる手が厄介ですね。
飛車を端に寄ってしまうと、この駒が陽の目を見なくなり面白くありません。なので、後手は△8一飛を選んだのです。しかし、銀をボロッと取らせるので大丈夫なのでしょうか?
もちろん先手は▲6二桂成で銀を取ります。ただ、この変化だと後手は飛車がフリーなので、存分に攻めることが出来ます。
具体的には、△1七歩成▲同香△同香成▲同玉△1一飛が期待の手順ですね。(途中図)
これに▲1六歩と受けると、△3六香が歩切れを突いた一打になります。▲2八金とかわせば何でもないようですが、△7六歩▲同銀△3四角という必殺技が決まります。これは詰めろ飛車取りなので、後手勝勢ですね。(A図)
このように、先手は歩切れになると△3六香がうるさい一撃になってしまうのです。
ゆえに、▲2八玉と引くのは仕方ありませんが、△1九角▲3九玉△1八飛成で竜が作れました。後手にとっては、上々の進行です。(第2図)
次は△2八香から着実に削っていく手が厳しいですね。▲2八銀と受ければ角は取られますが、△同角成▲同金△1九竜で問題ありません。先手はあの竜を追い返す術が無いので、いつまで経っても自陣が安全にならないことが痛いのです。
第2図は、先手陣を端から浸食していくことが約束されているので、後手が優位に立っています。先手は駒得ではありますが、後手の銀冠が堅すぎるので攻め合いでは旗色が悪いことが辛いですね。かと言って、受け切りが望めないのは先述した通りです。ダイナミックに飛車を使う後手の構想がキラリと光りました。
確かに後手は銀を失ったのですが、あの銀は元より活躍していない駒なので、タダ取りされても弊害は少ないと言えます。それよりも、飛車の働きを改善する方が、遥かに重要度が高いですね。ゆえに、△9二飛よりも△8一飛が勝るという理屈なのです。
人間は「少しでも損をしたくない」という感情があるので、こういった場面で△8一飛と引く手は思考から除外してしまうような傾向があると思います。△8一飛は、「指されてみれば当然だが、思いつかない」という類の一手ですね。目先の損得に囚われない、器の大きさを感じさせる妙手でした。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。先手の矢倉に後手が急戦矢倉で立ち向かう構図になり、こういった局面になりました。(第3図)
2021.2.21 ▲illseethelight VS △Qhapaq_WCSC28_Mizar_4790k(棋譜はこちら)
先手は金香交換の駒損ですが、2二の角が取れるので実質的には駒得していますね。
何はともあれ角を取りたくなるところですが、実を言うと、もっと得できる手があるのです。
角ではなく、桂を取って手を渡したのが妙手でした!
「そっちを取るんかいな」という感じですが、これが冷静沈着な一手でした。この局面では、まだ角を取らないほうが賢明なのです。
なぜ、角を取らないのかと言うと、香を渡すのを警戒している意味があります。つまり、ここで▲2二成香△同金と進めると、△6七香が残ってしまうことがネックですね。▲6六銀と拠点を払っても、△6七歩と叩かれる手が面倒です。(第4図)
これを▲同金だと、△6五歩→△6六香でガリガリ攻め立てられます。また、角を逃げるのも△6四香が厳しいですね。こうなると先手は渡した香で攻撃されているので、後手に塩を送っているようなものでしょう。
また、ここで黙って▲6六銀と拠点を払う手は、△8六歩の突き捨てが嫌味です。
(1)▲同歩は、△8八歩▲同金△6七歩で角頭のキズを突かれますし、(2)▲同角は△3一角で、取れていたはずの角に捌かれてしまいます。どちらも先手は不満の残る進行ですね。
このように、先手は受けに徹する訳にはいきませんが、あまりに早く▲2二成香を指すと後手に戦力を与えてしまい、支障が生じます。
つまり、ここは上手に手を渡すことが求められており、それが▲2一成香なのですね。
後手は△3三角と逃げても▲3四香と追撃されるので、角を逃げても仕方がありません。よって、△6七金と攻めるのは妥当ですが、そこで▲5九桂が価値の高い一着。見た目は苦し気ですが、これが縁の下の力持ちのような存在になるのです。(途中図)
ここから△6八金▲同銀は自然ですが、先手は6七の地点を強化しつつ「角頭」という弱点を消せたので、自陣が劇的に安全になりました。
後手は△8六歩▲同歩△8八歩と攻めを続けますが、先手はこれを相手にする必要はありません。満を持して▲2二成香△同金▲6四歩△同銀▲2四飛と反撃に転じて行きます。(第5図)
平凡な受けは△2三歩ですが、▲1四飛△1三歩▲7一角という強襲があるので先手の攻めは止まらないですね。(B図)
予め[▲6四歩△同銀]という利かしを入れることで、十字飛車の筋を生じさせたことが先手の自慢です。
第5図は、「堅い」「攻めてる」「切れない」という必勝パターンを確立しているので、先手がはっきり優勢と言えるでしょう。
▲2一成香も▲5九桂も、部分的にはごくごく平凡な手なので、特に凄みは感じないかもしれません。
ただ、注目して欲しいのは、「後手に△6七金と打ち込ませてから受けに回っている」ということです。
先手は6八の角がターゲットにされているのですが、これを金で取られる分には痛くありません。香や歩で攻撃されるのが嫌なのです。だから、実はさっさと△6七金と打ち込んで欲しいのですね。
この▲2一成香は、ただ桂を取っただけなので、攻めの威力としては高くありません。
けれども、着実に駒得を重ねていることは確かなので、後手は足を止めると徐々に形勢が悪くなります。なので攻めに向かうしか選択肢が無いのですが、現局面では打ち込む弾が金しかないので、△6七金と放り込まぜるを得ない。そうなると、先手のシナリオ通りという仕組みなのです。
▲2一成香は、見た目は至って凡庸ですが、強制的に相手を攻めさせて優位を引き寄せるという高等テクニックでもあるのですね。間合いの図り方が絶妙で、なるほどと唸らされる一着でした。
第1位
最後に紹介するのは、この将棋です。これも指されるまでは全く見えないという一手でした。こういう手が見えるようになると、一段と垢抜けるのでしょうね。(第6図)
2021.2.22 ▲FROZEN_BRIDGE VS △Qhapaq_WCSC28_Mizar_4790k(棋譜はこちら)
先手が攻勢に出てはいますが、歩の上に攻め駒が乗っかっている格好なので、些かつんのめっているようにも見えますね。また、飛車を詰まされていることも不安を感じさせます。
ところが、ここから先手はそういった懸念をあっという間に吹き飛ばしてしまいました。
歩を垂らして後手陣に揺さぶりを掛けたのが妙手でした!
これが値千金の垂れ歩でした。後手はどのように応じても、自陣が傷んでしまうのです。
ところで、先手は3・4筋の歩が進めば攻めが分かりやすくなります。そういう意味では▲4三銀成△同銀▲4四歩△3四銀▲同歩も自然だと言えるでしょう。
しかし、これには△3九飛が強敵です。(第7図)
せっかく伸ばした3筋の歩が取られてしまうので、嬉しい進行とは言えません。竜を引き付けられると、4筋の歩を取られそうですね。先手はもう少し良い攻めを模索したいところです。
これを踏まえると、▲5九歩と先受けする手も考えられます。ただ、△4五桂で後手にも先受けされるので、これもピンと来ません。(C図)
そうなると八方塞がりのようですが、▲2二歩という「焦点の歩」を放つことで、先手は視界が開けていくのです。
当然ながら、▲2一歩成は許せないですね。なので、これは取るしかありません。まずは△同金から見ていきましょう。
この場合、先手は▲4三銀成△同銀▲4四歩△3四銀▲同歩と先程の攻め筋を使います。(第8図)
今度は4三が弱体化しているので、第7図よりも条件が良いことが先手の主張です。ここで△3九飛と打たれても、▲8八玉△3四飛成▲4三銀△4四竜▲5四金で攻めが続きます。
これは金を2二へ寄らせた恩恵が、存分に出ている変化ですね。
次に△同角ですが、これは▲4三銀成△同銀▲6四角△同歩▲同飛で、飛車が爽やかに捌けます。(第9図)
こうなると、後手は2二の角が働いていないことが分かります。
ここで△6二歩には▲4四歩と突けるのでイケイケです。これも先手の攻めが快調に続く変化ですね。
なので、本譜は△3四金▲同歩△2二角と応じました。飛車を取ってから△2二角を指せば、後手は第9図を回避できます。
しかし、自発的に[△3四金▲同歩]を指すと先手の歩を進ませるので、苦しいことには変わりありません。先手は渡りに船と言わんばかりに、▲3三歩成△同銀▲4三金と畳み掛けて行きます。(第10図)
△同金▲同銀成は、またも自動的に攻め駒が前進するので、先手は都合が良いですね。
他には△4二歩という受けも考えられますが、▲5三桂△3一玉▲3二金△同玉▲6四角と踏み込めば、攻めが炸裂しています。(D図)
後手は雪崩のように押し寄せてくる攻め駒をなぎ払うことが出来ないので、もはや収拾がつきません。先手は▲2二歩を起点にして、突破口を開くことに成功しました。
冒頭の局面では、枠で囲った範囲でのせめぎ合いになっており、後手はこのエリアに戦力を集中させていました。特に、3・4筋のスクラムが強いですね。
▲2二歩と打てば、どちらの駒で取っても枠内から守備駒を離脱させることが出来ますね。ゆえに、これが効果的な一着なのです。
たった一歩の力で相手の戦力を落としてしまうとは、とても巧い手があったものです。▲2二歩は、軽妙洒脱な妙手でしたね。
それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!