どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2021年3月第4週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2021.3/28~4/3)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。後手が雁木を志向し、先手が急戦でそれをやっつけに行くという試合展開になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2021.4.3 ▲40b_n009_RTX3070 VS △BURNING_BRIDGE_210401(棋譜はこちら)
現状、先手は駒損しているので、一刻も早くその損失を取り戻したいところではないでしょうか。
ところが、本譜はとても鷹揚な手を繰り出し、先手は優位を確固たるものにしたのです。これが予想できた方は本筋ですね。
遊んでいる桂を悠然と使ったのが妙手でした!
もっと余裕のある局面ならともかく、桂取りの瞬間にこの手を指すとは意表を突かれます。しかし、これが攻め駒不足を改善する妙着でした。
なお、先手は▲1一角成で香を取ることも出来ますが、それを指すと△2二銀打で馬が詰んでしまいます。これは[銀香⇔角]で二枚替えになっても働きの悪い2一の銀を機能させる意味があり、先手は不本意なのです。
なので、ここはあの香を取らずに戦力を増加を図る必要があるのです。そうなると、▲3七桂が最適解になるという訳ですね。
さて、後手はもちろん△8九歩成で桂を取りますが、先手は▲4五桂と跳躍します。これで[飛角桂桂]の攻めになり、攻めの厚みがぐっと増した印象ですね。(途中図)
先手は▲5三桂不成がメインの狙いです。ただ、後手は元より5三の地点に数が足りていないので、△5二金右と上がっても▲5三桂成で受けになりません。
他には△6二銀も考えられますが、これは▲3三桂不成で逆サイドから攻撃されると支えきれないでしょう。壁を作った弊害を咎められています。
そんな訳で、本譜は△5二桂という非常手段に訴えました。これは角を移動させることで攻めを緩和しようという意図ですが、じっと▲6六角が堅実な応手。以下、△6二玉に▲3三飛成で再び5三の地点を攻めて行きます。
先述したように、▲1一角成は△2二銀打で馬が捕まるので、これは毒饅頭です。後手が銀を手持ちにしている間は、あの香を取らないことがポイントですね。(第2図)
相変わらず後手は5三の地点を受けることに苦慮しています。一見、△4二銀打と受ければ話は簡単のようですが、▲3五竜のときに困ったことになります。(A図)
この変化は後手が銀を手放しているので、先手は安心して▲1一角成が指せるようになっていることが大きいですね。
しかしながら、△4二銀以外の応手では、どうも味の良い対応が見えません。後手は6四に銀が上がれないことが痛いですね。第2図は、先手の攻めが成功した格好と言えるでしょう。
この二段跳躍は戦力を増援するという意味もありますが、それ以上に「角を4四に置いたまま攻撃する」ということが、局面の急所を捉えているように感じます。角をここに居座っておけば▲5三桂不成の威力が上がり、後手に対して持ち駒の銀を使わせないという制約も与えることが出来ています。
こうしてみると、先手は一度力を溜めることで、単純に▲1一角成と香を取るよりも遥かに多くのベネフィットを得たことが分かります。▲3七桂は、「急がば回れ」という教えを地で行く冷静な妙手でしたね。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。先手の矢倉VS後手の雁木という構図になり、こういった局面になりました。(第3図)
2021.4.2 ▲Kristallweizen-i7-4578U VS △QueenAI_210317_i9-7920x(棋譜はこちら)
後手が△6五桂で銀を取ったところ。
先手は大きく駒得しており、持ち駒も豊富にあるので寄せに向かう準備は整っています。しかし、本当に敵玉へ向かっても良いものでしょうか?
煩雑な局面ですが、先手は見事な答えを用意していました。
銀を投資して手番を買いに行ったのが妙手でした!
これが局面を明快にする一着でした。銀を捨てるのはもったいないようですが、駒得しているので気にする必要はありません。
ちなみに、冒頭の局面から▲6二成桂で「攻め」を選ぶと、△7八銀▲5九玉△6九金▲4九玉△6七銀成と迫られ、先手は奈落の底に落ちてしまいます。(第4図)
これは次に△5八成銀▲同玉△6八金からの詰めろですね。先手は▲6三成桂で銀を取る手が間に合わないので、一手負けコースに入っています。つまり、攻め合いでは勝ち目がありません。
こういった背景があるので、先手はひとまず「受け」に転じるのが絶対です。ただ、▲5九玉の早逃げでは△7八とで五十歩百歩。このように、平凡な受けでは攻めの速度が変わらないので意味がありません。
そうなると策が無いようですが、▲8九銀と犠打を放つことで先手はピンチを切り抜けることが出来るのです。
後手は攻めを継続するなら△同としかありません。しかし、こうなると△7八銀が消えるので、▲6二成桂△8八と▲6三成桂が間に合うのです。(第5図)
この局面は、先程と立場が入れ替わっています。ここで△7八銀→△6七銀成で詰めろを掛けても、▲7三角△9二玉▲8二金で後手玉は詰みですね。(B図)
なお、▲7三角に△9三玉と逃げても▲8二銀と打てば、B図と似たような手順で即詰みに討ち取れます。
この変化は、と金を働きの悪い場所へ誘うことで後手の攻めが一手遅れていることが分かります。
ゆえに、本譜は△5二銀▲8八銀で共に相手の攻め駒を除去することになったのですが、このやり取りは先手がはっきりと得をしました。(第6図)
こうなるとお互いに寄せが遠のき、仕切り直しになりました。つまり、戦いが長期化することが確定したのですが、そういった展開は駒得しているほうが体力が多いので、局面を優位に進めることが出来ます。ゆえに、この局面は先手が優勢と言えるでしょう。
冒頭の局面で先手は、直線的な攻め合いでは角得というアドバンテージが活きない情勢でした。しかし、無条件で5二の成桂を取らせる選択も論外です。
つまり、先手は駒得を維持しながら局面の流れを緩やかにするという手段が求められていたのですね。▲8九銀は、それを満たす盤上この一手の妙技でした。
第1位
最後に紹介するのは、この将棋です。これもまた例によって、とんでもない一手でした。(第7図)
2021.4.2 ▲BURNING_BRIDGE_210401 VS △Venus_210327(棋譜はこちら)
先手は角銀交換の戦果を上げてはいますが、長期戦になると後手陣がどんどん良い形になっていくので、攻め続けないと苦しくなります。
そうは言っても後手陣には隙が無いようですが、思わぬところに穴がありました。
飛車の頭に角を打ち突けたのが奇想天外の妙手でした!
「ここに打つんかい!」と思わず叫んでしまいそうですね。見るからに奇抜な一手ですが、これが攻めを繋ぐ唯一無二の手段でした。
これは次に駒を取れるわけではありませんが、先手は▲8四角を狙っています。それが打てれば金取りと▲7三歩成が同時には受からないので、攻めが手厚くなりますね。
後手は▲8四角を防ぐだけなら△8四歩で事足りますが、それには▲3七桂△2六銀▲7一角打という巧妙な攻めがあり、後手はより状況が悪化することになります。(C図)
さすがに△8四歩のような手では一手パスに等しいですし、8二の角をいつまでも放置していると弊害が生じますね。
よって、後手がこれを△同飛と取るのは妥当ですが、▲7一角が入ったので先手は切れ筋に陥る心配が払拭できました。(途中図)
部分的には△8一銀と引くのが手筋であり、こうすれば後手は飛や金をタダでは取られません。けれども、この局面では▲7三歩成△同金▲8二角成△同銀▲5二飛で王手銀取りが掛かってしまうので、受けが利かないのです。
ゆえに、本譜は△4六銀▲5四飛△4七桂と攻め込みました。これは「両取り逃げるべからず」という格言に沿った手順ですが、▲4八玉とかわしておけば後続がありません。玉は露出しますが、「桂頭の玉、寄せにくし」なので大丈夫です。
結局、後手は△8一銀と手を戻すことになりましたが、状況は先程と一緒なので▲7三歩成とすれば問題ないですね。(第8図)
△同金には、▲8二角成→▲5二歩成→▲4一飛→▲4二とという要領で畳み掛けて行けば寄り筋です。
しかし、このと金が取れないようでは防衛ラインが決壊しているので、勝負あったと言わざるを得ません。▲8二角という豪打により、先手は一瞬にして後手をマットに沈めることが出来ました。
それにしても、こんな場所に角を打って手を作ってしまうとは常軌を逸していますね。取ってくれれば▲7一角を打つということはすぐに分かるものの、放置されたときに▲8四角やC図の攻め筋で突破口が開けるというのは、なかなか見えるものではありません。
なぜ、こんなグロテスクな角打ちが厳しい一手になるのかと言うと、7四の歩に活が入るからです。
▲8四角の変化や本譜の進行から読み取れるように、ここに角を打ったことで▲7三歩成がヒットするようになったという仕組みなのですね。▲8二角は、拠点の存在を最大限に活かす神出鬼没な妙手でした。
それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!