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第67回NHK杯1回戦解説記 髙見泰地五段VS糸谷哲郎八段 ~後編~

前回の続きです。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯1回戦第13局
2017年6月25日放映

 

先手 高見 泰地 五段
後手 糸谷 哲郎 八段

 

次に△5五歩と突かれると角を追われてしまうので、先手はここで踏み込む必要があります。

第7図では、▲5六角~▲3四銀と指した手を連繋させて、▲2三銀成と2筋を突破する手が正着でした。以下△同銀▲同角成△同金▲同飛成△3二銀▲2二竜△2一歩▲1一竜で先手優勢です。(A図)

NHK A

A図に至る手順で、△2一歩と打ったのは先手から▲2一銀と打たれる攻めを消すためのやむを得ない一手です。

A図では次に▲2二歩という確実な攻めがあり、後手は悠長なことはできません。何か反撃したいところですが、△4五桂と跳ねると▲3四香と打たれ、次の▲1二竜が痛烈なので負けを早めます。△3七歩成▲同桂△3六歩には▲3四歩△3七歩成▲3三歩成で先手勝勢です。△3八とで金を取られても詰めろにならないので一手勝ちが見込めます。

という訳で、▲2三銀成と指せばかなり先手の勝算が高かったと思いますが、高見五段はそれを見送ります。なぜなら、第7図ではもう一つ魅力的な攻め筋があったからです。それが▲2四歩△同歩▲2三歩△3一銀▲3三銀不成△同金▲7四桂(青字は本譜の指し手)という攻めです。敵陣を乱しながら飛車を捕獲することに成功しました。(第8図)

NHK 8

先手が大いに戦果を上げたように見えますが、△7三角▲6二桂成△同角▲2一飛△3二金※▲2二歩成△同金▲1一飛成△4四角まで進んだ局面は、既に雲行きが怪しくなっています。(第9図)

NHK 9aaa

先手は飛車を敵陣に打って香を取り、さらに駒得を重ねましたが、その割には攻め駒が少ない印象を持たれないでしょうか?

対して、後手は堅陣を維持し、持ち駒に銀と桂を加えました。そのうえ遊び駒がほぼ無く、効率は申し分ありません。A図と比較してみるとその差が分かりやすいかと思います。

先手は駒得を拡大したのに、なぜそれが形勢の差に繋がらないのでしょうか。その原因は3つあります。第8図に振り返ってみましょう。

NHK 8

前回の解説記で、壁駒には働きかけないようにするのが肝要と説明したのは覚えているでしょうか?これは、「壁駒を相手にする手は逆効果」と言い換えることもできます。

後手にとって6二の飛車は、壁駒であり、お荷物となっている駒です。A図のように壁として残ってしまうくらいなら、相手に取らせて捌いてしまった方が遥かに勝ります。つまり、先手は①悪型を解消するお手伝いをしてしまった意味があります。これが駒得が優位に結びつかない正体です。

また、第8図では②▲2八飛が攻めに機能していない。歩切れといった問題点もあります。これらの要素はA図では見られませんね。

なお、第8図~第9図に至る手順中の※▲2二歩成が悪手で、代えて▲2四飛と指しておけば先手がまだ優勢でした。(B図)

NHK B

先述した問題点の②と③を解決しているのが先手の自慢です。

△4四角と上がられた第9図の局面は、先手が容易に勝てる状況ではなくなっています。

NHK 9aaa

一歩あれば▲7七歩で簡単に受かりますが、歩切れなので妙に受けにくいですね。▲6六香と打つ手は考えられますが、香は3筋に使いたいので温存したいところです。ただ、そう指した方が良かったのかもしれません。高見五段は▲7七金と節約しましたが、△3二金▲1三竜△8八歩と着実な攻めを確保され、形勢は後手に傾きました。(第10図)

NHK 10

第10図で先手が後手を上回っている要素は駒得しかありません。しかし、△8八歩を打たれたことにより、その唯一の主張も消えつつあります。高見五段は▲3四香と攻めますが、△3三桂と受けられ効果はいまひとつです。以下▲8二銀不成△8九歩成▲6六金△2二銀▲2四竜△2七歩▲同金△9九と進み、後手がはっきり優勢になりました。(第11図)

NHK 11

後手は陣形が強固で持ち駒も豊富。攻めが切れる心配は皆無です。対する先手は玉が一人ぼっちで、大駒の働きも悪く、非勢は火を見るよりも明らかです。特に▲2八飛が遊んでいるのが辛いですね。

ここからは糸谷八段の独壇場になりました。第11図から二十数手後の局面が第12図です。

NHK 12

△6五銀と打ったところです。20手以上進んだにも関わらず、相変わらず後手玉は安泰です。つまり、糸谷八段がずっと攻め続けていたことを示唆しています。第11図よりもさらに駒得を拡大していることが分かりますね。

竜を逃げると△5六銀右から押し潰されてしまいます。高見五段は▲6五同馬△同香▲5五香と応じますが、△3九角が厳しい一手です。飛車を渡せる状態ではないので▲3八飛と逃げるよりないですが、△5七金▲6九玉△6七香成で上から押さえる形になり、寄りが見えてきました。(第13図)
ちなみに、△5七金に▲4九玉は△3五桂が痛打です。

NHK 13

高見五段は▲6八歩と打ち粘りを見せますが、△7七桂▲5九玉△4七金が冷静な寄せ。以下▲6七歩△3八金▲6八玉と上部脱出を目論みますが、△5五角がそれを許さない決め手でした。(第14図)

NHK 14

後手は△7五香を打つことができれば、先手玉を捕まえることができます。しかし、先手は△5五角を放置するわけにもいかないので指しようがありません。以下は数手で糸谷八段の勝ちとなりました。

本局は高見五段が中盤で優位を掴み、そのまま押し切るかと思いましたが、第7図での好機を逸してから流れが変わり、終盤は糸谷八段が圧倒しました。苦しい局面を複雑化させ逆転に結び付ける糸谷八段の腕力が印象的でした。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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