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~圧巻の見切り~ 第67回NHK杯解説記 畠山鎮七段VS広瀬章人八段

今週は畠山鎮七段と広瀬章人八段の対戦でした。

畠山七段は居飛車党で、猛烈な攻め将棋として知られています。激しく斬り合うような将棋を得意とされている印象があります。
畠山七段は奨励会幹事を務められていた過去があり、私もお世話になりました。自分に厳しく、高い志を持ったお人柄は多くの方に良い影響を与えたと思います。

広瀬八段は若手時代は四間飛車穴熊を軸にして戦う振り飛車党でしたが、今では王道を行く居飛車党へと変身を遂げました。筋が曲がったような手がほとんど出ない端麗な将棋で、終盤の切れ味は棋士の中でも突出しているように感じます。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯2回戦第2局
2017年8月13日放映

 

先手 畠山 鎮  七段
後手 広瀬 章人 八段
初手から▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

NHK 1

角換わりですね。広瀬八段は力戦型よりも定跡型の将棋を好む傾向が強いので、序盤は無難に指すことが多いです。奇をてらうような作戦を指していることは、ちょっと記憶にはないですね。

対して畠山七段は、腰掛け銀を選び、▲5八金型に組みました。(第2図)

NHK 2

一昔前までは常識的な一手でしたが、最近は▲4八金型が一番人気なのでやや意外な選択ではあります。しかしながら、この辺りは好みや棋風の問題だと思うので、自分の力が最も発揮できる駒組みを選ぶのが実戦ではベストなのでしょうね。

対照的に広瀬八段は△6二金型を選び、流行の形に組み上げました。(第3図)

NHK 3

後手は9筋の位を取らせた代償に、先手よりも一手早く駒組みが完了しています。第3図では、先手はまだ仕掛けることはできませんが、後手は△6五歩から動くことができますね。

ここで先手には二つの方針があります。一つは9筋の位を取っていることから通常よりも自玉の耐久力が高いことに期待して、受けに回る方針。もう一つは△4四歩型を咎めるために▲4八飛~▲4五歩で攻め合う方針。このどちらかです。なお、攻め合うなら▲2五歩と突く手も自然に見えますが、この場合、先手は後攻なので先に△3五歩~△3六歩の桂頭攻めを食らってしまいそうです。よって、やや指しにくいですね。

前者の場合、相手からの攻めを受けて立つことになるので、何かしら待機することになります。ただ、具体的にどう待つかが難しい。▲6八金右は△5九角の傷を作りますし、▲8八玉は相手の攻めに近づく恐れもあります。つまり、明確なプラスが見当たらないんですね。

価値が曖昧な手を選ぶくらいなら、分かりやすい狙いを持った指し手を選ぶ方が良いという考え方もあります。畠山七段は▲4八飛と回り、攻め合う方針を選びました。以下△6五歩▲4五歩と進みます。ちなみに、△6五歩に対して▲同歩と応じるのは直前に指した▲4八飛との意味と噛み合わないので感心しません。自分が指した手の意味を繋ぎ合わせること(連繋力)が肝要です。(第4図)

NHK 4

ここで広瀬八段は△4五同歩と応じましたが、これは形勢を損ねる悪手でした。代えて△6四角と打つ手が有力でした。▲2五桂は△4二銀で後続がないので、▲2八角と受けるくらいですが、それから△4五歩と指す方が勝ります。(A図)

NHK A

角を打ち合うと▲4五同桂のときに逆効果になっていまいそうですが、そこで△4七歩が用意の切り返しです。以下▲同金△2八角成▲同飛△4四銀▲4六歩△7五歩が進行の一例です。(B図)

NHK B

後手は歩損の上にKnight Remainの形になってしまうので不服に思えますが、B図は▲2六歩型ですぐに先手の飛車が攻めに参加してこないことと、歩が二枚ぶつかって先手陣に火種が発生しているので釣り合いは取れています。これは難解な形勢と言えるでしょう。

先手の攻めが大幅に減速した原因は、△6四角と▲2八角の交換が入ったからです。先手は2八に打たされた角を放置する訳にはいかないので、どこかで必ず▲4五桂と跳ねて角を捌く手が必須となります。そうなると後手は△2八角成▲同飛を強要することができるので、一時的に先手の飛車を遊ばせることができます。これが△6四角と打った意味なのです。

本譜は単に△4五同歩と指したので、▲同銀△同銀▲同桂と先手は飛車を4筋に設置したまま攻めを続けることができました。一足先に桂を捌いた先手が有利な局面です。(第5図)

NHK 5

旗色が悪くなった広瀬八段ですが、この程度の差であれば挽回可能の範囲内です。しかし、ここで決定的なミスが出てしまいました。それが本譜の△4四銀です。敗着と断定しても過言ではないと思います。畠山七段は巡ってきたチャンスを的確に捉えます。▲6三銀が痛打でした。(第6図)

NHK 6

△同金は▲7二角があるのでこの銀は取れませんね。この手は基本的な攻め筋なので、広瀬八段も当然、読みの範疇であったのですが、ここで△6一金が利かなかったのが誤算だったようです。

広瀬八段の読み筋は、第6図から△6一金と引き、▲6四角に△6二銀で耐える予定だったのですが、そこで▲5四銀成を見落としていたと感想戦で仰っていました。(C図)

NHK C

銀取りと▲5三桂成が同時には受からないので、これはどうしようもありません。

遡って、後手は第5図で△4四銀ではなく、△3七角とすべきでした。飛車を責めるのが急所だったのです。(D図)

NHK D

▲4九飛と逃げると今度は△4四銀▲6三銀に△6一金が成立します。角を先着した効果で先手からの▲6四角を防いでいますね。したがって、D図では▲3三桂成△同桂▲4九飛が妥当ですが、△4六桂と飛車を押さえながら反撃に転じれば、まだまだ頑張ることができました。

第6図から広瀬八段は△8六歩▲同歩△3七角と遅まきながら飛車を責めました。しかし、▲6二銀不成で金をボロッと取られたのは非常に大きく、畠山七段が優勢になりました。D図の変化を選べば銀桂交換の被害で済んでいたのに、本譜は金損していることから△4四銀の罪の重さが窺えます。

▲6二銀不成以下、△4八角成▲同金△5九飛▲6九金と進みました。▲6九金はもったいないようですが、駒得している=戦力に余裕があるので、惜しまず設備投資するのが賢明です。(第7図)

NHK 7

△1九飛成では響きが弱いので広瀬八段は△3九飛成としましたが、金取りに構わず▲6三角が最短の勝ちを目指した一手です。適当な飛車の逃げ場がない後手は△4八竜▲8一角成△8七歩で攻め合いに活路を求めますが、▲7三銀不成が自玉の安全度を見切った好手でした。(第8図)

NHK 8

自玉に危機が迫りつつある中で悠然と駒を取るのは意外に見えますが、この局面の肝は小駒を入手することです。後手は△6七金(銀)と打つ攻めを狙っているのですが、そのときに6八に駒を打って壁を作れば受け切りでしょうと後手に突きつけているのです。

大きく駒損している後手は、長期戦になると勝ち目がないのでここで寄せ切らないといけません。しかし、△5八銀は▲同金△同竜▲6九銀△8八金▲同銀△同歩成▲同玉△6九竜▲7九金打で凌がれてしまいます。(E図)

NHK E

E図は第8図と比較すると先手は銀を一枚損しましたが、元が角桂得をしていたので特に痛痒を感じません。それよりも、玉型が安定したことが大きいですね。

後手は竜を逃げるくらいですが、▲6三馬~▲8二飛の要領で先手の一手勝ちが見込めます。

本譜は△6七金から寄せを狙いましたが、▲6八桂△5八銀▲同金△同竜▲6七金△同竜▲7八銀で先手の受け切りが見えてきました。(第9図)

NHK 9

広瀬八段としては、ここで竜を逃げずに寄せに向かいたいのですが、いかんせん如何せん駒が足りないのでその手段がありません。△5七竜と逃げたのは止むを得ない一手ですが、攻めが一段落したので畠山七段の方にターンが回ってきました。

まずは▲4三歩が鋭い垂れ歩です。この手は▲4二金△同金▲同歩成△同玉▲8二飛△5二金▲5一角△同玉▲6二金以下の詰めろになっています。広瀬八段は△4一歩と受けましたが、▲8二飛△6六歩▲6三馬が厳しい攻めで、後手は受けが難しくなってきました。▲6三馬のような、自然に大駒を活用する手は悪手になりにくく、間違いが無い手であると言えます。(第10図)

NHK 10

後手は▲4一馬からの詰めろを防がなければいけませんが、△2二玉は▲3一角で無効です。本譜は△5一金と受けましたが、平凡に▲5二金と絡まれて焼け石に水です。以下△2二玉▲5一金△4五銀▲同馬△3一金打と必死の抵抗を続けましたが、そこで▲6六銀が冷静な一手でした。(第11図)

NHK 11

△同竜は▲4四馬が王手竜取りなので、この銀を取ることはできません。しかし、竜を逃げるようでは先手玉が安泰の上、後手は駒損が大き過ぎて勝ち目がありません。以下はいくばくもなく、畠山七段の勝ちとなりました。

【本局の総括】

・序盤はいい勝負ではあるが、後手は工夫して先攻した割に、あまり効果的な戦果が上がらなかった印象がある。▲4八飛~▲4五歩が好着想だった。

・第4図から単に△4五同歩と取った手と、第5図から△4四銀と銀を逃げた手が悪手。中盤の要所で連続ミスは痛く、ここで大きな差が着いてしまった。

・終盤は後手も肉薄したが、第8図の▲7三銀不成が素晴らしい見切り。先手玉が寄らない形となり、分かりやすい局面に持ち込むことができた。

・先手は中盤で得たリードを最後まで維持して、見事に勝ち切った。畠山七段の完勝だったと言える。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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