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~雁木で受ける青春だ!~ 第67回NHK杯解説記 中村修九段VS行方尚史八段

今週は中村修九段と行方尚史八段の対戦でした。

中村九段は将棋界屈指の受け将棋で、その独特な棋風は不思議流と呼ばれています。若かりし頃は「受ける青春」というキャッチフレーズもあったそうですね。相矢倉や対抗型のような、将棋の流れがゆっくりした戦型を好む印象で、逆の性質を持つ角換わりや横歩取りはあまり指されないですね。
1回戦では若手の俊英である佐々木勇気五段(当時)に勝利しました。

行方八段は生粋の居飛車党で、どちらかと言えば受け将棋だと思います。粘り強い指し手に定評があり、泥仕合に強い印象があります。終盤型で、苦しい状況でも容易に土俵を割らないタイプの将棋なので、逆転勝ちが多い棋士の一人ではないでしょうか。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯2回戦第3局
2017年8月20日放映

 

先手 中村 修  九段
後手 行方 尚史 八段
初手から▲7六歩△8四歩▲2六歩△8五歩(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

NHK 1

▲6六歩で▲8八銀なら角換わり志向でしたが、中村九段は棋風に従い、じっくりした将棋を目指しました。ここから先手は、このところ大流行しているあの戦法を採用します。(第2図)

NHK 2

そうです。雁木ですね。一年前までは見向きもされていなかったのですが、最近はこればっかりですね。
流行している理由はいろいろあるとは思いますが、その中の一つに「戦術の幅の広さ」が挙げられると考えられます。

一口に雁木と言っても、右の銀を▲5七銀型にするのか▲4七銀型にするのか、角を交換するのかしないのか、積極的に先攻するのか待機して受けに回るのか、それともカウンターを狙うのか、様々な指し方があります。例えば横歩取りの△8五飛戦法はここまで戦術を多様化することはできませんよね。

戦術の幅が広いということは、その戦法と棋風が合致する棋士が多くなることを意味します。必然的に採用する棋士が増え続け、今日の流行に繋がっているのではないかと思われます。

第2図から後手は手厚く指すなら△4四歩と突き、高美濃や雁木に組む構想もありましたが、行方八段は攻撃態勢を充実させ、右四間飛車に構えました。(第3図)

NHK 3

駒組みが飽和状態になりつつあり、そろそろ仕掛けを考えたい局面です。

まず、シンプルに△6五歩と仕掛けるとどうなるか見ていきましょう。以下、▲同歩△同桂▲3三角成△同桂▲6六銀右△4五桂が変化の一例です。(A図)

NHK A

この順は先手に▲3三角成を強要させることが目的で、それにより2一の桂を攻めに使うことができました。
次に△5七桂成~△3九角の筋があるので▲4六角と受ける手が候補手です。形勢は難解ですが、少なくとも攻勢に出ている後手に不満は無いでしょう。

A図の変化は有力ではありますが、囲いの桂を攻めに参加させるので自玉が弱体化してしまうのが欠点です。行方八段は、より良い条件で仕掛けるために第3図から△9四歩▲9六歩△1四歩▲1六歩△6一飛と手を渡しました。先手に何か手を指させて、最善型を崩す意図です。(第4図)

NHK 4

さて。手番を渡された先手はどうするべきでしょうか。▲3五歩△同歩▲4六銀で仕掛けることができれば後手の手待ちを咎めることができますが、△6五歩の反撃が強烈なので、流石にこれは成立しません。仕掛けができない以上、先手も何らかの手待ちを選ぶことになります。

有効な手待ちとしては、玉を入城する▲8八玉や、A図の変化を防ぐ▲4六歩が候補でしょうか。ただ、これらの手は攻め味が乏しいので中村九段は不満と見たのかもしれません。本譜は▲3八飛と寄りました。これは次に▲3五歩から一歩を交換する手を見せており、攻撃的な手待ちと言えます。しかし、この手は隙を生じさせた疑問手でした。行方八段は△6五歩と仕掛け、上手く戦機を捉えました。(第5図)

NHK 5

これを▲同歩と応じると、△7七角成▲同桂△6五桂▲同桂△同銀▲6六歩△7六銀▲同銀△4九角という筋があります。この変化は露骨に▲3八飛を咎められていますね。
また、▲3五歩と突く手もありますが、△同歩▲同飛に△4四角▲3八飛△3三歩が好手順です。(B図)

NHK B

後手は3筋の歩を交換されましたが、それを逆用して自陣の歩を一マス下げることができました。△3三歩型の美濃囲いは角のラインを遮断しているので非常に堅く、B図は後手がかなり勝ちやすい展開と言えます。

▲6五歩も▲3五歩も指せないので本譜は▲8八角と引いて手待ちをしましたが、これはほぼ無価値な一手なので、先手変調と言えます。以下△6六歩▲同銀右△4二金寄と進みました。(第6図)

NHK 6

ちなみに△4二金寄では△6五銀と銀をぶつけてしまう手も考えられましたが、▲同銀△8八角成▲同玉△6五飛▲5五銀で難解です。この変化は先手の角が手順に捌けるので後手も良いことばかりではありません。行方八段は中途半端に攻めて相手の角を使わせてしまうくらいなら、もう少し力を溜めた方が勝ると判断されたのでしょう。

中村九段は第6図から▲5五銀と指しました。以下△同歩▲同歩と進みます。(第7図)

NHK 7

▲5五銀の狙いは銀を手持ちにすることではなく、後手の角道を止めることです。第6図から▲5五歩は△6五歩で困ってしまうので、銀を交換することで5筋の歩を伸ばしました。

この局面で形勢判断をしてみましょう。玉型と駒の損得は互角ですね。効率は角に関しては先手の方に分がありますが、飛車と桂は後手の方が働きが良いと言えるでしょう。三原則はほぼ対等な条件ですが、そうなると手番の価値が際立ちますね。第7図は後手が少し指しやすいと言えます。

この僅かな良さを具体的な形にすることが後手の課題です。リードを拡大する技術はいくつかありますが、その中の一つに相手の主張を潰すという考え方があります。

第7図での先手の主張は、角の働きで勝っているところです。後手としては角交換になる形を作ってしまえば、先手の主張を吹き飛ばすことができますね。という訳で、第7図では△8六歩▲同歩△5四歩と強引に角を捌いてしまう手が有力でした。(C図)

NHK C

▲5四同歩は△6六歩▲5六銀△6五銀が厳しく、これは後手の攻めが止まりません。また、▲3五歩の攻め合いは△8七歩▲同金△5五角でこれも後手が優勢です。

C図では▲4六銀と打って△5五角を阻止する手が最も粘り強いですが、△5五歩と歩を取っておいて、次の△5六歩や△8五歩~△8六歩を狙えば後手が有利でした。

本譜は第7図から△9五歩▲同歩△8六歩▲同歩△8五歩▲同歩△9五香▲同香△8六歩▲9六銀と進みました。(第8図)

NHK 8

行方八段は香を捨てた代償に8六に拠点を設置することに成功しました。ただ、この攻め方はC図と比較すると、駒損、歩切れ、大駒と連動していない、といった懸念材料があり、些か不安を感じる攻め方です。

行方八段は△8五桂と跳ねて歩切れを解消しましたが、この手は形勢を損ねた悪手でした。なぜなら、この桂跳ねは明確な狙いが無く、手番を渡してしまっただけの一手になってしまったからです。

第8図では△9八銀が有力手で、これは△6七飛成~△8七銀打を狙っています。それを防いで▲6六香と打てば、△8一飛と逃げておきます。後手を引いたようですが、△5五角と△8五桂が残っているので満更でもありません。これならまだ後手が優位を維持していました。

本譜は△8五桂だったので、▲3五歩が待望の反撃となりました。△同歩は▲3四香があるので△8七銀と攻め合いましたが、▲同銀△同歩成▲同金△9八銀に▲7八玉が受けの好手で、後手の攻めは指し過ぎの烙印を押されました。(第9図)

NHK 9

後手は上部を押さえる駒がいないので、△8七銀成と金を取ってしまうと先手の入玉を助長してしまう可能性があります。しかし、金を取れないようでは△8七銀~△9八銀と打ち込んでいった手は失敗に終わりました。

行方八段は遅まきながら△5四歩と突いて角の活用を図りますが、▲5九香が駒得を活かした手堅い受けで、ここからは中村九段の独壇場となっていきます。以下△5五歩▲3四歩△4四角▲2四歩△同歩▲8六歩と進みました。(第10図)

NHK 10

優勢なときは平凡な手を積み重ねることが最短の勝ち方です。8五の桂を取れば、先手は自玉の安全度が上がりますし、▲2三歩の垂らしがより効果的な一手になります。行方八段は△3七歩▲同桂△6六歩▲同銀△5六歩と何とかして手を作ろうとしますが、▲6二歩から飛車先を止められて形勢の差は如何ともしがたいです。(第11図)

NHK 11

第10図と比較すると、後手は特に代わり映えが無いのに対し、先手は攻め駒が着実に前進していることが分かります。すなわち、形勢の差がどんどん開いているということですね。

行方八段は△9四歩と打ち、香を取りに行きましたが、▲8五歩△9五歩▲9七金と中村九段は後手の攻め駒を一掃しに行きます。以下△8七歩▲7七角△8九銀不成▲同玉と進み、先手陣は憂いの無い形となりました。後手は△7五歩と突いて綾を求めましたが、いよいよ先手は溜めていた戦力を爆発させます。▲2三歩△7六歩▲3三銀が強烈な寄せでした。(第12図)

NHK 12

△3三同桂は△同金は▲2二銀と打って後手玉は詰んでしまいます。先手は5六の香が心強い駒で、後手玉を5筋方面へ逃がさないようにしていることが大きいですね。

本譜は△3三同銀▲同歩成に△8八銀と迫りましたが、▲9八玉が冷静な対応で、先手玉は詰みません。やむを得ず、行方八段は△3三桂と手を戻しましたが、▲3三同桂成△同角▲2二銀以下中村九段がしっかり後手玉を寄せ切って勝利を収めました。(第13図)

NHK 13

【本局の総括】

・序盤は互いに不満無し。しかし、▲3八飛が不用意な一手で、後手がリードを奪う。

・後手は第7図から端を攻めたのがやや単調。代えて角を活用するC図の変化を選びたかった。

・第8図の△8五桂が形勢を損ねた悪手。代えて△9八銀が有力だった。結果的にはこの辺りが勝負の分れ目だっただろうか。

・▲7八玉~▲5九香が丁寧な受け。これで後手の攻めが止まり、先手の着実な攻めが間に合う展開になった。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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