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~辛抱を実らせる~ 第67回NHK杯解説記 佐藤康光NHK杯VS飯島栄治七段

今週は佐藤康光NHK杯と飯島栄治七段の対戦でした。

佐藤NHK杯は元来は居飛車党で矢倉を得意とされていましたが、ここ数年は角交換振り飛車を主力にして戦う力戦派にスタイルを変えた棋士です。棋風は猛烈な攻め将棋で、多少強引な攻め筋でも持ち前の腕力で無理を通してしまうのが勝ちパターンの一つという印象です。

飯島七段は居飛車党で、相掛かりや横歩取りを得意とされています。軽快な性質を持つ戦型を選んでいますが、棋風はどっしりとした腰の重いタイプで、厚みを作る手を好まれる印象があります。
一回戦では桐山清澄九段と戦い、KO寸前まで追い込まれたものの、懸命な粘りが功を奏し二回戦へ勝ち進みました。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯2回戦第12局
2017年10月22日放映

 

先手 佐藤 康光 九段
後手 飯島 栄治 七段

 

初手から▲7六歩△3四歩▲5六歩△8八角成▲同飛△5七角(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

NHK 1

佐藤NHK杯は3手目に▲5六歩と突き、馬を作らせる作戦を採用しました。この作戦の意図は、手得した状態で角交換振り飛車の形を作ることです。

先手で角交換振り飛車をする場合、<▲6八飛と回る>(△4五角のケア)→<▲2二角成で角交換>→<▲8八飛と転換>という工程が普通ですが、これは2手損しているのがネックです。しかし、本局の場合は一手で▲8八飛と回れている上に、相手から角交換してもらっているので、普段よりも2手得した状態で角交換振り飛車を採用することができています。

もちろん、その代償に馬を作られているので良いことばかりではないのですが、角交換振り飛車の宿命である「手損」という問題を解決しているのは大きな魅力ではありますね。

互いに駒組みを進めて、第2図のようになりました。

NHK 2

佐藤NHK杯は銀を五段目まで繰り出し、8筋を攻める準備をします。対する飯島七段は、一目散に穴熊に囲って、先手の攻めに備えます。仮に8筋を突破されても、玉が戦場から遠い位置にいれば被害は少ないだろうという読みです。また、4筋の歩を伸ばしているのは、飛車をこの筋に転換して活用する狙いを秘めています。

佐藤NHK杯は▲4八銀と上がりました。振り飛車は基本的に美濃囲いを作るのがセオリーですが、この将棋では先手は速攻を狙っているので、囲いに費やす手数は最小限に止め、一手でも早く仕掛けることを目指していることがこの一手から読み取れます。なお、一手でも早く仕掛けるという姿勢を強調するなら、第2図で直ちに▲8四歩と仕掛けてしまう手も有力だったと思います。

本譜は▲4八銀以下、△4三馬▲8六飛△3一金▲8四歩△同歩▲同銀と進みました。長い駒組みになると先手は手得がぼやける上に、後手の穴熊がどんどん堅くなるので動いていくしかありません。(第3図)

NHK 3

後手は8筋の突破を防ぐことが難しそうですが、ここで△8五歩が期待の一手。▲同飛△7六馬と先手の飛車を責めることで、8筋の攻めを緩和させています。佐藤NHK杯は▲8三銀成を利かしましたが、飛車を取らずに△4二飛が冷静な対応です。以下、▲8九飛△8六歩と先手の飛車を押さえ込んで、飯島七段が上手く受け止めた格好になりました。(第4図)

NHK 4

ここで形勢判断をしてみましょう。

玉型は後手の方が堅いですね。

駒の損得は無し。よって互角。

駒の働きは、先手は遊び駒が無いものの、飛車が攻めに使いづらいところが気になります。後手は何と言っても馬の力が強大ですが、青枠で囲った小駒がまだ動いていないところが懸念材料です。という訳で、効率に関して言えば、互いに不安を抱えていると言えます。

総合的に判断すると、玉型にアドバンテージを持っている後手が指しやすいと考えられます。加えて、後手は青枠で囲った部分の駒を動かしていけば問題点が解決されるのに対し、先手は飛車を捌く方法を見出さなければいけないので、先手の方がこの後の指し手に苦労が多い印象も受けます。

ひとまず、先手は△8七歩成▲同金△6七馬という攻め筋を受けなければいけないので、佐藤NHK杯は▲9六角と指しました。8七に利きを増やしつつ、▲6三角成を狙っています。飯島七段は△7二銀でそれを受け、▲8二成銀(銀交換に応じるのは、後手の懸念材料である駒を捌かせるので損)△4六歩▲同歩△同飛▲4七歩△4五飛と歩切れを解消しました。(第5図)

NHK 5

第5図で先手はあまり明確な主張がないので、▲9一成銀と香を取り、駒得を主張します。対して飯島七段は△9四歩▲8八金△9五歩▲6九角△9三桂と角を追いやって、遊び駒を活用します。先ほど記したとおり、後手は6~8筋の金銀桂を使えば効率がぐんぐん上昇するので、リードを拡大することに繋がります。

佐藤NHK杯は▲5八角と上がって△6七馬を受けますが、△8五桂▲7八歩△4四飛と飯島七段の好調な手順が続きます。(第6図)

NHK 6

△4四飛はぼんやりしているようですが、次に△9四飛と回って9一の成銀を詰ましてしまう狙いがあります。よって、佐藤NHK杯は▲9二成銀と引いて辛抱します。一手パスのようで気が利かないようですが、形勢が悪いときは、相手に明確なプラスを与えないことが重要です。

飯島七段は△9四飛▲8二成銀△8四飛と執拗に成銀を追いかけます。僻地の遊び駒に働き掛けるので些か強引な順ではありますが、とにかく自分の銀を捌いてしまうことが急務と判断されたのでしょう。以下、▲7二成銀△同金▲8五桂△同馬▲7七金と佐藤NHK杯も自陣の愚形を少しづつほぐしていきます。(第7図)

NHK 7

先手は香得ですが、相変わらず二枚の大駒の働きが悪く、玉型にも差があるのでここでは後手が有利です。飯島七段は持ち駒が豊富になったので、頃は良しと見て△6五桂と攻めましたが、この手は勇み足でした。代えて△6二金と遊んでいる金を活用する手が勝ったと思います。先手は▲2六香が有力手の一つですが、もう一度△5二金と寄って、さらに金を活用させます。(A図)

NHK A

先手は手をこまねいていると△4二金寄~△3二金寄と後手玉がみるみる堅くなるので、何かしら手を打つ必要があります。しかし、▲1五桂と打って攻めてみても、△3二銀と受けられると次に△1四歩から催促される手が残ってしまうので、かえって忙しくなってしまいます。つまり、A図では先手が困っていると考えられます。

△6二金~△5二金のような悠長な駒運びは、と金攻めのような遅くても確実な攻めに対して相性が最悪なので、通常は指す余裕がありません。ですが、第7図で先手は確実な攻めを確保できていないので、この局面では有効だったのです。

さらに、後手は第4図以降、ずっと働きの悪い左辺の小駒を活用することをテーマに指していました。7二の金はまだ効率が良いと言える駒ではなかったので、その方針を貫く必要があったのです。

△6五桂以下、▲6六金△7四飛▲6九角と進みました。その局面は桂取りが残っているので、飯島七段は△6四歩と紐を付けます。やむを得ない一手とはいえ、攻めた後に手が戻るようでは、やや変調を感じるところです。佐藤NHK杯は▲5九金と寄って、△6八銀を消します。先手はまだ攻め合いの態勢が整っていないので(大駒が二枚とも攻めに使えないことが原因)辛抱しなければいけません。(第8図)

NHK 8

ここでも△6二金と寄る手は考えられましたが、それでは直前に指した△6五桂との関連性が薄いので、実戦心理としては指しにくいでしょう。飯島七段は△5七銀と絡みつき、▲6八銀△同銀不成▲同金△5七銀と無理矢理、先手の防衛ラインを突破しようと試みます。以下、▲同金△同桂成▲同銀△6五歩▲同金△6七馬▲6八銀打△7八馬▲7四金△8九馬と猪突猛進の攻めを見せました。(第9図)

NHK 9

飯島七段は目論み通り、敵陣に馬を進出させましたが、第8図~第9図の手順で、桂を損した上に手番を渡し、なおかつ先手の悩みだった眠っている飛車を捌かせています。佐藤NHK杯は長らく耐え忍ぶ展開が続いていましたが、遂に反撃の機会が巡ってきました。

まずは▲4三桂から迫ります。寄せのコツは、相手の金を狙うことでしたね。飯島七段は△4一金と逃げますが、▲6一飛△7一飛▲4一飛成△同飛▲3二銀と佐藤NHK杯は懸命に食い付きます。飛車が逃げると▲3一金が厳しいので先手の攻めが決まったように見えますが、△4二金が粘り強い受けで、後手も容易には崩れません。(第10図)

NHK 10

先手は少しでも緩むと△6七歩や△7四歩が残っているので、足を止めるわけにはいきません。佐藤NHK杯は▲4一銀成△同金▲6一飛と攻撃を続けますが、△5二銀がピッタリとした受け。飛車を逃げるようでは話にならないので▲5一桂成は致し方ありませんが、△6一銀▲4一成桂△6七歩が待望の一着です。(第11図)

NHK 11

ここで銀を逃げても△7九馬が角銀両取りになってしまうので、受けになっていません。このように、受け切れない状況で中途半端に受けに回ってしまうと、相手の攻めを加速させるだけなので、逆効果です。受けが無いときは、とにかく攻め合いましょう。

よって、佐藤NHK杯は▲3二金と肉薄します。ただし、△6八歩成が詰めろになってしまうのが泣き所(△4九銀~△5九飛で詰み)。▲6八同銀はやむを得ない一手ですが、そこで△4八歩なら後手の勝ちが濃厚でした。(B図)

NHK B

この手は△4九銀▲4八玉△3八飛▲5七玉△6八飛成以下の詰めろなので、先手は放置することができません。しかし、▲4八同玉は△2八飛。▲3九香は△4九歩成▲同玉△2八飛が厳しい攻めです。先手は手駒を使わされてしまうので、戦力不足に陥ることが予想され、体力負けしてしまいそうです。

B図で持ち駒を節約するなら▲5八角ですが、△4九歩成▲同角△4六歩で頓死筋を作られると、やはり先手が勝つのは難しそうな印象です。

本譜は▲6八同銀に、△6二飛と打ちました。攻防手なので味が良さそうに見えましたが、この手が敗着です。飛車を手放したことにより先手玉の危険度が緩和されたことが大きかったのです。以下、▲2二金△同飛▲3一銀と再び、後手玉に襲い掛かります。飯島七段は△9九馬▲7七歩△3二金と頑強に抵抗しますが、▲4四桂とやはり金を狙うのが基本に忠実な寄せです。B図の変化と違い、先手は持ち駒を攻めに使うことができるので、切れ筋になる心配がありません。(第12図)

NHK 12

ここで△9八馬と引いて自陣に利かしても、▲8七歩で遮断されてしまうので無効です。飯島七段は△4八歩と指しましたが、今度は飛車を一枚しか持っていないので、威力が激減しています。

△4八歩は詰めろになっていなので、▲3二桂成△同飛▲2二香と迫り、先手の一手勝ちが決定的となりました。(第13図)

NHK 13

この手は▲2一香成~▲3三桂以下の詰めろです。ここで△3三銀には▲2一香成~▲2五桂。また、△2二同飛には▲同銀成△同玉▲4二飛△3二香▲4三金で一手一手の寄りです。

本譜は△3一飛▲同成桂△4九銀と先手玉を詰ましに行きましたが、▲4八玉△2八飛▲4九玉△4八銀▲5八玉△3七銀不成▲6七玉と冷静に対応して、佐藤NHK杯が逃げ切りました。(第14図)

NHK 14

第14図では先手玉の上部が広く、捕まることはありません。以下も数手王手が続きましたが、佐藤NHK杯が危なげなく勝ち切りました。

【本局の総括】

・序盤は先手が意欲的な作戦を見せたが、第2図では直ちに▲8四歩と仕掛ける方が良かったかもしれない。なぜなら、本譜の仕掛けではあまり成果をあげていないからだ。

・中盤は穴熊の遠さ・堅さが光っており、後手が勝ちやすい展開。ただし、第7図で攻め急いでしまったことにより、差が縮まる。

・第9図から▲4三桂と反撃した局面は先手もやれそうだが、やはり穴熊は堅く、まだまだ大変。

・後手は△6二飛が敗着。B図の△4八歩を打てば、勝算はかなり高かった。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

 

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