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~意表の勝負手が炸裂~ 第67回NHK杯解説記 渡辺明竜王VS近藤誠也五段

今週は渡辺明竜王と近藤誠也五段の対戦でした。

渡辺竜王は居飛車党で、矢倉や穴熊のような堅い玉型を好む居飛車党です。
棋風は攻め将棋で、切れそうな細い攻めを繋ぐ技術は天下一品です。また、「この形になったらダメ」と判断する能力が高く、そういった状況を上手く回避して勝ちやすい局面を作るのが上手い棋士という印象があります。

近藤五段は純粋な居飛車党で、飛車を振っているのは見たことがありません。
棋風は攻め将棋で、終盤型だと思います。序盤は無難な作戦を選び、中盤で自分が攻める展開に持ち込んで、終盤で抜き去るのが彼の勝ちパターンという印象です。
一回戦では加藤桃子女王と戦い、堅陣を活かして強気に攻め続け、二回戦へと勝ち進みました。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯2回戦第13局
2017年10月29日放映

 

先手 渡辺 明  竜王
後手 近藤 誠也 五段

 

初手から▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8五歩▲7七角(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

NHK 1

戦型は角換わり腰掛け銀になりました。最近の角換わり腰掛け銀は、どちらかが(あるいは両方が)▲4八金型(△6二金型)に組むことが多いのですが、本局は一昔前に主流だった形になりました。

第1図から渡辺竜王は▲4五歩と指し、4筋に位を取る作戦を選びました。以下、十数手後の局面が第2図です。

NHK 2

4筋の位を取った後は、▲4六角と設置するのが有力な指し方です。明確な狙いが無いので懐疑的に思う方もいらっしゃるかと思いますが、4六の角は攻防に働く良いポジションなので、遊び駒になることは、ほぼあり得ません。「位を取ったら▲4六角を打て」と断言してしまっても過言ではないと思います。

後手は飛車が8二にいると△6五歩が指せないので、雀刺しの形を作って、端から動く手を見せました。なお、△9二飛では△8四飛と浮いて、次に△7五歩▲同歩△6五歩という手順で仕掛けを狙う手も考えられました。

第2図から先手の方針は、大きく分けると「待つ」「動く」かの二者択一です。待つのであれば、①▲8八玉や②▲6七銀が候補手です。しかし、①は玉が端に近づくのでマイナスに作用する恐れがありますし、②は△9五歩▲同歩△同香▲9七歩△4四歩という仕掛けが気になります。(A図)

NHK A

▲4四同歩は△4五歩で駒損確定なので、この歩は取れません。よって、角を広くするために▲2五桂と跳ねるくらいですが、構わず△4五歩▲3三桂成△4六歩▲3二成桂△同玉と踏み込まれて先手不利です。(B図)

NHK B

先手は金銀を取ったものの、その後の攻めがありません。B図では▲4六飛と指すくらいですが、△3七角から飛車をいじめていけば、後手が優位を拡大できます。

どうも、第2図から「待つ」のは面白くないようです。よって、渡辺竜王は▲2五桂と跳ねて「動く」方針を選びました。(第3図)

NHK 3

銀の逃げ場は三択ですが、上に逃げる△2四銀は、①4筋が薄くなる。②△2四歩から桂を取る楽しみが無い。という二つのデメリットがあります。よって、これは感心しません。

△2二銀は端を守りながら▲5五銀とぶつける筋を警戒した手堅い一手で、これは一考の余地がありました。ただし、2筋が壁になってしまう点が懸念材料です。これには▲4七金と上がり、(△2四歩▲同角△3七角のケア)ゆっくりした将棋になることが予想されます。後手は玉型が薄いので反動を気にする必要があり、自分から動くことは難しくなります。ゆえに、実戦的には指しにくい手なのかもしれません。

近藤五段は△4二銀を選びました。この手は最も形が良く、自玉の堅さを維持していることが主張です。ただ、端が薄いことと、将来▲5五角と出られたときの耐性が低いことが欠点です。渡辺竜王はその隙を突くべく、▲1五歩△同歩▲5五銀と激しく攻め立てます。次に▲6四銀を喫すると後手陣は崩壊するので、△6二飛は必然手。以下、▲5四銀△同歩▲1五香△同香▲1二歩と先手は端から手を作りに行きます。香損なので強引に映りますが、一度攻め始めたら、休まず走り続けないと攻めが頓挫してしまいます。攻め駒を4枚確保していれば、多少の駒損には目を瞑っても問題ありません。(第4図)

NHK 4

後手は駒得しているので、長期戦に持ち込むことが目標です(駒得=体力が多い)。よって、ここでは△2二銀と守備駒を投資して、とにかく戦いを長引かすことが肝要です。

渡辺竜王は▲3五歩と歩をぶつけて攻めを手厚くしますが、△1七角が受けの好手です。馬を作ることで先手の飛車を押さえ込みつつ、上部を開拓することで、あわよくば入玉も視野に入れています。

本譜は▲3四歩△2六角成▲3三歩成△同桂▲1三桂成と自然に攻めましたが、△3五歩が粘っこい受け方です。代えて△4八馬~△3九飛で攻め合う手も考えられましたが、先述したように後手は長期戦を目指しているので、ゆっくりした流れに持ち込もうとしています。(第5図)

NHK 5

第5図では成桂が浮いているので、▲2二成桂と銀を取る一手。以下△同玉▲1一歩成と進みます。そこで近藤五段は△1一同玉とと金を払いましたが、これは玉が下段に落ちてしまい、危険な一着でした。代えて△3四桂と打ち、▲3四歩を防ぎながら先手の大駒を責める手が勝りました。(C図)

NHK C

△3四桂は角取りの上に、△4八馬▲同金△4六桂で飛車を丸得する手も狙っているので、強烈な催促になっています。C図では▲2一銀と絡む手が有力ですが、△4五桂が上部への逃げ道を確保する味の良い桂跳ねで、後手が十二分に戦える形勢です。

本譜の△1一同玉は、△3四桂とは違い相手にプレッシャーを掛けていないので、先手はC図よりも良い条件で指し手を選ぶことが可能です。▲3八飛が巧みな揺さぶりでした。▲3五角は許せないので、近藤五段は△3四香と辛抱しましたが、香を無駄打ちさせて先手好調です。もう3筋に飛車を置いておく理由は無いので、渡辺竜王は▲2八飛と今度は2筋からの攻めを狙います。(第6図)

NHK 6

ここで△1七馬と逃げると、▲2四歩がうるさい一手になります。△同歩は▲同飛で処置無しですし、△2八馬▲同角は後の▲4一角が楽しみです。馬は後手にとって最大の戦力なので、この駒を失う訳にはいきません。

よって、近藤五段は△2七桂と無理矢理、壁を作りました。効率が良いとは言えませんが、後手はとにかく先手の攻めを受け止めて長期戦にしなければいけません。一度決めた方針は貫かないと、これまでの指し手が破綻してしまうので、ブレないことが重要です。

渡辺竜王は桂香を打たせたことに満足して▲4七金と上がりましたが、これは緩手でした。代えて▲2四歩と合わせる手が好手で、△同歩は▲1三銀△1二歩▲2四銀成。△2二玉には▲1四銀△2四歩▲1三銀打△3一玉▲2四銀成でいずれも先手優勢でした。

どちらの変化も、最終的には▲2四銀成を実現していることに注目してください。ここに成銀を作れれば、上部を押さえながら3四の香が取れる形なので攻めが繋がっていました。

本譜は▲4七金と一回休んでしまったので、△1七香成▲3八飛△2二玉と形を整える猶予が生まれ、後手が息を吹き返した格好です。(第7図)

NHK 7

有効な攻めがない渡辺竜王は▲8八玉と入城して損の無い手待ちをしますが、駒損している先手はもっと激しい展開にしたいので、やや不本意な状況になってしまいました。

手番を得た近藤五段は△2四歩と突いて玉を広くしました。しかし、代えて△2五桂と跳ねる手が安全だったようです。(D図)

NHK D

△2五桂を跳ねておけば、▲3七金から馬をいじめられる手が無いので後手は当分、攻められる心配はありません。この後は△3三銀~△2四歩~△2三玉と上部の厚みに玉を近づけていけば、実戦的に負けにくい局面を作ることができたと思います。

本譜は△2四歩に▲3七金と寄ることができたので、再び先手が攻める展開になりました。先ほどまでは▲7九玉型だったので、△1六馬▲1八歩△1九桂成▲1七歩△3八馬▲同金△4九飛と王手角取りの筋で切り返すことができましたが、現状は▲8八玉型なのでこの順が成立せず、△1六馬と逃げることができません。

近藤五段は△2五馬と指しましたが、▲2六銀△6九馬▲3五銀△同香▲同角と強引に角を捌かれて後手の優位は吹き飛びました。(第8図)

NHK 8

▲3五同角は飛車取りと同時に1七の成香にも当たっているので、後手はもはや受けに徹することはできません。近藤五段は△8六歩▲同銀△8二飛と攻め合いに活路を見出しますが、そこで▲1四歩が玄妙な一手。直接的な狙いはありませんが、拠点を設置することで、後手玉をZにさせない意味があります。△1二歩と受けるようでは玉が狭くなり損と見て、近藤五段は△4五桂と攻めながら玉を広くしましたが、▲7九金が意表の勝負手でした。(第9図)

NHK 9

自ら形を乱しますが、馬が6九にいると△8六飛▲同歩△7九銀▲同金△8七金(金は3七に落ちている!)という筋があるので、とにかく馬を追い払うことが主眼と見た一手です。なかなかこのような受け方は見ないので、参考になりますね。

ここで近藤五段は△2五馬と逃げましたが、この手が敗着になりました。馬を引いてしまうと先手玉が安全になるので、▲7九金と引いた手の顔が立ちます。代えて△7九同馬▲同玉△3七桂成と踏み込んで、先手玉を下段に落とし危険な状態にしておく必要がありました。馬を切ると後手玉も危なくなりますが、終盤で敵玉を安泰にする手は禁物です。

また、馬を逃げるなら△1四馬と拠点を払い、自玉の安全を確保すれば簡単には負けない局面でした。

本譜は△2五馬だったので、▲3六金が絶好の一手です。△3四馬は▲7一角成~▲3五香が激痛なので、泣く泣く△1四馬と逃げましたが、▲4五金で桂をタダ取りして形勢の針は一気に先手へと傾きました。

近藤五段は△3七歩▲4八飛△5九銀▲4六飛△5八馬と追いすがりますが、攻め駒が少ないので迫力不足は否めません。△5八馬以下、▲3四桂△2三玉▲4二桂成△同金▲3四銀△3二玉▲7一角成と自然に攻めて、先手勝勢です。(第10図)

NHK 10

ここで飛車を逃げるようでは、▲4四歩や▲3三歩で一手一手の寄りです。本譜は△8六飛▲同歩△7六馬と先手玉に詰めろを掛けましたが、これは首を差し出した手です。渡辺竜王は▲3三歩△4一玉▲3二銀と後手玉を即詰みに討ち取りました。(第11図)

NHK 11

第11図から△5二玉は▲4三銀上成以下詰み。△3二同金は▲同歩成△同玉▲3三歩以下並べ詰みです。この局面で、近藤五段の投了となりました。

【本局の総括】

・序盤は先手が上手く打開できるかどうかだが、結果的には一方的に攻める将棋になったので、まずまずの進行のように見える。

・中盤は激しい展開にしたい先手と、長期戦に持ち込みたい後手の主張がぶつかり合う展開。先手は第6図周辺で優位を掴んだが、▲4七金が緩手でヨリが戻る。

・終盤は▲7九金が受けの勝負手。後手が馬を引いたので先手の言い分が通り、そこからは先手が勝ち筋に入った。


それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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