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~歩の小技で勝利を掴む~ 第67回NHK杯解説記 佐藤和俊六段VS宮田敦史六段

今週は佐藤和俊六段と宮田敦史六段の対戦でした。

佐藤六段は振り飛車党で、じっくりとした将棋を好む攻め将棋だと思います。
基本的には中飛車や三間飛車を多用していますが、最近では力戦型の居飛車も指すことがあり、芸域を広げられている印象を受けます。

宮田六段は居飛車党で、詰将棋を解くスピードが速く、終盤力の高さに定評がある棋士です。
長考派なので秒読みに追われることも多いのですが、短い時間でも精度の高い指し手を繰り出してくる印象があります。
一回戦では久保利明王将と戦い、峻烈な踏み込みを見せて鮮やかに敵玉を寄せ切り、二回戦へと勝ち進みました。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯2回戦第14局
2017年11月5日放映

 

先手 佐藤 和俊 六段
後手 宮田 敦史 六段

 

初手から▲5六歩△8四歩▲7六歩△6二銀▲5八飛△8五歩▲7七角(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

NHK 1

佐藤六段の先手中飛車に対して、宮田六段は5筋の歩を突いて、先手に位を取らせない作戦を選びました。最近は△5三歩型で戦う将棋が主流なので、この対策は少数派ではありますが、昔から指されている有力な指し方です。

 
第1図は△6四銀と上がったところです。これがとても大事な一手で、▲5五歩から交換される手を防いでいます。基本的にこの将棋は、5筋の歩を交換できれば先手良し、そうでなければ後手良しという前提が基盤になっています。
 

まだまだ互いに駒組みが未完成なので、しばらくは陣形の整備に勤しみます。中飛車は5筋を攻める戦法なので、後手は仮想図のように中央へ駒を集める駒組みが一般的です。

NHK 仮
 

しかし、この居飛車の囲いは金銀が密集している割には堅さが乏しく、個人的には後手に苦労が多い(つまり、優秀ではない)印象を持っています。宮田六段はその点をカバーするために、美濃囲いを作り自陣角を放ちました。(第2図)NHK 2

 
序盤早々に角を打ってしまうのは勿体無いように見えますが、ここに角を設置することで、
①▲5五歩を防ぐ。
②△5二金右と上がったときに▲7一角を消している。
③先手の発展性を奪って、堅陣に組ませない。(銀冠の阻止)
 
といった意味があります。簡潔に述べると、この自陣角は駒組みで優位に立つための投資と言えるでしょう。
 

先手は5筋から仕掛けることができなくなったので、佐藤六段は▲7七桂△7四歩▲8九飛8筋に飛車を転換して、態勢を立て直します。なお、△7四歩に代えて△8六歩と歩交換するのは、▲8六同歩△同飛▲8五角と切り返され、▲6三角成と▲8七歩が同時に受からず、勇み足となってしまいます。(第3図)

NHK 3

 

先手はもう角の打ち込みを気にする心配はないので、金銀をバランス良く配置する必要がありません。7八の金が囲いに合体すれば、後手の狙いである③を打破することができます。

先ほどまでは5筋の交換ができるかどうかが本局のテーマでしたが、後手が△4四角を打ったことで、将棋の性質が変化しています。ここからは、どちらがより良い陣形に組むことができるかという勝負になっています。

互いに仕掛ける場所がないので、△5二金右▲4六歩△2四歩▲6八金△3三桂と駒組みを進みます。ただ、個人的には△3三桂は疑問を感じました。(第4図)

NHK 4

なぜ△3三桂に疑問を感じたのかというと、この手は今すぐには指す必要が無く、後回しにしても問題ない手だからです。

△3三桂では、何はともあれ△2三銀~△3二金で銀冠を構築しておきたいところでした。銀冠を作ったあとでも桂は跳ねれますし、△2一桂型の状態なら△1二香から銀冠穴熊に発展する余地もあります。第4図での△3三桂は形を決めすぎていて、含みが乏しかったように思います。

佐藤六段は▲4七銀△2五歩▲3八金と木村美濃を作り、上部を手厚くします。宮田六段は2筋の歩を伸ばした手を活かして△2六歩▲同歩△同角▲3六歩△6二角と一歩交換を行いましたが、▲6五桂が軽やかな桂跳ねで、先手が機先を制しました。(第5図)

NHK 5

2筋を放置して攻めの手を指すのは変調に見えるかもしれませんが、先手は△2三銀~△3二金の2手を指されてしまうと、後手玉が非常に堅くなってしまうので、その前に動きたいのです。▲6五桂は次に▲5五歩△同歩▲5四歩という攻めを狙っており、銀冠を作る余裕を与えないようにしています。

宮田六段は先述の攻め筋を防ぐために△7三桂と桂交換を挑みましたが、▲同桂成に対して△同銀と取らなければいけないのが辛いところ。本来は形良く△7三同角と応じたいのですが、角が移動すると▲3五歩が痛烈な一手になるので、それが指せません。

よって、△7三同銀は止むを得ないのですが、銀が下がった隙を突いて▲5五歩△同歩▲同銀と先手は自然に進軍することができました。(第6図)

NHK 6

ここで形勢判断をしてみましょう。

まず玉型ですが、これは先手に分があります。後手の方が金が一枚多いですが、桂を跳ねていることから上部が弱く、将来▲3五歩から狙われる手が残っているのがその理由です。

駒の損得は互角ですね。

駒の効率は、先手は遊び駒が無いのに対して、後手は攻撃陣の飛角銀があまり機能していません。よって、これも先手に分があります。

総合的に見ると、玉型と効率の差で、先手が有利と言えるでしょう。

宮田六段は苦しい状況を打開するために、△1五歩と端を攻める勝負手を放ちます。しかし、端は自分の弱点でもあったので、あまり効果的な一手ではありませんでした。

第6図では、△6四銀と働きの悪い銀を捌いておく手が最優先事項だったと思います。以下▲同銀△2七歩▲同玉△2六歩▲2八玉△6四歩と進めておいてどうでしょうか。(A図)

NHK A

銀を取り返す前に△2七歩から拠点を作ったのは、▲2七歩から自陣を修繕させる手を防いだ意味です。

A図では後手に具体的な狙いがある訳ではありませんが、先手目線だといつでも△2七銀と放り込まれる手が残っているので、実戦的に嫌らしい局面だと思います。このように、形勢が苦しいときは、敵陣に嫌味を作って手を渡す手段が有効になることが多いです。

本譜は△1五歩に端を無視して▲5三歩が好判断でした。後手の角の利きを遮れば、端攻めを緩和することにつながります。この叩きは取らないと6二の角が眠ってしまうので、△5三同角と応じましたが、▲6五桂で首尾よく両取りを実現することができました。駒損が確定した宮田六段は、▲6五桂に△6四角と開き直ります。▲6四同銀△同銀と進めることで、「桂先の銀」の形を作り、△6五銀と△1六歩を楽しみに頑張ろうという意図です。しかし、▲3五歩が急所の一撃で、先手が優勢になりました。(第7図)

NHK 7

▲3五歩に△同歩は▲3四歩と打たれたり、▲7一角の筋が残るので、有効な受けはありません。

攻めるとなると、△1六歩が候補の一つですが、先手は端を破られても3~4筋方面に逃げていくルートを確保しているので、あまり厳しい攻めではありません。端を取り込むと、むしろ▲1四歩などで逆用される恐れもあります。

本譜は△2七歩と叩きましたが、やはり▲3九玉が良い対応です。この将棋は横ではなく縦から攻める将棋なので、玉は深い位置にいる方が良いのです。

宮田六段は△6五銀▲3四歩△5五桂▲3六銀△4四桂と攻め合いに活路を求めますが、大駒が参加しない攻めなので、迫力不足は否めません。銀取りなので、どこかに逃げる必要がありますが、その前に▲2三歩と打診したのが好手でした。(第8図)

NHK 8

2・3筋が戦場なので、そこから遠ざかるために△3一玉と引きたいのですが、そこで▲2七銀と手を戻された局面は、▲2三歩を叩かず単に▲2七銀と指した局面よりも先手が得をしています。なぜなら、▲2二角と打つ攻めが残っているからです。

したがって、後手はこの歩を取るしかないのですが、△2三同銀は▲3三歩成△同玉▲4五桂△3二玉▲2五銀と上に逃げる手が幸便となります。(B図)

NHK B

B図に至る手順中、▲4五桂と王手で桂を設置した手が大きく、これによって後手玉が5筋方面へ逃げられなくなっています。こうなると、後手は勝ち目がありません。

宮田六段は▲2三歩に△同玉と応じましたが、玉が露出してしまい、危険な状態になってしまいました。佐藤六段はそれに満足して、▲3三歩成△同銀▲2七銀と今度は銀を自陣に引き付けて、玉の安全度を主張します。(第9図)

NHK 9

後手陣は傷が多く、一手で陣形を引き締めることができないので、受けに回ってもキリがありません。ゆえに、宮田六段は△5六銀と進出して寄せ合いを挑みますが、▲3五桂△2二玉▲7三角が飛桂両取りの痛打です。宮田六段は「両取り逃げるべからず」という格言に則り、△2六歩と先手玉に迫りますが、▲8二角成△2七歩成▲2三飛△3二玉▲2七飛成と竜を召喚して受けに回ったのが好着想で、佐藤六段が勝勢になりました。(第10図)

NHK 10

後手は次に▲2三桂成を喫してしまうと倒れてしまうので、それを受けなければならないのですが、△3四銀打のように、ただそれを防ぐだけでは▲5五馬と桂を取られて攻めが切れてしまいます。

本譜は△2六歩▲同竜△2五歩▲同竜△2四歩と連打の歩で先手を取ろうとしましたが、竜を逃げずに▲3四歩と踏み込んだのが、鋭い決め手です。

▲3四歩に銀は逃げることができないので△2五歩と竜を取る一手ですが、▲2三角△4二玉▲3三歩成△同玉▲4一角成で佐藤六段が的確に寄せ切りました。(第11図)

NHK 11

第11図では、後手玉に▲4二銀△3四玉▲2三馬以下の詰めろが掛かっています。対して先手玉は安泰なので、佐藤六段の勝ちは揺るぎません。以下は数手で終局となりました。

【本局の総括】

・序盤で△4四角と打ったあと、後手はもう少し上手く駒組みできたように思う。本譜の進行は先手不満無し。

・▲6五桂が機敏な一手で、先手がペースを掴む。

・△1五歩から端を攻めた手が良くなかった。代えて△6四銀と働きの悪い駒を活用すれば、まだまだ大変な将棋。

・第7図の▲3五歩が急所の一撃。後の▲2三歩も良いタイミングで、歩の妙技が光った。


それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

 

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