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~強気な受けで勝ちを呼び込む~ 第67回NHK杯解説記 山崎隆之八段VS羽生善治棋聖

今週は山崎隆之八段と羽生善治棋聖の対戦でした。

山崎八段は居飛車党で、力戦型を好む受け将棋です。相掛かりを得意とされており、定跡化されていない未開の荒野を常に突っ走っている印象があります。また、乱れている陣形を巧みに纏める技術が、多くの棋士よりも抜きん出ていますね。
一回戦では中村太地六段(当時)と戦い、積極的な攻めで勝利を掴み取り、二回戦へと進出しました。

羽生棋聖は居飛車党で、活発な指し手を好むアグレッシブな将棋だと思います。最近では、角換わりの採用率が少し高めでしょうか。
相手の得意戦法や研究を真っ向から受けて立つことが多く、そのスタイルで第一人者の地位に長く君臨しているのは驚異の一言に尽きますね。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯2回戦第16局
2017年11月19日放映

 

先手 山崎 隆之 八段
後手 羽生 善治 棋聖

 

初手から▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金▲3八銀(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

NHK 1

戦型は山崎八段得意の相掛かりになりました。相掛かりの先手番と言えば、引き飛車+▲2七銀型の将棋が主流で、山崎八段も長らく愛用していた指し方です。しかし、ここ1、2年ほどで後手側の対策がほぼ確立してしまい、現状は先手の旗色が悪いと判断している棋士が多いと思われます。

代わりに登場したのが第1図のような▲3七銀型に組む将棋です。▲2七銀型よりも銀が中央にいるので、受けに使いやすい所が利点です。また、飛車先を交換していないのが気になりますが、これにも理由があります。具体的に説明すると、

飛車を配置する場所を選べる(歩を交換した後に2六か2八を選ぶことができる)。
②仮に▲4六銀~▲3五銀~▲2四歩と攻めていった場合、歩交換を行った意味が無い。

このような理由が挙げられます。

さて。第1図から後手は駒組みをどうするかですが、羽生棋聖は△3四歩▲4六銀△7四歩▲6九玉△7三桂と攻め駒を優先的に活用していきます。後手は中住まいを選んだ以上、玉は堅く囲えません。したがって、このように防御よりも攻撃重視の構えを取る方が理に適っています。

逆に、先手はまだ囲いが定まっていません。ただ、形が決まっていないということは、どんな囲いでも組めることを意味します。先手は矢倉や雁木のような上部に手厚い囲いを作ることができれば、「玉の堅さ」というアドバンテージを得ることが期待できます。山崎八段はそういった展開を目指して、▲5八金と上がります。対して、△9四歩とこのタイミングで端を打診したのが、深謀遠慮な一着でした。(第2図)

NHK 2

後手が陣形を発展するのであれば、△9四歩よりも△6二金の方が価値が高いです。その後は△6四歩~△6三銀~△5四歩と盛り上がっていけば、バランスの取れた好形が完成します。

ただし、そのように盛り上がってしまうと、飛車を切るような激しい攻めがやりにくくなってしまいます。低い陣形を維持しておけば先手陣を強襲する含みがあり、後手としてはその「脅し札」を上手く利用したいのです。

この△9四歩はまさにそれを体現した一手で、▲9六歩と応じるのは端攻めを誘発する恐れがあるので受けにくい。しかし、不用意な手を指すと強襲が飛んでくるかもしれないので、実戦心理としてはかなり嫌らしい手渡しです。

結局、山崎八段は無難に▲8七歩と飛車を追います。対して△8一飛なら穏やかな進行でしたが、後手は急戦歓迎なので△7六飛と強気な指し手を選びます。飛車が狭い場所へと移動しますが、先述したように、後手は低い陣形で飛車を切れる体勢なので、成立しているという読みです。

先手はこのまま指をくわえていると、△7五飛~△8五飛~△8一飛と飛車を定位置に戻られ、歩損だけが残ってしまいます。それだけは許せないので、何らかの手段で反発しなければいけません。まずは手始めに▲2二角成△同銀で角を手駒に加えます。(第3図)

NHK 3

ここは先手にとって手が広い局面ですが、結論から言えば、この局面から先手が良くなる手段はないようです。

まず、目につくのは▲8二角と香を取りに行く手ですが、それには△7八飛成~△8一金で角を捕獲されると、金桂交換の駒損が残るので先手不満です。持ち駒の飛は大きな駒ですが、如何せん後手陣は打ち込む隙が皆無なのでそこまで期待値が高い進行ではありません。

では、▲7七金△7五飛▲8六金と飛車を追うのはどうでしょうか。△6五飛と逃げても、▲7七桂△6四飛▲5五銀で飛車を捕獲することができます。この変化は先手が戦えそうですが、▲8六金には△7九飛成!▲同玉△3九銀と踏み込むのが好手順で、後手優勢になります。(A図)

NHK A

シンプルな飛車取りですが、先手陣は駒の配置が悪く、受けに窮しています。
▲2六飛は△4四角。▲2七飛は△4九角で両取りが掛かってしまいますし、▲1八飛は△2七角で飛車が捕獲されてしまいます。先手陣は飛車を渡せる状況ではないことは一目瞭然ですね。

一番、粘れるのは▲3八飛ですが、やはり△4九角から飛車を狙われると敗色の濃い展開です。これが「隙を見せると強襲を食らう」という分かりやすい失敗例です。

本譜は▲8八銀と上がりました。▲7七金から飛車を圧迫するのは陣形が不安定なので、形良く飛車を責めようという意図です。ただ、ここで一手緩むようでは、些か手が遅れているような印象を受けます。

羽生棋聖は△7五飛と引いて、飛車の安定を図ります。次の△8五飛は許せないので▲7七桂は妥当な一手ですが、△3三桂が味の良い活用。遊び駒を働かせながら、飛車交換を狙っています。
△2五飛を喫してしまうと先手は勝ち目がないので、▲3五歩とそれを防ぎますが、ここで後手に大きなチャンスが訪れていました。(第4図)

NHK 4

 

ここでは△6四角と打つ手が後手優勢を決定付ける好手でした。桂頭に突かれた歩を放置しているので、ぱっと見では不可解な一手に映るかもしれません。しかし、この手は恐ろしい狙いを秘めているのです。

例えば、▲3四歩と桂を取りに行くと、バッサリ△4六角と切ってしまい、▲4六同歩△3五飛と回れば攻めが決まっています。(B図)

NHK B

 

次の△3九飛成がすこぶる受けづらいですね。▲4八角は△3九銀。▲3七角には△2五桂があるので、攻めは止まりません。

 

この△3五飛を実現させることが△6四角の意味で、とにかく角を切ってこの地点に飛車を転換しちゃえば、飛成が受からないから私の勝ち!と、宣言している訳です。

 

実際問題、△3五飛を防ぐのは至難の技で、▲3八飛と寄っても、△4六角▲同歩△3五飛で飛車交換になってしまい、やはり先手不利です。

 

A図の変化もそうですが、後手陣は大駒を打たれる隙がないことと、玉の堅さで上回っていることが大きく、このような強引な攻めを押し通すことができます。

 

現代将棋では、攻めが続く見通しが立てば駒損を厭わず、斬り込んで行くことが多いです。特に、本局の後手陣のような反動を気にする心配がないときは、特に有効です。

 

本譜は第4図から、無難に△3五同歩と指しました。自然な一着ではありますが、△6四角のような厳しさは無いので先手には余裕があります。手番を活かして▲8二角と打ち、△3六歩▲9一角成△2五飛▲2六香と駒得を主張にして辛抱します。飛車交換にさえならなければ、先手は簡単には倒れない格好です。(第5図)

NHK 5

ここでは平凡に△7五飛と逃げて、後の△2四歩~△2五歩で香を取りに行く手を楽しみにする手段も有力でしたが、それでは手緩いと見て、羽生棋聖は△3九角と指しました。狭い場所に角を打ち込むのでリスクが高く、手のニュアンスとしては決めに行ったような感があります。以下▲2七飛△7五飛と進みました。

△3九角の意味は、▲2七飛を強要させることで将来の△2四歩~△2五歩をより厳しくしたり、△8五桂から桂を入手して△1五桂から飛車を詰ましてしまう狙いがあります。複合的な攻めを見せられ、対応が難しいところですが、▲1六歩が面白い一着でした。後手は当初の予定通り△2四歩と突きますが、▲1七桂が▲1六歩からの継続手です。(第6図)

NHK 6

2五の地点に数を足しながら、次に▲2九飛で角を詰ます手を見せていることが分かりますね。後手は分かっていても、先手の狙いを防ぐことができません。

角を取られることが確定してしまったので、羽生棋聖は△1七角成と切り飛ばし、▲同香△2五歩で強引に自分の狙いを実現させます。しかしながら、結果的には持ち角が眠っていた2九の桂と交換になってしまい、これではとても攻めが成功したとは言えません。決めに行ったはずの角打ちが不発に終わったので、形勢は先手に傾きました。

△2五歩に対し、山崎八段は▲8四角と後手の飛車を責めます。基本的に相掛かりは飛車の値段が高い将棋なので、このように飛車を取りに行く手は悪手になりにくいですね。

羽生棋聖は△2六歩▲同飛△3四桂▲3六飛△4六桂▲同歩△2五飛と2筋に飛車を転換しましたが、素朴に▲2六歩と受けた局面は、先手が上手く凌いだと言えるでしょう。(第7図)

NHK 7

本音を言えば、後手はここで飛車を逃げずに△3五歩と攻め合いたいところです。しかし、飛車交換を挑んでしまうと、▲2五歩△3六歩▲7三馬△同銀▲同角成で先手の一手勝ちです。(C図)

NHK C

C図から△3九飛と王手をしても、▲5九桂がしっかりした受けで、先手玉は耐久力があります。対して、後手陣は次に▲7二銀が入ってしまうと粘りが利かなくなってしまい、一手一手の寄り筋に入ります。しかし、C図から△7二銀で囲いを再生しようとしても▲9二飛△7一香▲8四桂と馬を引かずに迫られ、やはり寄り筋です。

先ほどまで飛車交換は後手有利だったのに、なぜこの局面では勝てないのでしょうか。環境が変化したキーポイントは、後手陣が弱体化したところにあります。C図では△7二銀・△6一金型が崩されていることがあまりにも痛く、後手はA図やB図のような強気な戦い方ができないのです。

したがって、第7図から羽生棋聖は△2四飛と自重します。以下、▲3四歩△3五歩▲同飛△2六飛と進みました。現環境は[飛車交換=先手勝ち]というルールなので、後手は自分だけ飛車が敵陣に侵入できる局面を作りました。

△2六飛に対し、山崎八段は▲3三歩成△2九飛成▲3九歩△3三銀▲7三馬で着々と戦力を蓄え、終盤戦に備えます。そして、この局面が本局最大の勝負所でした。(第8図)

NHK 8

ここで羽生棋聖は△3四歩と打ちました。飛車を追い払って△3九竜を実現させる意図ですが、この手が敗着になりました。なぜなら、▲7四馬が絶好の一手になったからです。

▲7四馬は自陣に利かしながら竜取りで、なおかつ▲6四桂を見せた一石三鳥の一着です。
このやり取りで、後手は9一で遊ばせていたはずの馬に桂を取られた挙句、攻防の要となるポジションに移動されてしまいました。これはあまりにも失点が大きく、後手は挽回困難な局面になってしまいました。

遡って、第8図では△7三同銀▲同角成△7二香と受けに回り、▲7四馬だけは阻止することが急所でした。これなら、まだまだ難しかったでしょう。

▲7四馬に対し、飛車交換は後手不利なので△1九竜と逃げましたが、これは一手パスのようなものなので、辛い限りです。山崎八段は飛車を逃げずに▲7三歩と踏み込みます。ここが決め所と見ている訳で、好判断でした。

▲7三歩に銀を逃げると▲6五飛が幸便なので、後手は△3五歩と飛車を取る一手ですが、▲7二歩成で後手陣は受けの利かない形です。(第9図)

NHK 9

なぜ、これで後手は受けが利かないのかというと、△7二同金と応じても▲6四桂から金を取られてしまうからです。先手は攻め駒が豊富にあるので、後手は受けに回ってもキリがなく、焼け石に水です。よって、後手が逆転するには、攻めに転じる方がまだ可能性があります。

羽生棋聖は△3九竜▲5九桂△4九銀と先手玉に詰めろを掛けます。敵玉付近の金を攻める基本に忠実な寄せですが、▲4八銀が強気な受けの決め手でした。△5八銀不成▲同玉△2八飛と玉を引っ張り出されながら攻められるので危なく見えますが、山崎八段は▲3八桂で受け切っていることを見切っていました。(第10図)

NHK 10

▲3八桂を打つことにより、3九の竜取りになっていますね。しかし、ただ竜を逃げるようでは▲6一とで後手敗勢です。したがって、羽生棋聖は△3八同飛成▲同馬△同竜と迫りましたが、その局面は先手玉への詰めろが途切れています。山崎八段は悠悠と▲6一とで金を取り、後手玉に詰めろを掛けます。

羽生棋聖は△4四歩で玉の退路を作りましたが、▲5五桂が「玉は包むように寄せよ」という格言通りの一手で、先手の勝ちは揺るぎません。以下、△1四角▲4七銀打と進んだ局面で、羽生棋聖の投了となりました。(第11図)

NHK 11

第11図で後手が詰めろを受けるには△4二玉しかありませんが、▲2一飛と打てば必至です。対して、先手玉には詰みがないので投了は致し方ありません。

【本局の総括】

・序盤は後手の駒組みが巧みだった。急戦と持久戦の両方に対応できる布陣を作り、ペースを握る。

・後手には中盤で大きなチャンスがあり、第4図から△6四角を打てば、はっきり優勢だった。

・危機を脱した先手は駒得を主張にして徐々に形勢を盛り返し、終盤の入り口では互角以上の局面になった。

・後手は第8図からの△3四歩が敗着。▲7四馬を実現してからは、先手の勝ち筋に入った。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

 

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