~臨機応変の構想力~ 第67回NHK杯解説記 豊島将之八段VS佐藤和俊六段

今週は豊島将之八段と佐藤和俊六段の対戦でした。

豊島八段は居飛車党で、攻め将棋です。数年前は攻守のバランスが均等で、穏やかな棋風という印象でしたが、ここ最近は攻撃的な将棋に変化しており、先後に関係なく、先攻することを重視しているように感じます。
二回戦では木村一基九段と戦い、峻烈な寄せを決めて三回戦へ勝ち進みました。

佐藤六段は振り飛車党で、どちらかと言えば攻め将棋でしょうか。攻め将棋といっても過激に攻めるタイプではなく、じっくり力を溜めてから仕掛けるタイプで、丁寧な棋風という印象があります。
二回戦では宮田敦史六段と戦い、中盤で得たリードを着実に広げて勝利し、三回戦へと進出しました。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯3回戦第2局
2017年12月3日放映

 

先手 豊島 将之 八段
後手 佐藤 和俊 六段

 

初手から▲2六歩△3四歩▲7六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲6八玉(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

NHK 1

後手番の佐藤六段はノーマル三間を採用しました。対する豊島八段は、持久戦調の駒組みをしています。当然ながら、穴熊に囲うことを目標にしていますね。

後手は三間飛車と藤井システムを掛け合わせたような陣形をしており、これは佐藤六段が得意にされている作戦です。
通常の藤井システムだと、▲5七銀型から▲3五歩△同歩▲4六銀という急戦策が厄介ですが、三間飛車にしていることで、その仕掛けに備えている意味があります。反面、藤井システムの切り札である△4五歩と角道を通した際には、飛車が4筋にいないので攻めが連動しておらず、少し迫力に欠けるきらいがあります。

要するにこの作戦は、パラメーターを防御に分配した藤井システムと言えるでしょう。

相手の攻撃力が低いのであれば、穴熊を作りに行って「攻めて来い」という態度を取るのが自然です。よって、豊島八段は第1図から▲8八玉△7四歩▲9八香と指しました。対して、佐藤六段は△7三銀と上がります。この手を境に、局面の性質が大きく変わりました。(第1図)

NHK 2

7二の銀は美濃囲いの骨格なので、本来は動かすべき駒ではありません。しかし、後手は美濃囲いに組んだところで、先手の居飛車穴熊には堅さでは劣ってしまい、平凡な駒組みでは勝ちにくい将棋になってしまう懸念があります。

第2図の△7三銀は、対抗系の将棋で分が悪いのならば、いっそのこと相居飛車系統の将棋にしてしまった方が戦いやすいのでは?という思想に基づいた一手です。

後手が銀を繰り出してきたので、豊島八段は穴熊に潜らず▲5七銀と上がります。これは後の△6四銀に▲6六銀を用意した意味です。将棋には「角には角で対抗せよ」という格言がありますが、これは銀や桂などの他の駒でも同様です。基本的に同じ駒で対抗する形を作っておけば、潰れることはありません。

佐藤六段は▲5七銀に△9三香▲6六銀△9二飛と三間飛車から雀刺しへと組み替えました。それに対して▲6八角△3二金▲7八銀と美濃囲いを選んだのが臨機応変の構想でした。(第3図)

NHK 3

穴熊は最強の囲いではありますが、第3図では後手が9筋に照準を合わせているので、玉をそこへ配置するのは得策とは言えません。また、先手は攻めの形を作る必要があり、それに手数を費やしたいので囲いはお手軽に済ませたいところです。そのような理由から豊島八段は穴熊を捨てて美濃を選んだのだと思われます。

後手は先手とは対照的に、攻めの形は作れているものの、囲いがまだ未完成です。佐藤六段は玉を固めるべく、△4二玉と上がりました。ただ、個人的には△5四歩~△4二角を優先して、角を使いやすい状態にしておくことが急務だったのではないかという印象を受けました。というのも、▲3六歩△5二金▲5五歩△6四銀▲5七金△7三桂▲4六金5筋の位を取って、金を繰り出した先手の構想が秀逸だったからです。(第4図)

NHK 4

第5図をご覧いただくと、後手の角がどこか窮屈な感じがしないでしょうか?5五の歩が障害物となっているので、△4五歩と突き捨てても、この角はなかなか活躍できません。

第5図から後手が動くのであれば、△7五歩▲同歩△8五桂と端を狙う手はありましたが、やや強引な順でもあるので佐藤六段の棋風ではないのかもしれません。本譜は△3一玉と引きましたが、▲3五歩と先手は自然に仕掛けることができました。以下、△4二角▲8六歩と進みます。仕掛けた後に自陣に手が戻るのは妙な手順に見えるかもしれませんが、▲8六歩は△8五桂からの端攻めを緩和する非常に価値の高い一手です。なお、先に▲8六歩を突いてしまうと△2二玉と上がられ、▲3五歩△同歩▲同金△3四歩のときに▲2四歩を突くことができません。何気ない所でしたが、▲3五歩~▲8六歩は繊細な組み合わせでした。(第5図)

NHK 5

佐藤六段は先手からの攻めに備えて、△3三金と上がります。やや歪な格好ですが、雁木の受け方の常套手段です。以下、▲3四歩△同銀▲8七銀△3二玉▲7八金△8四歩と互いに陣形を整えて、来たるべき決戦に備えます。その局面の形勢判断をしてみましょう。(第6図)

NHK 6

まず玉型ですが、これは先手に軍配が上がります。理由は先手の銀冠の方が金銀の連結が良いことと、先手にはいつでも▲3五歩と押さえて位を取る手が残っているからです。

駒の損得は五分ですね。

駒の働きは、角に注目してください。先手は攻防に利いていますが、後手は受け一方ですね。ただし、攻めの桂に関しては、後手の方が一足先に3段目へ活用できています。微妙なところですが、角と桂では前者の方が強い駒なので、効率も先手に分があると見たいですね。

総括すると、玉型の差が大きく、先手の方が勝ちやすい将棋であると言えます。

先手としては、後手側の唯一の主張である7三の桂を咎めることができれば理想的です。したがって、豊島八段は▲7五歩と桂頭を攻めました。△同歩は▲7四歩△6五桂▲7三歩成で後手がまずいので、佐藤六段は△8五歩と紛れを求めましたが、▲7四歩△8六歩▲同銀△6五桂▲8四歩と上部を開拓して、先手が優勢になりました。後手は▲7三歩成と▲8三歩成を同時に防ぐことができません。このように、相手の主張を潰すと形勢に差をつけることが期待できるので、応用してみると良いでしょう。(第7図)

NHK 7

後手は手をこまねいていると、先手陣の上部がどんどん手厚くなってしまうので遮二無二、暴れるよりありません。佐藤六段は△7七歩▲同桂△同桂成▲同金△9六歩▲同歩△同香と攻め立てますが、▲9七歩が冷静な対応。代えて▲9六同香と応じるのは、△同飛▲9七歩△8六飛▲同金△8五香▲同金△7六桂という攻め筋を与えて危険です。先手は▲8三歩成を飛車取りで実現させたいので、9二の飛を捌かせる順は感心しません。

▲9七歩に対して、佐藤六段は△同香成▲同銀△7六歩と攻め続けます。▲同金なら△7五歩から銀を持ち駒に加える狙いです。豊島八段はそれを回避するために、▲8六金とかわしました。自玉付近に垂れ歩が残りますが、こうすれば後手に手駒を増やされる心配はありません。このように、相手の攻め駒を簡単に捌かせないことが、攻めを停滞させるコツです。(第8図)

NHK 8

第6図から攻めの継続が難しくなった佐藤六段は△5四歩と角道を開けましたが、ここで一手緩むようでは辛い限りです。手番を得た豊島八段は▲8三歩成と待望の一手を指します。△9四飛はやむを得ない一手ですが、この交換は先手が大いに得をしました。条件が良くなった先手は頃は良しと見て、▲3五歩△4三銀▲3四桂と後手陣へ襲い掛かります。▲3四桂に角を逃げるようでは▲2四歩~▲2二歩で焼け石に水なので、△3四同金▲同歩△7五桂と攻め合いに活路を求めますが、自陣を顧みずに▲3三香と踏み込んだのが明るい大局観でした。(第9図)

NHK 9

玉を逃げるようでは話にならないので、△3三同桂▲同歩成までは必然です。そこで後手が自玉の安全を重視するのであれば、△3三同角なのですが、角の利きがそれると▲7五銀と桂を払われてしまいます。以下、△同銀▲同金△7七銀▲同角△同歩成▲同玉△3九角と両取りを掛けても、▲8六銀がピッタリの受けで先手勝勢です。(A図)

NHK A

7五の桂に紐を付けるために、本譜は△3三同玉と応じましたが、玉が露出したので▲2四歩△同歩▲3五金が厳しい追撃となりました。2四の利きの数が3対1なので、後手は次の▲2四金を防ぐ術がありません。

受けの無い佐藤六段は△8七歩▲7八玉△7七香と先手玉へ迫りますが、▲同銀△同歩成▲同玉が自陣に嫌味を残さない的確な対応です。終盤では、自玉が下段に落とされないようにするのが肝心です。特に、本局のような上部が拓けている場合では尚更です。(第10図)

NHK 10

次に▲7六玉と立たれてしまうと、後手は先手玉を捕まえることが不可能になってしまいます。よって、佐藤六段は△6五銀と上がって上部脱出を防ぎましたが、貴重な手番が先手へと渡りました。豊島八段は▲2四金△3二玉▲2三金△4一玉▲3三桂△5一玉▲7三歩成と敵玉を追い落としながら挟撃態勢を作り上げ、寄せ切ることに成功しました。(第11図)

NHK 11

第11図で、後手玉は▲4一金以下の詰めろ。先手玉は下段の土地が広く、まだまだ安全です。佐藤六段は△7六歩▲7八玉△7七銀と追いすがりましたが、これは形作り。▲6九玉△6八銀成▲同飛と王手の掛かりにくい対応をして、先手勝勢です。(第12図)

NHK 12

安泰の先手玉に対し、後手玉は風前の灯で大勢は決しています。本譜は△3三角▲同と△7七歩成と指しましたが、▲6二金△同金▲4二銀で即詰みに討ち取り、豊島八段の勝ちとなりました。

【本局の総括】

・序盤は先手が上手く立ち回った。後手は角が使いにくい将棋になったのが痛かった。

・第4図から多少、強引でも△7五歩▲同歩△8五桂で先攻してしまう方が実戦的だったと思う。本譜は先手に主導権を握られてしまった。

・第6図から▲7五歩と桂頭を攻めたのが好着想。後手は薄い玉型で攻めさせられる辛い展開に。

・優位を掴んでからは、先手が危なげなく勝ち切った。本局は豊島八段の快勝譜。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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