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~天衣無縫の玉さばき~ 第67回NHK杯解説記 山崎隆之八段VS青嶋未来五段

今週は山崎隆之八段と青嶋未来五段の対戦でした。
山崎八段は居飛車党で受け将棋。定跡型は好まず、力戦型に誘導することが多いですね。 独特な感性の持ち主で、なるほどと感心する構想を披露することも多いアイデアマンです。

二回戦では羽生善治棋聖(当時)と戦い、得意の相掛かりで勝利をつかみ取りました。

 

青嶋五段は、オールラウンダーで攻めの棋風です。飛車を振るときは先手中飛車か四間穴熊が多いですね。鋭さと粘り強さを兼ね備えた将棋で、終盤のゴチャゴチャした局面を抜け出す技術が高い印象があります。

二回戦では屋敷伸之九段と戦い、俊敏な寄せで敵玉を仕留めて三回戦へ進出しました。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯3回戦第6局
2018年1月14日放映

 

先手 山崎 隆之 八段
後手 青嶋 未来 五段

 

初手から▲4八銀△3四歩▲3六歩△8四歩▲7八金△8五歩▲3七銀(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

初手▲4八銀、3手目▲3六歩と意表の立ち上がりでしたが、第1図の局面まで進むと、おおむね自然な局面になりました。定跡型ではありませんが、相掛かりのような将棋です。また、二回戦の羽生戦と同様に▲3七銀と繰り出す駒組みをしていて、これが山崎八段のマイブームのようです。

ここではどのように指しても一局ですが、先手が早繰り銀の形を見せているので、△4一玉~△3一玉と玉を深く囲うような駒組みは利点が乏しそうです。玉を囲うのは基本中の基本ですが、この場合は玉が戦場に近づくリスクが高いですね。

青嶋五段は△8六歩▲同歩△同飛▲6九玉△7六飛と横歩を取りました。先手の早繰り銀が起動する前に、足早に動いてポイントを上げる狙いです。(第2図)

NHK 2

このまま漠然と駒組みを進めると、先手は歩損の分だけ作戦負けに陥りそうです。基本的に歩損している方は、その代償に手得を主張するような局面を作ることがセオリーです。この局面だと、7六の飛にフォーカスをあてる事が急所で、次に△8六飛と定位置である8筋に1手で戻られてしまうと、あまり手得を主張できません。よって、山崎八段は▲7七角と上がりました。以下、△7四飛▲8八銀△8四飛と進みます。この進行なら後手が8筋に飛を戻すために2手費やしてくれたので、△8六飛を許さなかった甲斐がありますね。また、持ち歩を節約して8筋を受けれたことも地味に大きいです。(第3図)

NHK 3

先手は持久戦になると歩損が祟りそうなうえに、手得がぼやけてしまいます。したがって、さっさと戦いにして、後手陣の立ち遅れを咎める方が正しい方針です。山崎八段は▲2四歩△同歩▲4六銀で攻め駒を繰り出します。先述の理由により、玉を2~3筋に囲うことが危険な後手は△5二玉▲3七桂△7二金と中住まいを選びますが、▲3三角成と角を交換して、先手は動き続ける姿勢を見せます。(第4図)

NHK 4

後手は銀で取るか、桂で取るかの二者択一ですが、△3三同銀だと▲4五桂△4四銀▲7七桂から二枚の桂を活用されて中央を狙われるのが実戦的には嫌らしいですね。▲4五桂を阻止するために、青嶋五段は△3三同桂を選びました。桂で取ると▲2四飛△2三歩▲2九飛で歩を回収されてしまいますが、△8六歩が期待の一手。次に△6五角や△8七角を狙って、先手陣にプレッシャーを掛けています。相居飛車は飛車が敵玉の囲いを直射しているので攻撃力が高く、相手の攻めを完全に受け切ることは基本的に期待できません。なので、このように受け一方ではなく反撃できる形を作っておくことが大切です。(第5図)

NHK 5

既にこの局面で山崎八段は30秒将棋です。しかし、それに動じることなく▲7七桂が本筋の一着。△6五角を防ぎながら▲8五歩を打てるようにしています。

対して、青嶋五段は△3五歩と歩を突き捨てました。これは攻めというよりも、自分の桂頭攻めを防いだ受けの一手です。少し言葉が足りないと思うので、補足します。

後手陣は左辺が壁になっているので、喉から手が出るほど△6二銀と上がって玉型を強化したい所です。しかし、悠長なことをしていると▲5六角~▲3五歩~▲3四歩で3三の桂を狙われてしまいます。
ところが、面白いことに後手から△3五歩を突くと、先手の攻めは停滞するのです。▲同歩は△3六歩があるので▲同銀と応じることになりますが、そうなると歩越し銀の形となり、歩がぶつからないので▲3四歩を打つ手が消えるからです。歩越し銀の状態から▲4六銀~▲3五歩と指しても、△3六歩を打たれるので(これが歩を消した効能)、先手は3三の桂を歩で攻めることができません。


つまり、△3五歩は邪魔駒消去のような理屈なのです。敢えて桂頭の歩を捨てることで、弱点をケアする非凡な着想でした。
△3五歩には、平凡に▲3五同銀も有力でしたが、山崎八段は▲6六角と打ちました。ただ、△2四飛▲2五歩△6四飛▲3五銀と進んだ局面は、単に▲3五同銀と応じた局面と比較すると角を質駒に入れられているので、先手は怖い状況です。(第6図)NHK 6ここで後手が良さを求めに行くのであれば△7六角と攻め駒を設置して、次に何でも△6六飛~△8九角の強襲を狙う手はあったでしょうか。しかしながら、囲いが万全ではない状態で踏み込むのはリスキーなので、実戦心理としては選びにくそうではあります。青嶋五段は△6二銀と待望の一手を指しました。ただ、一手緩んでくれたので先手も▲4八金と自陣を整備して一安心です。以下、△5一銀右▲8七歩△同歩成▲同銀△7四飛▲5八玉と陣形を立て直して、先手陣は見違えるような好形へと変身しました。(第7図)

NHK 7


第7図は駒の損得はないものの、銀が五段目まで進出して攻めの形が作れている先手に対し、後手は歩越しの飛車が負担になっていて、やや息苦しい配置になっています。攻め駒の効率に差が着いているので、先手が指しやすいと言えるでしょう。
不本意な展開になってしまった青嶋五段ですが、ここから巧みな指し手で上手く局面を混沌化させます。まずは△9四歩

▲3八金△9三桂眠っている桂を活用します。先手は初志貫徹に▲2四歩△同歩▲同銀で2筋の突破を目指しますが、△2五歩▲3五銀△5四角が独特な一着。8筋方面に角を利かすことで、△8五桂▲同桂△8六歩や△8六歩▲同銀△7六飛といった攻め筋をより厳しくした意味があります。山崎八段はそれらを警戒して▲8六歩と先受けしましたが、△3四歩▲4六銀△3六角ともたれて▲2五桂を受けることができました。(第8図)

NHK 8

長手順進めてしまって恐縮ですが、それは第7図と第8図を比較してご覧になってほしかったからです。何だか後手ばかり指し手が進んでいるように見えませんか。このような状況を呼び込んだ遠因は、△9三桂を跳ねることにより、常に△8五桂~△8六歩の筋を見せていたことだと思います。遊び駒を使うことの重要性を改めて感じさせられますね。

形勢容易ならずと見た山崎八段は、第8図から▲4五桂と勝負手を放ちます。以下△8五歩▲3七歩△4五角▲同銀△同桂▲1一角成と強引に角を詰ましながら3三の桂を移動させることで、角銀交換の駒得+馬という戦果を挙げました。

しかし、これはかなりの危険が伴う手順です。なぜなら、(Ⅰ)後手に銀桂を渡し、(Ⅱ)3三の桂を急所に跳ねさせ、(Ⅲ)金銀4枚の堅陣相手に攻めるターンを渡しているからです。普通はこれだけの好条件を相手に揃えさせる取引はしないものです。虎穴に入らずんば虎子を得ずといったところでしょうか。(第9図)

NHK 9

当然、ここからは青嶋五段の猛攻が始まります。口火として△8六歩を取り込み、▲同銀△6五桂で玉頭を狙います。7七の桂が利いている場所ですが、▲6五同桂には△7八飛成があるのでこの桂は取れません。▲4八金はこの一手の受けですが、△7六飛▲8七金△5七桂成右▲同金△5六銀が迫力ある攻めで、後手のパンチがヒットしたようにも思えます。(第10図)

NHK 10

しかし、▲6九桂が粘着力のある受け。何はともあれ△5七桂成▲同桂で金を取りますが、後手は飛車取りが残っているので非常に忙しい状況です。

その局面で△7四飛とただ逃げるような手は、▲6六馬と引かれて大損してしまいます。△7四飛はマイナスを避けただけの手ですが、▲6六馬は玉を堅めながら銀取りの先手になっているので、計り知れないプラスの手です。目標が見えにくい漠然とした局面ではマイナスを避ける手は立派な手ですが、終盤では敵玉を寄せる(詰ます)という明確な座標があるので、それに合致するプラスの手を指していく必要があります。
よって、▲5七同桂の局面では「終盤は駒の損得よりもスピード」という格言通り、△8六飛▲同金△3八銀と踏み込むのが最善です。以下、▲2八飛△4七銀引成▲6九玉△5七成銀▲5九香と進みました。寄せ切るのか、凌ぎきるのか、非常に際どい場面です。(第11図)
NHK 11

先手玉は風前の灯ですが、後手も攻め駒が豊富ではないので、いきなり寄せてしまうような攻め筋はありません。よって、青嶋五段は△8五歩から戦力を蓄えます。以下、▲同桂△同桂▲5七香と進んだ局面が運命の分かれ道でした。(第12図)

NHK 12

本譜は自然に△5七同銀成と指しましたが、この手が敗着になりました。

ソフト曰く、この局面では香を取らずに△6七銀成が寄せの好手とのことです。以下、▲8一飛△7七桂打▲5九玉△5七成銀が△4七桂以下の詰めろで受けにくいのです。(A図)

NHK A

A図から▲4九玉と早逃げしても、やはり△4七桂が厳しく、後手に分のある終盤戦でした。

要するに、先手玉を7八の地点へ逃がさないことが急所だったので△6七銀成が正着という理屈なのですが、この手は人間にはかなり浮かびにくい一手です。なぜなら、▲5九香と打たれたときの局面で、▲5七香△同銀成の2手一組を想定してしまうから。そして、本譜の△5七同銀成を選んでもハッキリ負けのようには見えないからです。

△5七同銀成でも先手玉は危ないようですが、▲8一飛とこのタイミングで反撃に転じたのが素晴らしい見切り。この手は詰めろではありませんが、自玉に詰めろは続かないので攻め合いで勝てると踏んだのです。(第13図)

NHK 13

▲8一飛に対して△6二金と受けに回ると、▲8五金と桂を払われてやや攻めが細い印象です。[▲8一飛△6二金]の交換が入ったことにより、先手は8筋が手厚くなって、安全圏になっているからです。青嶋五段は8五の桂が生き残っている内に寄せに出ないと勝機が無いと見て、△5六桂▲7八玉△6八桂成▲8七玉△6七成銀と迫りますが、この手は詰めろではありません。なので、▲6一角△4一玉▲7二角成で先手が一手勝ちです。(第14図)

NHK 14

後手玉には▲5二銀以下の詰めろが掛かっています。青嶋五段は△7七桂成▲同馬△同成銀▲同玉と馬を強引に消すことで詰めろを解除しましたが、先手は玉が広くなったので相手の攻めを充分に余せる局面です。以下、△6五桂▲6八玉△4六角▲6七玉△5七角成▲7六玉△7七金▲6五玉△6四香▲5五玉と華麗な玉さばきを見せて、はっきり先手の勝ちとなりました。(第15図)

NHK 15

第15図では、後手は駒がなく、次に▲6三馬とされると先手玉は捕まりません。実戦はこの局面で終局となりました。

【本局の総括】

・序盤は先手の模様が良い。後手は上手く攻めの形を作ることができなかった。

・第8図から▲4五桂で強引に角を詰ましにいったことから、局面が流動的になった。そこからは、先手の凌ぎVS後手の猛攻という構図に。

・攻めている後手が実戦的には勝ちやすそうに見えたが、先手は随所に良い受けが出ており、先手は容易に崩れなかった。

・後手は第12図で△6七銀成が正着。ただ、これは机上の空論という気もする。それよりも、危険そうに見える自玉を放置して、▲8一飛と攻防手を放った手が素晴らしかった。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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