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~負けの無い形を作る~ 第67回NHK杯解説記 畠山鎮七段VS菅井竜也王位

今週は畠山鎮七段と、菅井竜也王位の対戦でした。

畠山七段は居飛車党で、奇をてらうようなことはしない正統派の将棋です。猛烈な攻め将棋で、成立するかどうか際どい手順を、深い読みでカバーして実現させる印象があります。
二回戦では広瀬章人八段と戦い、仕掛けで得た優位をずっと維持する安定感のある指し回しで三回戦へと進出しました。

菅井王位はベースは振り飛車党ですが、居飛車系統の将棋も指しこなすことができる棋士です。攻め将棋で駒の損得よりも効率を重視する棋風ですね。
二回戦では橋本崇載八段と戦い、細い攻めを上手く繋いで勝利をつかみ取りました。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯3回戦第8局
2018年1月28日放映

 

先手 畠山 鎮  七段
後手 菅井 竜也 王位

 

初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

NHK 1

戦型は横歩取り。畠山七段は勇気流を採用しました。右桂の活用を優先する駒組みが特徴的で、すこぶる攻撃的な戦法です。

第1図の局面で後手には多くの候補手がありますが、菅井王位は△7六飛▲3六歩△8六飛▲3七桂△2二歩という手順を選びました。これを指したことにより、
(Ⅰ)7六の歩を刈り取ることで△7六桂と打つ傷を作った。
(Ⅱ)△2二歩を打つことで▲2二歩△同銀▲4五桂という攻め筋を消した。▲4五桂に△4二角と引けるようになった。

という効果があります。どちらも受けの意味合いが強く、先手からの速攻を警戒していることが分かります。また、歩損を回収したことにより、持久戦にも対応できるようになりました。デメリットは手損ですね。

以下、▲3八銀△4一玉と互いに陣形整備を進めます。(第2図)

NHK 2

さて。まだ駒組みの途中に見える局面ですが、既に先手にとっては勝負所です。というのも、手をこまねいて△4二銀~△6二銀と中央を厚くされると先手は攻める条件がどんどん悪くなってしまうからです。後手の手損を咎める意味でも、ここは攻めることを考えるべき局面です。

しかしながら、その具体的な方法が難しい。例えば▲4五桂は△4二角で攻めになりません。また、左の桂を使うために▲8七歩△8二飛▲7七桂は考えられますが、後手は自然に△6二銀と上がるでしょう。先手は行きがかり上、▲4五桂△4二角▲6五桂と跳ねていきますが、これは無理攻めの予感がします。(A図)

NHK A

気持ちの良い跳躍に見えますが、▲6五桂が何を狙っているのか不透明な上に、△7六桂の傷を抱えているので反動がキツい印象です。A図から強気に△2三金▲3五飛△6四歩と催促されても厳しい気がします。

第2図に遡って、▲2三歩と無理やりこじ開けてしまう手はあったでしょうか。△同歩には▲4五桂。
△同金には▲3三飛成と切ってしまいます。△3三同桂は▲2四歩がうるさいので、△3三同金と応じるよりありません。そこで先手がどうするか。(B図)

NHK B

普通は▲4五桂と跳ねますが、桂は渡したくない駒なので▲7五角から馬を作る手も考えられます。この選択は棋風が表れそうですね。

形勢は難しいですが、少なくとも「中原囲いに組む」という後手の思惑は外れているので、先手は選ぶ価値があった変化のように思いました。

本譜は第2図から▲9六歩△4二銀▲7七桂△4二銀とさらに陣形整備を進めました。しかし、この応酬は前述したとおり、中央を強化したことが大きく、後手が得をしています。勇気流は素早く桂を活用することで相手にプレッシャーを与えて不自由な駒組みを強要させることが狙いの一つなのですが、本譜の進行では後手に中原囲いに囲われてしまったので作戦の趣旨と違う展開になってしまいました。(第3図)

NHK 3

攻めても効果的な戦果が見込めなさそうなので、畠山七段は▲4六歩と指しましたが、これは一手の価値が乏しく、先手にとって不本意な一着です。対して菅井王位は△4四角。▲4五桂をかわしながら△3三銀を見せた味の良い一手です。

飛車を詰まされる訳にはいかないので畠山七段は▲4五歩△5五角▲8七歩△8二飛▲2四飛△5一金▲2六飛と飛車を定位置である2筋に戻しましたが、理路整然とした後手陣に比べ、先手陣は左辺の形が歪なので失敗した感は否めません。(第4図)

NHK 4

次に▲3五歩を突ければ、飛車の横利きがすっと通ってくるので少しばかりは持ち直すことができますが、それを許す菅井王位ではありません。△8六歩▲同歩△同飛が機敏なジャブでした。飛車を六段目に配置すれば▲3五歩とは突けませんね。このように、相手の理想形を阻止する手は価値が高いと言えます。

△8六同飛に対し、畠山七段は自然に▲8七歩と指しますが、菅井王位は△4六飛と潜りこんで追撃の手を緩めません。△4九飛成▲同銀△3七角成を受けるために▲5八金はこの一手ですが、桂馬をよこせと△3五歩と打ったのがうるさい攻めです。(第5図)

NHK 5

このまま無抵抗に△3六歩を取り込ませる訳には行きませんが、▲4七銀では△3六飛!と踏み込まれて、先手陣は崩壊です。つまり、3六の地点に数を足すことは不可能なのです。

形勢が悪いときの指し方は大きく分けると二つあり、(Ⅰ)相手よりも勝る部分(主張点)を作る。(Ⅱ)問題点を改善する。このどちらかの方針を取るのが基本姿勢になります。

第5図は後手が△3五歩と打ったところなので盤面の右側に注目してしまいがちですが、本当に見なければいけないのは左下の方です。先手はこの愚形をほぐさないことには勝ち目がありません。

畠山七段は▲6五桂と跳ねて角を捌きに行きました。以下、△8八角成▲同銀△3六歩▲5五角で後手の攻めを催促します。▲5五角に△7六飛と逃げるようでは▲7七銀で損をする(手順に形を良くされるから)ので、△3七歩成▲4六飛△3八とまでは必然の進行です。

その局面は、先手は二枚替えの駒損ながらも左辺の凝り形という問題点を改善したことにより、少し差を詰めた印象を受けます。(第6図)

NHK 6

ここでは飛車の成り込みを狙う▲8六飛が第一感で、当然、畠山七段もその予定だったはずです。ただ、それには△5四銀が気になる一手です。▲7七角△6五銀▲8一飛成△7六桂が変化の一例ですが、それは7七の角の働きが良いとは言えず、少し物足りない感覚を覚えます。

そこで畠山七段は、第6図から▲2三歩と打ちました。△同歩は▲1一角成がありますし、△3三歩は後手陣の2・3筋が壁になるので▲8六飛がより効果的になります。5五の角が追われないうちに一仕事させた方が良いと判断した訳です。

しかし、そうは問屋が卸しません。▲2三歩を無視して△3七角が相手の言い分を通さない好手でした。(第7図)

NHK 7

▲2三歩を打ったからには▲2二歩成△同金▲同角成と取れないと辻褄が合わないのですが、△4六角成で飛車を取られるので成立しません。しかし、それが指せないとなると直前に指した▲2三歩が無効化されたのと同義なので、先手は一手を無駄にした計算になります。急所の局面での一手パスは致命的で、形勢の針は菅井王位に傾きました。

畠山七段は気を取り直して▲2二歩成△同金▲2三歩△3二金▲3三歩△同銀▲4四歩と攻め立てますが、▲8六飛~▲8一飛成という進行と比較すると攻め駒が補充できないので、やや心細い攻めと言えます。駒損という問題点を解決できないのが辛いですね。(第8図)

NHK 8

第8図から△4四同銀▲2二歩成△同金▲4四角△同歩▲同飛△4二歩▲4三歩と進みます。先手が肉薄しているようですが、△4三同歩▲同飛成△4二銀とあっさり竜を作らせて弾くのが好判断。「大駒は近づけて受けよ」の応用です。

先手は竜を逃げたくないですが、残念ながら後手玉を一瞬で仕留めるような手はないので▲4七竜はやむなき撤退です。しかし、これでは第8図からの攻めが成功しているとは言えず、先手にとって苦しい情勢となっています。(第9図)

NHK 9

ここで△4六桂が竜の利きを遮りながら金を攻める一石二鳥の攻め。このような一手で複数の意味を兼ねる手は、概ね悪手にならないと言えます。積極的に狙っていくと良いでしょう。

畠山七段は▲7九玉と早逃げで粘りに出ますが、△2五角が手堅い一手。先手の竜や金を狙っていますが、真の意味は玉頭を手厚くすることで、負けの無い形を作ることです。

次は△4七角成~△4九飛が痛烈なので、本譜は▲8九玉とさらに避難しますが、△5八桂成▲4五竜△3三桂▲4四竜△5九角成と着実に、にじり寄って行きます。後手としては、先手玉を仕留めるのに難しい技を使う必要は無く、成駒を近づけていくのが最短の寄せです。形勢が良いときは奇策に走らず、平凡な指し手を積み重ねることが肝要です。(第10図)

NHK 10

先手は△6八成桂を防ぐ術が無いので、攻め合いに希望を託すしかありません。畠山七段は▲2三歩△3二金▲2一飛と迫りますが、△3一金打が鉄板の受け。先ほどの△2五角と同様で、負けの無い形を作る方針を継いでいます。

△3一金打に対しては▲1一飛成と逃げるより無いところですが、△6八成桂▲7七金△2一歩▲2二歩成△同金寄と2筋にバリケードを築いて、1一の竜を完全に封じ込めます。やはり、負けない形を作る方針を貫いていますね。(第11図)

NHK 11

2筋からの攻めは効果的ではないと見て、畠山七段は▲5六香と5筋から攻略を目指します。しかし、△8六歩がそれよりも厳しい合わせの歩。後手は△6九角成と成る手が切り札なので、8七や7八の地点を狙うのが急所なのです。

△8六歩に▲同歩は△8七歩でヤブヘビなので、本譜は▲5三桂不成△同銀右▲同香成と突貫しましたが、一旦△4三歩が万全を期した一着。▲4二成香△同金左▲2四竜は必然ですが、これで後手は自玉をゼットにしながら香を手駒に加えることができました。以下、△8七歩成▲同金でいよいよ仕上げに掛かります。(第12図)

NHK 12

後手は▲2二竜上が来ると厄介なので、その前に先手玉を寄せなければいけません。詰めろを掛けるのは簡単ではないようですが、△8六桂が華麗な決め手。▲同金は△7八成桂▲同玉△6九角成▲8九玉△8六馬で金が取れるので寄り筋です。

本譜は▲7九歩と抵抗しましたが、△6九角成で状況は五十歩百歩です。先手は▲8六金と桂を取るしかなく、△7九成桂▲同銀△8六馬でやはり金を取ることができました。(第13図)

NHK 13

先手玉は△8八歩▲同銀△7八金や、△7九馬▲同玉△6八金といった詰めろが掛かっています。受けるとしたら▲8八銀打くらいですが、△8七歩で必至です。対する後手玉は有効な攻めがありません。

もはや手の施しようが無いので、この局面で畠山七段の投了となりました。

【本局の総括】
・序盤は先手が動くべきところで緩慢と駒組みをしたので、後手満足の立ち上がりとなった。
・中盤は堅陣を活かして後手が軽快に攻めていたが、左辺の遊び駒を捌いたのが良い頑張りで、先手が上手くしがみついた。
・第6図から▲2三歩が逸機。代えて▲8六飛と回りたかった。本譜は△3七角が痛打で、ハッキリ後手良しに。
・優位を掴んだ後手は、負けの無い形を作ることで勝利を確固たるものにした。菅井王位の手堅い指し回しは付け入る隙がなかった。
それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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