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~攻めるは守るなり~ 第67回NHK杯解説記 菅井竜也王位VS郷田真隆九段

今週は菅井竜也王位と、郷田真隆九段の対戦でした。

菅井王位は本質的には振り飛車党で、自分から動いていくことが多いアクティブな棋風です。駒の損得よりも効率を重視する傾向があり、序盤の段階から全ての駒を使うことを意識されている印象を受けます。
三回戦では畠山鎮七段と戦い、横歩取りで先手の勇気流を撃退して準々決勝へ勝ち進みました。

郷田九段は生粋の居飛車党で、棋風は攻めです。並のプレイヤーなら「まぁ、このくらいでいいかな」と大らかに構える場面でも、妥協せず強気な対応を選ぶことが多いイメージがあります。
三回戦では増田康宏四段(当時)と戦い、雁木を攻略して勝利しました。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯準々決勝第4局
2018年2月25日放映

 

先手 菅井 竜也 王位
後手 郷田 真隆 九段

 

初手から▲5六歩△3四歩▲5八飛△1四歩▲1六歩△3二飛▲7六歩(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

NHK 1

初手▲5六歩を見て、郷田九段は相振り飛車志向で三間飛車を選びます。対する菅井王位は玉を左に囲って力戦型に誘導しました。こちらの記事でも紹介している、このところ菅井王位が多用している作戦です。

第1図では△6二玉から美濃囲いに組むのも普通ですが、郷田九段は△7四歩▲4八銀△7三銀と銀を繰り出しました。これは船囲いを縦から攻め潰そうという意思の表れで、非常に積極的な駒組みです。

△7三銀以下、▲5六飛△5二飛と進みます。後手は飛車を振り直して手損ですが、美濃囲いの骨格を崩しているので、玉が4筋方面へ移動することは確定しています。その際、飛車が3二にいると悪形なので、この手損は必要経費です。(第2図)

NHK 2

相手が玉頭を攻めて来ることは火を見るよりも明らかなので、菅井王位は▲5七銀△3二金▲6六銀で上部を強化します。以下、△4一玉▲3六歩△6四銀▲3七桂△5一金と互いに陣形整備を進めます。

全く、前例のない未知の将棋ですが、両者共に「玉を金銀3枚で囲う」「遊び駒を作らない」といったセオリーをきちんと押さえていることに注目してほしいです。これはどんな戦型でも共通ですね。(第3図)

NHK 3

さて。第3図を眺めてみると、先手はまだ効果的に機能していない駒があります。そう、8八の角ですね。現状では角道が二重に止まっているので、この位置で活躍させることは難しそうです。よって、菅井王位は▲7七銀上と指しました。狙いは後述します。

先手の角の利きが途絶えた隙を突いて、郷田九段は△5四歩▲同歩△同銀と中央から動きますが、そこで▲3五歩△同歩▲7九角が菅井王位の描いていた構想でした。3五に角が出る形が約束されたので、先手は懸念材料を一つ解消できた格好です。(第4図)

NHK 4

▲7九角は次の▲3五角と2手一組なので、それを許さないために△5五銀直と攻める手は有力に見えるかもしれません。しかし、それには▲同銀△同銀▲同飛△同飛▲4六角と切り返されて、後手が不利に陥ります。(A図)

NHK A

飛車を逃げるなら△5二飛が自然ですが、▲9一角成→▲8一馬→▲6三馬の活用が絶品で先手優勢です。また、A図で△4五歩もありますが、平凡に▲5五角△同角▲4五桂でこれも先手優勢でしょう。先手の攻め駒が躍動しています。

第4図に戻ります。

NHK 4

なぜ△5五銀直が成立しないのかというと、端的に言えば後手はまだ決戦できる状態ではないからです。したがって、郷田九段は△7三桂▲3五角△3四歩▲2六角△4二金上と力を溜めました。ここまで組めば、後手も強く戦える形です。(第5図)

NHK 5

さて。先手はそろそろ△5五銀直を警戒しなければいけません。本譜は▲6八金と上部を厚くして攻めに備えましたが、この手は緩手。代えて、▲1五歩△同歩▲1三歩と相手に攻められる前に、先攻してしまう手が有力でした。以下、△1三同香▲2五桂△1四香▲1三歩が変化の一例ですが、こうなれば先手が充分戦えます。(B図)

NHK B

▲1二歩成を防ぐには△1三同桂よりありませんが、▲同桂成△同角▲4四角と角を捌いて先手好調です。

▲6八金と上がった局面に戻ります。(途中図)

NHK stop

▲6八金も部分的には自然な手なので指してみたくはなるのですが、ここに金を配置したので△6五桂のときに対処に困った意味があります。8筋に銀が移動すると△5五銀直から中央を攻められたときに、支えきれません。金を上がらなければ▲6八銀と引けたのですが……。

 

本譜は開き直って▲1五歩と攻め合いましたが、これでは証文の出し後れで、もう相手にしてくれません。△7五歩がまさに本筋の突き出しで、後手が優位を掴みました。(第6図)

 

NHK 6

▲7五同歩と取っても、後に△7六歩を打たれる空間を作るだけなので受けに回る旨みがありません。よって▲1四歩と端を取り込みますが、郷田九段は△7七桂成▲同銀△6五銀直と駒得しながら攻め駒を前進させます。△6五銀直に▲5九飛は将来、△5六歩と打たれて飛車が無用の長物となってしまうので、▲3六飛は必然手ですが、△7六歩と玉頭に襲いかかって後手絶好調の進行です。(第7図)

 

NHK 7

ここで▲7六同銀と取れないとおかしいのですが、△3五銀▲同角△同歩▲2六飛△5六歩が好手順の攻め。先手は5筋と7筋が薄く、攻め倒される未来が見え透いています。

 

後手の銀に捌かれると勝ち目が無いと見て、菅井王位は▲8八銀と辛抱しますが、やはり△5六歩が急所。先手玉は左辺が壁なので、逆方向から攻略するのが率の良い攻めです。▲5八歩と受けさせて、△3五銀で駒得を拡大します。以下、▲同角△同歩▲同飛△4五歩と理想的な形で角道を開通させて、後手がはっきり優勢になりました。(第8図)

 

NHK 8

次に△8八角成▲同玉△4四角で王手飛車を掛ける筋を喫すると終わってしまうので、先手は▲3四桂や▲1三歩成といった手段が使えません。

仕方がないので菅井王位は▲3三歩△同角▲同飛成△同金直で強引に飛角交換に持ち込み、▲6一角と迫りました。自ら▲3四桂を消すので不本意な順ですが、致命傷を避けることが先決です。形勢が悪いときは、自分の攻め筋よりも相手の攻め筋を消すことを優先して、チャンスを待つことも必要です。(第9図)

NHK 9

後手にとって飛車は渡したくはない駒なので、郷田九段は△8二飛と逃げますが、▲7三歩と垂れ歩を設置して、やはり飛車に狙いを定めます。直前の▲6一角が飛車を取りに行った手なので、その意味に沿った手を指さなければ自分の指した手の顔が立ちません。

▲7三歩以下、△2九飛▲3九歩△1九飛成▲7二歩成△9二飛▲2五桂△3二金引と進みます。先手は駒の損得が飛車損にまで拡大しましたが、後手は二枚の飛車が遊んでいますし、攻め駒も4枚以上確保しているので先程よりは差が詰まった印象を受けます。(第10図)

NHK 10

ここで菅井王位は▲7三とと指しましたが、この手が敗着になりました。代えて、▲8一銀△9三飛▲8五桂と無理やり飛車を詰ます手が勝りました。(C図)

NHK C

不細工な手順ではありますが駒損を回復できますし、先手の狙いであった「飛車を取る」という目標を達成しているので、こちらの方が綾があったように思います。

▲7三とと引いた局面に戻ります。

NHK stop

▲7三とも飛車を狙った手ではありますが、ここで緩んでしまったので△1八竜と活用されたのが痛いのです。このように、遊んでいる大駒を戦線に復帰する手は間違いがありません。▲7三と⇔△1八竜の交換は、一手の価値が全く違うので先手は形勢を大いに損ねました。

△1八竜に対して、菅井王位は▲8三と△6二飛▲7二とで飛車を詰ましますが、△6一飛▲同と△3一玉と冷静に対応されて、はっきり余されている格好です。第10図で後手は二枚の飛車が遊んでいることが懸念でしたが、それを解消したのが大きいですね。(第11図)

NHK 11

先手には攻める選択肢しかないので▲3四桂は妥当ですが、△2四角が絶好の切り返し。自陣の防御力を高めつつ、△6八角成以下の詰めろです。

△2四角に対して、▲5九金のようなただ詰めろを受ける手では△4三金直で足りないので、菅井王位は▲4二桂成△同金▲3四飛△3三歩▲2四飛△同歩▲2三銀と強引に2四の角を排除して後手玉に肉薄しますが、△2二香が「敵の打ちたい所へ打て」という格言通りの受けで郷田九段が凌いでいます。(第12図)

NHK 12

後手玉に二段目へ上がられてしまうと寄るビジョンがなくなってしまうので、▲1三歩成はこの一手ですが、△同香▲同桂成△同桂で先手は相変わらず忙しい状況です。

そこで菅井王位は▲1九歩と小技を繰り出します。竜の利きを逸らして、後手の攻めを遅らせる意味ですが、△5七歩成が軽妙な決め手でした。(第13図)

NHK 13

この手は△6八と▲同玉△5六桂以下の詰めろなので、先手は竜を取ることができません。

自然な応対は▲5七同歩ですが、△6八竜! ▲同玉△2三香で先手は金銀を二枚取られてしまいます。この変化は▲1九歩が空振りなので、先手は選べないでしょう。

したがって、本譜は▲5七同金と応じましたが、形を乱したことに満足して、悠々と△1六竜と引き上げます。

菅井王位は▲5二角△2五桂▲4四香と追いすがりますが、平凡に△2三香▲4二香成△同玉と対処して後手玉は寄り付かない格好です。後手は中央の厚みが心強いですね。(第14図)

NHK 14

菅井王位は▲5一とと指しましたが、これは詰めろではありません。遂に後手に攻めるターンが回ってきました。△8五桂が待望の反撃です。直前の△5七歩成の効果で、7七の地点が薄くなっていることが分かりますね。

後手は豊富な持ち駒を持っているので、先手は受けても一手一手です。菅井王位は▲4一角成△4三玉▲3五金で形を作り、△7七銀を見て駒を投じました。(第15図)

NHK 15

▲6九玉は△6八香▲5九玉△3七角以下の詰み。
また、▲7七同桂は△同歩成▲同銀△同桂成▲同玉△7六竜以下、詰みです。

【本局の総括】
・序盤はほぼ互角。ただ、先手は4九の金が使いにくく、少し苦労が多いかもしれない。

第5図から▲6八金が逸機。▲1五歩から直ちに攻めるべきだった。ここで一手遅れたことが痛く、先手は形勢を損ねる。

第10図から▲7三とが悠長で、△1八竜が入ってしまっては、もう先手が勝てない。代えて▲8一銀が勝負手だった。
・一局を通して後手が悪い局面は一度もなく、郷田九段の完勝と言える内容だった。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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