藤井聡太四段から読み解く、勝利の法則

どうも、あらきっぺです。

 

先日の対局で藤井聡太四段の連勝がストップしましたが、29連勝は後世に語り継がれる残る大記録ですね。改めまして、藤井四段おめでとうございます。

私は奨励会時代、三段リーグで彼に負かされたのでその強さは体感しましたが、ここまで連勝街道を驀進するとは思いませんでした。

これだけの金字塔を打ち立てるには、何か特別な理由があるのは間違いないですよね。ニュース等では、詰将棋で培った終盤力と、将棋ソフトで磨いた大局観が強さの秘密と取り上げられていたように記憶しています。

ただ、詰将棋が得意な棋士は藤井四段の他にも多数存在しますし、今の将棋界では大多数の棋士が勉強に将棋ソフトを取り入れている(と思われる)ので、それだけが強さの理由ではないと思うんですよね。

という訳で、自分なりに藤井四段の将棋を分析してみました。

約30局ほど拝見しましたが、興味深い特徴がいくつか見つかったので、まとめてみようと思います。

※文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。

法則 その① 【桂を優先的に活用】

 

藤井四段の将棋は、先後を問わず自分が先攻できる形を目指す駒組みが多いです。そして、素早く攻めるためのキーパーソンとなる駒が桂馬です。もちろん、プロ棋士は誰しも桂を活用するのですが、藤井四段は取り分けそれの活用を重視しているように感じます。具体例を見ていきましょう。(第1図)

 

平成29年5月25日 竜王戦6組決勝 ▲近藤誠也五段VS△藤井聡太四段から(便宜上先後を反転表示)

後手が△6五桂と跳ねたところです。第1図の局面は、次に△7七歩や△8八歩、△4六飛、△5五角といった複数の攻め筋が受からず、後手の攻めが成功しています。本譜もここから一方的に攻め続けて快勝します。

もう一つ、顕著な例を紹介します。(第2図)

 

平成29年2月9日 竜王戦6組 ▲浦野真彦八段VS△藤井聡太四段から(便宜上先後を反転表示)

浦野八段は棒銀から先攻しようと目論んでいましたが、この△6五桂がそれを打ち砕きました。本譜は銀取りと5七の地点を受けるために▲6六銀(青字は本譜の指し手)と指しましたが、△8六歩から8筋を突破した藤井四段が勝利を収めます。

第1図第2図で注目して頂きたいのは、藤井四段が銀よりも桂の活用を優先している点です。どちらの将棋も、銀から活用すると相手の銀にも活躍されてしまうので、それを許さないために桂の活用を優先した駒組みをしていることが分かります。

攻めの理想形は飛角銀桂の4枚で構築します。そして、多くの棋士は桂を最後に使うことが多いです。なぜなら、桂はあまりに早く跳ねてしまうと桂頭が弱点となってしまい、そこを相手に狙われてしまうからです。しかし、藤井四段は先攻することを重視しているので、銀よりも桂を優先して動かす傾向が強い印象を受けます。

また、このような実例もあります。(第3図)

AbemaTV特別企画 炎の七番勝負第5局 ▲深浦康市九段VS△藤井聡太四段から(便宜上先後を反転表示)

先ほどとは打って変わって、相矢倉のじっくりした将棋です。このような性質の異なる戦型でも、桂を優先して動かしていますね。藤井四段が敵陣の攻略には桂の活用が必須と認識されていることが伺えます。

最後にもう一つ。(第4図)

 

平成29年6月26日 竜王戦決勝トーナメント ▲藤井聡太四段VS△増田康宏四段から

▲2九桂が遊んでいますが、▲3七桂と跳ねても効果的な活用とは言えません。よって、左の桂を使います。第4図から▲7七桂△8二飛▲6五桂△6二銀▲7五角と進みました。(第5図)

 

相居飛車では左の桂は囲いの一部なので、本来は攻めに使いません。これはレアケースですが、第3図と同様、敵陣の攻略には桂の活用が重要であることを意識されていると考えられます。

これで先手が形勢を盛り返したわけではありませんが、積極的に攻め続けたことで増田四段のミスを誘い、藤井四段が逆転に成功しました。

藤井四段の将棋には、▲4五桂や△6五桂といった符号が非常に多く出てきます。勝利への第一歩は、桂を五段目に跳ねることなのかも知れませんね。

 

法則 その② 【堅い玉型を求めない】

 

現代将棋の風潮として、「隙あらば穴熊」という戦術があります。

これは、どんな状況でも穴熊に囲える機会があれば組んでしまう。最強の囲いを作ってしまえば、多少の無理攻めでも通ってしまうので勝ちやすい、という趣旨です。細い攻めを繋げる技術が高い渡辺明竜王が得意としています。

要するに堅く囲ってガンガン攻めれば最後にはこっちが勝つでしょ、と言っているわけで、実際勝っちゃうんですよね笑

堅い玉=優秀という見解を持っている棋士は多く、玉を固める駒組みは人気が高いです。

ところが、藤井四段はそこまで玉の堅さに価値を見出していないように感じます。玉型に関しては、広さやバランスの良さを重視しているように感じます。

また、堅い玉型を作るにはある程度の手数を費やさなければいけません。必然的に攻めの態勢が整うのに時間がかかってしまい、先攻しにくくなるのを嫌っているのかもしれません。

それでは具体例を見ていきましょう。第6図をご覧ください。

 

平成29年6月17日 朝日杯一次予選 ▲藤岡隼太アマVS△藤井聡太四段から(便宜上先後を反転表示)

矢倉VS雁木の将棋です。早囲いで矢倉を作ると上部の薄さが目立つので、△4四歩→△4三金を早めに指したくなりますが、藤井四段は△7四歩▲6五歩△7三桂先に攻めの形を作ります。ここでも桂を優先して活用していますね。先手は▲6六銀右と上がりますが、△6四歩▲同歩△同角▲6五歩△8六歩▲同歩△同角▲8七歩△4二角と軽快に動いて作戦勝ちを築きました。(第7図)

 

次に△6四歩~△6五歩で位を奪回する手があるので、先手は▲7七桂と6筋を強化しましたが、端が弱くなった点を見据えて△9四歩が好着想です。悠長にしていると端攻めがやってくるので、▲3六歩と突いて攻めの態勢を整えようとしますが、コビンが開いたので△6四歩が絶好手になりました。(第8図)

 

第8図は上手く戦機を捉えた藤井四段が有利です。角や桂の働きに差があること、6筋の位が支えきれないこと、▲5八金と引き締まっていないことが形勢が良い理由です。

第6図から△4四歩~△4三金で玉を固めて駒組みを進めても悪い訳ではありませんが、△7四歩から攻めの態勢を素早く作ることで先攻することができ、有利な局面に進めることができました。囲いよりも攻めの態勢を重視する藤井四段の特徴がよく表れた手順だったと思います。

 

続いて、第9図をご覧ください。

AbemaTV特別企画 炎の七番勝負第5局 ▲藤井聡太四段VS△佐藤康光九段から。

佐藤九段得意のダイレクト向飛車です。対して、藤井四段は9筋の位を取りました。

9筋の位を取れたので、通常よりも自分の玉が広くなります。この場合は広さを強調するために8八まで玉を寄り、銀冠を作る駒組みを選ぶ人が多数派ではないかと思います。

しかし、藤井四段は▲7八玉型のまま駒組みを行い、堅さよりもバランスを重視した陣形を作ります。(第10図)

 

先手は隙の無い綺麗な形ですが、下段がスカスカしていてあまり堅い囲いには見えず、これで本当に戦いきれるのかと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。ところが、ここから3手進むと景色が一変します。▲9六銀△6四銀▲8九飛が狙いの構想でした。(第11図)

 

玉を8八へ寄らなかったことや、9筋を位を的確に活かしています。後手は次の▲8五歩からの玉頭攻めが分かっていても受かりません。

佐藤九段は△6二角と打って8四の地点に利きを足して玉頭を補強しましたが、▲4五桂と右桂を捌いたのが好手で、以降は一方的に攻め続けた藤井四段が快勝しました。

飛車の転換が成立した背景には、堅さよりもバランスを重視した駒組みを選んだことが挙げられます。金銀が偏った陣形だと、飛車を転換した後に右辺に角を打ちこまれかねません。玉周辺だけではなく、陣形全体を守り、隙の無い形を作ることでこのような大胆な構想を実現することができました。玉の堅さを過信しない藤井四段の特色が出ていた将棋だと思います。

 

法則 その③ 【中央の厚みを重視】

 

将棋は終盤に進むにつれて、敵玉を寄せることを考えなければいけません。つまり、中盤では敵陣に向かって駒を進軍させるのに対し、終盤では敵玉に向かって駒を進軍させなければいけない訳ですね。

ある程度強くなればこの理屈はすぐに理解できるので、大雑把に言えば誰だってこう指します。もちろん藤井四段も例外ではないのですが、彼の場合、敵玉を寄せる前の下準備として中央に厚みを築く手をよく指しています。まずは中央に厚みを作り、それを活かして寄せに向かうことが多いのです。

では具体例を見ていきましょう。第12図をご覧ください。

 


平成29年6月10日 叡王戦四段戦 ▲都成竜馬四段VS△藤井聡太四段から(便宜上先後を反転表示)

先手が▲9六歩と突いて飛車を詰ましたところです。

現局面は、角桂と金の交換なので後手の駒得ですが、飛車を取られることが確定しているのでゆっくりした手を指すことはできません。

敵陣の囲いを崩すなら、△6六桂が目に移りますが、藤井四段の着眼点は全く違いました。第12図から△8八と▲6八飛△8九角と指したのが盤面を広く見た手順です。(第13図)

 

先手は銀取りを防ぐと△7八と▲6七飛△6六歩から9五の飛車を生還する手が発生してしまいます。(△6六歩を先手で突くことで△6五飛の逃げ道ができる。)本譜は▲9五歩と飛車を取りましたが、△4五角成で銀を取りながら馬を作り、中央を制圧した藤井四段が勝勢になりました。(第14図)

 

4五の銀を取ったことで、△3六桂を打てるようになったのが大きいですね。先手は分かっていても、その筋を受けることができません。以下は危なげなく藤井四段が押し切りました。

 

続いて第15図をご覧ください。

 


平成29年6月21日 王将戦一次予選 ▲藤井聡太四段VS△澤田真吾六段から

後手が△6五角成と指したところです。

先手は桂得していますが、次に△5五銀を喫すると一気に形勢が苦しくなります。よって、第15図から▲5六銀は絶対手です。以下△6六馬▲5五角△同馬▲同銀でまずは後手の馬を消去します。(第16図)

 

駒損している後手は、△8六歩▲同歩△2八角▲3八飛△1九角成から駒を補充しますが、▲6四角が急所の一手でした。(第17図)

 

次に▲5四桂と打つ手が狙いです。澤田六段はそれを緩和するために△3一玉と早逃げしましたが、▲4四歩△同歩▲5三角成△4二銀▲7五馬とされて困りました。(第18図)

 

次に▲5四桂や▲4三歩が厳しい攻めです。また、馬を引き付けたことで先手陣が安全になっていることも大きいですね。第18図は先手優勢です。

 

最後に、もう一つ具体例を。第19図をご覧ください。

 


平成29年6月10日 叡王戦四段戦 ▲梶浦宏孝四段VS△藤井聡太四段から(便宜上先後を反転表示)

第19図は互いに似たような囲いで、駒の損得はなく、遊び駒もありません。そうなると手番を保持している後手の方が旗色の良い局面です。形勢の良さを拡大するためにどうするのが良いでしょうか?

まずは△6三桂▲6六角△5五金持ち駒を投資して中央を手厚くします。角が逃げると△7五歩が厳しいので▲6四歩と攻め合いましたが、△5九馬が的確な攻めです。先手は角取りが残っているので、この馬を無視する訳にはいきません。相手が手抜きできないタイミングで馬を入るのが巧みですね。(第20図)

 

梶浦四段は▲7七角と辛抱しましたが、△6八馬▲同金△2九飛が平凡ながらも厳しい一手です。底歩が打てないので止む無く▲6九桂と受けましたが、△6七歩▲同銀△8六歩▲同歩△6五金と進んでハッキリ後手が優勢です。(第21図)

 

第19図と比較すると、6・7筋に存在していた先手の厚みがずいぶん寂しくなってしまった印象を受けるのではないでしょうか。次に△6六歩や△7五桂など、分かりやすい攻め筋が残っているので、先手玉を寄せやすくなっていますね。以降も熱戦は続きましたが、藤井四段がリードを守り切って制勝しました。

3局、具体例を紹介しましたが、どの将棋も相手の囲いを攻める前に中央に厚みを作っていることが分かります。中央を押さえることによって、そこが敵陣への寄せの足掛かりになり、自陣を安全にする役割も果たしているので、それを重視しているのではないかと考えられます。

 

まとめ

 



藤井将棋の特徴を簡単にまとめると、

桂を優先して使う。

堅い玉型よりも、攻撃態勢を重視した陣形を作る。


寄せに向かう前に、中央に厚みを築く。

の三点です。

彼の圧倒的な勝ちっぷりを見ると、上記の三点は勝利の法則と言ってしまっても良いのではないでしょうか。皆さんもぜひ、参考にしてみてください。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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