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読者からのご質問にお答えします! Part1 ~菅井流三間飛車について~

どうも、あらきっぺです。

おかげさまで、当ブログを開設してから、もうすぐ一周年になります。今後も続けられるように頑張りたいですね。

現状は、週に2回程度しか更新しないのんびりブログですが、それでも開設黎明期の頃と比較すると、読者の方々からご質問される機会が増えました。興味を持ってくださらないと質問は来ないものだと思うので、ありがたい限りです。

で、最近、あるお方から、このような質問が届きました。

 

菅井流三間飛車を使うメリットって何ですか?

 

2手目△3二飛戦法から△4二銀と上がる作戦と比べると、メリットが乏しいように思います。

 

ふーむ……。なるほど。

うーん。どう、お答えしようかな。説明はできるけど、あんまり簡潔に回答すると意図が伝わりにくいかもしれないし。それだったら図面を使って丁寧に説明する方が賢明かな……?

という訳で、記事でお答えすることにしました! ご参考になれば幸いです。では、本題に入りましょう。


菅井流三間のメリットと、2手目△3二飛戦法との違いって何?

 

まず、この質問の議題である「菅井流三間飛車」と、「2手目△3二飛戦法から△4二銀と上がる将棋」について説明します。二つとも、角交換振り飛車を通常よりも得した条件で指すことが狙いの戦法です。

 

それでは、「菅井流三間飛車」から見ていきましょう。初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩に、△3二飛と回る手が「菅井流三間飛車」と呼ばれる戦法です。(第1図)

 

ここで先手が反発する手も考えられますが、穏便に▲6八玉で駒組みを行う方が無難です。対して、後手は△8八角成▲同銀△4二銀▲7八玉△2二飛と組みます。(第2図)

 

青枠で囲った△2二飛・△4二銀型に組むことが、菅井流三間飛車の狙いです。通常の角交換振り飛車だと、△4二飛と振る→角交換→△2二銀→△3三銀と銀を使いますが、これは銀が中央まで移動するのに多くの手数を費やします。

しかし、第2図の形では一手で△5三銀と中央へ向かうことができますね。もちろん、△3三銀→△2四歩というルートで逆棒銀で仕掛ける手もあります。つまり、通常の角交換振り飛車よりも作戦の幅が広いので得をしているのです。

 

次に、「2手目△3二飛戦法から△4二銀と上がる将棋」について見ていきましょう。この指し方は2011年に佐藤康光九段が披露した新手です。(以後、当記事では佐藤流と表記します。)

初手から▲7六歩△3二飛▲2六歩に、△4二銀と上がる手が佐藤流です。(第3図)

 

一見、2筋の受けが間に合っていないようですが、ここで▲2五歩と突かれても△3四歩で大丈夫。以下、▲6八玉△8八角成▲同銀△2二飛が進行の一例ですが、後手は△2二飛・△4二銀に組むことができました。(第4図)

 

これで後手が作戦勝ちというレベルではありませんが、通常の角交換振り飛車の上位互換と言える局面を作ることができたので、角交換振り飛車を主力にしているプレイヤーにとっては、不満のない将棋でしょう。

 

このように、「菅井流三間飛車」と「佐藤流」は同様の趣旨であることが分かります。しかし、同様の趣旨であるならば、次の疑問が生まれる訳です。「佐藤流」の方が△5四歩を省略できているので、「菅井流三間飛車」を指すメリットなんてあるのか……? これが今回のご質問の意味ですね。

 

結論から申し上げると、メリットはあります。しかし、それを理解するためには、二つの戦法の性質をもっと知る必要があります。

 


長所と短所を挙げてみよう

 

まずは「佐藤流」から説明しましょう。もう一度、第3図を振り返ってみます。

 

ここで先手が「佐藤流」を咎めるならば、▲2五歩△3四歩に▲2四歩と仕掛ける手が考えられます。しかし、△2四同歩▲同飛△8八角成▲同銀△3三角が用意の切り返しです。(第5図)

 

▲2一飛成△8八角成と駒を取り合うのは、駒損の先手が不利。よって、▲2八飛は致し方ない撤退ですが、△2七歩▲6八飛△2二飛と進めて後手満足です。(第6図)

 

先手は2筋から動いたものの、結果的には飛車を自陣に押し込められて、戦果を上げたとは言い難い状況です。このあと、後手は玉を7二まで移動して4二の銀を繰り出すという分かりやすい指標があるのに対し、先手は駒組みの方法や目指すべき理想形が見えにくく、芳しくない印象です。

 

このように、「佐藤流」は乱戦にもきちんと対応できるので、組めてしまえば咎められることはありません。しかし、「佐藤流」を指すには、二つのハードルを超える必要があるのです。

 

ハードル1
後出しジャンケン問題

 

初手から▲7六歩△3二飛に、▲2六歩なら△4二銀で「佐藤流」に組めますが、後手にとっては▲2六歩よりも▲9六歩という手が気になります。(第7図)

 

後手は▲9五歩で位を取られると、対抗型のときに支障をきたす可能性が高まります。

基本的に端歩は均衡を保っておく方が自然なので、普通は△9四歩と受けたいところ。ただ、先手はそれを見て▲7七角→▲8八飛と相振り飛車を挑んできます。(仮想図)

 

仮想図は駒組みの一例ですが、こうなると▲9六歩⇔△9四歩の価値が違い過ぎるので、すでに先手が作戦勝ちです。

先手は次に▲5六角と打って▲9五歩△同歩▲9二歩△同香▲8四歩という攻め筋を狙うことができますし、△9五角を打たれる心配もないので、安心して▲8四歩△同歩▲同飛と飛車先を交換することができます。対して、後手は△9四歩が突いていることで得られる恩恵がこれっぽっちもありません。

3手目に▲9六歩で打診して、無視されたら位を取って対抗形。△9四歩には相振り飛車。という後出しジャンケン作戦は、かなり厄介です。

 

ハードル2
そもそも、指せる機会がない

 

前述したように、2手目△3二飛には相振り飛車が嫌な対策です。という訳で、この戦法を振り飛車党相手に指す人は誰もいません。つまり、「佐藤流」を指すには、相手が純粋居飛車党であることが条件になります。

しかし、純粋居飛車党は2手目△3二飛戦法を指してきそうな相手には、初手に▲2六歩と突きます。その方が相手の作戦を限定できるので、これは当然の選択です。

 

要するに、「佐藤流」は相手が純粋居飛車党で、なおかつ初手に▲7六歩と指したシチュエーションのみ、採用できる戦法です。ここまで条件が揃うことはあまりないので、指す機会に恵まれない作戦と言えます。

 

佐藤流のまとめ

 

・長所 組めれば咎められない。

・短所 (1)相振り飛車、及びそれを踏まえた3手目▲9六歩が厄介。(2)発動条件が揃いにくい。

 


次に、「菅井流三間飛車」について見ていきましょう。(第1図)

 

「菅井流三間飛車」は、3手目に▲2五歩と指されない限り採用することができるので、高い確率で指すことができます。

また、この局面は相手がすでに居飛車を表明しているので、▲9六歩と突かれても△9四歩でノープロブレム。

後手にとって怖いのは、▲2二角成△同銀▲5三角で馬を作られる変化が生じていること以下、△3五歩▲8六角成△5五角が変化の一例です。(第8図)

 

相手にだけ馬を作られたまま持久戦になると普通は作戦負けなので、後手は動いていくよりありません。第8図からは▲7七桂△3六歩▲同歩△5二金左が考えられる進行の一つです。

しかしながら、これで後手は▲5三角の筋に悪手の烙印を押せているかと問われると、YESとは言い難いですね。なぜなら、このような早い段階で動いていく指し方は、戦果が上げられなかったときに傷口を広げてしまうことになりかねないからです。つまり、これで正しく対応できているのかどうか不透明なのです。

 

「佐藤流」とは違い、「菅井流三間飛車」は安定感に欠けており、リスクを抱えていると言えます。

 

菅井流三間飛車のまとめ

 

・長所 3手目に▲2五歩と指されなければ採用できる。

・短所 反発されたときに、苦しくなる危険性がある。

 

以上が、それぞれの戦法の性質と言えます。

 


【結局のところ、どうなの?】

さて。少し話が長くなってしまいましたが、

 

菅井流三間飛車を使うメリットって何ですか?

 

という質問に対する私の回答は、以下のようになります。

 

二つの戦法はそれぞれ一長一短があり、どちらが勝るという話ではない。ただし、「佐藤流」は使える場面が限定的すぎるので、実用性という観点で判断すると、「菅井流三間飛車」の方が使いやすいというメリットがある。

 

以上になります。疑問が氷解されていると何よりです。

 

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

 

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6 COMMENTS

アルビオン

菅井先生が4手目32飛を指したことがあると思うのですが、これはどういった意図があるのでしょうか?
76歩34歩26歩を見てから32飛とするので96歩を回避するといったことでしょうか?

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あらきっぺ

はじめまして。

概ね、その通りです。

もし、4手目△3二飛に対して▲2五歩なら△4二銀と突いて、第4図の局面に誘導できますね。

問題は、△3二飛に対して▲2二角成△同飛▲6五角という手段を与えていることです。

「2手目△3二飛」「菅井流三間飛車」「4手目△3二飛」は、どれも理想図は同じですが、そこに到達するまでは、それぞれ違うリスクを抱えており、どれを受け入れるのかという選択になります。

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アルビオン

76歩34歩26歩32飛25歩42銀68玉88角成同銀22飛で第四図に合流するのですね。

後手で石田流をするための作戦だと思っていましたが角交換降り飛車の好形を目指す作戦だったのですね。

ありがとうございました。

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アルビオン

もうひとつ質問なのですが、以前後手を持った佐藤九段が76歩32飛96歩と進んだときに、両天秤にする作戦を避けるために穴熊の作戦に切り替えていました。
結果は佐藤九段の快勝だったのですが、この作戦はかなり有力ではないのでしょうか?

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あらきっぺ

憶測で恐縮ですが、それはこちらの将棋のことでしょうか。

確かに、このように銀冠VS穴熊の将棋になれば、端の位を取られている損益は、さほど感じない印象です。

ただ、裏を返せば、振り飛車側はこのようなパターンでないと端の損をカバーできないので、作戦が限定されている嫌いがあります。

また、居飛車としては、自分の囲いを相手と同調すれば、端の位を取っている優位性をよりクローズアップできるのではないかと思います。

このような理由があるので、個人的には強く惹かれる作戦ではありません。しかし、振り飛車穴熊を好むプレイヤーにとっては、一案と言えるでしょう。

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