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~青写真を描く~ 第68回NHK杯解説記 八代弥六段VS安用寺孝功六段

今週は、八代弥六段と安用寺孝功六段の対戦でした。

八代六段は居飛車党で、棋風は受け。じっくりとした将棋を好む傾向があり、手厚く負けにくいタイプの将棋を指される印象です。

安用寺六段は振り飛車党で、受け将棋。近年は角交換振り飛車を多用しています。粘り強い棋風で、苦しい状況に陥っても容易に崩れないことが持ち味の一つです。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第68回NHK杯1回戦第3
2018年4月15日放映

 

先手 八代  弥  六段
後手 安用寺 孝功 六段

初手から▲2六歩△3四歩▲7六歩△4二飛▲6八玉△8八角成▲同銀(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

戦型は後手の角交換振り飛車。対して、八代六段は銀冠に組んで対抗します。

先手は▲2六歩型のまま駒組みを進めているのが妙に見えますが、これは囲いを銀冠にするための工夫です。銀冠は矢倉と比較すると、(Ⅰ)完成するまでに手数を多く必要とする。(Ⅱ)コビンが空いている。というデメリットがあります。ゆえに、早めに▲2五歩を突いてしまうと、銀冠が完成する前に逆棒銀の筋で仕掛けられる懸念があります。あえて歩を突かないことで、争点を作らないようにしているのです。

後手としては、▲2六歩型を咎める駒組みを行いたいところです。安用寺六段は△2四歩と指しました。▲2五歩は△2二飛で逆効果なので、先手は2筋から動くことは不可能です。よって、▲7七桂で囲いを充実させますが、△3五歩▲8五歩△2二飛▲4六歩△4四銀と攻めの銀を中央へ活用していきます。△2四歩を突いた場合は、△3三桂→△2五歩の仕掛けを狙うのが良いですね。(第2図)

先手としては、△3三桂→△2五歩で飛車交換を狙う筋を警戒した駒組みをしなければいけません。八代六段は▲4七銀△5二金左▲5六銀で腰掛け銀に組み、△3三桂▲6六角で後手の攻撃陣を牽制します。次は▲4五歩が狙いですね。(第3図)

まともに▲4五歩を喫する訳にはいかないので、△2一飛は当然の一手ですが、▲8四歩△同歩▲同角と一歩交換したのが▲6六角の後続手でした。仮に、△8三歩▲6六角と進めば、先手は好機に▲3六歩△同歩▲3四歩という攻めを狙うことができますし、将来の端攻めも楽しみです。これは先手満足の進行でしょう。

そのような背景があるので、後手は安易に△8三歩を打ちたくないところ。そうは言っても、玉頭の歩なので致し方ないかと思われましたが、この瞬間は角の利きが逸れているので、▲4五歩の威力が弱くなっています。それに着目した△2五歩が好判断でした。(第4図)

▲2五同歩△同飛までは必然。そこで先手は、本音を言えば▲同飛△同桂▲4五歩と指したいのですが、△8六歩▲同銀△8七歩が痛烈な叩きで後手優勢です。(A図)

この叩きの歩が厳しいので、△8三歩を打たないリスキーな指し方が成立しています。

A図から(Ⅰ)▲8七同金は△2八飛が激痛です。(Ⅱ)▲7九玉は、△2七角で側面から攻められると、玉が戦場に近づいているので先手は勝てません。つまり、飛車交換の変化は先手がまずいことが分かります。

本譜に戻ります。(途中図)

先述した理由により、八代六段は▲2六歩と我慢しますが、△2一飛と引いた局面は後手の飛車先が軽くなり、振り飛車側が一本取ったと言えますね。先手は2八の飛の活用に、ものすごく制約がかかってしまったのが辛いです。

八代六段は▲6六角と引き、態勢を立て直そうとしますが、△3六歩▲同歩△6四角が威勢の良い手順でした。

後手は既にポイントを上げているので、ゆっくり指し手も不満は無かったのですが、この手順は先手が行った8筋の歩交換を徹底的に咎めてやろうという意図で、さらに良さを求めています。(第5図)

このまま無抵抗に△4六角を出られると先手陣は穴が開いてしまうので、八代六段は▲3八金でそれに備えますが、△8六歩で拠点の設置に成功し、8筋の交換を完全に逆用した格好です。

△8六歩以下、▲9八銀△4六角▲3七金△6四角▲4六歩と先手は辛抱に辛抱を重ねます。手の流れは苦し気ですが、まだ駒損や成り込みなどの具体的な損失を被ったわけではないので、差を広げられないための必要な我慢と言えます。(第6図)

さて。後手としては、8六の拠点を活かして攻めを組み立てたいところ。例えば、駒を溜めて△8七銀から玉頭を攻める展開が理想の一つです。という訳で、安用寺六段は△5四歩と突いて、銀をぶつける場所を作りました。

先手は確実な攻めを確保されたので、ゆっくりすることが許されない状況です。八代六段は▲3五歩△2四飛▲3六金と桂頭を圧迫して催促しますが、△5五銀▲同角△同角と後手は手駒を加えて、着々と敵玉に襲い掛かる準備を進めます。(第7図)

後手は△8七銀をより効果的な攻めにするため、角を交換して△6九角を打とうとしています。第7図では、それを回避するために▲7五角とかわしておく手も考えられましたが、八代六段は▲5五同角△同歩▲1五角と指しました。

これは桂を取りに行ったというよりは、▲3三角成→▲1一馬を実現させて、将来の▲8五香に期待したものですが、相手の駒を捌かせている嫌いもあるので、どうだったでしょうか。本譜は▲1五角以下、△8四飛▲8五歩△6四飛▲3三角成△6九角と進みましたが、こうなると第6図あたりで描いていた青写真通りの展開になったので、後手が優勢になりました。(第8図)

▲3七金などで金取りを防ぐと、△8七銀▲同銀△同歩成▲同玉△6七飛成で先手陣は崩壊です。八代六段は▲6五銀と打って、その攻め筋を緩和しますが、△6五同飛▲同桂△3六角成後手は金気を蓄えて、攻防共に手厚い格好です。先手はただでさえ金銀の数が少ないのに、そのうちの一枚は9八に押し込まれているのが泣きどころですね。

△3六角成に対して、八代六段は▲1一馬で香を補充します。先手にとっては待望の一着ですが、ここで貴重な手番を投資するのは侘しい印象です。対して、△6四銀重厚な催促でした。(第9図)

シンプルな桂取りですが、思いのほか桂を助ける術が難しいのです。一見、▲6六歩で簡単に受かるようですが、△4六馬のときに先手は対処に困ります。(B図)

後手は△5七馬→△6六馬が狙いで、先手はそれを実現されると勝ち目がありません。つまり、B図では△5七馬を阻止しなければいけないのですが、(Ⅰ)▲5八飛では△4七馬▲5九飛△4八馬で飛車を追われてしまいますし、(Ⅱ)▲2七飛は△8七銀▲同銀△同歩成▲同金△4五馬▲2八飛△6七馬と、やはり△6六馬を狙われる手が厳しく、先手は受け切ることができません。

本譜に戻ります。(第9図)

ここで▲6六歩は指せないことが分かりました。しかし、そうなると桂取りを防ぐ手立てが見当たりません。▲6六香や▲7七桂では手駒不足に陥り、後手玉を寄せる力が残りません。

話を整理すると、第9図で先手は、6五の桂を取られる前に、後手玉を寄り形へ持ち込まなければいけないのです。本局一番の勝負所ですね。

八代六段は▲8四香と指しました。寄せるとしたら、ここから行くよりありません。以下、△7一玉▲5三桂打と食い付いていきます。後手は駒を渡したくないので△5一金寄で耐えますが、▲3三馬△6五銀▲2一飛で先手は何とか挟撃態勢を築くことができました。(第10図)

しかし、△6二玉が力強い受け。先手は▲4一桂成△6一金▲4二成桂と迫るよりないですが、△7六銀素晴らしい見切り。先手は受けが利く状況ではないので、八代六段は▲5二成桂△同金▲5一金で後手玉に詰めろを掛けますが、その局面は、先手玉に詰みが発生しています。(第11図)

導入は、△8七銀打から入ります。対して、▲同銀は△同歩成▲同金△同銀成▲同玉△7五桂で、あとは持ち駒を並べていけば詰みます。(C図)

(Ⅰ)▲7七玉は△8七金▲6六玉△7四桂以下詰み。(Ⅱ)▲7六玉は△6四桂以下、持ち駒で王手すれば詰みます。先手玉が▲6八玉と逃げたときに、△6九金を打てる状況にしておけばOKですね。

△8七銀打の局面に戻ります。(途中図)

本譜は▲8九玉と逃げましたが、△7七桂▲同金△8八金▲同飛△同銀成▲同玉△7七銀成▲同玉△8七金と追っていきます。(第12図)

ここで▲6六玉は△5四桂で、(Ⅰ)▲5五玉には△4六馬。(Ⅱ)▲6五玉には△6四歩以下詰み。

本譜は▲8七同銀と応じましたが、△同歩成▲同玉△7五桂▲7六玉△5四馬でようやく分かりやすい形になってきました。(第13図)

▲7七玉は△8七馬▲6八玉△8八飛から詰み。本譜は▲6五銀と抵抗しましたが、△8七銀▲8六玉△7六飛で終局となりました。

 

本局の総括

 

序盤で先手は▲6六角→▲8四歩と意欲的に動いたが、△2五歩が機敏な一手で後手がペースを掴む。
先手は第7図からの▲5五同角がどうだったか。代えて▲7五角とかわして、のらりくらりと指したかった。△6九角を実現させた罪は重かったように感じる。
第9図の△6四銀が勝着。△6五銀→△7六銀の二手が間に合うと判断した大局観が素晴らしかった。最後も長手数の詰みに仕留めて、華麗な着地を決めた。安用寺六段の快心譜だったと思う。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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