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読者からのご質問にお答えします! Part3 ~角換わり▲4五桂速攻について~

どうも、あらきっぺです。このところ、日々の気温の差が大きくて服装が悩ましいですね。武井壮が羨ましい。

 

久しぶりのQ&Aのコーナーです。今回は、HN:緑茶様からのご質問にお答えいたします。

 

最近、あまり指されなくなった角換わり▲4五桂急戦の現状はどうなっているのでしょうか。一時期は多く指されていたような気がするのですが、最近は王座戦第2局くらいしか見ていないような気がします。

 

そうですね。これは私も気になっていました。実際、どうなっているんでしょうか? 誰か教えてください笑

なーんて冗談はさておき、これには当然、理由があります。なぜ、一時期流行していた▲4五桂急戦がはたりと消えてしまったのか。そして、なぜ直近の王座戦で出現したのか。今回の記事では、その理由にお答えしようと思います。


角換わり▲4五桂急戦の現状はどうなっているの?

 

まず、角換わり▲4五桂急戦とは何ぞや? という話から始めたいと思います。これは3年くらい前からネット将棋を起点に浸透していった手法です。(個人的には、将棋ウォーズのPonanzaが多用していた印象が強いです)

そして、この作戦の優秀性が一気に認知されたのは、やはりこの将棋ではないでしょうか。(第1図)

 

2017.4.23放映 AbemaTV企画「藤井聡太四段 炎の七番勝負 第7局」▲藤井聡太四段VS△羽生善治三冠戦から。(肩書は当時)

もう、一年半前の出来事ですが、藤井四段が快勝したことをご記憶にある方は多いのではないでしょうか。非公式戦ながら、羽生三冠を一刀両断したインパクトはかなり大きかったと思います。

なお、この将棋は第1図から△2二銀▲2四歩△同歩▲同飛△4二角▲3四飛△2三銀▲3五飛(青字は主要手順の指し手)と進んでいます。(第2図)

 

前述の▲藤井ー△羽生戦は、ここから△4四歩▲7一角△7二飛▲5三桂成△同金▲同角成△同角▲8五飛△8二歩▲2五飛と進みましたが、これは先手有利と評価されています。(A図)

 

したがって、第2図では△3一玉と寄って玉型を安定させたり、△6五歩と突いて▲8五飛と回る筋を消しておく手が勝ります。しかしながら、この変化は4二の角が使いにくいので、後手が避けるべき局面という見解を持っているプレイヤーが多数派だと思われます。

 

という訳で、後手は▲4五桂急戦を警戒する駒組みを行うようになりました。(第3図)

 

この配置が、後手の修正案です。青枠で囲った部分が工夫点ですね。すなわち、△4二玉型で上部を強化。△6一金型で▲7一角と打たれる攻め筋をケアしていることが、第1図との大きな違いです。

 

そもそも、第1図のような組み方では、現在、最善とされている△4二玉・△6二金・△8一飛型に組むことができません。そういった意味でも、後手は第3図の組み方を指すべきです。

 

さて。イントロダクションが長くなってしまいましたが、第3図から▲4五桂急戦の成否がどうなっているのか? が、今回のご質問の命題です。

ちなみに、仕掛けるとしたら、このタイミングしかありません。それは、二つの理由があります。

 

タイミングが今しかない理由

 

・理由その1 これ以上のプラスが無い。

 

先手は▲4五桂急戦を発動する前提なら、もうプラスになる手待ちが無い。この将棋は飛車を切る攻め筋が多く出現するが、そのとき、陣形が低くないと成立しない懸念が生じる。ゆえに、▲7八金や▲6八玉といった手を指せば指すほど、仕掛けが決行しづらくなる。

 

・理由その2 整備される余裕を与える。

 

これは言わずもがなとは思うが、後手はこの先、どんどん陣形が整っていく。急戦を仕掛けるなら、敵陣が完全体になる前に動かなければいけない。

 

それでは、▲4五桂急戦の成否を考えてみましょう。

 


立ちはだかる二通りの受け

 

改めて、第3図の局面を掲載します。

ここから、先手には(1)▲4五桂と(2)▲3五歩△同歩▲4五桂という二種類の攻め方があります。しかし、(1)の▲4五桂では△2二銀のときに後続手が見えません。(第4図)

 

▲2四歩△同歩▲同飛では、△4四歩で文字通り、桂馬の高飛び歩の餌食です。

第4図では▲5五角のほうが、迫力のある攻めではあります。これに△6三銀と受けると、▲2二角成△同金▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲3四飛と進みますが、これは後手陣に愚形を強要させているので、先手まずまずでしょう。(B図)

 

しかし、▲5五角には△4四角と打って、あっさり6四の歩を取らせるのが好判断です。以下、▲6四角△6三銀▲7五角△5二金で、後手が受け止めています。(第5図)

 

先手は一歩得ではありますが、角の働きが悪いので攻めあぐねています。ここから▲6六角とぶつけても、△同角▲同歩△4四歩で桂が取られてしまいます。

つまり、第5図で先手は角の働きを改善したいのですが、そうすると桂が取られてしまうジレンマを抱えているので、仕掛けが失敗しているのです。

 

したがって、第3図では(2)の▲3五歩△同歩▲4五桂で、弾みをつけるほうが勝ります。(第6図)

 

ここで後手には二通りの受けがあります。(1)△2二銀。(2)△4四銀。

それぞれ、見て行きましょう。


受け切りを目指す△2二銀

 

△2二銀は、次に△4四歩から桂を取る手を視野に入れた強気な一手です。反面、壁銀になるので、瞬間的な形の悪さを背負ってしまうデメリットがあります。(第7図)

 

先手は当然、▲2四歩△同歩▲同飛と攻めて行きます。

後手は△4四歩を突くために、2四の飛をどかさないといけません。候補手は△2三銀や△2三歩ですが、前者は▲2二歩や▲6六角といった攻め筋を誘発するので、△2三歩の方が安全ですね。以下、▲3四飛△5二金と進みます。(第8図)

 

先手も今さら足を止めるわけにはいかないので、▲6六角から猪突猛進していくより道はありません。以下、△4四角▲同角△同歩▲同飛△4三金右▲6四飛が変化の一例です。(第9図)

 

先手は▲3三歩から桂を交換できる状況下なので、4五の桂が犬死にする心配はなくなりました。つまり、第7図で後手が描いていた桂を召し取る後手の狙いをかいくぐることが出来ています。

ですが、先手は具体的な戦果を上げた訳ではありませんし、△2八角の傷や、飛車が不安定な点など、懸念事項も多くあります。第9図は、どちらの不安が先に具現化するかという勝負になっており、優劣不明です。

 

という訳で、第6図から△2二銀は、お互いに怖い将棋へと進展することになります。

 


穏便策の△4四銀

 

続いて、第6図から△4四銀を見ていきます。直近の王座戦(棋譜はこちら)では、こちらでした。

「桂頭の銀、定跡なり」という格言通り、こちらに銀を上がれば防御力が高く、先程のような猛攻を浴びる心配はありません。ただし、4五の桂が安定してしまうところが△4四銀のデメリットです。(第10図)

 

2018.9.20 第66期王座戦五番勝負 第2局 ▲中村太地王座VS△斎藤慎太郎七段戦から。

これにも先手は▲2四歩△同歩▲同飛で歩を交換します。ただ、今度は△2三歩のときに、▲3四飛とは指せないですね。(△2五角で飛車が詰む)

ゆえに、先手は大人しく撤退せざるを得ません。本譜は▲2九飛△7四歩▲7八金△7三桂▲6八玉と進みました。(第11図)

 

△2二銀と引く変化とは打って変わって、ゆったりとした進行ですね。これは、△4四銀型の守備力が高いことと、先手は4五の桂が取られない状態であることが相まった結果、このような状況になっています。

 

第11図は、先手は桂を捌いたことや2筋の歩交換を行なっていることが主張。後手は歩得が主張です。お互いに言い分があるので、互角と言えるでしょう。

 

結論を述べると、

第3図から▲3五歩△同歩▲4五桂と仕掛けるのは、△2二銀なら優劣不明。△4四銀なら互角です。

 


作戦の評価は、常に相対的

 

上記のように、▲4五桂急戦は、後手に正しく応対されると、明確にはリードを奪えないことが分かりました。しかし、この結論だけでは、「一時期は多く指されていたような気がするのですが、最近は王座戦第2局くらいしか見ていない」というご質問の答えにはならないですね。

 

この▲4五桂急戦がプロ棋界で流行していた時期は、大まかに申し上げると、2016年の10月から2017年の4月頃までです。2018年になると、1/19のC級2組順位戦▲長岡裕也五段VS△大平武洋六段戦が最後のように思います。(あらきっぺ調べ)

 

そして、▲4五桂急戦が流行していた時期は、腰掛け銀の▲4八金・▲2九飛型が本格的に主流の座に君臨し、猛威を振るっていた時期と被ります。この戦法の優秀性は、誰もが知るところですね。つまり、先手目線としては、仕掛けの成否が不透明な作戦よりも、▲4八金・▲2九飛型を選んだ方が、良さを求めやすいと考えるほうが自然です。

 

2017年の5月以降は、▲4五桂急戦を見ることはほとんどなくなりました。おそらく、その時期を境に、この作戦ではリードを奪えないことが認知されたのでしょう。

 

しかし、ここ二、三ヵ月で情勢が変わりつつあります。こちらの記事で述べたように、後手に優れた待機策が編み出され、先手が苦労するようになったのです。プロの公式戦から分析する、最新戦法の事情(8月・居飛車編)

 

こうなると、先手は今まで頼りにしていた作戦を見直す必要が出てきました。(そして、これは憶測に過ぎませんが)数ある作戦のなかで、中村王座は▲4五桂急戦にスポットを当てたのでしょう。このような背景があったので、突如、▲4五桂急戦が直近の王座戦に出現したのだと思われます。 

 


まとめ

最後に、今回のご質問に対する回答を簡潔に述べて終わりにしたいと思います。

 

最近、あまり指されなくなった角換わり▲4五桂急戦の現状はどうなっているのでしょうか。

はっきりとしたリードは奪えないので、成否は評価が難しい。しかし、現状は腰掛け銀で先手が苦労しているので、その打開策として一つの手段になりうる可能性は、十分に秘めている。

 

以上です。疑問が解決されていれば、何よりです。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

7 COMMENTS

緑茶

お答え頂きありがとうございました。
疑問は全てスッキリ解決しました。
これからも記事を楽しみにしています。

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あらきっぺ

お力になれたようで、光栄です!
今後ともよろしくお願いいたします。

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mal

いつも参考になる記事をありがとうございます。先日の王座戦第四局でまた中村王座の面白い試みがあったので質問させていただきます。
58金型vs62金型での△65歩の仕掛け、2016年NHK杯決勝の村山ー千田戦をはじめ2年くらい前に何局か指された末に先手の58金型が駆逐されたと記憶しています。調べてみると▲65同銀と桂馬を食いちぎる手も2016年JT杯決勝の佐藤天ー豊島戦などで出ているようですが、その後指されていないということは62金型への有力な対抗策になりえなかったと想像します。
さて質問ですが、
1.一度全く指されなくなった形が今回突如出現したのはどういう背景があるのでしょうか?やはり、先後同型で先手の苦労が多い現状と関係しているのでしょうか。
2.王座戦の将棋は前例に比べ先手が3手(68金88玉98香)余計に指していますが、その3手が▲65同銀の成否にどう影響してくるのでしょうか?
もしよろしければ解説いただけると幸いです。

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あらきっぺ

はじめまして。いつも、ご覧いただき、ありがとうございます。
ご質問の内容ですが、一言では返答できそうにないので、改めて記事化してお答えさせていただきます。
今しばらくお待ちください。

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k4

最近、角換わりの将棋で角を交換した後、▲1六歩△1四歩▲3八銀と進んだ時に後手が△3三銀と指さずに△6四歩と指す将棋を見かけます。これは後手が3三銀を優先した場合に不利になる変化があるのでしょうか。角換わりの駒組みで後手の工夫が見られるのは▲1六歩△1四歩型の▲4五桂急戦が関係しているのでしょうか。

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あらきっぺ

はじめまして。ブログをご覧くださり、ありがとうございます。

そうですね。仰るように、後手が△3三銀ではなく△6四歩と指しているのは、▲4五桂急戦を警戒している意味があります。
詳しい内容は、今月末に更新する[最新戦法の事情・居飛車編]にて触れる予定です。そちらも併せてご覧いただけますと幸いです。

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k4

ご返信ありがとうございます。
今月号の最新戦法の居飛車編を楽しみにしております。

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