どうも、あらきっぺです。
突然ですが、みなさんは「コンピューター将棋選手権」をご存じでしょうか?
これは、コンピュータ将棋の進歩を目的にした大会のことで、今回で27回目を迎えました。
大会の簡単なルールですが、まず一次予選と二次予選で上位8チームを絞ります。そして、その8チームで総当たりによるリーグ戦を行い、最強のソフトを決めます。今年は40チームの参加がありました。
近年では将棋ソフトが人間の実力を超えたということもあり、注目する人も増えているのではないでしょうか。
今回の記事では、人間には思い浮かばない発想や、思わずなるほど!と唸ってしまうような手を紹介していこうと思います。
それでは、コンピュータ将棋の世界を探検してみましょう! まずは一次予選から見ていきます。
1.構想力
コンピューター将棋といえば、「詰みは絶対に逃がさない」「終盤が強い」というイメージがありますが、序盤の構想力にも素晴らしいものがあります。ソフトには先入観がないので、人間が指す将棋には見られない発想や柔軟な構想が度々、見られます。矢倉に対する「左美濃急戦」は良い一例でしょう。
それでは解説に移ります。
① より良い陣形を作る
まずは第1図をご覧ください。
一次予選1回戦の▲HoneyWaffleVS△山田将棋から。(便宜上先後逆)
第1図に至る直前の2手は、▲8八玉△1五歩でした。
7八にいた玉を寄ったところですので、▲7八金と上がる手が自然ですが、HoneyWaffleの構想は………
▲6八銀!△4三銀▲7九銀!(第2図)
自ら陣形を崩しているようですが、次に▲7八銀で高美濃囲いが完成します。確かに、高美濃の方が横からの攻めに強く、銀冠に発展できる余地もあるので▲7八金と囲うよりも優っていますね。
とはいえ、第1図の局面から5七の銀を▲7八銀に組み変えようとは思いつかないですよね。思わず舌を巻きました。
第2図から△3五歩▲7八銀△3四銀▲5五角△同角▲同歩△4四角▲5六金と進み、先手は中央に厚みを作ります。(第3図)
▲5五角と角を合わせた手がそつのない手です。後手は▲1一角と打ちこまれる傷があるので、それをケアするために△4四角はもう一度打たなければいけません。
手順に5筋の位が取れたので、先手は▲5六金と上がることができました。第2図と比較すると、後手の角が息苦しい印象を受けるのではないでしょうか。
第3図から、HoneyWaffleは囲いを銀冠へと発展させました。(結果図)
結果図の局面は、先手の陣形が手厚いので非常に勝ちやすい局面です。次に▲8五歩△同歩▲8四歩や、▲6八飛→▲6五歩が楽しみですね。
第1図から▲7八金と上がっても先手の模様が良い局面ではありましたが、▲6八銀と引くことでより良い布陣を作り上げることができました。先入観に囚われない柔軟な構想だったと思います。
② 常識を超える
まずは第4図をご覧ください。
一次予選1回戦の▲名人コブラVS△Squirrelから。(便宜上先後逆)
名人コブラが序盤早々に▲7八金と指したので、後手のSquirreは中飛車を選びました。振り飛車に対して▲7八金を上がると船囲いに組めないので、一般的には損をしていると認識されています。
このまま淡々と駒組みを進めると居飛車の作戦負けが予想されますが、名人コブラはここから驚愕の構想を披露します。
第4図から、▲7七金!△4二銀▲6六金!と進みました。(第5図)
序盤早々、金を4段目まで上がってバグったんですか? と思ってしまいますが、意外や意外。これが見た目以上に理に適った構想です。金を繰り出したことにより、△5三銀には▲5五金と歩を払えるようになりました。つまり、相手の攻め駒を前に出させないように牽制しているのです。
中飛車に対して▲6六銀型を作る将棋がありますが、▲6六金型の場合は△5六歩からの歩交換も防いでいます。このように、常識外れにしか見えないような配置でも、相手の駒組みに対してしっかり対応していることが分かります。
第5図以下、△7二玉▲6九玉△8二玉▲9六歩△9二香▲9五歩△9一玉▲7八玉△3二金▲5九銀と進みました。(第6図)
▲5九銀も斬新な一手ですが、先手陣は金が上部にいるので囲いが薄い懸念がありました。右側の銀を囲いに運用することで、玉型の脆さを補う意味があります。
後手はそろそろ攻めの形を構築したいところですが、5筋の歩が負担になっているので相変わらず駒が前に出せず、駒組みが難しくなっています。
第6図からSquirrelは止む無く△4四歩と突きましたが、▲5五金で先手は一歩得に成功しました。(第7図)
第7図以下、△5三銀▲6八銀右△4三金▲5八金……と互いに陣形整備をして、結果図の局面を迎えました。
結果図の局面はまだ中盤にすら入っていないので、優劣がはっきりするのはこれからの戦い方次第ですが、少なくとも一歩得を果たした先手に不満は無い将棋です。
第4図から平凡な駒組みを選ぶと作戦負けになってしまう可能性が高かったですが、▲7七金→▲6六金と意表の手を繰り出すことで結果的に互角以上の局面で序盤戦を終えることができました。
セオリーに反する手でも的確な構想に昇華することができるコンピューター将棋の特徴が顕著に出た序盤だったと思います。
いかがでしたか? 人間には見られない魅力がコンピューター将棋にはあると感じて頂けたら、何よりです。
次回は中盤について書くつもりです。
それでは、また。ご愛読ありがとうございました!