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第67回NHK杯1回戦解説記 千田翔太六段VS藤井聡太四段 ~後編~

前回の続きです。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯1回戦第7局
2017年5月14日放映

 

先手 千田 翔太 六段
後手 藤井 聡太 四段

 

第6図では▲9三歩成が自然な一手に見えますが、千田六段は▲6五同歩(青字は本譜の指し手)と歩を払いました。

なぜと金を作らなかったか、ぱっと見は不思議ですよね。
これには、ちゃんとした理由があり、▲9三歩成には△8四飛▲3五歩△9三香▲同香成△9八歩が嫌らしい反撃です。(A図)

 

△9九歩成を受けるために▲8八玉と上がると、△9九歩成▲同玉△9二歩で成香を取り返されてしまいそうです。

A図は先手が香得ですが、その戦果を挙げるために玉型を危なくしているので単純な駒得とは言えません。それならば▲6五歩で歩を払い、いつでも▲6四歩から角道を通す権利を持つ方が良いという理屈です。

本譜は▲6五歩以下、△8四飛▲3五歩△2四歩と進みました。(第7図)


後手は2・3筋の壁形をほぐしたいので、ついに△2四歩を突きました。
ここで千田六段は本局一番の長考に沈みます。確かに第7図は盤上のあちこちで戦いが起こっているので照準を定めにくいんですよね。

駒損を避けるなら▲1二歩△同香▲1三歩△同香▲同桂成△同銀▲1五香という順が考えられます。ただ、この順は後手陣の悪型を解消しながら攻めているのが癇に障ります。

▲9五歩と突いた流れから考えると、2筋が壁なので逆方向から攻めて後手玉を包囲したいという思惑が汲み取れます。▲1二歩は局地的に見れば自然な手ですが、全体を見るとやや指しにくい意味があります。

▲9三歩成は有力だったと思います。先ほどは△同香▲同香成△9八歩という反撃がありましたが、ここでそれを実行すると▲8三成香△同飛▲6四歩が痛烈なカウンターです。角がすぐに使える状態であることがA図との大きな違いですね。(B図)

 

よって、▲9三歩成には△2五歩と桂を取るくらいですが、▲9二歩と打って香を取ることができます。後の▲6四香や▲9四とが楽しみですね。(C図)

 

本譜は第7図から▲6四歩△同飛▲8三角成と進みました。(第8図)

 

これは▲9三歩成と似たような意図で、2筋の壁には触らず左辺からの攻めを目論んでいます。千田六段は香得よりも馬を作った方がより良いと判断されたのだと思います。以下、△2五歩▲6五歩△4四飛▲4五銀△1四飛▲9三歩成と進みました。(第9図)

 

後手の飛車は僻地に追いやられてしまいましたが、逆に相手から狙われないという利点があります。そしてキャプションにも記した通り、第9図では「桂得」と「手番」という主張を得ました。藤井四段はそれを活かして、遂に反撃に転じます。第9図から、△8六歩▲同歩△7四銀▲8四馬△7二桂▲9五馬△6五銀▲9二歩△7六歩と進みました。(第10図)

 

△8六歩が読みの入った突き捨てで、第10図の局面を見るとその効果が顕著に表れます。4一の角の利きを通しつつ、先手の馬が受けに働かないようにしていることが分かりますね。

第10図は先手が攻め込まれていますが、ここを凌ぎ切れば▲9一歩成や▲8三とで駒損を回復できるので受け甲斐のある局面ではあります。したがって▲8八銀(▲6八銀は△6七歩▲同銀△6六歩で拠点を作られるので損)と引くのが最善手だったのですが、本譜は▲8三とと攻め合ってしまいました。この手が敗着です。

千田六段は△7七歩成と銀を取られても▲同桂が銀取りになり先手を取れるので攻め合いでも勝てると判断されたと思うのですが、△9二香▲7三と△9五香▲6二と△9九香成と9筋の駒を一掃したのが的確な判断で、藤井四段の方へ大きく形勢の針が傾きました。(第11図)

 

千田六段は銀を取らずに△9九香成とされる手を見落としていたと感想戦で仰っていました。

先述した通り、△7七歩成を先に指してしまうと▲同桂が銀取りで後手を引いてしまいます。しかし、第11図までそれを後回しにすれば、△8九成香と桂を取ってから△7七歩成と銀を取ることができます桂を取ってしまえば、△7七歩成を指しても後手を引く心配はありません。つまり、第11図を見据えて銀を取る手を我慢していたのです。

どこからこの局面が見えていたのかは知る由もないですが、短時間でも正確に寄せの構図を描くことができるのは高い実力の持ち主であることの証ですね。

千田六段にとってはこの誤算は致命的で、もう修正の利かない局面になってしまいました。

 

第11図以下、▲1五香△8九成香▲6九玉△1五飛▲1六歩△同飛と進み、藤井四段の勝ちとなりました。(投了図)

 

投了図では先手玉がすぐに詰むという訳ではありませんが、次に△7七歩成や△1八飛成、△9六角など複数の狙いを防ぐことができないので収拾困難です。また、▲3四桂△3三玉▲2五歩と迫れば詰めろは掛かりますが、△1三銀と受けられると後続がありません。ここでは大差がついているので投了もやむなしです。

 

本局は、藤井四段が局面の均衡を保つために捻りだした△4一角などの強靭な受けが印象に残りました。千田六段にとっては一手のミスで将棋が終わってしまい、不完全燃焼だったかもしれません。きっと来年は彼らしい力強い将棋を見せてくれると思います。

ではでは、今回はこれにて。ご愛読ありがとうございました!

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