どうも、あらきっぺです。
前回は中盤の「連繋力」について解説をしました。今回は、切れ味鋭い終盤の指し手を紹介しようと思います。
終盤力
コンピューター将棋の一番の魅力といえば、やはり圧倒的なまでの終盤力ですよね。
終盤は将棋の中で最も難しい分野なのですが、コンピューター将棋の棋譜を見ていると、きれいに敵玉を寄せている将棋が多く、強い人(人じゃないんだけど)はこんなにも分かりやすく勝ち切ってしまうのかと感嘆することが多々あります。
それでは、具体例を見ていきましょう。
① 【遠見の角に好手あり】
まずは第1図をご覧ください。
一次予選1回戦の▲柿木将棋VS△dainomaruDNNcから。(便宜上先後逆) 棋譜はこちらからどうぞ。
先手が駒得の上、遊び駒もほぼ無いので優勢と言える局面です。ただし、ゆっくりしていると△6一金~△5二金で後手に「玉型の堅さ」という主張を作られてしまい、少々、厄介なことになります。
よって、先手はそれを指される前に後手玉を寄せ切ってしまうのが最も速い勝ち方になります。第1図から柿木将棋は▲9八角(青字は本譜の指し手)と打ちました。(第2図)
「遠見の角に好手あり」という格言通りの一手です。後手の金に照準を定めて寄せを狙っています。
例えば第1図から△9五歩と指すと、▲2四飛△同銀▲同飛△2三歩▲4四飛と強引に攻め込んで後手玉を寄せることができます。遠見の角の効果が一目瞭然ですね。(第3図)
第2図からdainomaruDNNcは▲2四飛からの強襲を防ぐために△2七馬▲同飛△3一玉と指しましたが、▲7六角打ともう一回、遠見の角を放つ手が痛烈でした。(第4図)
▲3二角成の一点狙いですが、後手は上手く角道を遮断する術が無く、適切な受けがありません。本譜は△5四歩▲同角△6二飛と泣く泣く自陣飛車を打ちましたが、▲3二角成△同飛▲2三金△6二飛▲2一角成△同玉▲3三金で分かりやすい寄り形になりました。(結果図)
結果図の局面は、後手玉は一手一手の寄り。対する先手玉は安泰なので、勝負ありです。
第1図の局面では後手玉はまだ安全そうに見えましたが、▲9八角を境にあっという間に寄り筋に入ってしまいました。参考にしたい攻め筋でしたね。
➁ 【連係を崩す】
まずは第5図をご覧ください。
一次予選6回戦の▲大合神クジラちゃんVS△蒼天幻想ナイツ・オブ・タヌキから。棋譜はこちらからどうぞ。
(なお、図面では先手を「クジラちゃん」。後手を「ナイツ・オブ・タヌキ」と略させて頂きました。ご了承ください。)
後手が△6五桂と打ったところです。
金銀三枚で守られている後手玉に対して、先手玉は次に7八に金が銀を打たれると詰んでしまう状態です。
ぱっと見では玉の安全度に差があり、先手の敗色濃厚に思える局面ですが、大合神クジラちゃんはここから驚異の終盤力を見せて、この難局を打破します。
第5図から▲7五桂と打った手が鋭い好手でした。(第6図)
実はこの手は詰めろになっていて、第6図から△7七桂成と指すと、▲6三桂成△同玉▲5二角成△7三玉▲7四馬から後手玉は詰んでしまいます。(第7図)
したがって、▲7五桂には△同歩と応じるよりないですが、▲7四金が目の覚めるような一手で、後手玉は寄り筋に入りました。(第8図)
△同銀と取ると、▲5二角成△7三玉▲7四馬から先ほどと同様の筋で後手玉は詰み。▲5二角成のときに△7一玉と引いても▲6二金からやはり即詰みに討ち取れます。
後手は5二の地点に数を足したいのですが、持ち駒が桂しかないので思わしい受けがありません。△5一飛と回っても▲8四桂と打たれて焼け石に水です。第8図は先手の寄せが決まっています。
第5図の後手玉はしっかり守られていたように見えましたが、▲7五桂→▲7四金の攻めによって一気に崩れてしまいました。後手玉は[△6三銀・△5二金]の連係が強力だったので、それを破壊するのが最優先事項だった訳ですね。
急所を的確に攻めれば瞬く間に寄せ切れることを示した好例だったと思います。
➂ 【犠牲の対価】
第9図をご覧ください。
一次予選4回戦の▲elmoVS△蒼天幻想ナイツ・オブ・タヌキから。(便宜上先後逆)棋譜はこちらからどうぞ。
(なお、図面では後手を「ナイツ・オブ・タヌキ」と略させて頂きました。ご了承ください。)
後手が△1四角と打ったところです。
飛車取りなので▲4三飛成と逃げる手が目に映りますが、それには△4二金が絶好の一手になります。(第10図)
竜取りと△7六桂からの詰めろが同時に受からず、こうなれば後手勝勢です。
▲4三飛成が指せないとなると、▲2四飛成くらいかと思いますが、elmoはそんな凡庸な手は指しません。ここからの3手は、控えめに言っても感動しました。
第9図からelmoは▲5六飛と指しました。(第11図)
この手は角取りと同時に△7六桂と打たれる手を消しています。△9九角成には今度こそ▲4三飛成と指せますね。後手はそれを嫌って△2三角と飛車を取りましたが、角を取らずに▲5二成桂が素晴らしい一手でした。(第12図)
第12図から△9九角成は▲6二銀以下詰み。△6四角と引けば詰みはありませんが、▲5三桂成が厳しく、先手優勢です。
やむなく後手は△5二同金と応じましたが、▲5五飛で角を取り返し、先手好調です。成桂を捨てずに▲5五飛△4二金という進行とは雲泥の差があることが分かりますね。
▲5五飛に対して、△6一銀と受けましたが、玉頭が薄くなったことを見計らって▲7四歩と上から着手したのが弱点を突いた攻めで、後手玉は寄り筋に入りました。(結果図)
後手は玉頭にと金を作られる訳にはいかないので△同歩と応じるのが普通ですが、それには▲7二歩△同玉▲7三歩と玉頭に連打されて処置がありません。
第9図の局面では、二枚の角の睨みが強烈で先手玉は危険な状態でした。しかし、2三の飛を取らせることにより、自玉の危険を緩和させることに成功します。そして、▲5二成桂と捨てることによって、後手陣を崩し、寄せやすい形に持ち込むことができました。犠牲に見合う対価があれば、駒損しても構わないという好例だったと思います。
それでは、また。次回はネタ勢編です。ご愛読ありがとうございました!