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今週の妙手!【第31回世界コンピュータ将棋選手権編】(2021年5月第2週)

コンピュータ将棋選手権

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。

 

今回はいつもとは趣向を変えて、5/3~5/5に開催されました第31回世界コンピュータ将棋選手権の対局を題材にいたします。

また、普段はランキング形式で妙手を紹介しておりますが、今回は筆者が印象に残った妙手を7つ紹介するという形で行います。なぜ、7つなのかって? ただ単にこの数字が好きなんです笑

それでは、さっそく見ていきましょう!

注意事項

 

・図面に記載した将棋ソフトの名称は、略称になっているソフトもあります。なお、略称につきましては、公式サイトに記載されているものに倣いました。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! 第31回世界コンピュータ将棋選手権編(2021.5/3~5/5)

Part1 ドカンと一発!

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。角換わり腰掛け銀の定跡形から先手が果敢に攻める展開になり、このような局面になりました。(第1図)

寄せの妙手

2021.5.4 二次予選4回戦 ▲elmo VS △二番絞り戦から抜粋。(棋譜はこちら)

先手は自玉に詰めろが掛かっておらず、持ち駒も潤沢にあります。つまり、後手玉を寄せるチャンスを迎えていますね。

いろいろな攻めが目に付きますが、elmoは予想だにしない方法で敵玉を倒してしまいました。

elmoが指した手は、▲4二飛です!

寄せの妙手

豪快に飛車を捨ててしまうのが、素晴らしい寄せでした


 

 

寄せの妙手

度肝を抜かれる一手です。導入から飛車を捨てるとは、正直ぶっ飛んでますね。しかし、これで後手玉は受け無しなのです。

この手は次に▲2三馬△同玉▲2四金からの詰めろになっています。また、△4二同銀には▲4四馬△3三銀打▲3四桂から詰みですね。(A図)

つまり、後手はこの飛車を取ることも放置することも出来ないのです。

寄せの妙手

ゆえに、本譜は△1三角と攻防手で応戦しました。これは王手を掛けつつ2二の地点を補強した意味ですが、▲2四銀がそれを凌駕する豪打。これで後手はマットに沈みました。(第2図)

elmo 妙手

ここで△4二銀で飛車を取りたいところですが、▲1三銀成△同玉▲2四角△同歩▲同馬△1二玉▲2二金から詰んでしまいます。先手は[1三の角を取る→▲3四桂と打つ形を目指す]という要領で迫って行けば、後手玉を詰ますことが出来ますね。

しかし、飛車を取れないようでは、1三に打った角が無効化されているので、どうしようもありません。以降は、幾ばくもなく先手が勝利を収めました。

 

寄せの妙手

なお、後手はここで△6七角という攻防手が利けば嬉しいのですが、▲同馬△同金▲3四桂△1三玉▲3五角で痺れてしまいます。この攻防手を封じていることが、▲4二飛の最大のメリットと言えますね。

指し手で魅せて、勝利も取る。まさにファンタスティックな妙手でした。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 敵玉の紐を外せば、即詰みに討ち取れる確率が上がる。
  2. 一度踏み込んだら、その方針を貫く。

 

Part2 これ、いーらない!

 

続きましては、こちらの将棋です。相掛かりから序盤早々、互いに飛車を持ち合う乱戦になり、このような局面になりました。(第3図)

受けの妙手

2021.5.5 決勝6回戦 ▲Ryfamate VS △Qugiy戦から抜粋。(棋譜はこちら)

後手が△8九金と打ち、△5九馬からの詰めろを掛けたところ。先手は持ち駒が歩しかないので、有効な合駒がありません。

何とかして詰めろを振り解く必要がありますが、本譜の防ぎ方はテクニカルでしたね。

Ryfamateが指した手は、▲7九金です!

神の一手 妙手

下段へ逃げるために、金を犠牲にしたのが妙手でした!


 

 

神の一手 妙手

この金を捨ててしまうとは、非常に意表を突かれますね。本当に大丈夫なんですかぁ? という感じですが、これで先手玉には詰めろが続かなくなっているのです。

受けの妙手

なお、冒頭の局面では▲9八銀で逃げ道を作る方が自然ではあります。ただ、これは△5九馬▲8七玉△8五歩と迫られる手が厄介ですね。玉頭を小突かれる展開になると、なかなか振りほどけないのです。

では▲7九金の場合、どのような進行になるのでしょうか。

神の一手 妙手

これを素直に△同金と取ると、▲4二歩成で先手の一手勝ち。△5九馬には▲8八玉△8九金打▲9八玉で詰みません。5五の馬が頑張っているので、先手玉は耐えているのですね。

神の一手 妙手

なので本譜は単に△5九馬と指しましたが、▲7八玉△7九金▲同玉と進んだとき、後手は手出しが出来なくなっているのです。(第4図)

受けの妙手

先手玉への寄せだけを考えれば、△7七銀で詰めろが掛かりますね。けれども、それには▲同馬△同馬▲6一飛成で後手はトン死してしまいます。(B図)

この変化が控えているので、後手はもう金気を一枚も渡すことが出来ません。

コンピューター将棋

とはいえ、ここで△7七銀が指せないと先手玉に迫る術は無いですね。後手は馬の赤外線をかいくぐる方法が無いので、手段に窮しているのです。

 

神の一手 妙手

つまり話をまとめると、先手は金気を二枚取れば後手玉を仕留めることが出来るので、その条件を着々と整えていたのですね。その第一歩が▲7九金だったという訳です。

しかしながら、本来玉に一番近い場所にある金は、囲いの核とも言える存在です。それを投げ捨てて凌ぎに行くとは、全く思い浮かびません。とても柔らかい受けの妙手でした。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 玉頭から攻められる場合は、下段に落ちて凌ぎに行く。
  2. 相手の攻め駒は、敵玉への寄せに利用できる。



 

Part3 圧巻の穴熊退治

 

お次は、コンピュータ将棋界では数少ない振り飛車党であるHoneyWaffleの将棋をご覧いただきましょう。(第5図)

コンピュータ将棋

2021.5.4 二次予選4回戦 ▲HoneyWaffle VS △dlshogi with GCT戦から抜粋。(棋譜はこちら)

先手玉は中段に泳ぎ出しており、激戦の跡が窺えますね。

ただ、こういったゴチャゴチャした競り合いになると、ゼットが持続する穴熊の土俵と言えます。しかし、本譜はここから見事な手順で穴熊を撃破したのでした。

HoneyWaffleが指した手は、▲2三銀です!

寄せの妙手

銀を打ち込んで「詰めろ逃れの詰めろ」を掛けたのが妙手でした!


 

 

寄せの妙手

ここに銀を打ってもすぐに取られてしまうので、傍目には一時力に過ぎないように思えますね。けれども、これが不利な体勢を引っくり返す妙着なのです。

ちなみに、同じようでも▲4三銀と打つのは、△3五飛▲同歩△2七馬でアウトですね。(C図)

この変化は後手にゼットを維持されているので、先手は競り負けてしまうのです。それを許さないために、2三から銀を打つ必要があるのですね。

寄せの妙手

さて、これは▲1二銀成から詰ます筋があるので、後手はC図のような真似は出来ません。なので△2三同銀は妥当な応手ですが、そこで▲2二金と叩き込むのが快心の一撃。これが先手の狙っていたスマッシュでした。(途中図)

寄せの妙手

なお、代えて▲2三同桂不成とするのは△2二玉でいけません。これは1三に逃げられた形がゼットなので、後手玉がむしろ安全になっています。こういった玉頭戦では、ゼットを作られないことが鉄則ですね。

寄せの妙手

さて、この金打ちを玉や角で取ると詰んでしまうので、必然的に△2二同飛の一手です。それから▲2三桂不成を実行すれば、後手は2二へ逃げられません。以下、△同飛▲同歩成と進んだ局面は、先手が抜け出した格好となりました。(第6図)

コンピューター将棋

後手玉には▲2二銀からの詰めろが掛かっていますし、先手玉に詰みは無いですね。3二の飛を除去したことで、とても玉が広くなったことが分かります。以降も後手は懸命に粘りましたが、先手はリードを保って逃げ切ることに成功しました。

 

寄せの妙手

それにしても、冒頭の局面では絶体絶命に見えただけに、ここから勝ち筋に持って行けるとは驚きです。特に、銀を取る前に▲2二金と捨てたのは鮮烈でしたね。まさに圧巻の穴熊退治でした。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 敵玉のゼットは維持させない。
  2. 「桂頭の玉、寄せにくし」という状況を作らない。

 

Part4 めっちゃ、堂々としてる

 

続いては、こちらの将棋です。先手の矢倉に後手が雁木で対抗する構図になり、このような局面を迎えました。(第7図)

神の一手 将棋

2021.5.5 決勝5回戦 ▲大将軍 VS △Ryfamate戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)

後手は8四の角が詰まされたので、駒損になることが確定していますね。人間なら、どのように被害を最小限に止めようかという発想をするように思います。

けれども、本譜は全く違うアプローチでこの難題を対処したのでした。

Ryfamateが指した手は、△5二金です!

神の一手 将棋

堂々と金を上がり、「角はどうぞ」と差し出したのが妙手でした!


 

 

神の一手 将棋

はぁ? これを手抜き?

という印象を受けた方が殆どかと思います。全くもって意味不明ですが、これが優勢に導く受けの妙技でした。

神の一手 将棋

なお、後手は駒損を軽減するのなら、△9三角が候補になります。これなら角の丸損を回避できますね。ただ、▲9三同金△同香▲3一角と攻め立てられる手がうるさく、どうも芳しくありません。(D図)

この変化は、先手に▲2五飛という捌きを与えていることが問題ですね。

それを踏まえると、△5二金と指した意図が見えてくるのではないでしょうか。

神の一手 将棋

さて、先手はもちろん▲8四金で角を取りますが、後手は△2六歩と伸ばしておきます。後手は角損になりましたが、2筋の突破を確約させたことが主張ですね。(途中図)

コンピュータ将棋

今度は5三の銀に紐がついているので、▲3一角を喫することはありません。この突き出しを安心して指すために、後手は△5二金と上がったのです。

先手は2筋が受からないので▲7三金で桂を拾うくらいですが、△2七歩成▲5八飛△3八と▲同飛△2九飛成で竜を作ることに成功しました。以下、▲3九歩△4二玉と進んだ局面は、後手が優位に立っていますね。(第8図)

コンピュータ将棋

相変わらず後手は角損していますが、この局面はその損失をそこまで感じないのではないでしょうか。先手は6八の角が起動していませんし、8八の銀も悪形です。要するに、駒の効率には甚だしい差が着いているので、後手は角損でも十分に戦える情勢なのですね。

コンピュータ将棋

加えて、玉型においても後手はアドバンテージを取ることが出来ています。現状は3筋が素通しですが、▲3一角と打たれても△4一玉で大丈夫。対する先手は△3七歩▲同飛△4八銀から3筋のバリケードを壊されると、そこまで粘りが利かない格好です。実戦もその攻め筋を実現させた後手が勝利を収めました。

 

神の一手 将棋

こうして振り返ってみると、後手は8四の角をあえて守らないことで、大いにポイントを稼いだことが分かります。先手は▲3一角と打って▲2五飛と走ることが真の狙いだったので、それを阻止することが急所だったのですね。△5二金は、目先の駒の損得に囚われない器の大きい妙着でした。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 駒損が確定したら、他の要素に代償を求める。
  2. 自分の主力である駒が攻撃されないようにする。

 

Part5 無駄使い? いいえ、必要経費です!

 

続いては、こちらの将棋です。角換わり腰掛け銀から先手の攻めを後手が凌ぐ構図になり、以下の局面を迎えました。(第9図)

PAL 将棋

2021.5.5 決勝5回戦 ▲Qugiy VS △PAL戦から抜粋。(棋譜はこちら)

先手がバンバン攻め立てていることが読み取れる局面です。現状では玉の安全度に差があるので、後手の非勢は否めないように見えるところでしょう。

けれども、ここでPALが放った一手により、状況に変化が起こります。これが得になることがあるんですねぇ…。

PALが指した手は、△9二角です!

神の一手 将棋

遠見の角を放って、相手の攻めを牽制したのが妙手でした!


 

 

神の一手 将棋

…ここに打っちゃうの?と、感じる方が多いのではないでしょうか。

これは成銀を狙っていることと、▲6四成銀には△4八歩成がヒットするということは読み取れます。

ただ、▲8三桂と打たれると簡単に封印されてしまうので、ぱっと見では無駄使いのようにしか思えません。こんな狭い場所に角を打ったところで、どうにもならないと考えるのが普通の感覚でしょう。

神の一手 将棋

この謎を紐解くには、本譜の進行をご覧いただく必要があります。実戦はここから、▲8三桂△4六桂▲6七金右△4八歩成▲7九玉△3八角▲6四成銀△2九角成と進みました。(第10図)

コンピュータ将棋

唐突で恐縮ですが、この局面で[△9二角▲8三桂]のやり取りが無かったときのことをイメージしてください。すると、先手の持ち駒は桂が二枚になりますね。

その条件だと、▲5六金△同銀▲5四成銀という踏み込みが成立するのです。(仮想図)

寄せの妙手

これは▲4四桂の詰めろですね。後手は成銀が目の上のたん瘤なので△5三金打で除去したいところですが、それには▲6四桂△同金▲4四桂で詰まされてしまいます。

先手は桂を二枚持っていると、5四の成銀を追われる心配がありません。それがとてつもなく大きいのですね。

寄せの妙手

これは裏を返すと、桂を二枚持っていなければ、ここで△5三金打のときに後手玉を倒せないということでもあります。

もうお分かりでしょう。後手はこの変化をケアするために、[△9二角▲8三桂]という交換を入れておいたという訳なのです。

コンピュータ将棋

この変化だと先手は戦力が足りていないので、▲5六金△同銀▲5四成銀の筋は使えません。本譜はやむなく▲9一桂成と指しましたが、これは△4七角成で問題ないですね。先手が必要な駒は[桂桂]という組み合わせであり、この局面においては香を取ってもあまり意味が無いのです。

コンピュータ将棋

一気の寄せがないのであれば、駒得していることが確実に効いてきます。以降は、後手が三枚の大駒を上手く活用して競り合いを制しました。

 

神の一手 将棋

基本的に、大駒を使うときは遮断されないようにすることがセオリーです。ゆえに、直ちに利きを堰き止められるような場所に打つのは損としたものでしょう。けれども、この場合は先手の持ち駒から桂を消費させることが何よりも大事だったのですね。こういったイレギュラーな手は人間には考えにくく、将棋ソフトらしい妙手だったと思います。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 直線的な斬り合いを挑む前には、相手の攻め駒を浪費させる。
  2. [四枚の攻め+詰めろ]という状況になると、概ね受け切れない。

 

Part6 華麗なる駒の舞い!

 

次の妙手は、こちらの将棋です。相掛かりから飛角桂が乱舞する華々しい展開になり、このような局面を迎えました。(第11図)

今週の妙手

2021.5.5 決勝4回戦 ▲白ビール VS △PAL戦から抜粋。(棋譜はこちら)

後手が4四にいた玉を、△5四玉と寄ったところです。

ここで先手には、とても魅力的な手がありますね。当然それを指すのかと思いきや、白ビールはさらに得を求める手を指しました。

白ビールが指した手は、▲3三桂成です!

コンピュータ将棋 妙手

3三の歩を取って、後手に「やってこい」と突きつけたのが妙手でした!


 

 

コンピュータ将棋 妙手

えっ? そっちに行くの?

そう、地味なようでもこちら側に桂を成る手が正確無比な一着です。この瞬間が頼りなく見えますが、3三の歩を削っておくことが後になって大きな意味を持つことになります。

今週の妙手

ところで、始めの局面では▲5三桂成△同玉▲4一香成で飛車を素抜いてしまう手も有力に見えます。この方が手っ取り早く飛車を取れるのでより良く感じますが、これは後手が仕掛けた罠。そこから△5六歩と反撃されると、形勢の針は一気に後手に傾くことになります。(E図)

この変化は将来の△4五桂が痛烈なこと、及び後手玉が相当に広いので、先手は寄せ合い負けを喫してしまうのです。

コンピュータ将棋 妙手

しかし、▲3三桂成の場合だと、かなり状況が異なります。今度は相手に桂を渡していませんし、4八に香が残っているので先手玉の安全度が違います。ここで△5六歩と打たれても、▲3二成桂で角を取れば先手良しですね。

という訳で、後手は違う手段に訴えることになります。本譜は△2九竜と突っ込んできました。(第12図)

寄せの妙手

これは4一の飛が盤上に残っていることを活かした一着です。「あなたの▲3三桂成は緩いですよ」と突きつけているのですが、この大技も先手の想定内。ここからの返し技が見物でした。

寄せの妙手

手始めに▲4三銀と打ちます。飛車を遮断すれば2九の竜が取れますね。なので後手は△同飛と応じ、▲同成桂△5九銀▲6九玉△3九竜と肉薄します。部分的には先手玉は必至ですが、そこで▲3四飛が狙い澄ましたカウンター。これで先手の勝ちが決まりました。(第13図)

コンピュータ将棋

後手は△6五玉と逃げると、▲6六馬で詰んでしまいます。ゆえに△4四歩と捨て合いすることになりますが、▲同馬△6四玉▲1七馬と進めれば、王手竜取りが掛かるので一丁上がりですね。(第14図)

終盤 妙手

竜を取ってしまえば、先手玉は全く寄り付きません。馬の起動が稲妻のようでもあり、華麗な舞を踊っているかのようでもありますね。

ここまで進んでみると、3三の歩を刈り取った恩恵がよく分かるでしょう。あの桂成は後手の大駒を責める意味もさることながら、馬の活用を見越していたのですね。

 

コンピュータ将棋 妙手

こういった手を見ると、眠っている大駒を起動させることは、盤上に大きな影響を与えることが分かります。馬を使うなら▲2二馬という手も見えるところでしたが、確かに3三の歩を取る方がダイナミックな活用を見込めますね。視野の広さ、読みの深さが窺える妙手でした。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 遊んでいる大駒の活用を最優先にする。
  2. 玉の堅さで勝っている場合は、あえて攻めさせても構わない。

 

Part7 まさに閃耀 絶妙の返し技!

 

いよいよ、最後の将棋となりました。フィナーレには今大会で優勝したelmoに飾って頂きましょう。さすがに、これは外せなかったですね。(第15図)

コンピュータ将棋

2021.5.5 決勝5回戦 ▲elmo VS △白ビール戦から抜粋。(棋譜はこちら)

後手が6三にいた金を、ぐいっと上がったところです。この手は次に△6五桂打▲8七玉△7六金からの詰めろになっていますね。(F図)

キャプションに記したように、先手は平凡な受けでは勝機を掴めません。elmoはどんな魔法を使って、このピンチを切り抜けたのでしょうか?

elmoが指した手は、▲6三銀です!

elmo 妙手

銀を犠牲にして、6四の金を退かせたのが妙手でした!


 

 

elmo 妙手

この状況で銀を渡す!?

ご覧のように先手玉はすこぶる不安定ですし、後手玉がいきなり詰むわけでもありません。にも関わらず銀を捨てるとは、一体どういう理屈なのでしょうか。

elmo 妙手

後手はこの銀をどちらの駒で取るかですが、△同玉と取ると▲4一角△6二玉▲5二角成で即詰みコースに入ります。(G図)

ゆえに、これは△6三同金と取ることになるのですが、金を引かせたことで先手玉は五段目に逃げられるようになりました。なので、▲8一飛成と詰めろを掛けておきます。(第16図)

elmo 妙手

さて、確かに先手玉は広くなりましたが、銀をプレゼントしたので危険なことには変わりありません。本当にこの玉は詰まないのでしょうか。

後手は△6五桂打で迫りますが、▲同銀△同桂▲6七玉とかわします。傍目には詰んでいるようにしか見えないのですが、なんとこれで凌いでいるのですね。(途中図)

elmo 妙手

先手は5六→4六→3五というルートが拓けており、これが後手にとって頭を悩ませています。6四に金がいれば△5五金打で簡単に捕まえられるところだったので、あの銀捨てが相当に利いていることが分かりますね。

後手が3五へ逃げられないようにするには、△5八銀▲5六玉△4七銀打▲4六玉△3六銀成という追い方をするしかありません。けれども、これは▲5六玉とかわしておけば、やはり先手玉は捕まらないのです。(第17図)

elmo 妙手

△4七銀不成▲6六玉△6八竜で王手は続きますが、▲6七銀と合駒すれば不詰めです。繰り返しになりますが、とにかく先手玉が五段目に逃げられることが大きく、後手はどうにも仕留め切れないのですね。

 

改めて、途中図の局面に戻ります。

終盤 妙手

後手は△6四金と上がる手が攻防手になれば好都合ですが、▲5一角△6三玉▲6一竜から詰まされてしまいます。仕方がないので本譜は△6一歩と辛抱しましたが、そこでじっと▲4一角がトドメ。じたばたと王手を掛けない寄せが参考になります。(第18図)

コンピュータ将棋

これは▲5一角△同玉▲5二銀△4二玉▲3四桂という詰めろ。同時に▲7一角からの詰み筋もあるので、見た目以上に受けにくい寄せになっています。

また、△5二銀と弾いても▲7一銀△5一玉▲5二角成△同玉▲7二竜から詰んでいるので、後手に有効な受けはありません。(H図)

 

話をまとめると、先手は▲6三銀と捨てることで6四の金を退かせ、その結果、玉の安全度を逆転することに成功したことが分かります。

elmo 妙手

とはいえ、この状況下で銀を渡しても大丈夫であることは驚愕ですし、▲8一飛成の局面で後手に返し技が無いということも信じられません。まさに人間の域を超えた閃耀たる妙手でしたね。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 攻防に利いている駒に働き掛ける手は、高い価値を持つ。
  2. 攻防手は、王手を掛けながら発動する手が最強。

 

なお、今回の記事では7つに絞りましたが、この度のコンピュータ将棋選手権では、他にも紹介しきれなかった妙手がたくさんありました。以下のサイトにて全局鑑賞することが出来ますので、ご興味のある方は、ぜひご覧くださいませ。面白い将棋が満載ですよ。

参考 第31回世界コンピュータ将棋選手権中継サイト

 

それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!

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