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今週の妙手!【コンピュータ将棋編】(2020年5月第2週)

コンピューター将棋

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。

 

今回はいつもとは趣向を変えて、5/3~5/4に開催された世界コンピュータ将棋オンライン大会の対局を題材にいたします。

また、普段はランキング形式で妙手を紹介しておりますが、今回は「攻め」「受け」「攻防手」「人外レベルの神業」という四つにカテゴライズして妙手をご紹介いたします。

それでは、さっそく見ていきましょう!

注意事項

 

・5/3~5/4に開催された世界コンピュータ将棋オンライン大会の中からセレクトしています。

 

・図面に記載した将棋ソフトの名称は、略称になっているソフトもあります。なお、略称につきましては、公式サイトに記載されているものに倣いました。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! コンピュータ将棋編
(2020.5/3~5/4)

 

攻め

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。相掛かりから盤面全体を使った激しい攻め合いになり、このような局面になりました。(第1図)

 

水匠

2020.5.4 ▲水匠VS△習甦戦から抜粋。(棋譜はこちら)

後手が△4三同銀で成桂を取ったところです。

この局面は、まだ馬を捨てて敵玉を仕留めるような段階ではありません。なので、先手は馬を逃げる必要がありますね。自然な手は、もちろんあの手でしょう。

 

ところが、先手はそれを選びませんでした。代わりにどんな手を指したのでしょうか?

水匠が指した手は、▲3五馬です!

 

水匠

桂を取らずに、馬を引いて使ったのが妙手でした!


 

 

水匠

これが面白いアイデアでした。「▲3三馬で桂を取れば駒損を回復できたのに…あぁ、もったいない」と思ってしまうようですが、これには深い理由があるのです。

これは竜取りなので後手は△2六桂と打ちますが、▲2八金寄△1六竜▲7一馬と進めます。ここに馬を侵入することが、先手の描いていたビジョンだったのですね。(第2図)

 

水匠

こうなると後手は飛車取りの受け方が悩ましいですし、次に▲3一角成から挟み撃ちにされる手も気になります。先手があっという間に後手玉を包囲したような印象を受けないでしょうか? もし、▲3三馬と桂を取っていると、このような進行は望めませんでした。

 

この変化は、9七の角を活かすことが先手の真の狙いです。つまり、もし第1図から▲3三馬△4二銀と進むと、先手はこの角が成り込めなくなってしまいますね。(参考図)

 

水匠

こうなると角が使えないので、先手は駒が取れても結果として攻撃力が上がらないという状況になってしまいます。その問題をクリアするために、▲3五馬と引いたという訳なのです。

 

水匠

とはいえ、王手で取れる駒をあえて取らないという選択は、なかなか出来ないものですね。目の前の誘惑に負けない妙手だったと思います。

 


続きましては、こちらの将棋です。相掛かりから互いに鎖鎌銀を出し合う将棋になり、このような局面になりました。(第3図)

 

2020.5.4 ▲NineDayFeverVS△elmo戦から抜粋。(棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)

後手は[金銀⇔飛]の二枚替えで駒得で、かつ手番も握っているので局面をリードしている状況と言えるでしょう。ここは手番を活かして、一気に畳みかけたいところですね。

 

こういったとき、ぱっと目につく手筋がありますが、elmoの指し手はそれをさらに上回るものでした。

elmoが指した手は、△7六銀打です!

 

銀を打って、先手陣をプレスしたのが妙手でした!


 

 

elmo

重厚に銀を打って先手玉に迫ったのが好着想でした。こういったアプローチで矢倉を崩すケースは、意外と珍しいのではないでしょうか。

 

なお、ここでは△8七歩がよくある手筋ですが、現状では▲同金のあとにピリッと来る手がありません。また、△5八成桂も自然ですが、▲8七角という攻防手が手強く、これも容易ではないでしょう。(A図)

こういった煩わしい変化を乗り越えられることが、△7六銀打の自慢になります。

 

elmo

ここに銀を打っておけば▲8七角を消すことが出来ていますし、次こそ△8七歩が厳しい一着になりますね。

先手は▲7六同銀△同銀▲7七歩と催促する手が考えられますが、これでも後手は△8七歩が決行できるのです。(第4図)

 

elmo

▲7六歩で銀を取られても、△4六角▲6八銀△5八成桂と肉薄すれば先手玉は寄り筋です。後手は自玉がゼットなので、詰めろの連続で迫れば勝ち切れる情勢ですね。

 

改めて、冒頭の局面に戻ってみましょう。

elmo

この局面では、互いにとって8七の地点がホットスポットであり、これの椅子取りゲームに競り勝つことが急所だったのです。ゆえに、△7六銀打→△8七歩という攻め方が最適解になるという仕組みなのですね。

 

どうしても銀を持っていると、△6九銀と引っ掛けるような攻め筋を考えてしまうのですが、AIはそういった先入観を持っていないことが強みですね。「敵の打ちたいところへ打て」という格言に則った見事な寄せでした。

 

 

受け

 

ここからは、受けの妙手を紹介します。

相居飛車から乱戦模様になり、以下の局面を迎えました。(第5図)

 

コンピューター将棋

2020.5.4 ▲たこっとVS△NineDayFever戦から抜粋。(棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)

先手が▲2九銀と指して、と金を払ったところ。

後手は駒損はしていないので焦る必要は全くない局面です。ただ、玉が三段目にいたままでは何かと不安定なので、これをどうにか改善したいですね。

 

実戦は、巧みな構想でそれの実現を図りました。

NineDayFeverが指した手は、△6二飛です!

 

コンピューター将棋

飛車の配置を変えたのが柔軟な妙手でした!


 

 

コンピューター将棋

飛車を6筋に移動したのが、巧みなお手入れでした。ぱっと見では意図が見えにくいですが、これが自玉を安定させるための第一歩なのです。

先手は▲7七桂と跳ねて駒を活用しますが、後手は△7二玉と引き、不安定な三段玉を立て直します。前もって飛車を回っておいたので、6筋に強固なバリアーが展開できていますね。(途中図)

 

コンピューター将棋 妙手

ただ、玉を引くと5三の地点が手薄です。先手はそれを狙って▲5四歩と突きますが、△4二角で守備駒を投入し、つけ入る隙を与えません。以下、▲2一飛成△5四歩▲5七歩△5三角と進んだ局面は、自陣が大いに安定した印象を受けます。(第6図)

 

コンピュータ将棋

後手は玉を引いたことや6四の地点をがっちりと強化したことで、6六の香のプレッシャーを緩和できたことが大きいですね。また、△1七角成から馬を作る手も楽しみと言えるでしょう。第5図とは見違えるような安心感があります。

 

コンピュータ将棋

第6図はまだまだこれからの戦いですが、ここまで玉型がリフォームできれば、後手は長期戦もどんと来いです。何と言っても、と金攻めが来ないことや、駒を補充される心配が無いことが心強いですね。以降もNineDayFeverは丁寧な指し手を積み重ね、最後は余裕を持ってゴールすることが出来ました。

 

コンピューター将棋

こうして振り返ってみると、後手は△6二飛→△7二玉の二手により、堅陣を作ることができています。単に△7二玉では飛車が受けに働かないので、その前に6筋へ転換しておくことがポイントなのですね。

自陣を立て直す技術が参考になる将棋でした。

 


続いては、こちらの将棋です。後手の意欲的な作戦に先手が急戦で立ち向かう構図になり、このような局面を迎えました。(第7図)

 

習甦 妙手

2020.5.4 ▲習甦VS△名人コブラ戦から抜粋。(棋譜はこちら)

後手が△6九金と打って、先手の囲いを崩しに来たところです。

これに対して平凡な受けは▲7九銀ですが、習甦はもっと効率の良い手を指しました。これは習いある手筋でしたね。

習甦が指した手は、▲4九歩です!

 

習甦

竜取りに歩を打って、逃げ場所を尋ねたのが妙手でした!


 

 

習甦

攻めの司令塔である竜に働き掛けたのがクレバーでした。この局面に於いては、竜を4八から移動させることが実に大きな意味を持つのです。

 

これを素直に△4九同竜と応じると、6八への利きが消えますね。なので、▲2一飛成で桂を拾う手が間に合います。

よって、後手は△5八竜と寄る手が妥当ですが、そこで▲5三角成と踏み込んだのが豪快なスマッシュでした。(第8図)

 

コンピュータ将棋

先手は銀を入手すれば、▲7一銀で後手玉を仕留めることができます。また、△同金▲同桂成△同銀と応じられても、▲8三金と打てば寄り筋でしょう。(B図)

もし、後手の竜が4八にいれば、先手は▲5三桂同成と指したときに4一の飛が取られてしまうところでした。それを未然に防いだ▲4九歩が光っていることが分かります。

 

習甦

要するに、初めの局面は4八の竜が最高のポジションを陣取っていたので、そこから立ち去ってもらうことが最優先事項だったのです。▲4九歩は、△6九金に空を切らせた巧みな受けでしたね。

 



 

攻防手

 

続いては、攻防手の妙手を取り上げます。攻防手の代表格と言えば、やはり「詰めろ逃れの詰めろ」でしょう。(第9図)

 

コンピュータ将棋

2020.5.4 ▲Daigorilla∞VS△GCT戦から抜粋。(棋譜はこちら)

後手は玉が8五におり、非常に狭い格好ですが、現状ではまだ不詰めですね。という訳で、△4六馬からの詰めろを掛けた訳です。

 

さぁ。先手はどんな手品を使って「詰めろ逃れの詰めろ」を発動したのでしょうか?

Daigorilla∞が指した手は、▲8六歩です!

 

コンピュータ将棋

歩を突き捨てて、後手の玉をおびき寄せたのが妙手でした!


 

 

コンピュータ将棋

これが彼我の速度を逆転させる一着でした。

後手は△8六同玉と取るよりないですが、▲7七角△8五玉▲8七金が強気な手順。なんと、これが詰めろ逃れの詰めろになっているのです。(第10図)

 

コンピュータ将棋

先手は▲7七角と▲8七金を指すことで、

(1)6八の地点の強化
(2)7八への逃げ場の確保

という二つのベネフィットを手にすることが出来ています。その結果、自玉の安全度が向上し、「詰めろ逃れの詰めろ」を発動することに成功したのです。

 

コンピュータ将棋

ここで△4六馬▲5八玉△5七銀のように迫られても、▲6九玉と引けば辛くも逃れていますね。そこからもかなり王手は続くのですが、8筋方面へ逃げていったときの生命力が強く、先手玉は凌いでいます。

 

コンピュータ将棋

それにしても、自玉が5七に露出した状態で技を掛けに行くのは、恐怖感のないAIらしい勝ち方ですね。多くの人間は▲6八玉と引いてしまいそうなところだけに、こういった組み立てを見ると、ソフトの終盤力の高さが垣間見えます。

 


お次は、こちらの将棋です。相掛かりから後手の猛攻を先手が凌ぐという構図になり、このような局面になりました。(第11図)

 

コンピュータ将棋

2020.5.4 ▲koronVS△dlshogi戦から抜粋。(棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)

先手が▲9四桂と打ち、反撃に転じたところです。

後手は金取りを受けても被害が拡大するだけなので、これを直接的に受ける手段は取れません。

穏便な手は△9七竜ですが、dlshogiはそんな凡庸な手は選びませんでした。これは鮮烈な一撃でしたね。

dlshogiが指した手は、△6九角です!

 

コンピュータ将棋

香を成る前に、角を捨てたのが妙手でした!


 

 

コンピュータ将棋

これが素晴らしい踏み込みでした。本局は、この一撃で決まったという印象ですね。

なお、この手に代えて△7八香成のほうが自然ではありますが、▲8二桂成△6八成香▲4八玉と進むと後手は一手負け。次の▲8一竜があまりにも厳しいので、後手は競り負けてしまいます。

 

つまり、この一手の遅れを間に合わすことが後手の課題であり、△6九角と捨てる手がそのハードルを飛び越える一着になるのです。

 

コンピュータ将棋

これを▲5九玉とかわすと、△7八香成▲8二桂成△6八成香▲4八玉△5八成香で後手が勝ちます。今度は6九に角がいるので、5八に成香を寄れることが大きいですね。(C図)

ゆえに、△6九角には▲同玉の一手ですが、△7八香成▲5九玉△6八成香▲4八玉△5九成香で追撃を続けます。(途中図)

 

コンピュータ将棋

先手は▲5九同玉で成香を取ると、△7七角でゲームオーバー。よって、▲8八銀打は仕方がありませんが、△4九成香▲同銀に△9二金打が手厚い受けになりました。(第12図)

 

コンピュータ将棋

これが後手の真の狙いでした。竜を捕獲してしまえば、自陣は安泰でしょう。

先手は攻めの主砲を失ったので、ガクンと戦力が落ちています。その上、△2八飛の傷も残っていることも悩みのタネですね。以降は後手がリードを守って勝ち切りました。

 

コンピュータ将棋

話を整理すると、後手は△6九角と捨てることで攻めを加速させ、その一手を活かして△9二金打で竜を捕まえるというシナリオだったのですね。王手の連続なので、先手は回避しようがありません。まさにパーフェクトな勝ち方でしたね。

 

 

人外レベルの神業

 

ここからは、とても人間業ではないような妙手を紹介したいと思います。

もし、「こんなの、普通じゃん」と感じられたのであれば、おそらく、その方も人間をご卒業されているのでしょう笑(第13図)

 

HoneyWaffle

2020.5.4 ▲HoneyWaffleVS△Qhapaq from Neo-Saitama戦から抜粋。(棋譜はこちら)

後手が△4九金と打った局面です。

ご覧のように先手は角が詰まされており、困ったように見えるところですね。しかし、ここでHoneyWaffleは妙案を捻り出し、上手くバランスを保ったのでした。

HoneyWaffleが指した手は、▲2三桂です!

 

HoneyWaffle

桂を犠牲にして、後手の囲いを乱したのが妙手でした!


 

 

HoneyWaffle

……もはや、常軌を逸し過ぎていて、意味不明ですね。しかし、これがピンチを切り抜ける妙手でした。

なお、第13図では▲7三桂成のほうが自然な一手でしょう。以下、△同角▲8二飛成△同角▲8六角と進めば角が生還するので、これで悪くないように思えます。

ところが、そこで後手には△4五桂打という鋭手があるのです。(参考図)

 

HoneyWaffle

3七の地点にアタックされると、先手の銀冠は堅くありません。これは攻めるターンが回ってこないので、先手非勢と言えるでしょう。

 

このように、単純に角を逃がすような手段は上手くいきません。しかし、ではなぜ代案として▲2三桂という手になるのでしょうか。

 

HoneyWaffle

後手は▲1一桂成を許すと、▲7三桂成から飛車交換になったときに支障が生じるので芳しくありません。

なので、ここは△2三同玉が妥当な対応ですが、▲7三桂成△同角▲8一飛と進めるのが先手の描いていたビジョンでした。(第14図)

 

HoneyWaffle

[▲2三桂△同玉]というやり取りを入れておいたので、この飛車打ちが▲1一飛成を見せています。なので、後手は△4五桂打も△4六角も指すことが出来ません。

ゆえに、本譜は△5九金▲8二飛成と角を取り合うことになったのですが、こうなれば先手は5九の角が駒台に移動した勘定になったので、危機を乗り切ったと言えるでしょう。

 

要するに、先手は桂を犠牲にすることで、5九の角を救助することに成功したという理屈なのです。

 

HoneyWaffle

……と、ここまで説明すれば▲2三桂の意図がお分かり頂けたかと思うのですが、この局面でここに桂を捨てるという発想は素直に脱帽ですね。これは驚愕の妙手でした。

 


続きましては、こちらの将棋です。角換わりから相早繰り銀という戦型になり、以下の局面を迎えました。(第15図)

 

白ビール

2020.5.4 ▲究極幻想アルテマタヌポンVS△Hefeweizen-2020戦から抜粋。(棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)

後手は[飛桂⇔金]の交換なので駒得ではありますが、駒の働きにおいては満足と言い切れないところがあります。効率の面では、先手のほうが勝っている状況ですね。

 

容易ならざる局面ですが、ここから後手は巧みに遊び駒を使って、上手くポイントを稼ぎました。

Hefeweizen-2020が指した手は、△9三飛です!

 

白ビール

端に追いやられた飛車に光を当てたのが、盤面を広く見た妙手でした!


 

 

白ビール

9筋の飛車を動かしたのが意表の一着でした。飛車を浮いても、まだ息苦しさは否めないので、かなり指しにくい一手ですね。

次に△8三飛が実現すれば万々歳ですが、さすがにそれは虫が良すぎます。当然、先手は▲8四銀と打って、それを阻止するでしょう。

 

後手は自ら飛車の命を縮めてしまったようですが、そうではありません。この瞬間に△6六歩と攻めに転じたのが鋭敏な切り返しです。(第16図)

 

白ビール

これは△6八飛成からの詰めろなので、先手は無視することは出来ません。

また、これを▲同歩と取ると、△6七歩▲7八金△8六桂▲同金△5八角成という寄せが炸裂します。先手は6八の地点が受けることが出来ないですね。(D図)

この変化から読み取れるように、先手陣は6七がウィークポイントで、ここを攻められだすと粘りが利きません。

 

白ビール

したがって、ここでは▲6六同馬と取ることになるのですが、これで馬の利きが逸れたので、後手は悠々と△9二飛で飛車を逃がすことが出来ました。(第17図)

 

白ビール

馬を5五から移動させたことで、▲8二歩成を消したことが後手の自慢ですね。

こうなると、先手は8四に打った銀が空振りなので、持ち前の効率の良さに翳りが出てしまいました。後手は無駄な投資を強要させたので、してやったりと言ったところでしょう。

 

この一連の手順は地味ではあるのですが、

STEP.1
まずは、▲8四銀を誘う。(△9三飛)
STEP.2
相手が銀を使い守備力が落ちたので、攻めにギアチェンジ。(△6六歩)
STEP.3
馬を引いて攻撃力が落ちたので、またギアを受けに戻す。(△9二飛)

と、相手の指し手によって緩急を使い分けており、非常にテクニカルな手順だったと思います。

 

白ビール

何と言っても、働きの弱かった9二の飛を、△6六歩という手によって左辺の大駒と上手く連繋させたことにレベルの高さを感じます。

派手さはありませんが、妙味に富んだ駒運びでしたね。

 


いよいよ、これが最後の将棋です。これも次元の高さを感じさせた一局でした。(第18図)

 

コンピュータ将棋

2020.5.4 ▲dlshogiVS△NineDayFever戦から抜粋。(棋譜はこちら)

先手は▲3四銀と打ったところ。

これは▲2三歩成の一点狙いですが、後手はこれと同時に飛車の打ち込みも警戒しなければいけないので、受けるのは簡単ではありません。

 

対処が難しい場面ですが、ここから後手は見事な組み立てでビクトリーロードを歩んでいくのです。

NineDayFeverが指した手は、△3三歩です!

 

コンピュータ将棋

強く3四の銀に働き掛けたのが、先を見据えた妙手でした!


 

 

コンピュータ将棋

正直なところ、もっとインパクトのある手を期待されていたかと思うので、拍子抜けさせてしまったかと思います。これだけでは、何がどう「神業」なのか見えてこないので、少し長くなりますが説明させてください。

 

コンピュータ将棋

そもそも、この手は相手の狙いを直接的には受けていないので、少し不思議な手でもあります。先手はもちろん、▲2三歩成と来るでしょう。以下、△2八歩成▲2二と△3四歩▲3二飛△4三玉▲3一飛成と進みます。(第19図)

 

コンピュータ将棋

先手は首尾よく攻め駒を侵入させ、相手の防衛ラインを突破できました。こうなると後手は大失敗のようですが、淡々と△3八とで銀を拾います。

 

しかし、銀を取ってもまだ先手玉には響きがありません。▲3二竜△5四玉▲5二竜で、後手玉には詰めろが掛かりました。勝負の帰趨は明らかに見えますが、そこで△3七馬が起死回生の一着。さぁ、ここからが本題ですよ。(第20図)

 

コンピュータ将棋

この手は、▲5五金からの詰みを防いだ攻防手になっています。

とはいえ、▲5六金と打たれると、相変わらず危険な状態が続いています。今度こそ勝負あったかと思いきや、△5九銀という強手が後手の用意していた反撃でした。(途中図)

 

コンピュータ将棋

これを▲7九玉と引くと、△6八銀打から清算→△5九角から清算→△5八金▲同玉△4八飛という要領で迫っていけば、先手玉は詰みですね。

よって、▲7七玉とかわすことになりますが、△8六銀▲同玉△6四馬がシャープな迫り方。なんとこれで先手玉は詰んでいるのです。(第21図)

 

妙手

ここで▲7五銀は、△8四香▲8五歩△同香▲同玉△8三飛で合駒請求するのが賢く、先手玉は即詰みです。先手は持ち駒が悪いことが咎められていますね。(E図)

したがって、本譜は▲7五歩と受けましたが、△8四香▲8五歩△同香▲同玉△8四歩▲8六玉△8五飛▲9七玉△7五馬と進むと、いよいよ詰み形が見えてきました。

途中に△8四香と打つことで、先手の持ち駒から歩を削っていることが隠れたポイントです。(第22図)

 

ここで▲9八玉と引くと、△8六桂と打てるので詰みですね。

無理やり受けるなら▲8六香と捨て合いすることになりますが、△同馬▲9八玉△7六角でさらに合駒請求すれば先手はなす術がありません。どこまで行っても、持ち歩の少なさが祟っているのです。(F図)

 

さて。長くなってしまい恐縮ですが、ここまで話を進めると、後手の△3七馬と引いた手が「詰めろ逃れの詰めろ」になっていたことが分かります。この局面に誘導すれば、一手勝ちが望めることを見切っていたのですね。

 

コンピュータ将棋

そして、この局面を作り出すきっかけとなった手が、始めの△3三歩なのです。後手は△5四玉と逃げて行った形と、△3七馬と引きつけるコンボの相性が抜群であり、それを実現することが勝利条件でした。

そうするためには、3四の銀を除去しなければいけません。それゆえ、△3三歩が最適な一手になるというメカニズムだったのですね。

 

コンピュータ将棋

しかしながら、この△3三歩は相手の攻めをあまりにも呼び込んでいるので、利敵行為とは紙一重です。圧倒的な読みの深さと、正確無比な終盤力が織りなす神業だったと言えるのではないでしょうか。

 

コンピューター将棋選手権は、毎度のようにあっと驚く手が出現するので観戦していて非常に面白いです。この記事では紹介した妙手は、氷山の一角に過ぎません。全ての対局が以下のリンクから閲覧できるので、ご興味があればご覧くださいませ。

参考 世界コンピュータ将棋オンライン大会ライブ中継

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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