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第67回NHK杯 1回戦第6局 解説記 ~後編~

前回の続きです。

 

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第67回NHK杯1回戦第6局
2017年5月7日放映

 

先手 加藤 桃子 女王
後手 近藤 誠也 五段

 

第6図は先手が▲6五銀右(青字は本譜の指し手)で桂を取った局面です。手番が回ってきた後手は何を指すのが有効でしょうか。

例えば、△9九と駒得を主張する手が考えられます。次に△6一香や△2三香を狙いにしているので良さそうな手に見えますが、実は手番を有効に活かしてはいません。△9九とには、▲6三馬△8四飛▲7三馬△8一飛▲3四飛が上手い対応です。(A図)


A図では次に▲2四桂や▲7四飛から飛車を成り込む狙いが残っており、後手が忙しい局面です。また、先手玉への迫り方が難しいのもネックです。

△9九とのような地道に駒得を重ねる手は、中盤の入り口では有効な手になりますが、第5図は終盤に差し掛かろうとしているので、駒得の価値は下がりつつあります。

後手はすでに「飛角桂桂と」の5枚の攻め駒があるので、今さら戦力を追加しても効果が薄いのです。満腹状態からさらにご飯を食べるようなものですね。

という訳で、近藤五段は△7六桂と寄せに向かいました。(第7図)

 


寄せるための基本の一つに、敵玉に近い金を狙うというセオリーがあり、この手はそれに則った手といえます。

▲7六同銀△同歩と進めても、次に△5六桂▲同歩△1三角の筋を受けなければいけないので先手は手番を握れません。よって、本譜は▲5八玉と逃げましたが、△8八と▲7七金△8七とで執拗に金を狙います。以下、▲8二歩△6八桂成▲同玉△7七と▲同銀△6一飛と進みました。(第8図)

 

第8図では、(1)△5六桂▲同歩△6四飛▲同銀△4六角や、(2)△7六桂▲5八玉△3三角といった先手の飛車を目標した攻めがあります。加藤女王はそれを避けるために▲2九飛と指しましたが、この手で形勢を損ねてしまいました。

なぜなら、後手にはもう一つ、厳しい攻め筋が残っていたからです。(3)△2八歩▲8九飛△5四金が痛打でした。(第9図)

 

先手の主張は馬の存在で、この駒は盤上最強の駒です。第9図の△5四金は、それを消してしまおうという意味です。このように、相手の主張を潰すことで、相対的に自分の主張を伸ばすテクニックは、優位を拡大するときに便利です。汎用性が高いので覚えておくと良いでしょう。

 

さかのぼって、第8図では▲7五馬と引けば、後手の三つの攻め筋を防げたので均衡の取れた局面が続いていたと思います。(B図)

 


B図は先手陣を攻める足掛かりが無いので、後手も指し手に苦労しそうです。先手は、次こそ▲2九飛が価値の高い手になりますね。

 

本譜に戻ります。(第9図)

加藤女王は△5四金に対して▲7二銀と打ち、飛車と刺し違えに行きましたが、△6四金▲6一銀不成△6五金▲6二飛△7六歩▲6五飛成△7七歩成▲同玉△5四角と進んだ局面は、玉型の差が際立ってしまいました。(第10図)

 


第9図から10手しか進んでいませんが、もうここではかなりの差が着いています。ここまで形勢がハッキリしてしまった要因は、やはり第9図で先手の主張を奪い取ったことが最大の要因です。

第10図から加藤女王は▲6二竜と指しましたが、近藤五段は△7六歩から寄せに向かいます。以下、▲6八玉△4五角▲2四桂△2三銀▲3二桂成△同金▲2四歩と進みました。(第11図)

 

△同銀と取るのは▲2三歩と打たれて攻めが加速しています。しかし、この瞬間は後手玉は詰めろではないですね。つまり、ここで先手玉に詰めろの連続で迫れば後手の勝ちです。

自陣を攻められると焦ってしまいがちですが、速度計算をする習慣をつければ冷静に対応できるようになると思います。

第11図以下、△7七角▲5八玉△3六角▲4七歩△4六桂▲6九玉△6八銀▲7八玉△9九角成と見事な着地を決めました。(第12図)

 


第12図から▲同飛は△7七歩成以下詰み。▲6八玉も△7七馬で詰みです。
後手玉は▲4一金から王手は続きますが、上部が抜けているので詰みはありません。以降は波乱もなく、近藤五段が勝ち切りました。

本局は加藤女王が果敢に仕掛け、それを近藤五段がきちんと対応して第8図辺りまではずっと良い勝負だったと思います。自然な指し手に見える▲2九飛が悪手だったのは意外でしたね。

近藤五段には目立った悪手がなく、安定感が光った印象でした。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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