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~伝家の宝刀で一刀両断~ 第68回NHK杯解説記 谷川浩司九段VS佐々木勇気六段

今週は、谷川浩司九段と佐々木勇気六段の対戦でした。

 

谷川九段は居飛車党で、角換わりを得意としています。攻め将棋で芸術的な勝ち方は「光速の寄せ」と称されています。

佐々木六段は居飛車党で棋風は攻め。派手な手が出やすい天才肌の棋士で、華麗な将棋という印象を受けますね。

本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考 本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント

第68回NHK杯1回戦第17局
2018年7月22日放映

 

先手 谷川  浩司 九段
後手 佐々木 勇気 六段

 

初手から▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲7八金△1四歩▲2五歩(青字は本譜の指し手)と進み、第1図のようになりました。

 

戦型は角換わり。ただし、後手が6手目に指した△1四歩が珍しく、一般的な定跡型とはやや形が異なります。△1四歩の意味をざっくり説明すると、先手に▲2六歩型の腰掛け銀を組ませない狙いがあります。デメリットとしては、端の一手が不急の一手になってしまう可能性があることですね。

谷川九段は後手の端歩を緩手にするために、▲3七銀で早繰り銀を選びます。一手損角換わりには早繰り銀で対抗するのが優秀なので、それを応用したと言えるでしょう。

▲3七銀以下、△6三銀▲4六銀△5四銀▲7九玉△4四歩▲3五歩と進みました。先手が早繰り銀を選べば、ここまでは自然な進行です。(第2図)

 

先手の銀を前進させるわけにはいかないので、ここで素直に△3五同歩は感心しません。佐々木六段は△4三銀と引いて、形が乱れないように受けました。なお、第2図では△4五歩も有力だったでしょう。

△4三銀で銀矢倉を作られると、先手も一潰しとはいきません。谷川九段は▲5八金△5二金▲6六歩から囲いを強化して戦いに備えます。佐々木六段も歩調を合わせて、玉を入城させました。(第3図)

 

互いに矢倉の中に玉が入り、駒組みが飽和状態です。先手は▲9八香から穴熊へ進展する手も無くはないですが、9筋の歩を突いたことと関連性が薄いですし、△6五歩▲同歩△7三桂から先攻されてしまう可能性もあるので、現実的ではないでしょう。

よって、谷川九段は▲3四歩△同銀右▲3六歩から局面を動かします。▲3六歩と打つのが大事なところで、代えて▲3五歩と打ってしまうと△4三銀のときに二の矢が継げません。(A図)

 

3筋に位を取ってポイントを稼いだように見えますが、早繰り銀は3五の地点に銀を進出することがセオリーなので、A図はそれに反しています。このように、自分の攻め駒が進むべき場所に歩を打ってしまうと、攻めが渋滞します。

本譜のように▲3六歩と打てば、銀を3五に進ませることができますね。(第4図)

 

先手に確実な攻めを確保されたので、後手は少し焦らされています。佐々木六段は△8六歩でちょっかいを掛けました。▲8六同歩は△8五歩▲同歩△7三桂という攻め筋を残してしまうので▲8六同銀と応じますが、△4三銀で早逃げします。

この3手で先手玉は間接的にコビンが開いたので、△5五角と打つ攻め筋が水面下に発生しました。それがあるので、あなたは銀を出しづらいでしょう? と後手は問いかけているのですが、知ったこっちゃ無いと言わんばかりに▲3五銀と前進したのが強気な好手でした。(第5図)

 

後手は△4三銀と引いた手を活かすために△3四歩で銀を追い払いますが、▲2六銀で端に照準を定めます。

手をこまねいていると、先手の端攻めがとんでくるので、佐々木六段は△6五歩と突っ掛けましたが、▲3七角で飛車のコビンをケアしたのが用意の切り返し。以下、△9二飛▲6五歩で後手の攻めを封じることができました。(第6図)

 

後手は攻撃力が乏しいので、△5四銀と増援を送りましたが、▲1五歩が待望の端攻め。先手のほうが敵玉に近い場所を戦場にしているので、先手有利の中盤戦です。

▲1五歩以下、△同歩▲同銀△同香▲同香△1三歩までは必然。そこで▲1二歩が小味な垂れ歩。取っても放置しても始末が悪く、後手を大いに苦しめました。(第7図)

 

後手玉は4二の地点に玉が逃げ込めれば堅いのですが、この▲1二歩によって、それの実現が難しくなったことが痛かったですね。

ここで佐々木六段は△4九角と指したのですが、この手が悪手でした。後に記しますが、誤算があったようです。

第7図では△5四銀と上がった手の顔を立てるために、△6五銀▲1九香△6六歩と攻め合いたいところでした。(B図)

 

▲1一歩成には無視して△7六銀で勝負する腹積もりです。後手は飛車が攻めに参戦しないので頼りなさは感じますが、少なくとも一方的に攻められる展開は回避できます。

 

△4九角と打った局面に戻ります。(途中図)

△4九角の狙いは、▲1九香に対して△2七銀で先手の大駒を押さえ込み、長期戦に持ち込むことです。馬と2七の銀の圧力に期待して受けに回る方針です。

しかし、▲4八飛△7六角成▲7七金右△6五馬▲6六歩と進むと、後手の馬は行き場がなくなっています。佐々木六段はこれで馬が消えてしまうことをうっかりしたとのことでした。(第8図)

 

△5五馬は止む無き一手ですが、▲同角△同銀と進んだ局面は3七にいた角を捌かせた勘定になっており、後手の指し手は利敵行為になってしまいました。

 

手番と持ち角を戦力に加えた谷川九段は、満を持して▲1一歩成△同玉▲1三香成と攻め掛かりました。以下、△1三同桂▲同香成△1二歩▲1四成香と着実にポイントを稼いでいきます。緩いようでも、相手から有効な攻めが無い場合は、急がないことが肝要です。(第9図)

 

佐々木六段は△2二玉と上がり、玉型を安定させますが、▲2四歩△同歩▲3五歩が小気味よい突き捨て。歩を捨てると持ち歩を使える場所が増えるので、攻撃力が上昇します。

後手は受けてばかりでは勝機が見出せないので△8三香と反撃しますが、▲2三歩が当然ながら痛打。以下、△3一玉▲3四歩△同銀▲2四成香と順調に攻めが続きます。後手は玉を下段に落とされたことにより、2七の銀が色褪せた駒になってしまいました。(第10図)

 

銀を逃げると▲3三歩が厳しいですし、△4三金右では▲6一角が両取りになってしまいます。佐々木六段は△3三歩で粘りますが、▲3四成香△同歩▲3三歩△同金▲2五桂△4三金寄▲3三歩で後手の囲いは完全に崩壊しました。再三、▲3三歩という符号が出てきましたが、この地点に歩を設置することが急所なのです。

加えて、歩を使って攻めることで、なるべく相手に戦力を与えないようにしていることも見逃せないですね。巧みなリスクマネジメントです。(第11図)

 

佐々木六段は△5九角と打って開き直りましたが、▲2二歩成が痛烈な成り捨て。△同玉は▲3二銀で受け無しに追い込むことができます。

よって、△4二玉で左辺への逃走に期待しますが、▲3二歩成△5一玉▲5八飛△1五角成▲3七角で攻めの火種を残しながら迫っていきます。▲3七角では▲3三桂成も考えられますが、安易に攻め駒を清算すると、寄せの足掛かりを失うことになりかねません。(第12図)

 

馬を消されると粘りが利かなくなるので△2五馬は妥当ですが、▲5五角で駒得なので、先手快調です。佐々木六段は△6四歩▲同角△6一香で角を詰ましに行きますが、▲9一角成が豪快な決め手でした。(第13図)

 

△9一同飛の一手に、▲8二銀△9二飛▲7一銀打と銀を立て続けに打ち放ったのが好着想。8二に銀を打つ手の価値が非常に高いので、角を切り飛ばす手が成立しているのです。

適切な受けが困難なので、本譜は△8六香で攻めに転じましたが、▲8一銀不成△9一飛▲3一と右挟撃態勢を作って、先手勝勢です。(第14図)

 

△4二金寄で詰めろを防ぎましたが、▲7二銀不成で後手玉は包囲網を振りほどくことができません。

佐々木六段は△8七香成▲同金寄△7五桂と指しましたが、これは首を差し出した手。▲6五香が止めの好手で、ここで終局となりました。(第15図)

 

△6五同香と応じるくらいしか受けがありませんが、▲5二香で後手玉は詰んでしまいます。(C図)

 

(1)△同金は▲4一と寄。(2)△同玉は▲6四桂△5一玉▲4二と△同玉▲3二金以下詰みです。

 

 

本局の総括

 

  • 序盤は互角の進行。第5図からの▲3五銀が相手の攻めを恐れない好手で、先手が主導権を握った。
  • その後、先手は構想通り、1筋を攻めて有利に立つ。後手は第7図の局面で持ちこたえられなかったのが痛かった。B図の変化を選べば、先手も容易ではなかっただろう。
  • 終盤は先手の独壇場。▲9一角成と切り飛ばしたのが豪快な決め手で、先手が緩みなく寄せ切った。

それでは、また。ご愛読ありがとうございました!

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