どうも、あらきっぺです。更新がちょっと遅くなっちゃいました><
先手番の千田六段は、コンピューター将棋に詳しいことで名高いですね。私は彼と同じ森信雄門下だったので、将棋を指したり棋譜を拝見する機会はままありました。今の千田六段は形に明るく、鋭い攻め将棋ですが、昔は独特な配置を展開する受け将棋だったのでその変貌ぶりには驚きました。
後手番の藤井四段は、もう毎日のようにニュースで見ますね笑
彼とは三段リーグで一度対戦しました。ミスが少なく、リードを着実に広げる技術が高い将棋だなと感じました。
既にめちゃくちゃ強いとは思うのですが、まだ14歳なのでこれからも棋力は伸びるのでしょうね。彼が全盛期にどんな棋譜を作り上げるのか、とても楽しみです。
本局の棋譜は、こちらのサイトからご覧いただけます。
参考
本局の棋譜NHK杯将棋トーナメント
初手から▲7八金△8四歩▲7六歩(青字は本譜の指し手)と進み、角換わりになりました。第1図をご覧ください。
両者、同じような陣形に組んでいますが、先手は▲2六歩型で駒組みを進めているのが工夫です。将来、▲2五桂と跳ねる余地を残しているのが主張ですね。角換わりの後手番は早い段階で△8五歩を突かないといけないので、後手はこのような駒組みはできません。先手番の特権を活かしているとも言えます。
第1図から、千田六段は▲6六歩と指しました。この局面で▲6六歩を突くのはやや早い印象を受けますが、これは△6五歩で位を取られる手を嫌った意図です。
仮に▲6六歩と突かずに▲5六銀を選ぶと、後手は△6五歩と突く手が有力です。以下▲7九玉△8一飛▲8八玉△5四歩▲2五歩△6四角と進むと後手にとって不満の無い序盤です。(A図)
A図では次の△4六角を受けるために▲4七銀や▲4五歩が一例ですが、それでは先手は打開が難しく、千日手が現実味を帯びてきます。
このように、△6五歩から位を取られる構想は先手からするとなかなか厄介です。
▲6六歩以下、△8一飛▲5六銀△5四銀▲7九玉と進みました。(第2図)
ここは後手にとって、方針の岐路です。待機するなら△4四歩や△6三銀が考えられます。これらの手を選べばすぐに戦いは起こらず、先手がどうやって打開していくかが焦点となります。
積極的に動くなら、△6五歩が候補です。しかし、▲6九飛△6六歩▲同銀△6五歩▲同銀直と迎撃されたときに、△4二玉が戦場に近いので危険かもしれません。
それを踏まえて、藤井四段は△3一玉と指しました。次こそ△6五歩から攻めようとしています。ただ、これは先ほど待機策で述べた手とは決定的な違いがあり、先手からの仕掛けを誘発しています。千田六段はすかさず咎めに行きました。▲4五銀が機敏な仕掛けです。(第3図)
もし、第2図で△4四歩や△6三銀を指していれば、この仕掛けは無かったことがお分かりいただけると思います。
この手に対し、△4五同銀と取ってしまうと▲同桂が銀取りと▲6三銀の両狙いになってしまい、後手不利です。したがって△6三銀とかわしましたが、▲2五桂△2二銀▲3四銀と攻め込んで、先手は一歩得の戦果を挙げました。
藤井四段は▲1五歩からの端攻めを緩和させるために、△4二玉と戦場から玉を遠ざけましたが、▲5六角が攻めを続けるための急所の一手です。(第4図)
この手は▲7五歩からの桂頭攻めと、▲1五歩△同歩▲1三歩△同香▲同桂成△同銀のときに▲2三銀成と進軍できるようにした意味があります。
二つの攻め筋を同時に防ぐことはできないので、藤井四段は△5四歩と突いて堂々と攻めを迎え撃つ態度をとりました。次に△5五歩と突けば角をどちらかに引かせることができるので、前述したの攻め筋のどちらかを消すことができます。
△5四歩以下、▲1五歩△同歩▲7五歩△4一角と進みました。(第5図)
△4一角と打つようでは屈服しているように映りますが、7四と2三の地点を同時に受けているので見た目以上に手強い受けです。先手は飛車が参加しない攻めなので、切れ筋に陥らないようにしなければいけません。
千田六段は、この角を相手にしないために、▲9五歩とこちら側の端にも手を着けました。ただ、自玉に近い9筋を戦場にしたのはどうだったのでしょうか。
第5図の局面は、駒の損得と効率は互角ですが、玉型は先手の方が堅いので先手が悪い理屈はどこにもありません。▲9五歩は「不利なときは戦線拡大」という格言と不一致しているので、芳しくなかったように思います。
▲9五歩に代えて、▲7四歩△同銀▲4五銀は有力でした。(B図)
あっさり銀を引きさがるのは意外なようですが、▲3四桂と打つ攻め筋を作ったのが大きいのです。また、場合によっては▲3五歩→▲3四歩と歩を伸ばす手段があるのも利点ですね。
例えばB図から5四の歩を受けるために△5三金と上がると、▲7五歩△6三銀▲1三歩がうるさい攻めになります。(C図)
C図から△1三同桂は▲1五香と走れます。△1三同香には▲同桂成△同銀▲8三香でやはり攻めが続きます。
本譜は▲9五歩以下、△5五歩▲4七角△7五歩▲9四歩△6五歩と進みました。(第6図)
千田六段が9筋の歩を伸ばしている間に、藤井四段は歩をたくさんぶつけて局面の複雑化を図ります。
第6図の局面は、先手は▲9三歩成や▲1三歩から攻め駒を補充できるので攻めが切れる心配はなくなりました。しかしながら自陣もそれなりに傷んでしまったので、後手からの反撃が怖いところです。
まだまだ形勢は難しく、ここからが本当の勝負所と言えるでしょう。
では続きは後編で。ご愛読ありがとうございました!