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今週の妙手! ベスト3(2020年2月第4週)

今週の妙手

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
妙手 今週今週の妙手! ベスト3(2020年2月第3週)

 

注意事項

 

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! ベスト3
(2020.2/16~2/22)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。後手の三間飛車に先手が急戦で対抗し、このような局面になりました。(第1図)

 

今週の妙手

2020.2.17 第70期王将戦一次予選 ▲千田翔太七段VS△佐々木慎六戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)

後手は挟撃態勢を作ったものの、今しがた打たれた▲9六角が王手金取りなので、その包囲網が破けてしまいました。加えて、8四の飛も当たりになっており、すこぶる忙しい状況を突きつけられています。

 

こうなると勝負の帰趨は明らかと思われましたが、佐々木六段は驚愕の一手を繰り出し、このピンチを切り抜けたのです。

佐々木六段が指した手は、△8五飛です!

 

今週の妙手

取られる寸前の飛車を活用したのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

度肝を抜かれるタダ捨てですが、これが盤上この一手とも言える返し技でした。

これに対して▲8五同角なら△7四歩と応じます。以下、▲7五桂△6二玉▲6三飛で王手ラッシュは続きますが、△5二玉とかわしておけば後手玉は不詰めです。(A図)

詰みが無ければ、先手玉には必死が掛かっているので、後手勝ちですね。

 

今週の妙手

そうなると、先手はこの飛車を取ることは出来ないことが分かります。よって、本譜は▲8七角で金を取りましたが、後手も△9五飛で銀を取り返せるので、虎口を脱したと言えるでしょう。(第2図)

 

今週の妙手

先手玉への寄せは遠のきましたが、後手は飛車取りを解除しながら駒損を避けることに成功したことが大きく、この応酬は損をしていません。

 

先手は△9七飛成を許すと再び挟撃態勢を作られてしまいます。ただ、▲9六歩には△9一飛で後手玉がより安全になりますし、▲9六香には△6五飛と逃げられます。これは香を投資した甲斐が乏しいですね。

 

今週の妙手

この局面は、お互いの玉がそう簡単には寄らなくなったので、早期決着にはなりにくい状況です。そうなると、△3七成桂→△6五桂という確実な攻めを保有している後手に分がある局面と言えるでしょう。後手玉は5二へ落ちたときの耐久度が、なかなか優れていることが心強いのです。

 

今週の妙手

△8五飛のような中合いは、詰将棋では割と頻出する手法ですし、意味付けとしてもそう難しいものではありません。とはいえ、実戦でこのような手が成立するのは非常に稀有ですね。これは目の覚める妙手でした。

 

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、こちらの将棋です。相掛かりから先手の猛攻を後手が耐えるという構図になり、以下の局面を迎えました。(第3図)

 

今週の妙手

2020.2.20 第61期王位戦挑戦者決定リーグ紅組 ▲本田奎五段VS△豊島将之竜王・名人戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)

先手が▲7五桂と打ったところです。

これは▲6三金からの攻めを見せつつ、後手の飛車の行動範囲を狭めた意味があります。つまり、先手の狙いはここで後手に何か受けさせて、▲1一竜→▲8六香を間に合わすという算段ですね。

 

そうは言っても、後手は▲6三金を喫するとひとたまりもないので、先手が敷いたレールの上を走るしかないように見えます。ところが、豊島竜王・名人はそれを振り切る妙手を用意していました。

豊島竜王・名人が指した手は、△9四角です!

 

今週の妙手

9四に角を打つ手が、攻防に働く妙手でした!


 

 

今週の妙手

これが攻守を入れ替える切り返しでした。結論から述べると、これで先手は攻めが頓挫しているのです。

△9四角を打つことで、後手は6一の地点が強化されました。すなわち、▲6三金と打たれても△同銀▲同桂成△同玉で何事も起こりません。

 

問題は▲1一竜と香を補充されたときですが、それには△7五飛▲同歩△6六桂という強襲が決行できます。(第4図)

 

今週の妙手

(1)▲4八玉には△3六桂▲3七玉△5五角で王手竜取りが掛かります。

(2)▲6八玉には△7八桂成▲同玉△6六桂が痛打なので、これも後手の勝ち筋ですね。(B図)

このように、先手陣は△6六桂がヒットすると、あっという間に崩壊してしまうのです。

 

今週の妙手

このような背景があるので、本譜は▲7七銀と上がって△6六桂の筋をケアしました。ただ、これでは貴重な手番を失っており、先手にとっては手痛いロスですね。

そこから△7四歩と突かれた局面は、先手の攻め足が止まっています。(第5図)

 

今週の妙手

先手は7五に打った桂が歩で召し取られてしまい、攻めが細くなってしまいました。いかに自陣が堅陣と言えども、肝心の攻めが途絶えてしまっては、その長所が生きません。

 

第5図は先手玉が堅いので先は長いのですが、駒の効率という観点で見ると豊富な持ち駒を持つ後手が圧倒的に優位です。以降はそのアドバンテージを活かした豊島竜王・名人が勝利を上げました。

 

改めて、△9四角と打った局面に戻ります。

今週の妙手

こうして振り返ってみると、先手は△9四角を打たれたことにより、自陣への受けを考慮しなければいけなくなったことが辛いですね。▲7五桂を打つまではその心配をする必要は皆無だったので、いかに事態が急変したのかが読み取れます。その結果、香を取って▲8六香を打つというプランが瓦解してしまいました。

 

たった一発、端角を放っただけで、相手にこれだけのプレッシャーを与えるとは驚きです。こうした手を見せられると、トッププロは見えている世界が違うと感じさせられますね。

 




第1位

 

最後に紹介するのはこちらの将棋です。この手のインパクトは、まさに群を抜いていましたね。(第6図)

 

2020.2.18 第61期王位戦挑戦者決定リーグ白組 ▲藤井聡太七段VS△羽生善治九段戦から抜粋。

後手が△7一歩と打ったところです。

このような攻防の駒に働き掛ける手は終盤戦の常套手段であり、損になりにくい手の一つです。先手はこの歩を取っても逃げても味が悪く、相手をすると確実に損をします。

 

そこで、藤井七段はこの歩を無効化する強打を繰り出しました。もちろん、飛車には触りません。こういった手がぱっと見えるようになりたいものですね。

藤井七段が指した手は、▲3四角です!

 

藤井聡太

3四に角を捨てて、敵玉を仕留めに行ったのが妙手でした!


 

 

藤井聡太

「飛車取りを放置して角をタダで捨てる」という文章にしてみると、とんでもない一手ですが、これが最短の勝ちを目指す妙着です。

これを△3四同銀と応じると、▲2四飛△同玉▲2二飛成という寄せがあります。これは後手玉が詰んでいますね。(第7図)

 

藤井聡太

2三に何を合駒しても、▲2五歩△同玉▲2六歩△同玉▲3七金△2五玉▲2三竜△同銀▲3五金までの詰みです。

また、▲3四角に△同玉と取っても、▲3五金△2三玉▲2四金と突進すれば、これも後手玉は詰みを回避できません。(C図)

いずれの変化も、3三の銀を強制的に移動させて、送りの手筋を発動させていることが分かります。

 

藤井聡太

話を整理すると、後手はこの角を取ることができないのです。

そうなると△1三玉と逃げる一手ですが、それには▲1五歩がトドメ。「端玉には端歩」という格言通りですね。(第8図)

 

藤井聡太

後手は飛や角がタダで取れますが、どちらを取っても▲1四歩から自玉が詰んでしまいます。かと言って、△1五同歩は▲1四歩△同玉▲1五香△同玉▲1九飛で、これまた即詰みに討ち取られてしまいますね。要するに、受けがありません。

 

という訳で、実戦は▲3四角と打たれた局面で羽生九段は潔く駒を投じています。

 

藤井聡太

先手は△7一歩と打たれたところで、7二の飛の効力が失われた訳ではありません。したがって、飛車を取られる前に敵玉を寄せ切ってしまえば良いというロジックなのですが、それを▲3四角という鮮烈な捨て駒で実現させる組み立てに才能を感じます。おそらく、▲7二飛と打ったとき、既にこの図がイメージ出来ていたのでしょう。

 

藤井聡太

また、相手が駒を取りに来た瞬間に自分の駒をタダ捨てするのは、「両取り逃げるべからず」という格言の応用とも受け取れます。相手は片方の駒しか取ることが出来ないので、対応に困るという仕組みなのですね。どんな場面でも実践できるとは限りませんが、汎用性の高そうなスキルと言えそうです。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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