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今週の妙手! ベスト3(2021年5月第3週)

妙手 まとめ

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
コンピュータ将棋選手権今週の妙手!【第31回世界コンピュータ将棋選手権編】(2021年5月第2週)

注意事項

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

今週の妙手! ベスト3
(2021.5/9~5/15)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。本局は角換わりから後手の攻めを先手が凌ぐという試合展開になり、このような局面を迎えました。(第1図)

妙手 将棋

2021.5.12 ▲FukauraOuV700dev1 VS △Yashajin_Ai(棋譜はこちら

先手は大駒を独占していますが、金銀の数は少ないですし、6六のと金も気になる存在です。これが働いてくる前に戦果を上げたいですね。

果たして、先手はどこに目を着けたのでしょうか。

FukauraOuV700dev1iが指した手は、▲1六歩です!

妙手 将棋

1筋の歩を突いて、端を逆襲したのが妙手でした!


 

 

妙手 将棋

この場所の歩を突くのは、意外だったのではないでしょうか。しかし、これが効率よく優位を拡大する一手ですね。ぱっと見は手緩いようでも、手が進んで行くと攻防ともに利いてくるのです。

妙手 将棋

さて、これを素直に△同歩と取ると、▲同香△同香▲1四桂△1一玉▲4一飛成で寄せが炸裂します。これは先手の攻め駒が急所に突き刺さっているので、後手は粘りようがありません。(A図)

という訳で、▲1六歩を取る手は無いことが分かります。

妙手 将棋

また、ここでは△6一金打▲4一飛成△5二銀で飛を捕獲される手も気懸かりですが、それには▲1四桂△同香▲1一角という送りの手筋が用意されているので、あの飛車が憤死することはありません。

つまり、ここで後手は効果的なお手入れが難しいのですね。

妙手 将棋

よって、本譜は△5六と▲1五歩△4六とで攻め合いを挑みました。このと金の活用は後手にとって期待の手順ですが、すっと▲2七飛と浮いたのが見事な受け。これで後手の攻め足は完全に止まりました。(第2図)

妙手 将棋

三段目の地点を強化したことで、△5七銀▲3九玉△4八金からのトン死筋をケアしています。後手は三段目に金気が配置できないと、先手玉に詰めろを掛けることが難しいですね。

妙手 将棋

有効な攻めが無いとなると、△1三歩で受けに回る手も考えられます。しかし、それには▲3九玉の早逃げが絶品。ご覧のように先手陣は1筋が広くなったので、▲3九玉→▲2八玉と逃げていく味がすこぶる良いのです。こういった理由から、第2図は先手がはっきり優勢ですね。

 

妙手 将棋

つまり、この▲1六歩は、敵陣の弱点を狙いつつ、自玉の安全も図る一挙両得の突き出しだったのです。[△5六と→△4六と]は攻めだけの意味ですが、[▲1六歩→▲1五歩]は攻防ともに利いています。この価値の違いが、優位の拡大に繋がったという訳なのですね。派手さはありませんが、とても敏い一着だったと思います。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 自玉に余裕があるときは、遅くとも確実な攻めが効果的。
  2. 自玉の懐を広げながら攻める手は価値が高い。

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。角換わりから互いに攻めを重視する華々しい展開になり、以下の局面を迎えました。(第3図)

妙手 まとめ

2021.5.14 ▲Qhapaq_WCSC28_Mizar_4790k VS △NEEDLED-35.8kai1344_Ryzen7-4800H(棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)

現状、先手玉に詰みは無く、後手玉には▲3二飛成からの詰めろが掛かっています。ゆえに、後手は何らかの受けが必要ですね。

本譜はなるほどの組み立てで、この二枚飛車の猛攻を凌いでしまいました。

NEEDLED-35.8kai1344_Ryzen7-4800Hが指した手は、△5七角です!

妙手 まとめ

受けに回る前に、一回王手を利かしておくのが妙手でした!


 

 

妙手 まとめ

普通、こうした王手は弾かれて無意味な結果に終わることが多いので、打たない方が良いとしたものです。一体、なぜこのタイミングで王手を掛けないといけないのでしょうか。

妙手 まとめ

ちなみに、始めの局面で後手は、△2二金打で良ければ話は簡単です。飛車を強奪すれば△4九飛と打つ手が楽しみですね。

ただ、ここで△2二金打→△4九飛を実行しても、▲6九香と抵抗されたときが問題です。以下、△5七角には▲6八金打が手強い受けですね。(第4図)

妙手 まとめ

図の青枠で示したように、あの形が屈強なバリケードになっています。[▲6九香・▲6八金]という配置は「金底の歩」のような格好なので、これを打破するのは容易ではありません。

妙手 まとめ

第4図では△3二銀と受けるくらいですが、▲8七金で懐を広げられると大変です。この進行は4九に打った飛車の威力を削がれているので、後手は攻めあぐねていますね。

この変化を踏まえて、本譜の進行をなぞってみましょう。すると、先に△5七角を放った意図が見えてくるかと思います。

妙手 まとめ

先手は▲6八銀打と弾くのが自然ですが、後手はそれから△2二金打→△4九飛を決行します。以下、▲6九香△4二桂と進んだときに、先程とは大きな違いが現れていますね。(第5図)

妙手 まとめ

今度は6筋のバリケードが[▲6九香・▲6八銀]という配置なので、先手玉の耐久度が段違いです。ここで▲8七金と指しても、△4七馬と引く手が強烈ですね。先手は分かっていても、6九の地点に数を足すことが出来ません。

そう、後手が先に△5七角と指した理由は、「▲6八金打」という受けを発動させないためだったのです。

妙手 まとめ

要するに、先手は[▲6九香・▲6八金]という配置を作って囲いを修繕したいので、6八の地点に銀を打っても嬉しくないのですね。後手はそれを見抜いていたからこそ、この瞬間に王手を掛けたのです。

妙手 まとめ

先手がこの局面から[▲6九香・▲6八金]を作るには、▲6八金と寄るしかありません。しかし、これにも同様に△2二金打と打てば、後手の勝利は揺るがないですね。(第6図)

妙手 まとめ

飛車を入手すれば△6八角成から即詰みに討ち取れるので、先手は指しようがなくなっています。以降は、後手が危なげなく勝利を収めました。

 

妙手 まとめ

こうして振り返って見ると、後手は唯一無二のタイミングで王手を利かしていることが分かります。繰り返しになりますが、「▲6八金打」という受けを封じることが急所だったのですね。相手に不都合な手を強要させるパズルチックな妙着だったと思います。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. ヨコから攻めるときは、受け側に「金底の歩」を作らせない。
  2. 攻めるときは、金を再生されないような組み立てが大事。




第1位

 

最後に紹介するのは、この将棋です。これは華麗なスマッシュを決めており、まさに痛快な妙手でしたね。(第7図)

妙手 まとめ

2021.5.15 ▲Suisho4test_TR3990X VS △gct_model-0000225kai_D_v100x8(棋譜はこちら

後手は次に△3七馬で桂を取れれば、上部を開拓する青写真が見えていきます。先手はそれを阻止したいところですが、ただ3七の桂取りを受けるだけの手では気が利きません。

そうなると指す手が難しいようですが、水匠はとてもシャープな攻めを繰り出して後手をマットに沈めました。

Suisho4test_TR3990Xが指した手は、▲6一歩成です!

寄せの妙手

後手陣に隙を作るべく、歩を成り捨てたのが軽妙な一着でした!


 

 

寄せの妙手

歩成…? 得なのかな…?

といった感想をお持ちになられたのではないでしょうか。というのも、こう指すと相手は△同飛と取ってくることが目に見えており、それが6筋に利いてくるからです。隠居している飛車に触れるので、敵に塩を送っている印象を受けますね。

しかし、これは先手の計画の内なのです。△6一同飛と取らせてから▲5二角と打つのが狙い澄ました一撃ですね。(途中図)

寄せの妙手

これを△同金だと、▲3二金△1三玉▲2二銀で詰みですね。また、△5一飛には▲4三角成でさらに厳しさが増します。

他には△3一飛という対処もありますが、▲4一銀と絡みつけば攻めが途切れることはありません。(B図)

このように、先手は3二に金が打てる形に持ち込めれば、後手玉を寄せ切ることが出来ます。

寄せの妙手

後手としては、△6二飛が最強の抵抗ではあります。これは間接的に3二の地点に利かせることで、▲4三角成に△同金を用意していますね。

ただ、飛車が6二に移動すると、下段の守りがお留守になりました。ゆえに、それを見越して先手は攻め筋を変えます。手始めに▲6四金で質駒を取りました。

これを取ったということは、決めに行く準備と言えます。(第8図)

寄せの妙手

後手はこの金を取り返さないと、先手玉に迫るビジョンがありません。ゆえに△6四同金は致し方ないですが、▲3二金△同金▲同桂成△同玉▲4一銀△2二玉▲3一銀△1三玉▲3二銀成と畳み掛ければ、一気呵成の寄せが決まっていますね。(第9図)

妙手 まとめ

次は▲2二銀不成からの詰めろ。それを防ぐには△1二金くらいですが、▲1五歩△同歩▲1六歩で玉頭を小突けば問題ありません。最後の▲1六歩は▲1四金からの詰めろですし、△1六同歩には▲1五歩で決まっています。やはり、「端玉には端歩」が最適な寄せですね。

 

寄せの妙手

基本的に、寄せは敵玉に一番近い金を狙うことが鉄則です。本局では4二の金がターゲットになる訳ですが、冒頭の局面では5一の飛が金の死角を保護する役割を担っていたので、先手はあの金にアタックすることが出来ません。ゆえに、▲6一歩成で飛車を移動させる必要があったのですね。

寄せの妙手

とはいえ、飛車を6筋に呼ぶと自玉の危険度が上がりますし、この▲5二角も見えていないと▲6一歩成は指せる手ではありません。水匠らしい鋭い攻めが印象に残る妙手順でした。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 寄せは敵玉の最も近い場所にいる金に働き掛けるのが基本。
  2. その金を攻撃できないときは、それを保護する駒を狙う。
  3. 質駒は、決めに行く直前に取る。

 

それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!

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