どうも、あらきっぺです。この時期になると、スーパーで売れ残っているラッピングされたチョコに哀愁を感じたりしますね。頑張ってください。
タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、前回の内容はこちらからどうぞ。最新戦法の事情(2020年1月号・振り飛車編)
・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。
・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。
最新戦法の事情 振り飛車編
(2020.1/1~1/31)
調査対象局は72局。それでは、戦型ごとに掘り下げて行きましょう。
先手中飛車
対局数は増加したが…。
12局出現。1月はぐっと対局数が増え、人気が戻ってきた感がありますね。
現環境の先手中飛車は、後手超速に対してどのような球を投げるかが大事です。今回は、目新しい作戦を披露した将棋があるので、それを紹介してみましょう。(第1図)
2020.1.19 第13回朝日杯将棋オープン戦二次予選 ▲菅井竜也七段VS△藤井聡太七段戦から抜粋。
先手の早い▲7五歩が目を引きますね。これは昨年の7月に登場した構想で、石田流への組み換えを目指すことが趣旨です。
これだけでもかなり意欲的なのですが、菅井七段はさらに一捻りを加えた駒組みを展開します。実戦は、第1図から△1四歩▲2八玉△1五歩▲1八香と進みました。(第2図)
美濃囲いでは飽き足らず、穴熊を選んだのが大胆な構想です。自陣が安定するまでに時間が掛かることは火を見るよりも明らかなので、かなり危なっかしい印象は受けます。しかしながら、居飛車がその立ち遅れを咎めるのも簡単ではありません。なぜなら、6二の銀が6四の地点へ配置できないので、先手の位をタダで取るような展開にはなりにくいからです。
ひとまず、互いに陣形整備を進めることになりますが、中飛車はその過程で一つ押さえておかねばならないポイントがあります。(第3図)
ご覧のように、飛車を3六に配置して後手陣を揺さぶっておくのが大事なところです。△3三銀を強要することで、後手の角道を遮断させる意味があります。もし、これを怠って▲6八銀と上がると、△5四歩という反発を許すので自陣がまとめにくくなってしまうところでした。
ここからは金をくっつけたり、左の銀を5七や7七に活用することになります。中飛車らしく5筋から攻めて行く展開にはなりませんが、飛車の横利きが強いので、先手はそう簡単には潰されません。先攻は出来ないものの、穴熊の深さや堅さに期待する作戦ですね。
ただ、この指し方は美濃囲いに組み、銀を中央に繰り出すという王道の指し方とは全く毛並が違います。こういった指し方が出現してきた背景には、▲5六銀型か▲6六銀型に構えて対抗する将棋では、どうも思うような戦いが出来ないという実情があるからだと推察されます。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年12月号 振り飛車編)
今回に紹介した作戦が、意欲的な工夫と取るべきなのか、自然な指し方が採用しにくいので止む無く指されている苦肉の策なのかは、今後の様子を見てから判断したいですね。ひとまず現環境は、後手超速に対抗するため、中飛車側が様々な作戦を模索している段階と言えます。
四間飛車
ミレニアムに組む。振り飛車が。
14局出現。12月から比較すると5局増えており、支持を集めている様子が窺えます。
四間飛車は長らく端歩突き穴熊に対して手を焼いていたのですが、1月ではそれを打ち破るべく、斬新な駒組みを披露した将棋が出現しました。今回は、それを掘り下げていきましょう。(第4図)
2020.1.14 第78期順位戦C級1組8回戦 ▲青嶋未来五段VS△村田顕弘六段戦から抜粋。
居飛車は自然な組み方を行っていますが、振り飛車の構えが少し珍しいですね。類似形だと、もっと早く△6四歩を突いているケースが多いところです。
ただ、現環境では早めに△6四歩を指すと、それを狙って▲5五角と揺さぶってくる作戦が面倒なのです。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
最新戦法の事情(2020年1月号・振り飛車編)
ゆえに、後手は△6三歩型を維持して駒組みを進めているのですね。
さて。ここから村田六段は、さらに独特な駒組みを展開していきます。△7四歩▲8八玉△6四歩▲9八香△5四銀▲6六歩△7三桂と足早に桂を跳ねたのが挑戦的な構想でした。(第5図)
自ら弱点を増やしているような指し方ですが、これが四間飛車の新機軸です。後手の狙いは、ミレニアムに組んで穴熊を倒すこと。なので、こんなに早く桂を跳ねているのですね。
以降は、居飛車は穴熊に。振り飛車はミレニアムを作っていきます。そうすると、このような局面になることが予想されます。(第6図)
振り飛車の囲いがミレニアムということを除けば、類例も多く存在する将棋ですね。
こういったとき、居飛車の常套手段の一つに▲5九角と引く手がありますが、それには△6五歩と仕掛けられることが後手の作戦のメリットです。▲3七角と上がられても自玉への脅威が乏しいので、6筋の歩を突きやすいのですね。
他には、▲3五歩△同歩▲2四歩△同歩▲6五歩という仕掛けも考えられます。居飛車としては、これで良ければ話が早いですね。
しかし、これも振り飛車はミレニアムの特性を活かした対応があり、局面を有利に運ぶことが出来るのです。それについては、豪華版の記事をご覧ください。
参考 最新戦法の事情【豪華版】(2020年2月号 振り飛車編)
三間飛車
敵は穴熊。
17局出現。後手番での採用が11局あり、多くの振り飛車党が頼りにしている戦法と言えますね。
対する居飛車は持久戦が人気で、急戦は僅か2局のみ。現環境は、穴熊と左美濃のどちらかに二極化している状況となっています。
ただ、左美濃に対しては、基本的に石田流に組むことを目指せば振り飛車は満足に戦えます。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
参考 最新戦法の事情【豪華版】(2020年1月号 振り飛車編)
したがって、現環境の三間飛車は穴熊が最大の敵だと考えています。それでは、具体的に見ていきましょう。(第7図)
2020.1.8 第33期竜王戦2組ランキング戦 ▲郷田真隆九段VS△西川和宏六戦から抜粋。
三間飛車は穴熊を相手にした場合、居飛車の角道を止めさせる必要があるので△5四銀と上がることが必須です。対して、先手は▲6六銀型に構えていますね。これが三間にとって手強い作戦なのです。
この場所に銀を配置させれば、後手は[▲4六銀+▲6八角型]から迎撃されることはないので△3四飛と浮きやすい面はあります。しかしながら、良いことばかりではありません。▲5五歩△4五銀▲8六角が▲6六銀型を活かす構想になります。(第8図)
これは5筋に戦力を集めている意味があり、とてもアグレッシブな指し方です。すなわち、△3六歩▲同歩△同銀には▲6五銀で攻め合いに持ち込むことが、居飛車の作戦の趣旨なのです。(第9図)
こうなってみると、△4七銀成よりも▲5四歩のほうが威力が高い印象を受けるのではないでしょうか。こういったヨコからの攻め合いになると、居飛車のほうが玉が深い場所にいるので事を有利に運べるのです。
この▲6五銀と上がる構想は、振り飛車が序盤に指した△5四銀を逆手に取っている節があり、とても優秀だと感じています。現環境の三間飛車は、この作戦に対する策が必要と言えるでしょう。現状は、居飛車のほうが楽に戦えている印象です。
角交換振り飛車
絶対的エースではない。
9局出現。あまり目新しい動きは無く、環境に変化は見られませんでした。
後手番での採用が8局と多いのですが、そのうちの3局は他の作戦と併用した結果、角交換振り飛車を選んだという経緯があり、絶対的なエースとは言い難い状況です。廃れてはいないものの、ブームとは遠い立ち位置にいる戦法と言ったところでしょうか。
その他の振り飛車
石田流が流行っているが…。
13局出現。石田流が6局も指されており、急増しています。これは、三間飛車の流行に強い影響を受けていると考えるのが妥当でしょう。
石田流は機動性があり、かつ高い攻撃力を誇る戦法です。しかし、3手目に▲7五歩を突くので、すごく早い段階で自分の態度を相手に見せていることが弱点です。そのデメリットが災いして「4手目△1四歩」という強敵に手を焼いているのですが、現環境ではもう一つ厄介な作戦があります。それは、右四間飛車です。(第10図)
2020.1.16 第78期順位戦C級2組8回戦 ▲南芳一九段VS△佐々木大地五段戦から抜粋。
三間飛車を経由しない石田流の場合、居飛車は8筋の歩を伸ばす必然性がありません。つまり、△8三歩型のまま駒組みをしても良いことを意味します。右四間飛車は△8三歩型と相性が良いので、石田流に対して使いやすいという特性があります。
そして、elmo囲いの登場が、右四間飛車の流行を後押ししているという背景もあります。今までは他の囲いに組んでいましたが、舟囲いでは玉型が薄く、穴熊では速攻ができない。左美濃では玉が角のラインに入ってしまう……という問題点を抱えていたので、右四間飛車はしっくりくる住まいが得られていない戦法でした。けれども、elmo囲いの出現により、ようやく戦法とフィットするお城を手に入れることが出来たのです。
さて。そろそろ具体的な解説に移りましょう。居飛車は△6五歩と仕掛ける手が権利であり、これをどのタイミングで行使するのかが重要です。この△3三角は間合いを図っており、同時に価値の高い手待ちでもあります。
先手は▲6七銀を上がると、△6五歩への当たりが強くなるので、必ずしもプラスには作用しません。そこで本譜は▲3六歩と指しましたが、それを見て後手は△6五歩▲同歩△同銀と仕掛けて行きます。(第11図)
こういったとき、予め上がっておいた△3三角の効果が分かりますね。仮にあの角が2二にいれば、角交換をしたときに後手は味の良い取り方がありません。ですが、現局面なら△3三同桂と応じれば、elmo囲いの形をキープできますね。
加えて、先手は▲3六歩と突いた手があまり効果的ではないことも悩みのタネです。この歩を動かしたばっかりに、玉のコビンが開いているので囲いが弱体化しています。この将棋は▲4七金と上がるような状況にはならないので、▲3六歩を指しても有効手にはなり得ないのです。
この事例が示すように、石田流に対して右四間飛車は非常に有力な戦法です。常に△6五歩から動く手を権利にしているので、石田流の武器である「機動性」を奪っていることが最大の利点ですね。
振り飛車としては、また一つ悩みのタネが増えたのかもしれません。
相振り飛車
向飛車へのシフトを想定する。
7局出現。出現率は10%弱なので少なめではありますが、環境には確かな変化があります。
再三にわたって述べているように、現環境は三間飛車系統の将棋が主流です。ただ、3手目に▲7五歩と突いたり、初手から▲7六歩△3四歩▲6六歩というオープニングを選ぶと、右四間飛車を覚悟しなければいけません。
そういった背景があるので、このところは初手▲7八飛の相振り飛車が少しづつ増えつつあります。これに対して、後手も三間飛車で対抗するとどのような将棋になるでしょうか。(第12図)
2020.1.28 第68期王座戦二次予選 ▲杉本昌隆八段VS△谷川浩司九段戦から抜粋。
初手に▲7八飛を指すと、角交換から△4五角と打たれる筋をケアする必要があります。よって、▲6八銀を優先しなければいけません。ただ、そうすると飛車が縦方向には動けないので、▲7五歩とは突きにくいですね。また、▲6六歩では自分だけ角道を止めるので消極的です。
なので、本譜は▲2八銀△5二金左▲2二角成△同銀▲8八飛と指しました。(第13図)
あっさりと角を交換したこと、そして三間飛車に拘らないことが先手の工夫です。実を言うと、以前は全く違う駒組みを展開していたのですが、それでは後手に先攻されて、先手は作戦負けを招いてしまう節がありました。詳しくは、こちらの参照してくださいませ。
参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年2月 振り飛車編)
さて。先手は自分から角を換えて、かつ飛車を振り直したので二手損している計算になります。これでは不本意な出だしに見えますが、先手の狙いは後手の△3五歩を咎めることにあります。
つまり何が言いたいのかと言うと、先手はこのあと6八の銀を7五まで進出していく未来が見えますね。ところが、後手はその場所(3五)に銀をスムーズには配置できません。それを見越しているので、手損しても構わないと踏んでいるのです。
さて。ここから後手は3筋の歩を交換して、自玉を金無双の中に収めます。対して、先手はそれに追随せず、攻めの形を作ることを優先させました。これがクレバーな構想でしたね。(第14図)
先手は玉と金を全く動かしていませんが、何だかこのままでも十分に堅い玉型に見えるのではないでしょうか。この将棋は中央方面から攻められる可能性が極めて低いので、初期配置そのものが囲いを為している意味があるのです。ゆえに、先手は居玉でも安定しているのですね。第14図は、こちらだけ敵陣を攻められる格好なので、先手作戦勝ちです。
このように、三間飛車に拘らず、さっと向飛車に振り直すのは理に適った戦略です。相手の布陣を見て柔軟に態度を変えることが相振り飛車のコツと言えるでしょう。
プロ棋界の公式戦で指されている最新戦法の内容をもっと深く知りたい! という御方は、こちらの記事をご覧ください!
参考 最新戦法の事情【豪華版】(2020年2月号 振り飛車編)
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今回のまとめと展望
・後手なら三間飛車がポピュラーだったが、穴熊が厄介なのでどうしたものか。反対に、下火だった四間飛車には追い風が吹いており、以前よりも評価が高まっている風潮を感じる。
・右四間飛車が陰で大きな影響を与えており、先手振り飛車は戦型選択に制約を受けている。つまり、初手から▲7六歩△3四歩と進んだとき、▲6六歩や▲7五歩では右四間飛車と戦わなくてはいけない。避けるなら▲6八飛になるが、これでは有力株の三間飛車が指せない。こういった背景があるので、初手に▲7八飛と指すオープニングが増えているのだろう。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!
四間飛車のミレニアムを居飛車のミレニアムで迎え撃つ展開になった場合、どの様な留意点が考えられるのでしょうか?
一つ挙げるとすれば、角の使い方でしょうか。
居飛車のミレニアムは、このように6六の角をすぐに追われやすいという性質があります。
このとき、相手が高美濃であれば▲4八角→▲3七角という要領で右辺に角を配置するのが一案です。4筋を守りながら敵玉を睨めるので味が良いですね。
しかし、この場合は振り飛車の囲いがミレニアムなので、その指し方が有力とは言えません。こういったケースでは、▲5七角と引くのが良いでしょう。
つまり、コビン攻めを出来るかどうかで、角のポジションを変えることが留意すべきポイントの一つという訳ですね。
角のラインのキープはあまり頭にありませんでした。
近くの銀もうるさいですし、対高美濃よりもシビアな角の指し回しが要求されそうですね。
非常に分かりやすかったです、ありがとうございます。
いつも勉強させていただいております。
第11図について質問です。私は居飛車党なのですが、振り飛車からの角交換に△33同桂と応じると、将来的に▲35歩と桂頭攻めをされそうな気がして少し怖いです。仮に角交換をされ△33同桂の形になった後、居飛車はどのような点に気を付けて指せばよろしいでしょうか?
はじめまして。いつもご覧いただきありがとうございます。
▲3五歩の桂頭攻めは嫌らしい攻めですが、この歩を突くと振り飛車も玉型が傷んでしまうので、お互い様と言えます。
向こうもリスクを背負っているので、恐れずに強気に戦うことを心掛けましょう。
また、具体的な手の解説につきましては、こちらの記事を参照してくださると何よりです。
早速にありがとうございます!ご紹介いただいた記事も参考にさせていただきます。