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今週の妙手! ベスト3(2020年11月第1週)

今週の妙手

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手今週の妙手! ベスト3(2020年10月第5週)

注意事項

 

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! ベスト3
(2020.11/1~11/7)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。角換わりから後手が早繰り銀を採用する将棋になり、このような局面を迎えました。(第1図)

 

将棋 AI

2020.11.3 ▲Marulk VS △Suisho2kai_TR3990X戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら

後手は持ち駒が豊富にあり、8五にも桂がいるので攻め駒の数は十分に足りています。ただ、自玉が薄いので寄せに専念できる格好ではないですね。

つまり、必要な手は攻防手なのですが、水匠2・改の選択はなるほどと唸らされる一手でした。

水匠2・改が指した手は、△3四角です!

今週の妙手
自陣に利かしつつ、7八の金や2五の桂に当てたのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

これが非常に効率の良い一着でした。なお、代えて△2九飛で王手桂取りを掛ける手も考えられるのですが、こちらの方が、もっと得を追求できるのです。

後手はここに角を打つと、先手から▲4四金という攻めを誘発する嫌いはあります。けれども、これには△3九飛と打つ手が見た目以上に厳しい一打ですね。(第2図)

 

コンピュータ将棋

香を使ってしまうと▲5三香が消えるので、先手は攻めが頓挫します。また、▲5九金は△2五角が絶好ですね。銀取りで桂を取れるので味の良いことこの上ありません。

 

コンピュータ将棋

他には▲5九銀もありますが、こうすると7七の地点が薄くなるので△7七歩▲同桂△7八角成▲同玉△7六歩で寄り筋に入ってしまいます。つまり、先手は適切な対応が見当たりません。

 

今週の妙手

仕方がないので本譜は▲2六歩と辛抱したのですが、[△3四角⇔▲2六歩]というやり取りは、どちらが得をしたのか言うまでもありませんね。

そのあと後手は△7七歩▲同銀△同桂不成▲同桂△7六歩と畳み掛け、頭一つ抜け出すことに成功しました。(第3図)

 

将棋 AI

これは、△8九飛▲7九桂△7八角成▲同玉△7七歩成という詰み筋を見据えています。先手は▲4五香と打てばトン死筋は解除できますが、△4四歩と打たれたあとに良い攻めがありません。

後手は角道を遮断されても攻めが切れることはないので、この局面は攻防共に後手が手厚い情勢だと言えるでしょう。以降も熱戦は続きましたが、後手がここで得たリードを守り切って制勝しました。

 

将棋 AI

冒頭の局面では、△2九飛→△2五飛成という桂の取り方もありました。ですが、それでは竜の働きが一瞬悪くなります。なので、それは先手も桂を犠牲にした意義が生まれますね。

 

今週の妙手

しかし、△3四角→△2五角という手順で桂を取れば、この角は2五にいても攻防に利いているので、遊び駒になりません。つまり、先手は桂を犠牲にする代償が得られないのです。

ゆえに、先手は桂を守る必要が生じ、▲2六歩という損な手を指さざるを得なくなってしまったのです。△3四角は、相手に不都合な手を強要させる巧みな攻防手でしたね。

 

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。後手の雁木に先手が右四間飛車で対抗する構図になり、以下の局面を迎えました。(第4図)

 

将棋 AI

2020.11.2 ▲beer2020 VS △F_f10戦から抜粋。(棋譜はこちら

この局面は駒の損得はありませんが、後手が歩切れであることや、先手のみ持ち駒に香を保有していることから先手が優位に立っている状況です。

ただし、玉の堅さにおいては後手のほうに一日の長がありますね。なので、先手としては、その差を上手く縮めたいところです。

beer2020は、かなり斬新な方法で、それを実現させました。

beer2020が指した手は、▲4一銀です!

今週の妙手

自陣に投資するのではなく、堂々と割り打ちを掛けたのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

この局面で攻めに転じるのは、かなり意表だったのではないでしょうか。ところが、これが先述した問題点を改善する第一歩となる一手なのです。

後手は当然△4二金右と受けますが、先手は▲3二銀成△同金▲4三金とさらに咬みついていきます。(途中図)

 

将棋 AI

ずいぶんと景気よく攻めていますが、これで本当に寄っているのだろうかと不安感を覚えるところでもありますね。事実、△同金▲同飛成△3二銀で弾かれると、先手は手番を取り返されてしまっています。

ところが、これが先手の思い描いていたシナリオだったのです。△3二銀に対し、▲4八竜と引くのが冷静沈着な一手でした。(第5図)

 

将棋 AI

「ただ竜を引き下がっただけじゃん」と思われた方もいらっしゃるかも知れません。けれども、この場所に竜を配置すれば、先手陣は相当に耐久力が上がっています。冒頭の局面では4七の飛が攻め一方の駒だったのですが、この局面では攻防の要として光り輝く駒に昇格しています。これがべらぼうに大きいのですね。

 

将棋 AI

さて、後手は反撃のターンが回って来ましたが、△6七銀と放り込んでも▲6九香がピッタリなので、先手玉に迫ることが出来ません。

本譜は△6六馬と指したのですが、これにも▲6九香△5五馬▲9八金打が盤石の受け。これでかなり局面が明快になりました。(第6図)

 

将棋 AI

飛車を取ってしまえば自陣に怖いところは無いですし、今後の攻めに困ることもありません。第6図は竜や6九の香の働きが素晴らしく、後手は全く手出しが出来ないですね。以降は、先手が危なげなく勝利を収めました。

 

今週の妙手

「攻撃は最大の防御」という金言がありますが、これは攻勢に出ることで相手を受け身にさせ、それにより自分の安全を確保するという意味合いが強い言葉です。しかし、beer2020が披露した手順は、そういう意味ではありません。

 

将棋 AI

手駒を渡したとしても、最終的に4八へ竜がバックすれば自陣の安全度が高まるので、受け切りが望めるという理屈なのです。つまり▲4一銀から▲4三金は、相手を守勢にさせる攻めではなく、竜という守護神を召喚するための攻めだったという訳なのですね。

 

冒頭の局面では自玉がそこまで安泰とは言えず、かつ相手の攻め駒が少なかったので、手駒を渡しに行くこの手順はかなり驚かされます。こういった受け方を見ると、将棋にはいろんな技があるんだなぁとつくづく実感させられますね。

 




第1位

 

最後に紹介するのは、こちらの将棋です。これはスレスレの競り合いを巧妙な組み立てで切り抜けており、技術の高さを感じました。(第7図)

 

コンピュータ将棋

2020.11.3 ▲Mariel VS △BLUETRANSPARENCY戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら

先手が4八にいた銀を、▲5七銀と上がったところ。銀を捨てることで飛の横利きを通す勝負手ですね。

後手は取れる駒がたくさんあり、相当に悩ましい局面です。難解な終盤戦ですが、次の一手を境に、棋勢は後手に傾いていきました。

BLUETRANSPARENCYが指した手は、△6三銀です!

今週の妙手

▲5七銀に対抗するかのように、先手の飛車に銀を当てたのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

色々と取れる駒がある中で、さらに飛車取りに銀を打つとは思いもよらなかったのではないでしょうか。

ところで、なぜ後手は平凡に△5七同角成と銀を取らないのでしょう? これで良ければ話はとても明瞭です。

しかし、△5七同角成には▲4三歩成△同玉▲7三飛成のときに対応が難しいのです。(第8図)

 

コンピュータ将棋

次に▲3五角成と指されると、後手は馬を抜かれてしまいますね。また、△7二歩で竜を逸らそうとしても、▲4四角成という豪快な一撃を食らうので、効果がありません。(A図)

どうも後手は、自玉と馬の配置の組み合わせが悪いのです。

 

コンピュータ将棋

他には△6八歩成▲同飛△3二玉と早逃げする手もありますが、▲6七金が味の良い催促で、これも後手は難局。この変化は5~7筋の制空権を握られており、先手玉が寄る姿が見えません。(B図)

要するに、第8図の局面になってしまうと、後手は勝つことが難しいのです。

 

では、△6三銀の場合、どういった違いがあるのでしょうか。

今週の妙手

現状は4六に角がいるので、先手は▲7三飛成とは指せません。ゆえに、▲4三歩成△同玉▲6二飛成とするくらいですが、後手はそこで△5七角成と銀を取ります。(第9図)

 

将棋ソフトの妙手

今度は6三に銀が発生しているので、先手は▲7三竜と桂を取っている場合ではありません。具体的には、△6八歩成▲同飛△5九銀で一手負けですね。この変化は6三の銀が緩衝材になっているので、後手は開き王手を喫しないのです。これが、6三に銀を打った意味になります。

 

将棋ソフトの妙手

したがって、ここで先手は▲6三竜と銀を取るしかないでしょう。けれども、これだと後手は△6五桂で金を取ることが出来ます。▲7五角成で開き王手を食らっても、△3二玉でノーダメージ。桂を6五へ跳んだことで、5七の馬には紐が付いていますね。(第10図)

 

将棋ソフトの妙手

先手は馬を取っても戦力が増えないので、ここは▲6五馬と桂を取るほうが勝ります。

対して、後手は△5四銀と強気に応戦します。▲同馬△同桂▲3五桂は詰めろですが、そこで△5六角が見事な返し技。詰めろ逃れの詰めろですね。(第11図)

 

将棋ソフトの妙手

ここに角を設置すれば、▲4三銀△2二玉▲2三桂成と迫られても△同角で問題ありません。また、先手玉は△6八歩成▲同飛△8九金からの詰めろなので、後手は一手勝ちが期待できる局面ですね。

 

将棋ソフトの妙手

ここで▲6七金と受けに回られても、△7七歩や△6六桂で詰めろが続くので後手の優位は揺るぎません。先手は△5六角を上回る技が出せないので、後手が混戦を抜け出すことに成功しました。

 

今週の妙手

こうして振り返ってみると、後手が放った△6三銀は、様々な恩恵をもたらした一手であることが読み取れます。特に、先手に▲7三飛成(竜)という攻防手を阻んだことが大きかったですね。

 

将棋ソフトの妙手

持ち駒の銀を犠牲にすることで7三の桂を活かし、その駒で攻撃の司令塔である馬に紐を付けるという組み立ては極めて流麗です。まさに妙手順と言える指し回しでした。△6三銀は、▲5七銀という勝負手を凌駕する秀逸な一着でしたね。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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