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今週の妙手! ベスト3(2020年6月第3週)

今週の妙手

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手今週の妙手! ベスト3(2020年6月第2週)

注意事項

 

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! ベスト3
(2020.6/14~6/20)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。相掛かりから定跡形を外れた捻じり合いになり、このような局面になりました。(第1図)

 

妙手

2020.6.18~6/19 第78期名人戦第2局 ▲渡辺明三冠VS△豊島将之名人戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)

先手が▲3六歩と打って、後手玉の逃走を阻んだところ。

駒の配置が入り込んでおりゴチャゴチャとしていますが、現状、後手玉は詰めろが掛かっていないので、敵玉に詰めろを掛ければ一手勝ちが望める状況ではあります。

なので、敵玉を攻める手を考えてみたくなりますが、豊島名人はとても冷静な手を放って勝利を確固たるものにしました。

豊島名人が指した手は、△4一飛です!

 

妙手 豊島

飛車を回って成桂にアタックしたのが妙手でした!


 

 

妙手 豊島

これが沈着冷静な決め手でした。直接的には敵玉に迫っていませんが、これが紛れのない勝ち方なのです。

先手は4三の成桂を失うと寄せの足掛かりがなくなります。なので、▲5三桂成と紐を付けるのが一案ですが、それには△4三飛▲同成桂△6四桂で後手の勝ちですね。(A図)

このように、先手は桂を渡してしまうと即死してしまうので、成桂に紐を付けるという方法を取ることが出来ません。

 

妙手 豊島

ゆえに本譜は▲5二成桂と逃げましたが、攻め駒がそっぽに向かうようでは勝負ありですね。豊島名人は△6六角と飛び出し、先手玉を仕留めに行きました。(第2図)

 

妙手

▲同香は△6七飛成で詰みですし、放置すると△7七金から詰んでしまいます。他には△9九角成も着実な攻めなので、もはや先手に受けはありません。以降は、豊島名人が危なげなく勝ち切りました。

 

妙手 豊島

この△4一飛のような相手が最も渡したくない駒を取り行く手は、終盤戦において決め手になるケースが多く、非常に応用力が高いテクニックです。

特に、この場合は相手の攻めを牽制する意味もあったので、なおさら価値が高かったですね。△4一飛は、逆転の火種を摘み取る堅実な一着でした。

 

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。相掛かりから先手の攻めを後手が受ける展開になり、以下の局面を迎えました。(第3図)

 

妙手 本田

2020.6.18 第79期順位戦C級2組1回戦 ▲本田奎五段VS△瀬川晶司六段戦から抜粋。(棋譜はこちら)

4四の地点で銀交換をしたところです。

先手は4五の桂の行き場がありませんが、持ち駒が潤沢にあるので攻めに困る心配はなさそうです。

ここは取り合えず指してみたくなる手がありますが、本田五段が手にした駒は、歩ではなく銀でした。

本田五段が指した手は、▲3四銀です!

 

妙手 本田

銀を設置して、2筋の突破を狙ったのが妙手でした!


 

 

妙手 本田

ぺたっと銀を打つのが面白い攻め方でした。4五の桂をあっさりと取らせるので、ちょっと思いつかない攻め方です。

なお、この手に代えて▲3三歩も有力ですが、△2二金と辛抱されると意外に簡単ではありません。理由は後述します。

 

妙手 本田

さて。後手は△4五歩で桂を取るのが自然ですが、ガツンと▲4三銀打が豪快な一撃。かなり強引ですが、これが▲3四銀からの後続手です。(途中図)

 

妙手 本田

ちなみに、この手に代えて▲2三銀成では△2八歩▲同飛△2七歩というカウンターが飛んでくるので、攻めが頓挫してしまいます。(△2七歩を▲同飛は△3六角の王手飛車がある)

また、このとき[▲3三歩△2二金]の交換が入っていると、▲4三銀打が金に当たらないので、飛車をスムーズに成り込むことが出来ません。ゆえに、先手は▲3三歩を打たない攻め方をしていたのですね。

 

妙手 本田これには△同金の一手ですが、▲同銀成△同玉▲2三飛成で飛車を成り込むことに成功したので、先手の攻めは分かりやすくなりました。(第4図)

 

妙手 本田

この応酬で先手は銀桂損になりましたが、攻めている間に駒損を回復できる状況なので、あまり問題ではありません。例えば△5二玉には▲3二竜と入れば、合駒や2一の桂を取ることが出来そうです。

第4図は手番を握りながら攻め続けることが出来る局面なので、先手良しと言えるでしょう。

 

改めて、途中図に戻ります。

妙手 本田先手は2三の歩を銀で取ると飛車の利きが堰き止められてしまうので、「▲2三飛成」という形であの歩を取らないといけないのですね。その具体案が銀を連打する手順だったという訳なのです。冒頭の局面では思わず▲3三歩と打ってみたくなるところだけに、この着想は非凡な攻め方でした。

 




第1位

 

最後に紹介するのはこちらの将棋です。これはelmo囲いを爽やかに攻略した妙手順でしたね。(第5図)

 

妙手 久保

2020.6.19 第68期王座戦挑戦者決定トーナメント ▲松尾歩八段VS△久保利明九段戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)

先手が飛車取りを無視して、▲7五桂と打ったところ。

突然ですが、ここから久保九段がどのような寄せの構図を描いたのか、少し考えてみてください。並の発想なら相手の金を剥しに行くところですが、本譜は全く違うアプローチで先手玉に迫りました。

久保九段が指した手は、△7四金です!

 

妙手 久保

飛車を取らずに、金を上がった妙手でした!


 

 

妙手 久保

7四に金を上がる手が、先手玉を寄せる第一歩となる一着です。とはいえ、これがなぜ敵玉の寄せに結び付くのか、ぱっと見では意図が分かりにくいですね。「金は斜めに誘え」という格言にも反しており、不思議な印象を受けるのではないでしょうか。

なお、この手に代えて△4七銀成と飛車を取る手は普通ですが、それには▲4一馬が手強い一着になります。(第6図)

 

妙手

6三の金をタダで取られてはいけないですが、△6二金引には▲8五香→▲8六飛という攻めが速いですし、△7四金には▲6三桂成が面倒です。

この変化は、

・居飛車の眠っていた馬が寄せに参加している
・相手の囲いが手付かずの状態になっている

という二つの問題点があるので、後手は芳しくありません。

 

それでは、実戦の△7四金にはどのような利点があるのでしょうか?

妙手 久保

この場合、先手は常に△7五金と桂を食いちぎられる手があるので、▲8五香→▲8六飛という攻め方では上手くいかないですね。

なので、本譜は▲6三香と迫ったのですが、これにも△7五金が好判断。先手は▲6一香成で金を剥がしますが、△同銀▲7五歩△7六桂と進んだ局面は、後手の攻め駒が急所に突き刺さっています。(第7図)

 

妙手

後手は守備の要である6一の金を失いましたが、それ以上に7六の地点に桂を設置できたことが大きく、一気に棋勢を引き寄せることに成功しました。この手は詰めろではありませんが、先手は△6九銀成に▲同金と応じれなくなっているので、自陣に手入れせざるを得ない状況です。

 

妙手

ゆえに本譜は▲8九金打と粘りましたが、そこで△4七銀成と飛車を取るのが抜群のタイミング。先手も▲5一飛で寄せを目指しますが、△6八桂成▲同金直△7六香と進んだ局面は、後手の一手勝ちです。(第8図)

 

妙手

この手は△7七香成▲同金△同馬▲同玉△8五桂からの詰めろになっています。上から襲い掛かることで、下段の金が受けに働かないようにしているところに技術の高さを感じますね。

 

妙手

ここまで進んでみると、後手は7六の地点に駒が打てるようになったことで、先手玉を寄せやすい状況に持ち込むことが出来ています。これを見越していたので、久保九段は△7四金とかわす手を選んだのですね。

 

妙手 久保

それにしても、意図的に▲6三香を打たせ、囲いの金を二枚失っても大丈夫だと見切った感覚は凄まじいものを感じます。まさに肉を切らせて骨を断つ組み立てであり、鋭い勝ち方でした。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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