どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2021年3月第3週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2021.3/21~3/27)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。後手の雁木に先手が右四間飛車で対抗する構図になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2021.3.21 ▲Kristallweizen-E5-2620 VS △COMEON(棋譜はこちら)
先手は角を渡すと、自玉に△7九角からの詰めろが掛かります。後手はそれを見越して、△6一桂と催促してきた訳ですね。「さっさと馬をよこせ」と仰っているのです。
どのように対処するのか悩ましい場面ですが、先手はとても都合の良い手順を用意していました。
金を引いて、竜に働き掛けたのが妙手でした!
角を渡す前に金を引いたのが唯一無二のタイミングでした。これで先手は戦力を落とすことなく、自玉を安全にすることが出来るのです。
これを△同竜は、▲1五角の王手飛車がありますね。なので竜を逃げるのは当然ですが、△3九竜では▲6二馬△同玉▲4九歩の底歩が絶品です。(A図)
これは竜が戦線から離脱してしまい、後手は不本意な進行でしょう。
そうなると、この消去法で△5九竜ということになります。しかし、▲6二馬△同玉▲6九飛の自陣飛車が味良く、これも先手は自玉の脅威を和らげることが出来ました。(第2図)
△4八竜は▲2六角が王手竜取り。かと言って、△6九同竜▲同銀もその後の指し手に困ることになります。
後手は▲7四桂や▲4四歩△同銀▲4一飛と言った攻め筋があり、手番を握っても自玉周りを修繕できないことが辛いですね。先手玉とは、安定感がまるで違うのです。
この局面は、玉型と持ち駒の豊富さに差が着いていることから先手が優勢になっています。以降も、先手はリードを守り切って手堅く勝利を収めました。
冒頭の局面では▲3七馬のような手もありましたが、それでは△7六歩▲同金△6四桂と攻め立てられて面白くありません。そういった攻め筋を許さないことに、▲4八金の価値があるのです。常に後手の竜に働き掛けているので、相手の指し手に制約を与えていることが自慢ですね。強気な受けの妙手だっだと思います。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。相掛かりから先手が矢倉、後手が銀冠に組む将棋になり、こういった局面になりました。(第3図)
2021.3.22 ▲COMEON VS △Supercell(棋譜はこちら)
お互いに囲いが崩壊しており、終盤戦もたけなわといったところです。
まだまだ勝負の帰趨は見えて来ないようですが、ここから先手は思わぬ方法で相手を突き放すことに成功しました。これは発想が柔らかい一手でしたね。
詰められた端歩を押し上げるのが妙手でした!
ちょっと攻めれば後手玉を寄せ切れそうな場面なので、ここで受けに回るのは変調にも思えます。けれども、これが不敗の態勢を作りに行くクレバーな勝ち方でした。
なお、先手は攻めを選ぶなら▲6四香が一案ですが、これは後手の仕掛けた罠に嵌ります。すなわち、△6九角が強烈なクロスカウンターですね。(第4図)
これは△7八金からの詰めろなので、先手は飛車を取る手が間に合いません。その上、ここに角を打たれると△8三飛と逃げる手が詰めろになってしまうので、先手は▲6四香が完全にお手伝いになっています。これでは泣きっ面に蜂ですね。
このように、先手は△6九角を警戒しておく必要があります。その具体案が▲9七歩で自玉を広くすることなのですね。
後手は素直に応じるなら△同歩成▲同香△同香成▲同玉ですが、この進行は先手がはっきり得をします。なぜなら、玉の狭さが改善され、彼我の安全度にくっきりと差が出るからです。よって、後手はこの歩を放置するしかありません。
そういった事情があるので、本譜は△8六歩▲同金上△6七歩と肉薄しましたが、▲6九香が屈強な受け。先手は「玉の逃げ道を作る」という楽しみがあるので、ここは受け甲斐のある局面になっているのです。(第5図)
後手は△6八歩成▲同香△6九角と我武者羅に食いついますが、▲8七角で消去するのが堅実ですね。以下、△同角成▲同金△6九角▲9六歩と進んだ局面は、先手がはっきりと抜け出した格好になりました。(第6図)
後手は6九に角を設置するのが最強の攻めなのですが、この局面ではその攻めが威力を削がれています。ご覧のように、▲9七玉→▲8六玉というルートが開けているので、△7八金を打っても仕留めきれないですね。
第6図は先手玉への寄り筋が消えているので、もうこの玉は捕まりません。▲9七歩と突き上げることによって、先手は土地が一気に広くなったことが感じられるでしょう。
始めの局面は、後手玉は両サイドをと金に挟まれていますし、上部へ脱出することも期待できません。つまり、自玉の延命が望めない格好なのです。
そうなると、先手は直線的な攻め合いを挑むよりも、玉の安全度に差を着けて勝ちに行くほうが賢明と言えます。ゆえに、▲9七歩が最適な一手になるのですね。危ない橋を渡らない巧みさが印象に残る妙手でした。
第1位
最後に紹介するのは、この将棋です。この切れ味の鋭さは、なかなかに人間離れしたものでした。(第7図)
2021.3.25 ▲Kristallweizen-E5-2620 VS △Hainaken_Corei9-7980XE_18c(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら)
先手が7七にいた玉を、ぐいっと立ち上がったところ。
後手はまだ自玉に余裕がありますが、先手の厚みは強大なので、凡庸な手を指していると入玉を許してしまいかねません。ゆえに、正念場を迎えています。
とは言え、ここは飛車を逃げるしかないようですが、そんな軟弱な姿勢は見せませんでした。
飛車を逃げずに焦点の歩を放ったのが妙手でした!
一見、上部脱出を防げていないようですが、これが寄せの足場を作る第一歩となる一着でした。ここから後手の鋭利な寄せが始まります。
なお、後手は△8一飛のほうが自然ですが、そうすると▲8二歩や▲8三歩で先手の中段がさらに手厚くなってしまいます。これは飛車を逃げる一手の価値が低いので、先手に安心されてしまうことが不服ですね。
さて、先手としては▲8五玉で問題なければ話は簡単です。しかし、これには△9四銀が厄介ですね。
▲7四玉は△7八歩成が詰めろを飛車取り(△6二桂▲同馬△8三金で詰む)になります。また、▲7六玉と引くのは△7八歩成▲同飛△2九馬のときに良い対処がありません。(B図)
この変化は△9四銀を打たれることで、先手は玉が上に逃げづらくなってしまうことが泣きどころと言えます。
したがって、先手はひとまずこの金取りを防ぐことが先決です。ただ、▲同玉では7五の銀がタダですし、▲同金は△8八飛成で竜を作られてしまいますね。
先手に残された手段は、▲5五馬△4四銀▲7七馬で歩を払ってしまうことです。こうすれば金を守りながら飛車取りを残すことが出来ますね。
しかし、後手はこれを待っていました。△7三桂が馬を動かした弊害を突く一着です。(第8図)
飛車取りを受けるにしても、なぜ桂を繋ぐ必要があるのか奇妙な印象を受けますね。しかし、これはシャープな狙いを秘めているのです。
先手は▲8六歩と催促しますが、そこで△6五桂がアクロバティックな一撃。これが先手玉の臓腑を抉りました。(途中図)
先手は角を渡すと△5八角と打たれる傷があるので、ここで飛車を取る余裕はありません。そもそも、先手にとってあの馬は最強の守り駒なので、これを取らせることは命綱を切ることと同義です。
そうなると、先手は桂を対処することになります。ただ、▲6五同玉では△6四金が強烈ですね。つまり、先手は飛も桂も取ることが出来ないのです。
ゆえに▲6六馬と逃げるのはやむを得ませんが、△7五飛▲同馬△6四銀とアクセルを踏むのが今までの方針と合致した手順。ここまで来ると、先手玉は非常に寄せやすい形になりました。(第9図)
先手は馬を逃げるのが妥当ですが、△5七歩成や△7五歩、△7五銀打といった攻めが残っているので、とても凌ぎ切れる状況ではありません。何より、先程まで7筋に存在していた厚みが消え失せてしまったことが痛いですね。以降は、後手の危なげない収束を見るばかりでした。
こうして後手の寄せを振り返ってみると、
という流れになっていることが分かります。
そして、この一連の工程を8五の飛取りが掛かっている状態で行ってしまったことが圧巻です。飛車を逃げる一手を省くことで、寄せのスピードが劇的に速くなりました。まさに疾風の寄せであり、爽やかな踏み込みでしたね。
それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!