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今週の妙手! ベスト3(2020年6月第4週)

妙手 藤井聡太

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手今週の妙手! ベスト3(2020年6月第3週)

注意事項

 

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! ベスト3
(2020.6/21~6/27)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。三間飛車VS穴熊という構図から一進一退の攻防が展開され、このような局面になりました。(第1図)

 

西山朋佳

2020.6.23 第51期新人王戦トーナメント ▲西山朋佳女流三冠VS△青嶋未来六段戦から抜粋。

先手は自玉に詰めろが掛かっていますが、後手は潤沢に駒を持っているので、もはや受けは利きません。ゆえに、勝負の帰趨は、ここで後手玉を詰ませられるかどうかに懸かっています。

簡単な局面ではありませんが、西山女流三冠はしっかりと着地を決めました。

西山女流三冠が指した手は、▲4五銀です!

 

西山朋佳

銀を捨てて、馬の利きを堰き止めたのが妙手でした!


 

 

西山朋佳

銀を捨てるのがピッタリの一着でした。この伏線を入れることで、先手は敵玉を詰みに討ち取ることが出来るのです。

本譜は△同歩と取りましたが、このやり取りによって8九の馬の利きが3四に届かなくなっています。なので、▲6六桂△4三玉に▲3四金が打てるようになりました。(第2図)

 

妙手 西山朋佳

後手は△4二玉と指すよりないですが、▲6二竜△5二香打▲同銀成△同香▲4四香と王手を掛ければ追い詰めです。実戦は、第2図の局面で終局となりました。

 

西山朋佳

なお、▲4五銀に対しては△同馬という応接もあります。しかし、これには▲6六桂△4三玉▲3三金と迫る手があり、やはり後手は詰みを免れることが出来ません。(第3図)

 

今週の妙手

ここからは、△同金▲同銀成△同玉▲4五桂△同歩▲3四金から詰んでいます。(A図)

この変化でも、4五に銀を捨てた効果が遺憾なく現れていることが分かるでしょう。

 

西山朋佳

それにしても、焦点に銀を投げ捨てて敵玉を仕留めてしまうのは、あたかも詰将棋のようでスカッとしますね。これは鮮やかな妙手でした。

 

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。相矢倉からお互いに厚みを作り合う将棋になり、以下の局面を迎えました。(第4図)

 

妙手 斎藤慎太郎

2020.6.23 第46期棋王戦挑戦者決定トーナメント ▲郷田真隆九段VS△斎藤慎太郎八段戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)

後手が△3六歩と突き、先手がそれを無視して▲6五歩と打ったところ。

後手は銀をかわすなら△5五銀ですが、それは▲同銀△同金▲6四銀が厳しく、形勢を損ねることになります。

そうなると他の候補は「あの手」かと思われましたが、斎藤八段の着想はそれを越えるものでした。

斎藤八段が指した手は、△7五銀です!

 

妙手 斎藤慎太郎

7筋に銀を出て、「歩で取ってみろ」と突きつけたのが妙手でした!


 

 

妙手 斎藤慎太郎

よもや、こちら側に銀を出るとは予想しづらかったのではないでしょうか。

なお、並の発想は△3七歩成で桂を取る手ですが、これは▲6四歩△4七と▲同飛と進んだときに、意外と容易ではないのです。(第5図)

 

今週の妙手

後手は桂得にはなりましたが、7三の角が眠っていることが不満ですね。ここで△6四角と指しても▲6五銀△8二角▲6四歩で角を封じ込められてしまうので、焼け石に水と言えます。

 

ところが、△7五銀と指せば、後手は難局を打開することが出来るのです。

妙手 斎藤慎太郎

これを▲同歩だと△3七歩成で桂を取ります。先手は7六に桂を打たれる傷を抱えているので、こうなると面白くありません。(B図)

ゆえに、本譜は▲同銀△同歩と進めたのですが……。(途中図)

 

今週の妙手

さて。先手は3七の桂を守りたいので、▲3六銀が指したい一着です。しかし、それには△5五金と進軍されたときに困ります。▲6四銀と打っても△5六金▲7三銀成△6七銀で斬り合いを挑まれると、先手は一手負けですね。(C図)

後手の玉は薄いようでも、4筋方面の土地が広大なので、この攻め合いでは勝ち目がないのです。

 

今週の妙手

したがって、本譜は▲6四銀△8二角▲3六銀と指しましたが、△6三歩で催促したのが冷静。あの銀をどかしてしまえば、後手は角が復活します。(第6図)

今週の妙手

ここで▲7五銀は、やはり△5五金が絶好ですね。かと言って、銀が逃げれないようでは、先手は駒損を回避できません。以降は、後手がリードを保って上手く逃げ切りました。

 

妙手 斎藤慎太郎

こうして振り返ってみると、後手は△7五銀と捨てることで7三の角を眠らせることなく、攻めの主軸として活用できていることが読み取れます。△7五銀は、目先の桂得に飛びつかない読みの入った妙手でしたね。

 




第1位

 

最後に紹介するのはこちらの将棋です。これはまさに受けの妙技といった一着でした。(第7図)

 

妙手 藤井聡太

2020.6.23 第61期王位戦挑戦者決定戦 ▲藤井聡太七段VS△永瀬拓矢二冠戦から抜粋。(棋譜はこちら)

後手が△5四桂と打ったところです。

先手は一方的に攻められていますが、持ち歩の数が多いことや後手陣に壁銀があることから、ここで相手の攻めを凌げれば勝算の高い将棋に持ち込めそうです。

 

問題は、どうやってこの攻めを受け止めるかですが、藤井七段は見事な組み立てでそれを実現してしまいました。

藤井七段が指した手は、▲6七桂です!

 

妙手 藤井聡太

桂を使って飛車の態度を尋ねたのが妙手でした!


 

 

妙手 藤井聡太

これが素晴らしい一着でした。ただ、なぜ角を逃げないのか。そして、飛車を追うにしても、なぜこの方法なのかという疑問が残りますね。順に解説していきましょう。

 

妙手 藤井聡太
まず、先手は▲5七角と逃げて問題なければ話は明快です。しかし、△6六桂と跳ばれたときが面倒ですね。駒損を避けるには▲6七金の一手ですが、△8五飛▲8六歩△同飛と強襲されると、倒れてしまいます。(D図)

このように、先手は平凡に角を逃げるようでは上手くいきません。

 

妙手 藤井聡太

ところで、先手は7五の飛を五段目から追い払ってしまえば、3五の銀が安定するので受ける条件が良くなります。それに着目すると▲7六歩△8五飛▲8六歩という手順が考えられますね。けれども、それには△7七歩という鋭利な一着があるのです。(第8図)

 

妙手 叩きの歩

▲同玉だと、△4六桂→△5九角が痛烈。よって▲同金が妥当ですが、△4六桂▲8五歩△7九角▲5九玉△3八桂成で技が掛かるので、これも後手が優勢ですね。(E図)

 

改めて、△5四桂の局面に戻ります。

妙手 藤井聡太

つまり、この局面で先手には

・角を逃げてはいけない。
・7七に空間を空けてはいけない。

という二つの制約があるのです。それをクリアしながら受ける手が、▲6七桂という訳なのですね。

 

妙手 藤井聡太

さて。後手は△8五飛▲8六歩と進めると、今度は△7七歩と叩くことが出来ないので損をしています。したがって、本譜は△4五飛と逃げましたが、▲3七桂△4六飛▲同歩△6六桂▲2九飛が巧みな応接でした。(途中図)

 

妙手 藤井聡太

下段に飛車を配置することで、先手陣はぐっと安定感が増しました。こうなると、後手も一気に攻め潰すことは困難です。

なので、本譜は△7八桂成▲同銀△8八馬と指しましたが、ここで攻めが緩んだので、先手に攻めるターンが回ってきました。藤井七段は▲8一飛と打ちおろし、待望の反撃に転じます。(第9図)

 

妙手 藤井聡太

次は▲6二歩△同玉▲7四桂という攻めが厳しいですね。こうなると、先手は当初の目的であった「相手の攻めを凌ぐ」というミッションを果たしているので、一歩抜け出した感があります。

 

妙手 藤井聡太

この局面は先手が駒損ではありますが、「玉の広さ」に甚だしい差が着いているので、先手のほうが勝ちやすい将棋と言えるでしょう。以降も、先手は「玉の広さ」を活かして勝利を収めました。

 

妙手 藤井聡太

先手はここに桂を打つことで、後手の猛攻を見事に凌ぐことが出来ました。また、個人的には、このあとに相手の手に乗りながら、受けの好形である[▲4八金・▲2九飛型]を作ってしまったところに技術の高さを感じます。▲6七桂をはじめとする一連の手順は、まさに惚れ惚れする受けの妙技でしたね。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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