どうも、あらきっぺです。最近は散歩をしていると、草木が元気に繁っていて癒されますね。
タイトルに記載されている通り、振り飛車の将棋を見ていきましょう。なお、前回の内容はこちらからどうぞ。最新戦法の事情(2020年4月号・振り飛車編)
・調査対象は先月のプロの公式戦(男性棋戦のみ)。棋譜は携帯中継や名人戦棋譜速報など、公に公開されているものから収集。全ての公式戦の棋譜を見ているわけではありません。ご了承ください。
・文中に登場する棋士の肩書は、全て対局当時のものです。
・戦法や局面に対する評価や判断は、あらきっぺの独断と偏見が多分に混じっております。当記事の内容を参考にして頂けるのは執筆者としては光栄ですが、あまり妄信し過ぎないことを推奨致します。
最新戦法の事情 振り飛車編
(2020.4/1~5/31)
調査対象局は57局。それでは、戦型ごとに掘り下げて行きましょう。
先手中飛車
初期設定が面白くない
5局出現。3月では少し増加傾向があったものの、4・5月は低調で、めっきりと姿を見かけなくなりました。
居飛車の対策は、後手超速(3局)と一直線穴熊(2局)に二分されています。ただ、振り飛車側にとって怖いのは前者のほうですね。後手超速は先手中飛車を真っ向から潰しに行く戦法なので、これの対策は死活問題と言えます。(第1図)
2020.4.30放映 第28期銀河戦本戦トーナメントDブロック8回戦 ▲青嶋未来五段VS△中村太地七段戦から抜粋。(棋譜はこちら)
後手超速はいろいろな形がありますが、第1図のように[△6一金・△8五歩型]で銀を繰り出すのが最強だと見ています。理由は、先手から▲5四歩と動かれたときに、この配置が最も対応しやすいからです。詳しい内容は、こちらの記事をご覧くださいませ。
さて。ここは先手にとって作戦の岐路と言える局面です。オーソドックスな対応は、▲6六銀型か▲5六銀型に構えることですね。
ただ、現環境ではどちらの組み方も問題を抱えており、振り飛車はそれらの将棋を避けている傾向があります。詳しくは、以下の記事で解説しております。
参考 最新戦法の事情【豪華版】(2019年12月号 振り飛車編)
そういった背景があるので、実戦は▲6六歩と指しました。これは△6四銀なら▲6五歩△同銀▲6七銀と進めて、後手の攻めを受け止める意図ですね。
しかし、そうは問屋が卸しません。後手は△7五歩▲同歩△8六歩で歩を突き捨てて、攻めに弾みをつけるのが賢い手順です。(第2図)
これを▲同歩にしろ▲同角にしろ、居飛車は△6四銀と進軍してきます。この場合、▲6五歩と突いても銀バサミにはならないので、振り飛車は攻めを受け止めることが出来ません。(▲同歩△6四銀▲6五歩には△7五銀。▲同角△6四銀▲6五歩には△5五銀。)
後手は事前に7・8筋の歩を突き捨てた効果で、飛や銀がスムーズに敵陣へと進軍できることが自慢ですね。
先手はこの局面が面白くないとなると、第1図で▲6六歩と突いた手がどうだったのかという話になっていきます。
基本的に、ここから先手は
(1)▲6六銀型に組む。
(2)▲5六銀型に組む。
(3)▲6七銀型に組む。
という三つの手段が主な対抗策なのですが、現環境ではどれも成果が上がっておらず、思うような戦いができていない印象を受けます。
しかしながら、この局面は、お互いが自然に指していると簡単に出現してしまう場面です。そういった局面がすでに芳しくないとなると、作戦そのものを見直す必要があると言えます。この辺りに、先手中飛車が減少した事情があると言えそうですね。
四間飛車
穴熊に組まれても大丈夫!
14局出現。出現率は24%を超えており、今回の期間では最も多く指された戦法でした。
四間飛車がここまで支持を流行している要因は、囲いの種類が多様になり、作戦の持ち球が増えたことが一番の理由だと考えられます。(第3図)
2020.5.26 第46期棋王戦予選 ▲飯島栄治七段VS△井出隼平四段戦から抜粋。
例えば、近頃では振り飛車がミレニアムに組む指し方が注目を集めています。この戦法は玉が8一にいるので、将来のコビン攻めを気にする必要がないことがメリットです。
つまり、7三の桂を跳ねても反動が弱いので、△6五歩や△8五桂といった攻めを実行しやすいという訳ですね。
【四間ミレニアムのコツ】
▲59角と引いて角を転換するのは居飛車穴熊の常套手段ですが、強く△65歩と攻め合いましょう。
▲15角と飛び出られても、△46歩から飛車を捌けば振り飛車有利ですね。
この戦法は、とにかく△65歩と突っ掛けて戦う姿勢を見せることがポイントです。#今日の将棋クエスト pic.twitter.com/FiJMM1YHbW
— あらきっぺ (@burstlinker0828) May 21, 2020
また、四間飛車はミレニアムだけでなく、他の囲いにもチャレンジしています。(第4図)
2020.5.7 第33期竜王戦1組ランキング戦 ▲佐藤和俊七段VS△羽生善治九段戦から抜粋。
この将棋では、金無双のような囲いを作っていますね。これも玉を2八の地点に置かないことで、将来のコビン攻めを緩和している意味があります。ジャンルとしては、四間ミレニアムの派生形とも言えるでしょうか。
ただ、この囲いはミレニアムと比較すると堅さでは劣るので、強引に暴れられたときに相手の攻めを凌げるのだろうかという懸念はあります。
居飛車はそこに目をつけて、△7五歩▲同歩△8六歩▲同歩△4五歩▲同桂△7七角成▲同桂△4二銀と戦いを起こしました。(第5図)
強引な手順ではありますが、穴熊の堅さを活かした指し方と言えます。
この場合は端攻めを狙う展開ではないので、振り飛車は丁寧に受けるプランを採ることになります。具体的には、▲8八飛△4四角▲6七金と指すのが良いでしょう。
後手は△3五歩と突いて、とにかく争点を増やしますが、▲8五歩△3六歩▲8四歩で催促すれば振り飛車が有利に戦える形勢ですね。(第6図)
シンプルに8筋を逆襲するのが好判断です。金無双タイプの将棋はヨコから捌き合うような展開は苦手ですが、タテからの攻めを受け止めるのは適性が高いので、堂々と相手を催促する指し方が有力になるのです。
居飛車は敵玉の頭上に拠点を作ったものの、3七の地点はしっかりガードされているので、どうも攻めがヒットしていない印象です。こうなると、無理攻めの烙印を押された格好だと言えるでしょう。
局面を、第4図に戻します。
このように、金無双は手薄なようでも、上からの攻めに強い利点があるので簡単には倒れません。
△4五歩からの決戦策を凌げるのであれば、居飛車から有効な仕掛けがないので、主導権が振り飛車に回ります。このあとは、端攻めを狙う要領で指し進めるのが方針の基盤になりますね。
▲3八玉型の四間飛車は、四間ミレニアムと同様に大きな可能性を秘めていると言えるでしょう。何と言っても、穴熊に組まれても戦えることは心強い利点です。
三間飛車
終焉の気配
13局出現。先手番で7局、後手番で6局指されました。
居飛車の作戦は持久戦オンリーで、急戦はゼロ。これは急戦が冴えないというよりも、「石田流への組み替えなど怖くないですよ」という居飛車からのメッセージとも受け取れますね。
居飛車は13局中、9局が穴熊に潜っており、三間飛車はこれを打ち破ることが最優先課題と言えます。(第7図)
2020.4.10 第51期新人王戦トーナメント ▲西山朋佳女流三冠VS△長谷部浩平四段戦から抜粋。
三間飛車は穴熊に対してのんびり駒組みしていると面白くありません。なので、石田流へ組み替えて主導権を握ることが対策の一つですね。これが有力なので、三間飛車が注目されているという経緯があります。
また、第7図をご覧いただけば分かるように、振り飛車は▲5六銀を早めに上がっています。これは、▲5六銀と△4四銀の交換を入れることで、[△6四銀+△4二角]という攻めの布陣を作られないようにしている意味があります。
さて。居飛車としては、この▲5六銀型を咎めるような指し方が出来れば理想ですね。本譜はそういった展開を目指すべく、△5五歩▲6七銀で銀を下がらせました。これで居飛車は手得という主張を手にします。
ただ、△5五歩と突いたことで、角道が二重に止まっています。よって、△4二角でポジションを変えました。対する先手は▲7四歩△同歩▲同飛で飛車先の歩を交換します。(第8図)
ここから後手は△9四歩▲6五歩△2二銀と進めました。端に角を飛び出られる攻め筋を消してかなり慎重に駒組みを行っていますが、先手は▲1五歩と位を取って、着々とポイントを重ねていきます。(途中図)
後手は6一の金を囲いに合体させるため、本譜は△7三歩▲7六飛△5一金と指しました。しかし、▲7七角と活用した局面は、先手が満足のいく組み上がりになった印象ですね。(第9図)
先手はここから▲6六銀→▲5五銀や、▲6六角→▲7七桂といった手が楽しみです。△9四歩も効果的な一着とは言えず、居飛車は相手の動きを封じることが出来ていません。これは振り飛車が主導権を握っているので、作戦成功と言えるでしょう。
このように、たとえ居飛車は手得という主張を得ても、石田流への組み替えを許してしまうと面白くないことが分かります。
したがって、居飛車はこの教訓を糧に、改良案を提示します。実をいうと、この改良案がとても優秀なので、三間飛車は旗色が悪くなっている節があります。続きはこちらからご覧くださいませ。
角交換振り飛車
桂を守る駒組みが必須
6局出現。対局数が少なく、下火の傾向は相変わらず。
角交換振り飛車は、3三の地点に銀を配置するか桂を配置するかで将棋の性質がガラっと変わります。振り飛車としては△3三桂型のほうが駒の効率が良く、現環境ではそちらの指し方が支持を集めていますね。
ただ、△3三桂型は桂を早めに跳ぶことになるので、自ら弱点を作っている嫌いはあります。居飛車は当然、それを咎めてくることでしょう。(第10図)
2020.5.26 第70期王将戦一次予選 ▲斎藤慎太郎八段VS△竹内雄悟五段戦から抜粋。
図のように、[早繰り銀+▲7七角]のコンボで桂頭を狙われるのが振り飛車にとって厄介な作戦です。居飛車は早めに自陣角を打つことで、△4四歩を突きにくくしていることが自慢ですね。
さて。後手としては、この攻めで潰されてしまうと話にならないので、これをどう凌ぐかがテーマとなります。本譜は△3五同歩▲同銀△6四角と対抗しました。(途中図)
これに対して▲4六歩だと、△3四歩▲同銀△4六角が嫌味です。
ゆえに、ここは▲4六銀と引くことになりますね。以下、△4四歩▲同角△4五歩▲3七銀△4三銀▲7七角と進みました。ここまでは部分的に定跡化されている手順でもあります。(第11図)
さて。先手が▲3五歩と仕掛ければ、この局面になることは予想された進行です。ただ、こういった展開は3七の銀が釘付けになってしまうので、居飛車は歩得でも面白くないと見られている風潮がありました。
ゆえに、後手はそれに満足して△6二銀と自陣を整備しましたが、▲2六飛が斬新な一着。先手はこの手を見据えていたので、あえて不満と見られていた変化に誘導したのです。(第12図)
この手は次に▲3六飛を狙っています。後手は歩切れなので、分かっていても対処が難しいですね。
本譜は△3四銀▲3六飛△2五銀と強気に迎え撃ちましたが、▲3三角成△同金▲同飛成で先手が優勢になりました。駒得しながら3筋を突破しているので、先手は上々の進行でしょう。
改めて、第10図に戻ります。
本局で先手は、自陣の整備を最短で済ませて仕掛けを決行しています。ゆえに、後手は変化できる場所が難しく、作戦が根本から咎められている印象を受けますね。
この事例から分かるように、△3三桂型の角交換振り飛車は速攻に弱く、かなり序盤がデリケートです。安全に組むなら△3三銀型ですが、それでは2一の桂が使いにくいので、駒の効率の悪さは否めません。しかし、効率の良さを取ろうとすると、相手に咎められるリスクを背負い込むことになります。
現環境の角交換振り飛車は、こういったジレンマを抱えており、効率の良さと安全性を両立する駒組みが編み出せていない感があります。その辺りのもどかしさが、角交換振り飛車の対局数が増えてこない要因なのかもしれませんね。
その他・相振り飛車
今後に期待
19局出現。かなりバラエティーに富んだ内容になっており、多種多様な戦型が指されていました。
しかしながら、これは必ずしも良い状況とは言えません。なぜなら、有力な作戦があればそれが集中的に指されるはずなので、作戦が分散するということは路頭に迷っているような状況とも受け取れるからです。
とはいえ、こういった試行錯誤があるからこそ、斬新で有力な指し方が生まれてくることも確かです。この分散傾向が、数か月後にはどう収束するのかが楽しみですね。
定跡の最先端をもっと深く知りたい! という方は、こちらをご覧ください。
参考 最新戦法の事情【豪華版】(2020年5・6月合併号 振り飛車編)
最新の戦術には興味があるけど、どう指して良いのか分からない。どうしてプロがこういった指し方をするのかを知りたい。そういったお気持ちがある方には、うってつけのコンテンツとなっております。
有料(300円)ではありますが、その分、内容は深堀しております。よろしければご覧ください!
今回のまとめと展望
【現環境は四間飛車が最強】
振り飛車は四間と三間が二枚看板ではありますが、三間飛車は▲6六銀型穴熊が強敵なのでオススメできません。ゆえに、現環境では四間飛車が最強と見ます。
四間ミレニアムや金無双タイプの将棋で戦えば、たとえ穴熊に組まれても互角以上に戦えることが期待できます。
【居飛車の取るべき戦略】
現環境では、三間飛車とゴキゲン系統の将棋は対策が確立できているので、これらは怖くないでしょう。
角交換振り飛車に関しては、相手が△3三桂型と△3三銀型で方針を分けることが大事ですね。前者の場合は、速攻志向でガンガン動いていく姿勢を取るのが良い指し方になります。
四間飛車に対しては、単純に穴熊に組むだけでは上手くいかないので、ちょっと工夫が必要ですね。そのアイデアについては、豪華版のほうで解説しているので、よろしければご覧ください。
それでは、また。ご愛読ありがとうございました!