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今週の妙手! ベスト3(2021年4月第4週)

今週の妙手

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手今週の妙手! ベスト3(2021年4月第3週)

注意事項

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

今週の妙手! ベスト3
(2021.4/18~4/24)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。相掛かりから互いに攻め合う一進一退の攻防が繰り広げられ、このような局面を迎えました。(第1図)

今週の妙手

2021.4.22 ▲gct_model-0000214_a100x8 VS △Hainaken_RyzenTR3990X
棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)

後手はまだ一手の余裕がありますが、自玉は延命が望めません。つまり、この瞬間が残された最後のチャンスなのです。

そうは言っても、先手玉はまだ金が二枚残っており、仕留めるのは容易ではないように思えます。ところが、後手は豪快な一撃を用意していました。

Hainaken_RyzenTR3990Xが指した手は、△3五銀です!

寄せの妙手

銀を犠牲にして、玉頭をこじ開けに行ったのが妙手でした!


 

 

寄せの妙手

自玉が危険な状態で銀を渡すので、相当に豪胆な一手です。しかし、これが急所を突いた必殺の一撃でした。

もちろん先手は▲同歩と応じますが、そこで△4三金と銀を拾うのが後手の描いていたシナリオ。これで先手は困っているのです。(途中図)

寄せの妙手

普通は▲4三同とが指せないと辻褄が合いません。しかし、それには△4六馬と突撃すれば、先手玉は天に召されてしまいます。(A図)

3六の地点に穴が開いたことで、先手玉が一気に詰ましやすい格好になったことが読み取れますね。

寄せの妙手

こういった事情があるので、本譜は▲5八金△7七竜▲6七金で逃げ道を作りました。ですが、これは金が自玉から離れるので不本意な受け方です。

後手はそこにつけ込んで、△4五桂▲2七玉△4六馬と畳み掛けて行きました。先手玉が薄くなった弊害を突いていますね。(第2図)

寄せの妙手

この手も△3六銀▲1八玉△2八馬▲同金△2七金という手順で詰めろ(詳細はこちら)になっています。したがって、先手は▲4三とも▲7七金も指すことが出来ません。

特に、▲4三とが指せないことは先手にとって致命的と言えます。直線コースが負けなのであれば、受けに回るより道はありません。けれども、後手には潤沢な攻め駒があるので、この詰めろ攻撃を凌ぐのは無理難題と言えます。以降は、後手が危なげなく寄り切りました。

 

寄せの妙手

こうして振り返ってみると、[△3五銀▲同歩△4三金]という手順によって、後手は相手を突き放すことに成功したことが分かります。▲4三とが指せないのであれば、後手玉は相当に安全度が上がっていますね。

この三手は銀交換という意味ではイーブンですが、先手玉にだけトン死筋が発生する状況になったので、玉の安全度に関しては計り知れないほどの差が着いているのです。ゆえに、後手は勝利を手中に収めることに成功したのですね。

 

寄せの妙手

ちなみに、同じようでも△4五銀と打つのは、▲2七玉の早逃げを許すので攻めとして甘い部分があります。しかし、ここから銀を打てば、2六へ進軍できる含みがあるので、先手は早逃げすることが出来ません。

敵玉を安全地帯へと逃がさないこと、そして質駒である4三の成銀を上手く利用しているところが本当に巧みですね。△3五銀は、鋭敏な寄せの妙手でした。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 終盤において、トン死筋を作る手は価値が高い。
  2. 迫ってくる相手の攻め駒は、寄せに利用できる。
  3. ひとたび玉型に差を着ければ、果敢に踏み込む。

 

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。本局は、相掛かりから先手が雁木、後手が金冠に組む将棋になり、以下の局面を迎えました。(第3図)

今週の妙手

2021.4.21 ▲gct_model-0000214_a100x8 VS △Suisho4_TR3990X(棋譜はこちら

先手は角香交換の駒得ではありますが、9九のと金が非常に厄介な存在です。上手く対処しないと、左辺を食い荒らされてしまいかねません。

対応が難しいところですが、本譜は見事な手順で自陣をクリアな状態にしてしまいました。これは明るい判断でしたね。

gct_model-0000214_a100x8が指した手は、▲9九同角です!

受けの妙手

強くと金を払って、「両取りを打ってこい」と誘ったのが妙手でした!


 

 

受けの妙手

普通にと金を取るので、「これのどこか妙手なんだよ」と感じられたかもしれません。確かに見た目は平凡ですが、強い人ほどこの手には意外性を感じるのではないでしょうか。なぜなら、△9八銀という両取りが見え透いているからです。

今週の妙手

そういう意味では、冒頭の局面では▲5四銀と攻めを選びたくもなります。しかし、これは△8九と▲7七角△4六桂▲6八金△9八銀と攻め立てられたときが面倒ですね。(第4図)

妙手 ブログ

先手は▲9七金とかわすのが一例ですが、△9五香▲9六歩△同香▲同金△8七銀成という要領で後手はがむしゃらに食い付いてきます。なかなか相手の攻めを切らすという展開にはならないですね。

この進行は、途中の[△8九と▲7七角]という部分に注目してください。

このやり取りは、後手にとっては(1)桂を取る。(2)と金が敵玉に近づく。と大きなメリットがあります。しかし、先手は「ただ角を逃げただけ」なので、何も得をしている要素がありません。

妙手 ブログ

このように、中盤において「ただ受けるだけ」のような手を指すと、一手の価値が低く大勢に遅れてしまうことが往々にしてあります。しかし、さすがに角をと金で取らせる訳にはいきません。つまり、先手はこういう手を強要されたくはないのですね。

 

そういった背景があるので、先手は▲9九同角という選択を採ったのです。

受けの妙手

さて、後手は当然△9八銀で両取りを掛けます。何だか状況がさらに悪化したようですが、この銀を打たせてから▲5四銀と攻めに転じたのが素晴らしい判断。「両取り逃げるべからず」という格言に則っていますね。(途中図)

両取り逃げるべからず

後手はたくさん駒を取るなら△9九銀成▲4五銀△8九成銀ですが、これは▲4二歩と叩かれる手が厳しく、攻め合い負けが濃厚です。(B図)

この進行は第4図と比較すると、後手の攻め駒が少なくなっていることが分かります。先手は「ただ受けるだけ」の手を指しておらず、その一手を▲4五銀と桂を取ることに回せているので、はっきり得をしているのですね。

 

両取り逃げるべからず

ゆえに、本譜は△8七銀成で金を取りましたが、これには▲6五歩の突き出しが絶好です。後手は角に生還されると困るので△8八金と打ちましたが、▲同角△同成銀▲5九玉と進んだ局面は、先手の受けが成功した格好と言えるでしょう。(第5図)

将棋 玉の早逃げ

先手は駒得という貯金は失いましたが、ご覧のように左辺の配置がとてもスッキリとしました。第4図の失敗例と比較してみると、その明瞭さがよく分かります。

後手は△8九成銀で桂を補充しますが、この瞬間は先手に反撃のターンが回って来ましたね。▲5五角△8六飛▲6四歩と攻勢に出た局面は、先手がはっきりと優位に立ちました。(第6図)

攻めの妙手

素直な応手は△6四同歩ですが、それには▲5三銀打で痺れます。どこかで▲6四角と出る手が詰めろ飛車取りになるので、これは強烈な攻めになっていますね。

しかし、この歩が取れないようでは、後手としては辛い限りです。以降は、先手が手厚く押し切る形となりました。

 

受けの妙手

この▲9九同角は至って普通の手ではありますが、「あえて両取りを掛けさせて優位を広げる」という組み立てに懐の深さを感じます。

たとえ角や金をタダで取られても、持ち駒の銀を投資してくれるのであれば、そこまで大きな損害にはならないことを見切っているのですね。と金で駒を取られる展開のほうを嫌うという考え方が参考になる妙手でした。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 「ただ受けるだけ」の手は指さない。
  2. と金で駒を取られる展開は、なるべく避ける。
  3. 敵陣を攻撃できるのであれば、両取りは無視してよい。




第1位

 

最後に紹介するのは、この将棋です。これは、局面の急所を見抜く慧眼が凄まじいと感じた妙手でした。(第7図)

今週の妙手

2021.4.22 ▲Hainaken_RyzenTR3990X VS △Kristallweizen-TR2990WX
棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)

非常に混沌とした局面ですが、先手の二枚の馬は見るからに手強い存在ですね。また、後手は敵玉をすぐには攻撃できないので、単純な攻め合いは旗色が悪そうです。

そうなると非勢は否めないようにも思えますが、ここから数手ほど進むと、盤面の景色は一変しました。

Kristallweizen-TR2990WXが指した手は、△8二香です!

受けの妙手

香を設置して、8筋の制空権を奪われないようにしたのが妙手でした!


 

 

受けの妙手

はい? ここに香打ち??

という印象を受けたのではないでしょうか。これが第一感で浮かぶ方は、ほとんどいらっしゃらないでしょう。意図が見えない一手ですが、これが棋勢を引き寄せる渋い妙手なのです。

今週の妙手

本譜の進行をなぞる前に、まず後手が△8二香を打たないと、どんな弊害があるのかを解説します。

例えば、冒頭の局面では▲4三馬が気になるので、△7二玉と早逃げしてみましょう。これも自然に見えますが、▲8四歩△8一飛▲8七金という手順を許してしまうことに問題があります。(第8図)

受けの妙手

こう進むと、先程まで遊んでいた先手の飛と金が生き生きとしてきましたね。この局面は先手に戦力を増強された上に、8筋に築いた厚みも解体されています。

特に、後者のデメリットが痛いですね。後手にとって8筋の厚みは自玉の広さを担保する命綱なので、これを失うことは負けに直結します。

 

この変化を踏まえると、後手が△8二香を打った理由が見えて来ました。

受けの妙手

ここに香を据えておけば、▲8七金を指される心配はありません。また、ここで▲8四歩には、△同飛で問題ないでしょう。以下、▲同馬△同香▲8二飛と迫られても、△5二玉と早逃げすれば凌いでいます。(C図)

飛車を取られるのは怖いものですが、7四の馬を除去してしまえば後手玉はそう簡単には倒れないのです。

 

受けの妙手

先手は直ちに▲8四歩を打っても上手くいかないので、本譜は▲3四銀成と力をためました。これはC図の変化のように△5二玉と早逃げされたときのことを想定した一手ですが、これを見て△7二玉とお手入れするのが見事な間合いです。

先手も▲5一馬と入って早逃げを逆手に取ろうとしますが、△8四飛とぶつけて馬を除去しに行ったのが、これまた達者な受け。△8二香は、こういった狙いも秘めていたのですね。(第9図)

受けの妙手

この馬は7四がベストの配置なので、▲5六馬や▲4一馬上のような対応は明らかに損です。「ただ受けるだけ」の手を指している場合ではありません。

よって、本譜は▲同馬△同香▲2二飛と攻め続ける姿勢をとりましたが、△4二角と弾くのが絶妙の返し技。これで先手の攻めは完全に頓挫しました。(第10図)

受けの妙手

部分的には▲同馬△同銀▲同飛成で銀がタダですが、そう進むと△1五角の王手竜取りが待っています。ゆえに、先手は後手玉に近づくことが出来ません。

攻めが無いのであれば▲同馬△同銀▲2八飛成で自玉の安全を確保するのも一案です。しかしながら、これは△2六歩で竜を封じておけば、後手の優位は揺るがないでしょう。(D図)

後手は△2五香や△9七香といった「遅くとも確実な攻め」を持っているので、長期戦になるのは望むところなのです。

 

受けの妙手

この局面は、玉の安全度に差が着いているので、後手優勢の終盤戦です。先手玉はすぐに寄る訳ではないのですが、それ以上に後手玉が安全なのですね。

△4二角によって、先手はヨコからの攻めはブロックされました。そうなるとタテから攻めるしかありませんが、ご覧のように後手は8筋の厚みが強大です。ゆえに、この玉は相当に寄ることがありません。実戦も、この生命力の強さを活かした後手が勝利を収めました。

 

こうして実戦の進行を辿ってみると、後手は△8二香を放ったことで不死身の玉型を手に入れることに成功したことが分かります。

受けの妙手

この手は直接的には自玉を堅くしている訳ではないですし、相手の攻め駒に働き掛けている訳でもありません。

しかしながら、ここでは8九の飛を活躍させないことが最優先事項だったのですね。▲8七金を封じることが自玉を延命させるキーなのです。それにしても、あの場所が急所だとは、なかなか見抜けないものですね。

 

この妙手から読み取れる心得
  1. 相手の隠居している大駒を起動させない。
  2. 一度作った厚みは、是が非でも死守する。
  3. 攻め合いが挑めなければ、「不死身」を作りに行く。

 

それでは、また。ご愛読いただき、ありがとうございました!

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