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今週の妙手! ベスト3(2020年11月第4週)

今週の妙手

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手今週の妙手! ベスト3(2020年11月第3週)

注意事項

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

今週の妙手! ベスト3
(2020.11/22~11/28)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。後手の雁木に先手が急戦調の作戦をぶつける将棋になり、このような局面を迎えました。(第1図)

 

フラッドゲート

2020.11.25 ▲NeoBB_test20201123 VS △Cendrillon戦から抜粋。(棋譜はこちら

4二の地点で角交換が行われたところです。

現状、先手は一歩損で、8八の銀が壁銀の悪形でもあります。そして、何といっても7六の歩が目の上のたんこぶのような存在ですね。

先手にはあまり誇れる主張がなく、旗色が悪そうな場面でしたが、次の一手を境に盤上の雰囲気は一気に変わりました。

NeoBB_test20201123が指した手は、▲5七金直です!

今週の妙手
金を上がって、上部に厚みを作りに行ったのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

自ら金無双の形を崩すので変調のようですが、これが柔らかい発想でした。こうすることで、先手は自陣の問題点を解消することが出来るのです。

この手の狙いは、6六に金を上がって7六の歩を取りに行くことにあります。後手はそれを阻止したいところですが、まだ攻め駒が前線に出ていないので、あの歩を支える術がありません。

 

今週の妙手

仕方がないので本譜は△4一玉▲6六金△3一玉で囲いの整備を進めましたが、▲7四歩と押さえたのが抜け目のない一着。これを指しておけば、先手は上部の厚みがより強大なものになります。(第2図)

 

コンピュータ将棋

相変わらず後手は攻める手立てが無いので玉型を整えるくらいですが、その間に先手は▲4八銀→▲7六金→▲7七銀と進め、憂いの無い陣形を作ることに成功しました。(第3図)

 

コンピュータ将棋

ここまで進んでみると、先手は冒頭の局面で抱えていた「歩損」や「壁銀」といった懸念を払拭することが出来ましたし、囲いの手厚さも申し分ないので、かなり負けにくい将棋になった印象です。第1図との違いは歴然ですね。

 

今週の妙手

人間はどうしても囲いの定位置に金銀を置きたくなるものなので、▲5七金直のような手はなかなか指せないものです。また、囲いを盛り上げるなら歩の下から金銀を繰り出すことがセオリーなので、そういう意味でも思い浮かびにくい着想でしたね。固定観念に囚われないソフトらしい一着だったと思います。

 

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。後手の四間飛車に先手が風変りな急戦で対抗する将棋になり、以下の局面を迎えました。(第4図)

 

BURNINGBRIDGES

2020.11.23 ▲dolphin_denryu-sen_3950X VS △Cendrillon戦から抜粋。(棋譜はこちら

先手は大駒を全て手中に収めていますが、現状は自玉に詰めろが掛かっていますし、後手玉はまだ不詰めです。

そうなると先手の非勢は否めないようですが、本譜はここから巧みな手順を捻り出し、先手はこの危機を回避しました。

dolphin_denryu-sen_3950Xが指した手は、▲8三桂です!

今週の妙手

桂を打って、いきなり後手玉に襲い掛かったのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

思い出王手のような捨て駒に見えるかも知れませんが、これが自玉の窮地を救う凄技でした。

 

BURNINGBRIDGES

なお、この手に代えて▲4七金と受ける手も見えますが、それには△3九銀が厳しいですね。そこから▲5八玉と逃げても、△6七金▲同金△同歩成▲同玉△4七銀成が詰めろになってしまう(△6六歩から詰みます)ので、延命できません。

 

なので、先手は▲8三桂と攻めに活路を見出したのです。

今週の妙手

さて、これに対して△同銀と取るとどうなるのでしょうか。これで良ければ後手は簡単に勝てますが、先手は▲6一竜△同玉▲4三角成とラッシュします。結論から述べると、その局面で後手玉は詰み筋に入っているのです!(第4図)

 

フラッドゲート

ここで△5二桂と合駒すると、▲同馬△同玉▲4四桂△6一玉▲8一飛と迫れば捕まりますね。(A図)

なので、後手は△7二玉のほうが頑張れるのですが、▲6四桂と打って金を移動させるのが率の良い迫り方になります。(途中図)

 

フラッドゲート

△同金と取ると、▲6二金が鋭手。以下、

(1)△同 玉には▲4二飛△7一玉▲5三馬。
(2)△8一玉には▲7二角△同 銀▲7一飛。

いずれも手数は掛かりますが、後手玉は詰みを免れません。

 

フラッドゲート

したがって、ここでは玉を逃げる方が抵抗力があります。ただ、△8二玉は▲7一角△同玉▲6一馬と追撃すれば良いですね。(B図)

これも胸のすくように後手玉は綺麗に詰んでいます。

 

フラッドゲート

残る対応は△8一玉ですが、これには▲9三桂と捨てるのが鮮やかな一手ですね。(第5図)

 

フラッドゲート

△同香と取ると9三の地点が塞がるので、▲7二金△同銀▲同桂成△同玉▲6一角から並べ詰み。

問題は△9二玉と逃げられたときですが、▲8二金△9三玉▲8三金△9四玉▲9三金△同玉▲9四飛という華麗な手順があり、これで後手玉を討ち取ることが出来ます。(第6図)

 

コンピュータ将棋

△同玉には▲8三角、△8二玉には▲8三銀と捨てましょう。後手玉を8三に呼び寄せれば▲6一馬がトドメになります。持ち駒が余らず、あたかも詰将棋を見ているかのようですね。非常に芸術的な詰み筋です。

 

改めて、▲8三桂の局面に戻ります。

今週の妙手

こういった事情があるので、後手はこの桂打ちを取ることが不可能です。ゆえに△8二玉は必然ですが、そのタイミングで▲4七金と受けに回ったのが絶妙。これで先手は小康を得ることが出来るのです。(第7図)

 

変換性理論

先述したように、この手を指しても△3九銀と打たれてしまうので、部分的には受けが利かないはず。けれども、この局面で先手は銀を入手すると、▲7一角△8三玉▲9二銀という必殺の一手があるので、勝利をもぎ取ることが出来るのです。(第8図)

 

焦点の捨て駒

後手がどのように応じても、飛車を打てば簡単に詰みますね。そう、先手は▲8三桂の楔を放り込んだことにより、後手が銀を渡せない状況に追い込んでいたのです。

 

変換性理論

したがって、本譜はここから△4七同銀成▲同玉△8三玉と自陣に手入れをすることになったのですが、こうなると相手の攻めが緩んでいるので、先手はピンチを切り抜けることに成功しました。以降は、入玉を果たした先手が点数勝ちを収めています。

 

今週の妙手

始めから▲4七金と打つのでは受けになりませんし、金を手放してから▲8三桂と打つのでは、△同銀のときに後手玉を仕留められません。

 

変換性理論

先手は金を手持ちにしている状態だからこそ▲8三桂が成立するのであり、この利かしが入ることで▲4七金と受けに回る手が指せるのです。▲8三桂は、寸分の狂いも無い的確なタイミングでの利かしであり、まさに超絶技巧を感じさせる一着でしたね。

 




第1位

 

最後に紹介するのは、こちらの将棋です。これはゴチャゴチャした展開から瞬く間に局面を明快な方向へと導いていたので、見ていてとても感動しました。(第9図)

 

コンピュータ将棋

2020.11.23 ▲BURNING_BRIDGES VS △Cendrillon戦から抜粋。(棋譜はこちら

ぱっと見は先手が今にも勝てそうな場面ですが、後手玉を仕留めるにはあと一押しがありません。

混沌とした状況ですが、ここからBURNING_BRIDGESは見事な指し回しで相手を突き放すことに成功しました。

BURNING_BRIDGESが指した手は、▲7七玉です!

今週の妙手

玉を上がり、上部に向かって遷都したのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

敵玉は風前の灯火といった有様なので、なぜ今さら受けに回る必要があるのか疑問を感じられた方もいらっしゃるかと思います。けれども、これが逆転を許さない手厚い勝ち方だったのです。

 

今週の妙手

ところで、この手に代えて▲7四銀で良ければ話は早いですね。けれども、それは△6八桂成とされて奈落の底へ落ちることになるのです。(第10図)

 

フラッドゲート

これを▲同玉だと、△6九竜▲同玉△5八金▲7八玉△8六桂▲同歩△6八飛と肉薄されて先手玉はトン死します。非常に長手数なので手順は割愛しますが、とにかくこの成桂を取ってしまうと先手玉は詰んでしまうのです。

 

フラッドゲート

ちなみに、▲8八玉とかわしても△7八金から仕留められます。また、▲7七玉と逃げれば即詰みはありませんが、△6七角成▲8六玉△7六金と強攻されると、やはり先手は勝てません。(C図)

この変化は、詰みもしくは王手で6六の馬を抜かれてしまうので、先手は勝機を失ってしまうのです。

 

では、▲7七玉と上がることにより、先手はどういった恩恵を得られるのでしょうか。

今週の妙手

後手はもちろん△6八桂成と金を取りますが、そこで▲8六玉ともう一回、玉を早逃げするのが賢い一着になります。先手玉はこの場所が安全なのですね。(第11図)

 

玉の早逃げ八手の得あり

これは「桂頭の玉、寄せにくし」という格言を、角で応用している意味があります。現状の配置だと、後手は敵玉に対して上手く王手を掛けることが出来ませんね。

 

玉の早逃げ八手の得あり

ゆえに、本譜は△7五香と指して桂を打つスペースを作りましたが、▲9四歩△7四桂▲9五玉が素晴らしい玉捌き。ここに玉を逃げ込むことが先手の思い描いていたシナリオでした。(途中図)

 

局地性理論

彼我の駒が込み入っているので分かりにくいかもしれませんが、ここに玉を配置すると先手は、[▲7三銀・▲9四歩・▲9九香]という駒を、自玉を守るガードマンにすることが出来ます。これらの駒があるお陰で、先手玉はゼットですね。

 

ゼット

その上、先手は▲9四歩と取り込んだことにより、後手玉に対して▲9三歩成△同桂▲同銀成△同玉▲8五玉という詰めろを掛けることにも成功しています。この詰めろは△6九竜と指されても持続するので、後手が振りほどくのは容易ではありません。(D図)

つまり、先手は第9図の場面では速度争いで後れを取っていたのですが、玉を9五まで逃げることによって、彼我の体勢を引っくり返すことが出来たのです。

 

局地性理論

後手は詰めろ逃れの詰めろが繰り出せないので、△8四金▲同銀成△8二玉と粘りに出ます。しかし、▲7三金△7一玉▲8三成銀で自然に上から押し潰せば、先手の優位は揺るがないですね。(第12図)

 

局地性理論

ここで△9四香と走っても▲8五玉で不詰めですし、△7三桂も▲同桂成で焼け石に水です。どこかで▲7五馬と増援を送る手も残っているので、後手がこの攻めを凌ぐことは不可能です。先手は駒損が甚だしくはあるのですが、局地性理論を展開しているので、もはや関係ありません。第12図は先手が勝勢です。

 

局地性理論

こうしてみると、先手玉はいつの間にか全く寄らない格好になってしまいましたね。

 

局地性理論

先手は9五の地点が「聖域」であり、ここに玉を配置してしまえば自玉が無敵状態になるので不敗の態勢を築くことが出来るのです。指されてみれば理屈は分かりますが、あの段階で、さらに相手の角を利用して自玉を不死身にする発想には驚嘆です。

 

今週の妙手

▲7七玉→▲8六玉→▲9五玉という玉捌きは、あたかも鯉の滝登りを見ているようでもあり、血湧き肉躍る妙手順だったのではないでしょうか。こういった手が指せると、きっと将棋は楽しいでしょうね。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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