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今週の妙手! ベスト3(2019年12月第4週)

妙手

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手今週の妙手! ベスト3(2019年12月第3週)

 

注意事項

 

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! ベスト3
(2019.12/22~12/28)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。相矢倉の将棋から先手が早囲いに組み、巧みに攻めを繋げてこのような局面になりました。(第1図)

 

妙手

2019.12.26 第13回朝日杯将棋オープン戦二次予選 ▲千葉幸生七段VS△木村一基王位戦から抜粋。

後手が2一の桂で、1三にあった歩を払ったところです。

この局面は、先手が一方的に敵陣を攻めているので形勢は火を見るよりも明らかです。どのように仕留めるかという段階ですね。

 

いろいろな攻め方が目移りするところですが、千葉七段の決め方はとてもスマートでした。

千葉七段が指した手は、▲4三金です!

 

妙手

4三に金を放り投げたのが妙手でした!

 


妙手

この手に代えて、▲2二金△同飛▲同歩成から相手の飛車を取ってしまっても悪くはありませんが、紛れを生みます。先手は「2三の歩が寄せの軸となる駒」なので、それを盤上に残しながら攻めるほうが良いのです。

 

後手は△同金と応じるよりないですが、▲6一角が痛烈。この手を見据えていたので、千葉七段は4三に金を捨てたのです。(第2図)

 

妙手

△4二飛は、▲4三角成△同飛▲2二金で試合終了ですね。こういった変化のとき、「2三の歩が寄せの軸となる駒」と表現した意味がお分かりになるかと思います。

飛車を逃げることが出来ないので本譜は△5一香で辛抱しましたが、▲5二角成△同香▲4一飛で王手金取りを掛ける手が厳しく、後手はノックアウトになりました。(第3図)

 

妙手

△2一角と受けても▲4三飛成△同角▲2二金で無効。ここでも2三の歩が大車輪の活躍をしています。とはいえ、後手は金を補充されるようでは粘りが利きませんね。以降は、ほどなく先手が勝利を収めました。

 

第1図の局面では、何かの拍子に△2三金で歩を除去される恐れがありました。しかし、▲4三金と捨てることにより、先手は2三の歩をフリーにすることが出来たのです。その結果、後手玉を素早く仕留めることが出来ました。

第1図から振り返ってみると、先手は常に2三の歩を盤上に残したまま攻め続けていることが分かります。局面の急所をきちんと掴んだ見事な着地でしたね。

 


第2位

 

次にご覧いただきたいのは、こちらの将棋です。[四間飛車VS左美濃]という構図になり、このような局面を迎えました。(第4図)

 

妙手
2019.12.26 第5期叡王戦本戦 ▲豊島将之竜王・名人VS△藤井猛九段戦から抜粋。(棋譜はこちら)

先手は堅陣ではありますが、後手の攻め駒がかなり迫っているので、そこまで安全という訳でもありません。同時に、攻め駒が少し不足気味であることもネックです。

 

しかしながら、次の一手により、先手はそれらの問題点を一気にクリアすることが出来ました。これは綺麗な一手でしたね。

豊島竜王・名人が指した手は、▲9八玉です!

 

妙手

すっと玉を早逃げしたのが妙手でした!

 


後手は次に△5八角成▲同歩△7八銀成▲同銀△7九角……という手順で、トン死を狙っていた節がありました。先手は早逃げを使うことにより、その攻め筋をケアできたことが自慢です。

ここから後手が強引に攻めるなら△7八銀成▲同銀△7九金が一案ですが、それには▲8七銀打と守っておけば問題ないでしょう。(A図)

 

妙手

後手は常に▲8四桂と打たれるキズを抱えているので、先手玉を即詰みに討ち取れるような状況でなければ、△5八角成や△7八銀成といった駒を渡す攻めが実行しにくい側面があります。

 

そこで本譜は△8二玉▲6一と△8一金と進めて▲8四桂の筋を緩和しましたが、じっと▲8八金が冷静沈着です。これで形勢は、はっきりと先手勝勢になりました。(第5図)

 

永瀬二冠の妙手

先手は玉と金が一路ずつ左側へスライドしたことにより、6九の銀に空を切らせることが出来ました。こうなると、▲5二飛→▲5三香成といった確実な攻めが間に合う態勢なので、もう難しいところはないでしょう。

 

こういった早逃げは、書籍などで紹介される習いある手筋ではありますが、なかなか実戦ではお目にかかれないものです。そういった手を、自然な形で発動させてしまうところに豊島竜王・名人のスキルの高さを感じますね。局面を明快にするクリーンな妙手でした。

 




第1位

 

最後に紹介するのはこちらの将棋です。これは見た瞬間、なるほどと唸らされた一着でしたね。(第6図)

 

永瀬二冠の妙手

2019.12.27 第91期ヒューリック杯棋聖戦二次予選 ▲永瀬拓矢二冠VS△横山泰明七段戦から抜粋。

後手が△8七歩と垂れ歩を放ったところ。

この手は△5九飛からの詰めろになっていますね。かと言って、▲同金では△6七成桂とにじり寄られるので、思わしくない結果を招きます。

 

そうなると対処が難しいようですが、ここで永瀬二冠はテクニカルな受けを展開して、危機を回避することに成功します。

永瀬二冠が指した手は、▲5九歩です!

 

永瀬二冠の妙手

飛車の脅威を削ぐために、底歩を置いたのが妙手でした!

 


永瀬二冠の妙手

底歩を打つときの目的の多くは、「壁を作ること」です。ゆえに、底歩は他の駒と連結させる必要がありますね。そういった前提があるので、何もない場所にいきなり底歩を打つのは、なかなか見えにくいものです。発想が柔らかいですね。

 

後手はこの底歩を削らないと先手玉を寄せ切れないので△4九飛と打ちますが、▲6八銀打△同成桂▲同銀が頑強な防御です。(第7図)

 

永瀬二冠の妙手

6八に銀を配置することで宙ぶらりんだった底歩に紐が付き、先手玉はかなり耐久度が増しました。青枠で囲った形が、良いブロッカーになっていることが分かります。

後手は5五の銀が当たりになっているので△4四銀と引きましたが、永瀬二冠は▲8三馬△7二歩▲7三歩成△4二玉▲8一飛で、余分な駒を渡さないように慎重に攻めて行きます。以下、△5八銀は後手期待の反撃ですが、▲8七金がピッタリの対応。これで先手の逃げ切りが見えてきました。(第8図)

 

永瀬二冠の妙手

△5九銀不成と迫られても詰めろではないので、▲6一飛成で一手勝ちですね。

本譜は△7一金打▲9一飛成△5九銀不成と指しましたが、今度は▲7七銀とかわす手がありました。後手は金を手放したので、戦力不足に陥っています。以降は、先手が危なげなく勝ち切りました。

 

 

改めて振り返ってみると、永瀬二冠の指した受けは「底歩を打つ」「守備駒を連結させる」「拠点を払う」というように、特段、難しいことをしているようには見えません。

けれども、それらの組み合わせ方や指す順番がとても芸術的で、まさに一遍の曇りもない手順なのです。例えば、第6図から先に▲6八銀打を指すと、△5八金で困ってしまいます。(B図)

 

受けが強い棋士はたくさんいらっしゃいますが、その中でも永瀬二冠の守備力は屈指と言えるでしょう。▲5九歩を初めとする一連の指し手は、その能力が遺憾なく発揮された妙手順でしたね。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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