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今週の妙手! ベスト3(2020年8月第2週)

今週の妙手

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手今週の妙手! ベスト3(2020年8月第1週)

注意事項

 

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! ベスト3
(2020.8/2~8/8)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。角換わり腰掛け銀から後手が猛攻を仕掛け、その後、先手が反撃に転じてこのような局面を迎えました。(第1図)

 

今週の妙手

2020.8.6 第46期棋王戦挑戦者決定トーナメント ▲千田翔太七段VS△永瀬拓矢二冠戦から抜粋。

この局面は、金桂得していることや、先手の囲いが半壊状態であることから後手が優勢と言えます。ただ、この▲4四桂はかなりの迫力であり、嫌らしい場面でもありますね。

 

ところが、ここから永瀬二冠は巧みな手順で自玉を安定することに成功しました。これは読みの入った一着でしたね。

永瀬二冠が指した手は、△4二金です!

 

今週の妙手

すっと金を寄ったのが正確無比な妙手でした!


 

 

今週の妙手

見た目が平凡なので拍子抜けした方もいらっしゃるかもしれません。確かに、ただ金を逃げるだけの手のどこが妙手なんだという感じですね。

しかも、これはよくよく見ると、かなり危うい手に映る手です。というのも、ここで▲4一馬と突っ込んでくる手があるからです。後手はピンチのようですが、△6五桂▲6六玉△8四金が用意の返し技ですね。(第2図)

 

永瀬拓矢 妙手

これは次に△5七飛成からの詰めろですね。先手は延命するなら▲同飛成になりますが、△4一金で馬を取られてしまうので勝ち目がありません。この△8四金が控えているからこそ、△4二金と寄る手が成立しているのです。

 

今週の妙手

そういった事情があるので、本譜は▲2四歩と突きました。これは2三のスペースを空けることで、▲4一馬の威力を高めようという意図ですが、△5一金が鋼鉄の受け。これで後手は自玉が一気に引き締まりましたね。(第3図)

 

永瀬拓矢 妙手

▲4一馬と潜られる攻め筋を防いでおけば、後手は怖いところがありません。▲2三歩成△同玉と進められても、後続がないのでノーダメージです。こうなると先手は4四に打った桂が空振りになっており、攻めが頓挫してしまいました。後手の受けが見事に成功したことが分かりますね。

 

今週の妙手

△4二金という受けは自玉から金が離れる上に、手番も握れる訳ではないので不安感の漂う一手です。しかし、これで相手の攻めが無いということを見切っていることに技術の高さを感じますね。受け将棋の永瀬二冠らしい妙着だったと思います。

 

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。相居飛車から定跡を外れた乱戦の将棋になり、以下の局面を迎えました。(第4図)

 

名人戦

2020.8.7~8.8 第78期名人戦七番勝負第5局 ▲豊島将之名人VS△渡辺明二冠戦から抜粋。(棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)

先手が▲8八金と指して、角の成り込みを防いだところです。

この局面は、先手の2・3筋の駒があまり機能していないので、後手の旗色が良いと言えます。後手としては、それが働きだす前に戦果を上げたいですね。

そうなると、何か攻める手を考えることになりますが、渡辺二冠は思わぬ駒に手を伸ばしました。

渡辺二冠が指した手は、△6六金です!

 

今週の妙手

ぐいっと金を進軍したのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

相手の歩が利いている場所に金を差し出すので、思わず目を奪われますね。かなり大胆な手ですが、これが攻めに厚みを加える一着でした。

これを▲同歩と取ると△4九角成と侵入される手が厳しく、後手の攻めが決まっています。(A図)

こうなると先手は2・3筋の駒を活用する余裕がないので、粘ることが出来ません。

 

今週の妙手

ゆえに本譜は▲5八銀と辛抱しましたが、△6四桂がうるさい追撃。先手は早く左辺の遊び駒を使いたいので▲同銀不成△同歩▲2九飛と進めますが、△7二飛が味の良い活用で後手の攻めはかなり手厚くなりました。(第5図)

 

名人戦

ここで▲6六歩には△7八歩成▲同金△5八角成という寄せがあります。なので、相変わらずあの金は取られません。

第5図は▲7四桂打と受ければ先手もまだまだ粘れるので簡単ではありませんが、後手としては飛車が攻めに参戦する状況になったことが嬉しいですね。こういった手が指せるところにも、△6六金と出た恩恵が表れています。

 

今週の妙手

こうして振り返ってみると、後手は△6六金を指すことによって△6四桂の威力が上がり、それが△7二飛と活用する手に結び付いていることが分かります。盤上の駒を巧みに活用した妙手順でしたね。

 




第1位

 

最後に紹介するのはこちらの将棋です。これも綺麗に攻めを繋げた妙手でした。(第6図)

 

妙手 斎藤

2020.8.2放映 第70回NHK杯1回戦第15局 ▲阿久津主税八段VS△斎藤明日斗四段戦から抜粋。(棋譜はこちら)(便宜上先後逆で表示)

先手陣は壁銀の悪形ですが、ここさえ凌げば▲3七角と引いたり、6五の桂を召し取りにいく楽しみがあるので、頑張り甲斐のある局面です。

逆に言うと、後手はその余裕を与えないようにすれば形勢を掌握することが期待できます。とはいえ、現状は飛車取りなので、そんな理想は絵に描いた餅に過ぎないのかもしれません。

ところが、斎藤四段はここから意表の一手を放ち、その理想を実現してしまったのです。

斎藤四段が指した手は、△5五角です!

 

今週の妙手

飛車取りを放置して角を飛び出したのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

なんともアクロバティックな一着ですね。こんな過激なことをして大丈夫なの? と感じさせられますが、これが針の穴に糸を通すような切れ味鋭い攻めでした。

先手は飛車の取り合いでは損なので、▲5五同銀と応じるのが妥当でしょう。対して、後手は△3六飛と飛車をぶん回します。(途中図)

 

角損になり、5五の銀も放置するという凄まじい攻め方ですが、後手は飛車の成り込みに期待しているのですね。先手玉を側面から攻める展開に持ち込めば、8八の銀がすこぶる悪形なので、勝算ありと踏んでいるのです。

 

先手は5五の銀に紐を付けるために▲3七角と引きます。以下、△5五銀▲同角△3九飛成▲6九銀までは一本道ですが、そこで△3三桂と力を溜めたのが味わい深い一手でした。(第7図)

 

一瞬、攻めが緩んでいるので変調に思えるかもしれません。しかしながら、次に△4五桂と跳ぶことが出来ればかなりの迫力ですね。また、この手には他の狙いも秘めている意味があるのです。

先手は▲2四歩△同歩▲6六歩で後手の攻め駒を除去しに行きますが、△5四銀▲4六角△5五銀打と進んだ局面は、後手の優位が確固たるものになりました。(第8図)

 

▲3七角には△4五桂があるので、先手は角を守り切ることができません。また、▲2四角には△2八竜で飛車を取られてしまいます。どちらの変化も△3三桂と跳んだ手が抜群に利いていることが分かりますね。

 

後手は駒損していることが唯一の懸念点でしたが、この△5五銀打により、それの回復が約束されることとなりました。そうなると悪い部分がなくなるので、はっきり優勢と言えます。以降は、斎藤四段がリードを守り切って勝利を収めました。

 

今週の妙手

冒頭の局面では、後手の攻めは切れ筋と隣り合わせだったので完封負けになってもおかしくはない状況でしたが、この△5五角によって一気に視界が開けた印象を受けます。

また、その後の△3三桂も印象深い一着ですね。角損で手番を渡しても指せると見切った斎藤四段の大局観が光った妙手順だったと思います。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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