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今週の妙手! ベスト3(2021年1月第4週)

今週の妙手

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、前回の内容は、以下の記事をどうぞ。
今週の妙手今週の妙手! ベスト3(2021年1月第3週)

注意事項

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

今週の妙手! ベスト3
(2021.1/17~1/23)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。相矢倉から激しく駒がぶつかり合う苛烈な攻め合いになり、このような局面を迎えました。(第1図)

妙手 AI

2021.1.17 ▲YO6.00_HKPE9_8t VS △Suisho3kai_TR3990X戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)棋譜はこちら

後手は△2九桂成で飛車を取ることは出来ますが、そうすると▲4六角で自分の飛車も取られてしまいます。この飛車交換は隠居している飛車が捌ける分、先手が得だと言えるでしょう。

となると、ここは金取りを対処するのが妥当な応手に見えます。しかし、水匠3・改はそんな甘い手は選びませんでした。

水匠3・改が指した手は、△6七銀です!

今週の妙手

銀を捨てて、5八の金を移動させに行ったのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

これがチャンスを捉えた一撃でした。非常に大胆ですが、後手はこれを指すことで飛車を寄せに参戦できるようになるのです。

これは▲同金と取らせることで、△4八飛成を実現する狙いです。銀の犠牲はもったいないようでも、ここに飛車が成り込めれば、十二分にお釣りが返ってくるのです。(第2図)

妙手 将棋

この手順の価値は竜を作ったこともさることながら、手番を取りつつ4六の飛を移動したということが、それ以上に大きなベネフィットと言えます。それにより、後手は△2九桂成と△7八銀という二つの狙いを視野に入れることが出来ましたね。4六の飛が移動したことで、3七の桂がフリーになったという訳なのです。

妙手 将棋

先手は飛車取りと△7八銀を同時に防ぐには、▲7九飛と指すよりありません。しかし、これは△8六歩▲同玉△8五歩▲同玉△8四歩▲同玉△7三銀打▲8五玉△2八竜と進められると、敗色濃厚になってしまいます。(A図)

さすがに玉が8五まで引っ張り出されてしまうと、もう粘りが利かないですね。

 

今週の妙手

そういった背景があるので、本譜は△6七銀に対して▲8八歩と辛抱しました。が、この応酬は「手掛かりが無い」という問題をクリアしたことが大きく、後手に軍配が上がっています。

水匠3・改は△7八銀打▲9八玉とさらに形を決め、それから△2四金寄で手を戻しました。これで後手がはっきりと頭一つ抜け出しましたね。(第3図)

妙手 ブログ

次は△9五歩がすこぶる厳しい攻めです。他には△2九桂成▲4六角△8九銀不成も魅力的ですね。先手は▲3一馬と王手しても△1四玉でかわされていますし、他に良い攻めも見当たりません。

妙手 ブログ

そうなると受けに回ることになりますが、有効な手入れが難しいですね。▲6七金は相変わらず△4八飛成で困るので、先手はあの二枚の銀を振りほどくことが出来ないのです。以降は、後手が危なげなく勝利を収めました。

 

妙手 AI

種明かしをすると、この局面で先手は5八の金を動かすことが出来ないのです。ゆえに、△6七銀という豪胆な捨て駒が成立しているのですね。

あの金が6七へ移動すると△4八飛成が実現し、それによって後手は「2九の飛が取れない」というジレンマを解決できます。その障壁さえ乗り越えれば、勝利を掴み取れるという訳なのですね。

今週の妙手

とは言え、視覚的にここに銀が打てるとは、なかなか気付かないものです。それも金取りの瞬間に決行するのですから尚更でしょう。△6七銀は、局面の状況を的確に捉えた鋭い妙手でした。

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。先手の四間飛車に後手が変則的な急戦で立ち向かう将棋になり、こういった局面になりました。(第4図)

妙手 受け

2021.1.18 ▲Cendrillon VS △Nashi戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら

振り飛車は高美濃がしっかりと残っていますが、居飛車は囲いの金が吹き飛んでおり、玉形の差は一目瞭然です。加えて、後手は受け身ですし、相手の攻め駒も豊富にあります。振り飛車が押し切るのは時間の問題のようにも見えますね。

ただ、ここで後手はとても美味しそうな手があります。当然、それを指すのかと思われましたが、本譜は意外な駒を動かしました。

Nashiが指した手は、△2二玉です!

今週の妙手

目先の欲に飛びつかず、じっと早逃げをしたのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

これが自玉の耐久力を格段に高める一着です。後手はこのタイミングで早逃げをするのが、クレバーな指し方なのです。

 

妙手 受け

ところで、ここでは△7五馬▲同飛△6四角という手順も考えられました。痛快な王手飛車が決まるので、なぜこう指さないのかと疑問を抱いた方もいらっしゃるかと思います。(途中図)

目から火の出る王手飛車

しかし、△6四角で王手飛車を掛けても一件落着とは行かないのです。具体的には、▲5五角△7五角▲4四角が手強い切り返し。結論から述べると、これで振り飛車の攻めは繋がってしまうのです。(第5図)

妙手 AI

一見、△5三銀がピッタリのようですが、▲4二金△同銀▲同桂成△同角▲7一角成で竜を取り返されてしまいます。その局面は、次の▲6二飛や▲5二歩がうるさく、居飛車は支えきれません。

妙手 AI

他には△6一竜▲6二歩△8一竜も考えられますが、これは▲1一角成で挟撃態勢を作られてしまいます。1一に馬の侵入を許すと、後手は囲いの再生が望めなくなるので、これもアウトですね。

妙手 AI

このように、後手は王手飛車を掛けても相手の攻めを切らすことは難しいのです。飛車が取れても7五の角が4四へワープすることの方が価値が高いので、先手の攻めが繋がってしまうのですね。

では、△2二玉と寄った場合、どのような違いが現れるのでしょうか。

今週の妙手

ここで先手は▲4二桂成で良ければ話は簡単です。しかし、これを指すと△7五馬▲同飛△6四角が王手成桂取りですね。(B図)

5一の香の利きが通っているので、今度は▲5五角が打てなくなっているのです。

 

今週の妙手

ゆえに、先手は攻めるとなると▲6二銀不成が妥当なところ。これは香を取ってから▲4二桂成を実行しようという意図ですね。

しかし、後手はこの手を待っていました。この瞬間に△7五馬▲同飛△6四角を決行したのが素晴らしい判断。以下、▲5五角△7五角と進みます。(第6図)

妙手 将棋

先手はもちろん▲7一銀不成で竜を取りますが、△5四香▲5二飛△3二金▲5四飛成△6九飛と進んでみると、後手玉はとても安全になった印象を受けるのではないでしょうか。(第7図)

妙手 将棋

いつの間にやら銀冠が完成していますし、自玉が相手の攻め駒から遠ざかることも出来ています。加えて、反撃する態勢を整えていることも大きいですね。次は△3九銀と打ったり、△1四歩▲同歩△1七歩▲同香△2五桂といった端攻めが楽しみです。第7図は、駒の働きや敵玉の攻撃のしやすさに差があるので、居飛車が優位に立っていると言えるでしょう。

 

妙手 将棋

それにしても、後手はわざわざ竜取りの状態で王手飛車を決行しており、非常に不思議な印象を感じさせます。しかも、それで形勢を好転させているのですから、狐につままれたかのようですね。しかし、これには理路整然とした理由があるのです。秘密は、先手に「▲6二銀不成」を促したことにあります。

妙手 将棋

この変化でも、後手は7五の角を4四へワープさせてしまう手順を踏んでいます。これは先手にとって非常に大きな価値を持つことでした。しかし、後手は▲6二銀不成を促したことで、

・6三の銀の働きを悪くした
・△5四香が指しやすくなった
・▲4四角→▲7一角成を消した

という恩恵を得ているのです。

妙手 将棋

そして玉を2二へ寄ったことにより、直ちに銀冠を構築できるようになったことも見逃せない利点ですね。だからこそ、素早く反撃に転じることが出来るのです。

 

[△2二玉⇔▲6二銀不成]の交換が入ると、確かに竜取りにはなります。しかし、そのデメリットよりも上記のメリットのほうが価値が高いので、「わざわざ竜取りの状態で王手飛車を決行する」という不思議な手順が成立しているのですね。

今週の妙手

直ちに王手飛車を掛けても、相手の攻めを堰き止めることは出来ません。▲6二銀不成を促し、相手の銀をそっぽに向かわせる状況を作ってから王手飛車を決行するのが最適なタイミングだったのです。△2二玉は、まさに絶妙の間合いでしたね。

 




第1位

 

最後に紹介するのは、この将棋です。これは難しそうな状況から流れるような組み立てで勝ち筋へと導く手腕に、ただただ感心させられました。(第8図)

今週の妙手

2021.1.17 ▲Cendrillon VS △BLUETRANSPARENCY戦から抜粋。(便宜上先後逆で表示)(棋譜はこちら

駒の損得は互角ですが、効率においては後手のほうに分があります。先手は7筋にある金が遊び気味ですね。

ただ、次に▲4一銀を見せられているので、後手も安心は出来ません。先は長いかと思われましたが、本譜はここから一気に相手を引き離していくのです。

BLUETRANSPARENCYが指した手は、△2五桂です!

敵の打ちたいところへ打て

▲4一銀を恐れず、果敢に敵玉へ向かったのが妙手でした!


 

 

敵の打ちたいところへ打て

堂々と寄せを目指したのが、とても明るい判断でした。ただ、この桂打ちは何取りにもなっていないので、ぼやっとしているようにも映りますね。しかし、これが後々、素晴らしい活躍を果たす駒になるのです。

敵の打ちたいところへ打て

先手はもちろん、▲4一銀と打ちます。以下、△2二玉▲3二金△1二玉で端に追い詰め、▲5四角成で金を入手しました。後手はピンチのようですが、そこで△4六角が期待の一撃。この攻め筋を作っていたことが、△2五桂の第一の意味です。(途中図)

妙手 将棋

▲同金は△3七銀→△4六銀上で必至が掛かるので後手勝勢ですね。

また、怖いのは▲同飛△同銀▲2二金で詰ましに来る手順ですが、△同玉▲3二馬△1三玉▲2二角△2四玉で、きっちり凌いでいます。(C図)

この変化は、2五の桂が自玉を守るヘルメットになっており、後手玉には有効な王手が掛かりません。これが△2五桂と打った第二の意味なのです。

 

改めて、△4六角の局面に戻ります。

妙手 将棋

どうも先手はこの角を取ってしまうと、競り負けるようですね。なので、▲3七桂と合駒するのは止むを得ません。が、△同角成▲同金△5四銀と進めれば、先手玉は△3七桂成からの詰めろになっています。

それを▲4七金と防ぐのも仕方がないですが、ここまで利かしてから△3三銀と手を戻したのが絶好の一手。これで後手玉は非常に詰みにくい格好となりました。(第9図)

妙手 将棋

この銀上がりは2二の地点をケアしただけでなく、△3二飛で金を取る手を作っていることも自慢です。後手は金がもう一枚持ち駒に加われば、△3七金から先手玉を即詰みに討ち取れるので、この手は攻防手になっているのですね。

妙手 将棋

ゆえに、先手が▲5二歩で金を守るのは必然です。しかし、[△3三銀⇔▲5二歩]の応酬は、2二の防御力が増している分、後手が大いに得をしました。

後手は自玉が安全になったので、△5八角▲3八金△4七角成▲同金△4五桂▲6四角△3七銀と畳み掛けていきます。ここからの勝ち方も、それは見事なものでした。(第10図)

妙手 将棋

こういった場合、受け側は金を盤上に残すのがセオリーではあります。しかし、▲同角は△同桂左成▲同金△3九角というアッパーが飛んでくるので、マットに沈められてしまいますね。

妙手 将棋

なので本譜は▲同金と応じたのですが、△同桂右成▲同角△4七金とくっつかれて振り解けなくなりました。▲7三角成は懸命の抵抗ですが、△3七金打▲1八玉△4三銀が仕上げの一手です。

駒を渡せない状態にしてから相手を催促したのがクレバーな勝ち方ですね。(第11図)

質駒

先手は金を渡すと自玉が一巻の終わりなので、後手玉に迫ることが出来ません。また、これを▲3一金と逃げるようでは一手の価値が無く、これも勝ち目がないでしょう。後手は△3八金右や△2二銀と指せば、ほどなく勝てる情勢ですね。

 

こうして一連の寄せを振り返ってみると、2五に打った桂が八面六臂の活躍をしていることが分かります。これがあるからこそ△4六角という豪打が指せましたし、C図の変化で自玉を守る意味も兼ねています。また、相手に▲2五桂を打たせないという意味もあったでしょう。まさに急所の地点を押さえる絶好の攻防手でした。

妙手 将棋

また、あえて▲4一銀→▲3二金を打たせて、それから△3三銀で受けに回るというシナリオにも注目して頂きたいところです。▲4一銀を打たせると自玉は危険になりますが、ここに金銀を投資させたことで、先手の防御力を落としていたのですね。だからこそ、第10図からの寄せが炸裂したとも言えるのです。

 

ギリギリまで相手を引きつけてからカウンターを決める組み立てには、とても惚れ惚れとされました。△2五桂は相手の切っ先をしっかりと見切っており、凄まじい慧眼だったと思います。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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