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今週の妙手! ベスト3(2020年10月第5週)

今週の妙手

どうも、あらきっぺです。

当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。

なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手今週の妙手! ベスト3(2020年10月第4週)

注意事項

 

・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。

 

・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。

 

・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。

 

今週の妙手! ベスト3
(2020.10/25~10/31)

 

第3位

 

初めに紹介するのは、こちらの将棋です。後手の一手損角換わりに対して先手が軽く桂を跳ぶ仕掛けを決行し、このような局面を迎えました。(第1図)

 

コンピュータ将棋

2020.10.25 ▲Fomalhaut VS △Krist_483_473stb_16t_100m戦から抜粋。(棋譜はこちら

ご覧の通り、先手は思う存分に敵陣を攻め立てていますね。ただ、2一の銀は働きが悪いですし、ここで攻め駒を上手く補充できないと徐々に攻めが細くなってしまう情勢でもあります。

しかし、ここでFomalhautは巧みな一手を放ち、その不安を払拭したのでした。

Fomalhautが指した手は、▲1六角です!

今週の妙手

端に角を打って、3四に駒を打てと強要したのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

ここに角を打って王手を掛けても、合駒でブロックされるので効果が不透明に見えるかも知れません。ところが、これが思いのほか厳しい一着なのです。

 

今週の妙手

後手は飛車を使う訳にはいかないので、桂か角の二択です。ただ、△3四桂は▲2六桂のときが面倒ですね。こうなると、後手は△5四玉と逃げにくいので不満です。

ゆえに本譜は△3四角と合わせましたが、▲同角△同金▲4五歩が冷静な応手でした。(第2図)

 

コンピュータ将棋

後手は早く△5四玉と逃げたいのですが、現状では▲4六桂がありますね。後手の理想は駒損を避けながら玉を安全地帯へと避難することなので、ここで△5四玉は選びにくい感があります。

 

コンピュータ将棋

また、△4五金と歩を払って▲4六桂を未然に防ぐ手もありますが、これには▲1六角△3四桂▲2六桂がうるさく、かえって状況が悪化してしまいます。(A図)

これも駒損になる未来が見えているので、後手は面白くありません。

 

コンピュータ将棋

そこで本譜は△7三銀と上がりました。これは飛車の利きを通すことで5二の金の連繋を強めた意味ですが、やはり▲1六角が急所の一着。先手はここに角を据えるのが、この局面のツボなのですね。(第3図)

 

遠見の角

次は▲4六桂や▲2六桂が楽しみです。後手はあの角の利きをブロックしたいのですが、2筋に歩が使えないので適切な手段がありません。△2五桂では▲4六桂△2四金▲2六歩が厳しいので受けにならないですね。

 

遠見の角

また、3四の金に紐を付ける方法も難しいので、どうもしっくりと来る受けが見当たりません。先手は3四の金を取り切れることが約束されているので、攻めが格段に手厚くなりました。もう、切れ筋の懸念は杞憂と言えるでしょう。

 

今週の妙手

こうして振り返ってみると、この端角は△5四玉を指しにくくするために、3四の地点に金を運んで、それを足枷にすることが狙いだったことが分かります。▲1六角は単純な王手ではなく、相手の守備駒を負担にさせる意味だったのですね。

あえて相手の金を呼び寄せ、それをターゲットにするというテクニカルな妙手だったと思います。

 

 

第2位

 

次にご覧いただきたいのは、この将棋です。相雁木から互いに激しく攻め合う展開になり、以下の局面を迎えました。(第4図)

 

水匠

2020.10.29 ▲Suisho2test_i5-10210U VS △Mariel戦から抜粋。(棋譜はこちら

後手が△5五銀と打ったところ。

この局面は、先手陣の下段にある後手の二枚の銀が空を切っているので、その分、先手が指せる形勢になっています。ただ、現実的にこの馬取りの対処を考えなければいけません。

どこに馬を逃がすのか悩ましいですが、水匠2は思わぬ駒を手にしました。

水匠2が指した手は、▲4三香です!

今週の妙手

相手が銀を手放した瞬間を突いて、攻めに転じたのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

このタイミングで手抜きをするのは、かなりビックリさせられますね。けれども、これが盤面の状況をしっかりと見抜いた妙着なのです。

なお、ここは▲8四馬と逃げて受けに回るプランも有力ではあります。ただ、それには△2四香を利かさせるのが嫌らしいですね。(第5図)

 

水匠

飛車が2五へ移動すると△4七角が王手飛車なので、▲2五歩とは打てません。なので、これは▲3六飛と逃げることになります。しかし、これが先手にとっては癪なのですね。

 

水匠

具体的には、▲3六飛には△9七歩成が厄介です。▲同桂は△7七角がありますし、▲7八玉と早逃げしても△4五角と打たれますね。(B図)

これは自玉がずいぶんと狭くなってしまう変化なので、先手としては危険な進行と言えるのです。

 

そこで、▲4三香が難局を切り開く一手になります。

今週の妙手

ここで△4二香と合駒すれば、先手は▲8四馬と逃げておきます。今度は相手に香を使わせているので、受けに回る条件が良くなっていることが先手の言い分ですね。(第6図)

 

水匠

この局面は飛車が2六で安定しているので、△9七歩成には▲7八玉で問題ありませんまた、△4七角▲7八玉△6五角成で銀を取ってくる手もありますが、▲4九金でこちらも銀を回収できるので痛くはないでしょう。

この変化は、安心して▲7八玉と上がることが出来るので、先手の玉はなかなか寄らないのです。

 

今週の妙手

つまり、後手は敵玉への寄せを考慮すると、ここで香を手放すのは都合が悪いのですね。

よって、本譜は△3一玉と突っ張った受けを見せましたが、先手は楔が入ったので寄せに行くチャンスです。すなわち、▲5五馬△同歩▲4一銀と肉薄するのが良い判断ですね。(第7図)

 

コンピュータ将棋

後手は飛車を渡すとひとたまりもないので△8二飛と逃げるくらいですが、▲8三歩と叩けるのが大きな一手です。△同飛には▲2三飛成で必至が掛かりますね。

また、▲8三歩に△9二飛では先手玉に脅威が無いので、▲4九金と銀を拾っておくのが堅実。これも先手は自玉を安全にしながら寄せが見込めるので、大いに勝利に近づいたと言えるでしょう。▲4三香の踏み込みが光っています。

 

今週の妙手

ちなみに、この▲4三香に△同金は▲2三飛成で収拾がつきません。もし、銀を手持ちにしていれば△3二銀▲2二竜△3一角と頑強に受ける手が利きましたが、無い袖は振れないので詮無き話ですね。

こういった変化もあることから、▲4三香と放り込んだタイミングはベストであったことが読み取れます。

 

今週の妙手

△5五銀と打たれた瞬間は、寄せに行くか凌ぎに行くかという方針の岐路でした。判断が難しいところでしたが、▲4三香と打ち、相手に二択を突きつけることで、先手はより良い選択を取れるようになったという訳なのですね。要するに、後出しジャンケンの要領です。

それにしても、馬取りの瞬間にそういった打診を通しに行く発想は思いつきません。▲4三香は、まさに一閃とも言える鋭い捨て駒でした。

 




第1位

 

最後に紹介するのは、こちらの将棋です。これは攻め駒の使い方が相当に独特で、ちょっと人類には予想しにくい一手でしたね。(第8図)

 

コンピュータ将棋

2020.10.30 ▲Mariel VS △Suisho2test_i5-10210U戦から抜粋。(棋譜はこちら

先手は首尾よく竜を作り、攻めが調子よく進んでいる印象を持たれるかも知れません。ただ、現局面は歩切れが痛く、見た目よりも大変な形勢と言えます。

ところが、ここから先手は奇想天外な一手を放ち、見事に攻めを繋げることに成功したのです。

Marielが指した手は、▲1五桂です!

今週の妙手

端に桂を設置して、成駒の製造を狙ったのが妙手でした!


 

 

今週の妙手

持ち駒を使うしても、この場所に桂を⁉ と感じられた方が多いのではないでしょうか。まさに想像を超えた一着だと思います。

なお、ここで先手は▲1一竜と香を取って良ければ話は早いのですが、△2二銀▲2一竜△3一金▲1二竜△2三角で竜を捕獲されてしまうので失敗です。先手にとって竜は虎の子の攻め駒なので、これを失うことは負けを意味します。

 

コンピュータ将棋

また、▲3七桂と増援を送るのは、△2二銀と引かれて悶絶します。これも竜が捕まるのでアウトですね。(C図)

こういった凡庸な手では、先手は攻めを繋げることが出来ません。ゆえに、▲1五桂という常識外の一手を捻り出したのです。

 

今週の妙手

さて、後手は△2二銀で竜を拿捕できれば嬉しいのですが、それには▲2三角という豪打があり、バリケードが決壊します。(D図)

ゆえに、本譜は△8一飛と引いて守備力を高めたのですが、これにも▲2三角と叩き込むのが剛毅な攻めですね。(第9図)

 

今週の妙手

なお、ここで自然な手は▲2三桂成ですが、△同金▲同竜△4二銀上と応対されると、意外に大変なのです。(第10図)

 

今週の妙手

こうなると8一の飛の守備力が強大で、先手は竜を一段目に侵入することが出来ません。ここで▲3二金と張り付いても、△1四角というカウンターが待っています。以下、▲3三金△2三角▲同金△5七桂が厳しく、先手が非勢ですね。やはり竜を失うと先手は勝てないのです。

 

今週の妙手

この局面は、竜が撤退させられているので、先手は攻めを継続することが出来ません。この竜は一段目に居座らなければいけない駒なのです。

 

なので、▲2三角というゴツイ攻め方が最適な攻めになります。

今週の妙手

▲2三角に△同金▲同桂成と進めば、銀取りと▲3二成桂が残るので先手の攻めは手厚くなりますね。なので△4二金は致し方ないですが、▲1一竜△2二歩▲1二角成△1四歩▲3九香と進んだ局面は、竜が安定したので先手が上手く立ち回りました。(第11図)

 

下段の香に力あり

次は▲3四香が狙いですね。後手はそれを許したくないので△3五歩と抵抗します。これは▲同香なら△2六角が王手香取りという意図ですが、▲1七桂が軽やかな跳躍。これで先手は切れ筋の不安を払拭することが出来ました。(第12図)

 

妙手 桂馬

▲2五桂△4四銀▲2二竜のように進めば、先手は3四に垂れ歩が設置できるので、もう攻めは切れませんね。しかし、後手はそれが分かっていても防ぐことができません。以降は、先手が気持ちよく攻めて勝利を収めました。

 

今週の妙手

冒頭の局面では、2一の竜が敵陣から追い出されないようにすることが、何より重要でした。そのためには成駒を生成して竜を安定させなければいけません。ゆえに、▲1五桂→▲2三角という攻め方が最適な方法になるという理屈なのです。

そして、竜を安定させてから▲3九香▲1七桂という組み立ても見事としか言いようがありません。細い攻めを巧みにつなぐ見事な妙手順でしたね。

 

それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!

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