どうも、あらきっぺです。
当記事は、直近一週間の間に指された将棋の中から、思わず唸らされる妙手を紹介するコーナーです。それでは、さっそく見ていきましょう。
なお、先週の内容は、こちらからどうぞ。
今週の妙手! ベスト3(2020年10月第3週)
・直近一週間に行われた対局の中からセレクトしています。ただし、全ての対局の棋譜に目を通している訳ではありません。ご了承ください。
・文中に登場するプレイヤーの肩書は、全て対局当時のものです。また、プレイヤーの名称が長い場合は、適宜省略・変更させて頂きます。ご理解頂けると幸いです。
・妙手の基準及び選考の基準は、あくまで筆者の独断と偏見に過ぎません。また、ここで取り上げなかった手を評価していないという訳でもありません。それらを踏まえた上で、記事をお楽しみくださいませ。
今週の妙手! ベスト3
(2020.10/18~10/24)
第3位
初めに紹介するのは、こちらの将棋です。先手の矢倉に後手が急戦で対抗する将棋になり、このような局面を迎えました。(第1図)
2020.10.24 ▲Suisho2kai_TR3990X VS △LUNA戦から抜粋。(棋譜はこちら)
後手が△4二桂と打ったところ。これは次に△2六竜▲3六銀△3七竜からの詰めろになっています。なので、▲5二成桂のような攻めの手は指せない訳ですね。
先手は攻防手を放つことが出来ないので、ここは受けに徹するよりありません。不安定な玉型ですが、水匠2・改は見事な方法で自玉を安定させました。
銀を犠牲にして、玉を5五へ逃げられるようにしたのが妙手でした!
これがピンチを切り抜ける妙技です。相手の桂が利いているところなので、ギョッとする一手ですね。
なお、代えて▲4五玉で良ければ話は早いのですが、△2六竜が嫌らしい追撃。これは5四の地点をケア出来ていないので、逃げ切れません。
では、▲6四馬と寄る手はどうでしょう。これなら5四の地点をケアすることが出来ますね。しかし、この場合は△4四金のときに対処が難しいのです。(第2図)
これは△2六竜▲3六銀△3七竜という詰めろになっています。こうなると先手は自玉が雁字搦めになっているので、むしろ危険度が上がってしまいます。
そこで、▲5四銀の出番になるのです。
これは4五の桂取りになっています。つまり、△4四金には▲4五銀が利くということですね。この桂を取れば5七へのルートが確保できるので、先手玉は安泰になります。
よって、△5四同桂は妥当なところですが、これで5四の地点が埋まったので、▲5五玉が成立します。後手は△2四竜と追いかけますが、▲5三角△4二銀▲6四角成で上部を開拓してしまえば、先手玉は大いに安全な格好になりました。(第3図)
ご覧の通り、中段の厚みが凄まじいですね。天王山に登った玉が大威張りしているようにも見えます。
この局面は入玉も見えているので、先手がかなり負けにくい将棋と言えます。先刻までは生きるか死ぬかという際どい状況でしたが、見違えるほど安全になりました。
冒頭の局面では、5四の地点を守りつつ、4五の桂にプレッシャーを掛ける手段が必要でした。ゆえに、▲5四銀が最適な答えになるという理屈なのです。「敵の打ちたいところへ打て」とはよく言ったものですね。
第2位
次にご覧いただきたいのは、この将棋です。相掛かりから互いの大駒が乱舞する攻め合いになり、以下の局面を迎えました。(第4図)
2020.10.24 ▲ANESIS VS △shotgun_i7-6700戦から抜粋。(棋譜はこちら)
相掛かりらしい激しい展開です。ただ、後手は飛車が自陣で押さえられていることや、2二に壁銀を抱えていることが辛いので、形勢は先手が良いですね。
先手としては、この攻めを上手く対処すれば、さらにリードを奪えることが期待できます。どういった受けを選べば、自陣が安定するでしょうか?
駒損を厭わず、角を打って手厚く守ったのが妙手でした!
数ある選択肢の中で最もあり得なさそうな受け方ですが、これが後手の望みを打ち砕く強靭な受けでした。
とはいえ、「なぜ角を合駒しなければいけないのか」という理由は、すぐには見えてこないですね。ひとまず、△8六角の局面に話を戻します。
ここで注目して欲しいのは、枠で囲った左上の部分です。この局面の大前提として、
先手 → 飛車を封じ込めたい
後手 → 飛車をぶっ捌きたい
という思惑があります。
後手はどこかで7一の飛取りを対処しなければいけません。ただ、△7二金では▲8一歩成が強烈ですし、△7二飛には▲7三銀成があるので突破できません。
要するに、基本的には、このエリアの戦いは先手が勝ちます。これを踏まえて、左下の攻防に話を移しましょう。
王手を防ぐなら、まず▲7七桂という手が自然に見えますね。しかし、これには△7二飛▲7三銀成△7六歩▲同飛△8七金という強襲があります。(第5図)
見るからに尋常ではない攻め方ですが、これが厄介な攻め筋です。▲同銀には△7七桂成から清算されると7六の飛が消えるので、最後に△7三飛と成銀を取られてしまいます。これは後手の飛車が陽の目を見るので、先手は選べないですね。
また、▲7二成銀と飛車を取るのも、△7七桂成▲同銀△同金▲同飛△7六歩が詰めろ飛車取りなので、これも先手はマットに沈められてしまいます。
また、▲5八玉とかわす手も有力に見えますが、これは△7二飛▲7三銀成△8三金という快心の一撃があります。先手は飛車を渡せないので、これも痺れていますね。(A図)
どちらの変化も、後手は△8六角と打った手を軸にして、自陣の飛を覚醒させることに成功していることが分かります。
こういった変化を回避するために、先手は▲7七角と手厚く合駒を打ったのですね。
ここから△7七同桂成▲同銀△7二飛▲7三銀成までは必然の進行です。先手は一時的には角桂交換の駒損ですが、どちらかの大駒は取り返せるので大きな損害には至りません。(第6図)
後手としては、本音を言えば飛車を逃げずに技を掛けに行きたいところです。しかしながら、今度は先手陣がしっかりしていますし、8六の角も当たりになっているので、どうも良い攻めが繰り出せません。
先手は▲7七角と投資したことで、盤上に残っている守備駒の数が多いですね。ここに▲7七角の価値があるのです。
仕方がないので本譜は△7七角成▲同桂△5二飛で攻めを諦めましたが、こうなると後手は飛車が捌けないので、先手の主張が通った形になりました。そして、▲8三角が局面を明快にする好打ですね。(第7図)
△5一金には▲6三成銀△8二飛▲7一飛成が痛烈。△8三飛には▲5一竜で金が取れます。
本譜は△5一金打と辛抱しましたが、じっと▲8一歩成が冷静ですね。これで▲6三成銀を楽しみにすれば、先手は優位を維持することが出来ます。後手は飛車が隠居してしまったので、どうにもなりません。以降は先手が手堅く勝利を収めました。
先手は△8七金や△8三金という水面下に潜む二つの罠をかいくぐって、見事に「相手の飛車を封じ込める」というミッションを達成することが出来ました。▲7七角は、読みの入った力強い受けの妙手でしたね。
第1位
最後に紹介するのはこちらの将棋です。これは発想が飛躍しており、思わず「えっ?」と声が出ました。(第8図)
2020.10.21 ▲CrazyQueen VS △ slmv130戦から抜粋。(棋譜はこちら)
中盤の難所ですが、後手は囲いの形があまり良くないので、先手が指しやすい局面です。
ただ、現実問題として、この角取りを上手く対処しなければいけません。いろいろな受け方が目に付きますが、まさかこの手を選ぶとは思いもしませんでした。
角を引いて、6五の銀を囮にしたのが妙手でした!
確かに、こうすれば角取りは防げますね。しかし、6五の銀がタダではないですか。あの銀は中央の厚みを形成する役割を担っているので、バグっちゃったんですか? と勘ぐってしまいそうです。
ところで、ここは▲8六銀という受けのほうが普通に見えますね。しかし、これには△6六桂というスマッシュがあり、先手は困ってしまいます。(B図)
他には▲7六銀引も堅実に見えますが、△7五飛▲同銀△4四歩と進められたときが面倒ですね。(第9図)
この△4四歩が、すこぶる味の良い一着です。先手は4五の桂を取られてしまうと攻め駒を失う上に、次の△4六歩も嫌らしいですね。加えて、後手玉が広くなることもネックです。
このように、先手は平凡に角を助ける方法では思わしくありません。そうなると困ったようですが、▲9七角と引くことで棋勢を引き寄せることが出来るのです。
さて、これに対して後手は派手に技を掛けに行くのなら△6六桂になります。ただ、▲4八玉△7八桂成▲同銀と応じられると、その後の攻めがありません。(第10図)
金を取ることは出来ましたが、後手は桂を渡すと▲5四桂→▲5三桂成というお返しが待っています。これは反動が強すぎるので、△6六桂が指し過ぎになっていると言えるでしょう。
ゆえに、ここは△6五飛と銀を取ることになりますが、先手は▲5六金で飛車を追いかけます。(途中図)
一見、△8五飛で後手は銀の食い逃げに成功したようですが、そこで先手は▲7七桂△8一飛▲6五桂でぴょんぴょんと桂を二段ジャンプすることが出来ます。
この攻めを見据えていたからこそ、先手は6五の銀をあっさりと取らせる選択をしたのですね。(第11図)
後手は5三の地点に数を足さねばいけません。具体的には△5一香が考えられます。けれども、▲5三桂左成△同金▲6二銀不成が厳しい追撃ですね。
先手は7三の銀が移動できれば、▲8二歩△同飛▲7三歩成という要領で手番を取りながら増援できることが自慢です。これは先手の進軍が止まらないので、後手は支えきれません。
こういった事情があるので本譜は▲5六金に対して△4五飛と桂を食いちぎる非常手段に訴えましたが、▲同歩と飛車を取った局面は、先手が上手く立ち回ったと言えるでしょう。(第12図)
後手は銀と桂を得ることが出来ましたが、駒割りをみると[飛⇔桂香]の二枚替えですね。こういった相掛かり系の将棋では飛車の価値がべらぼうに高いので、二枚替えと言えども先手が駒得していると判断できます。
このあと先手は▲8二飛→▲6二銀成という攻めを狙えば良いでしょう。ここで△7二歩と打たれても、構わず▲8二飛△7三歩▲同歩成で問題ありません。
とにかく敵陣に飛車をセットして5二の金を削ってしまえば、先手は寄せ合い勝ちが見込めます。やはり、飛車の力は偉大ですね。
それにしても、あえて銀を取らせることで自陣の眠っていた桂を攻めに活用させるとは、芸術的な組み立てです。まるで美しい舞を見ているかのようですね。▲9七角は、いい意味で人間らしくない、常識の先を行く一着でした。
それでは、また。ご愛読、ありがとうございました!